家に帰ってから、私は暫く霊夢のことを考えていた。
レミリアのあの言葉...血だらけの、霊夢。
いつも余裕な表情で異変を解決してきた霊夢が、血だらけで戦っている...、そう考えただけで、私は異様な恐ろしさを感じた。
そして、今私にできることを考えてみた。
でも、紫を呼ぶことはできないし、霊夢がどこにいるのかもわからない。誰と戦っているのかも、何をされているのかも、わからない。
私にできることは...祈ること、それだけなのだろうか。
「祈るなんて......阿呆らしいな」
そう、呟いてみた。
それはきっと、霊夢のことを信じたくないために出た、強がりの台詞なんだと自分でもわかっていた。
......
その日の夜。
パチュリーの所から奪ってきた分厚い本達を読みあさっていた。
すると、結界について書かれたページがあり、何か霊夢の事と関係があるかもしれないと思って、真剣に読んでいた。
そのページの一つに、「結界の探し方」という項目を見つけた。
『結界は、大事なものを無くした時に見つかりやすい』
大事なもの。私はすぐにその答えが分かった。
「......よし」
今の時間からでも遅くはない。だって、自分が今の時間を遅いと思っていないから。
......
夏の夜は、じめじめとしていて蒸し暑かった。でも、箒で空を飛んでいると暑さも寒さもあまり感じない。その代わりに風を感じるのだ。
当てもないまま、私は湖にやってきた。
水面にうつる月は、何だか私のぽっかりとあいた穴を埋めてくれそうな気がした。でも、霊夢がいないとやっぱりこの穴は埋まらないと思う。
それだけ私にとって霊夢は大きな存在なのだ。
何気ないあの会話が、あの戦いが、どれほど幸福なものだったのか、今になってようやく気がついた。
......
紫の事をよく知る者なら、紫を呼び出してくれるかもしれない。
空を飛びながらいきなりその考えを思いついた私は、急いで箒を上昇させた。
*
たどりついたのは、冥界だった。
ここには紫とは長い付き合いと言っていた亡霊、西行寺幽々子が住んでいる。
こんな夜遅くに人の家に上がるのもどうかとは思ったが、今はそれどころじゃない。
一刻も早く霊夢を助け出したいから。
長い階段も飛んでいけば疲れもしない。私はすいすいと飛んでいき、冥界のお屋敷「白玉楼」に着いた。
立派な門をくぐり、中に入る。
すると、背後から声がした。
「夜遅くに何の用ですか?」
振り向くと、白玉楼の庭師、魂魄妖夢がそこに立っていた。
「まさか何かを盗みにきたんですか?でしたら問答無用で切りますよ」
背中についた二本の刀に手を伸ばす妖夢。
「おいおい!?人を勝手に泥棒扱いするなよ!?」
「だったらどういう御用で?」
「幽々子だ、幽々子に用があるんだよ」
「幽々子様?一体どんな......」
私は紅魔館であったこと、霊夢とレミリアが一昨日喋っていたことを妖夢に説明した。
*
「成る程、それで紫さんをよく知る幽々子様に用があるというわけですね」
「まあそういうことだ。って、もう寝てるか」
「いや、まだ寝てないかと。案内してあげましょうか?」
「おう、よろしく頼むぜ」
私は親指を立ててニッと笑ってみせた。
......
「幽々子様、夜遅くに申し訳ありません」
妖夢がそう言うと、扉の向こうから「大丈夫よ〜」という呑気な返事が聞こえた。
「失礼します」「お邪魔するぜー」
扉を右に動かすと、部屋には幽々子がいた。
「あら、魔法使いさんじゃない。こんな時間にどうしたのかしら?」
そう聞かれると同時に、妖夢は耳元でこっそりと「私は行きますね」と言い、部屋を出て行った。
「あー、えっとな、紫を探しているんだ」
「え、紫?ああ、そういえば大事な人が来たから暫く会えないとか言ってたわね」
「大事な人?それって紫が結界に閉じ込めたっていう人か?」
「え、紫ったら結界に人を閉じ込めたの?」
そうか、この話はレミリアに聞いた話だから幽々子は知らないのか。
「そうらしい、それも一昨日レミリアが霊夢から聞いた話だそうだ」
「霊夢はどうしてるの?」
「ああ、今日...ずっといなかったんだ」
「え!?ということは、今日その結界に閉じ込められた人を助けに行ったってことよね」
「そうかもな。明日......戻ってくるかなぁ」
明日、明後日、それからずっと戻ってこなかったら.........いや、そういう事を考えるのはやめよう。
「霊夢のことだしすぐ戻ってくるわよ〜」
「そうだといいんだけど......なんか嫌な予感がするんだよな...」
「まあ、たとえ戻ってくるまで時間がかかっても、無傷で帰ってきそうだし大丈夫よ」
無傷...血だらけの霊夢がいたとレミリアが言っていたが......幽々子に話したら長くなりそうだからやめておこう。
「そ、それで...紫には暫く会えないんだよな」
「そうね。結界に人を閉じ込めたなら、きっと色々あると思うしねぇ」
「そうか。ありがとな、あと夜遅くにごめん」
「平気よ〜、そんなことよりあなたも早く帰って寝た方がいいんじゃない?」
「そうだな。それじゃあな」
......
もし、血だらけになっている理由が紫のせいならば...私は紫を恨むだろうなあ。
でも、紫にも紫の事情があるんだと思うし、よくわからない。
そんなことを考えながら、空を飛んでいた。
真夏の夜中の幻想郷を飛ぶのは、心地よいのかよくないのか、よくわからない気持ちだ。