Go for broke!〜当たって砕けろ!〜TS転生とアグネスデジタルとタキオントレーナーとetc.   作:曾我

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Go for Broke!(ゴー・フォー・ブローク!)
『当たって砕けろ!』
『死力を尽くせ!』
『撃ちてし止まむ』
『一か八かだ!』


同室変態勇者と狂気的なトレーナー

 日本ウマ娘トレーニングセンター学園

 

 全てのウマ娘が一度は憧れの対象となり、入学しただけでも名誉となる機関。

 

 ある者はクラシック級三冠を目指し、あるいはシニア級王道完全制覇を目指し、志はそれぞれ違えどレースにかける熱い思いは皆共通である。

 

 

 

 

 

「ヒュッ…ヒュッ…ヒュッ…」

 

 風にたなびく金色の髪。透き通るような白い肌。切れ長二重のブルーアイ。限りなく黄金比に近い端正な顔立ちと身体。

 

 

 

 春の新入生、レクレスアタックは学園の芝2000mコースを走っている。

 

 

 

(どうもこの…インターバル走法っていうのは…!)

 

 インターバル走法。特定の距離を指定された間隔で、早く走るダッシュと、緩く走るジョギングを繰り返す走法。インターバルトレーニングとも言われる。

 

(フォームが、崩れてッ…)

 

 レクレスアタックはこのインターバル走法を大の苦手としていた。ゴールする頃には息も絶え絶えになり、歩くのがやっとという状態。

 

(辛いッ…)

 

 ほうほうの体になりながらもなんとかゴール地点まで辿り着いたレクレスアタックに、教官が明るく声をかける。

 

 

 

「お疲れ様、レクレスアタックさん!うーん、やっぱりインターバルだけはちょっと、まだまだみたいね!」

 

「…すみません」

 

「ふふ、落ち込む事ないわよ!まだ入学して数ヶ月だし、他のトレーニングはしっかり出来ているじゃない!」

 

「…ありがとうございます」

 

「さ、今日の最後の追い込みはこれでおしまい!お疲れ様ね。また明日、頑張りましょ!」

 

「…はい。頑張ります。ありがとうございました」

 

 極めて短い返答を返すと、教官に一礼し、コースを後にする。

 

(レクレスアタックさん…本当にインターバル以外は、春の新入生だなんて思えないくらい良く出来てるんだけどなぁ…)

 

 

 

 

 

「コレは…悪くないねぇむしろ。これは、うん」

 

 誰かが呟いたような気がしたが、姿は見えない。教官は空耳かとその場を後にした。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

(短い距離を100%~80%の力で走って…緩く走って呼吸を整えて…また100~80%で…あ~も~そんなの無〜理〜!!!)

 

 レクレスアタックはペース調整が壊滅的に下手である。いつも1ハロン毎のタイムはバラバラ、他のウマ娘に何回か併走でのインターバル走法をお願いして貰った事もあるが、全く勘が掴めず、併走インターバル走法では毎回ヘトヘトになってしまう。

 

 どの位が自分の全力の80%か、50%なのか、なんて自分でも把握出来ていない。自分の中では常に一定のペースで走っているつもりなのだ。

 その為インターバル走法を行うと、自分は80%の力で走っているつもりでも、実際にはいつの間にか100%になったり50%になったり、そこにジョギングが加わるとものの数分でフォームがバラバラになり、潰れてしまう。

 

 模擬レースでは周りのウマ娘たちのペースに呑まれ、毎回ビリ。

 

 もしもこのまま選抜レースに出走でもしたら、あっという間に崩されてしまうだろう。

 

 

 

(出来たらカッコいいんだけどなぁ…インターバル。でもって颯爽と『今日は良いトレーニングが出来たぁ!』とか言ってみたいなぁ…ハァ)

 

 ガチャ

 

 浮かない顔で寮の部屋のドアを開ける彼女の楽しみといえば。

 

 

 

 

 

「おぉっ!レクレス殿、お疲れ様であります!どうでしたか今日のウマ娘ちゃんたちは!」

 

「お疲れ様です…今日も最ッッ高に輝いてましたアァッッッ!!」

 

 同室のウマ娘、アグネスデジタルとのウマ娘談議である。

 

 

 

 

 

「いやぁ今日はカノープスの練習が少し見えたんですけどねぇ!!ツインターボさんがナイスネイチャさんに両手で持ち上げられてて、ターボさんがジタバタしてて可愛かったんですよぉ!」

 

「なんとホゥッ!?そいつは…ックゥ~!生で見たかったぁ…!」

 

 こうしてアグネスデジタルとウマ娘について語語り合っている時が、レクレスアタックにとって最高の楽しみの時間なのだ。

 

 

 

 

 

 レクレスアタックは転生者である。

 前世は男性として生き、極めて自己中心的・我儘な性格で、周りからも嫌われており、不摂生がたたり突然倒れてしまった。

 

 最期の瞬間、全ては自分の責任であり、全部自分が悪かったのだと気付き、これまでの自らの行いを深く反省し、これまで自分に関わってきた人々に謝罪の念を持って逝った。

 

 それならばもう一度だけ機会を与えてやろう、と思われたのかは分からない。

 

 意識が完全に途切れた次の瞬間、目に浮かんできたのは、赤子になって泣いている自分をあやしている、頭部に耳が生えて尻尾が付いている女性の姿だった。

 

 …自分にも。

 アタマにミミ。シッポ。

 

 …ウマ娘やん

 

 ちなみにレクレスアタック自身は前世でウマ娘をアニメ・アプリ共に履修済である。推しはアグネスデジタルを筆頭に、アグネスタキオン、ゴールドシップ、ナイスネイチャ、ツインターボ師匠、マチカネタンホイザ、ナリタタイシン、タマモクロス…挙げればキリが無い。

 

 ウマ娘として転生したからには中央トレセン学園に入ればもしや!?と思い、推しに会いたい一心で幼少期からひたすら猛勉強・猛トレーニング。不純も不純である。

 

 しかしその猛トレーニングのお陰か無事合格、晴れて入学出来た。

 

 前世でアグネスデジタルを引けなかった時はスマホをぶん投げたものだが今こうしてアグネスデジタル自身と実際に会話をしている。

 なんだろう、この嬉しくもあり…なんとも言えないむず痒い気持ちは。

 

 デジタル氏と一番最初に出会った時はもう…なんだろう。魂抜けそうになりました。

 所謂『尊死』を初体験させて頂きましたハイ。

 向こうも向こうで「ぶほぉぁ金髪碧眼ボクっ娘俺っ娘キタキタ( ゚∀゚)::キタキターーー!!!」と盛大に鼻血を噴きながらオウッ!オウッ!と仰向け直立不動でバインバイン床を跳ねて居られました。その叫び声ですっ飛んで来たフジキセキさんに怒られました。

 

 

 

 

 

 一応前世は男性のウマ娘が最推しと同部屋なんて命が持つのかと最初は思ったが、今はこうして二人でウマ娘ちゃん談議をするのが日課となっている。

 

 

 

「…ハァ。やっぱりウマ娘ちゃんたちは最高ですねぇ~…私みたいな平凡なウマ娘と違って華があるというか」

 

 その『平凡なウマ娘』がこれからGI何回勝つのか今から楽しみですねぇ。

 

「GIレースに出るなんて…夢のまた夢なんだろうなぁ…」

 

 なんなら海外のGIでも勝つんですよねぇ。

 

「アァッ…テイエムオペラオー様なんて…私なんて到底手の届かない存在…」

 

 最終的に天皇賞でオペラオーさんに引導渡しちゃったのアナタなんですけどねぇ。

 

 

 

 なんて事を考えていたらいつの間にかニヤケ顔になっていたらしい。

 

「…どうかされましたかレクレス殿!?」

 

「ぶえぇ!いえ!いいえ!デジタル殿も相当に尊いです!可愛いです!尊さの極みですよッ!!」

 

「えっ」

「えっ」

 

 

 

 しまった つい本音が

 

 

 

「…んな…んなななな~!!な~にを仰いますかぁ!私はただの壁!平凡オブ平凡!他の素敵なウマ娘ちゃんたちと同列に扱うなどして貰っては困りますッ!!」

 

 何が平凡か。しかしデジタル氏、尻尾をピンと高く上げブンッブン振っていますよ。あー可愛い。早く自覚させたい。

 

 

 

「コホンッ!そ、それよりっ!…アグネスタキオンさん…今頃どうしてるんですかねぇ…」

 

「あっ…あぁ……退院したっていう話は聞きましたけれど…その後は何も…」

 

「ふむぅ…」

 

 

 

 アグネスタキオン。レクレスアタックがトレセン学園に入学する前年の皐月賞で圧勝してからの屈腱炎発症、電撃引退。ゴール後すぐに顔を歪めていたのをはっきりと覚えている。

 

 引退は各媒体で大々的に報道され、その後ネットや週刊紙で『現在は車椅子生活』『行方不明』等と好きに掻き立てられているが、噂は噂。アグネスデジタルにも連絡は無いらしい。

 

 

 

 その後も夜遅くまで二人はウマ娘について語り合い、翌朝やや夜更かし気味で登校。

 午前中の授業はあまり頭に入らなかった。

 

 

 

 

 

 昼休み。

 いつものようにデジタル氏と共に食堂にてウマ娘カップリングをロックオンし、こちらからはギリギリ見えるが向こうからは見えない絶妙な位置に着く。

 

 

 

「ハァ~…ダイワスカーレットさんとウオッカさん…なんだかんだ言いながらいっつも一緒にご飯食べてますねぇ~」

「正に『喧嘩するほど…』ってヤツですねぇ~」

 

 などと二人でニヤニヤランチタイムを楽しんでいたのだが。

 

 

 

「やぁやぁやぁやぁ。お久しぶり、だねぇ?デジタルくぅん?」

「フギャピェッ!!??」

 

 妙に独特な抑揚の、どこかで聞いた事のある声が聞こえ、デジタル氏の口から放たれたチャーハンの67%が無事レクレスアタックの顔にヒットしたうちの40%弱がラーメンの中に零れ落ちる。ありがとうございます。

 

 ではなく、振り返ると。

 

「フゥン。君の名前は?…顔に米粒が散乱しているようだが。おっと、私の名前はアグネスタキオン。可能性を解き明かせなかった、タダのウマ娘だよ」

 

 

 

 つい昨日二人で話していたアグネスタキオン、その人が立っていた。

 

「ヒッ!?あ、オ…僕はレクレスアタック…って言います…(ヤバいコミュ障出るコミュ障出る)

 

「レクレスアタック…?…ぅうん…何とも不吉、いやしまった。失敬、他人の名前にケチをつけるなど失礼旋盤だったね。謝るよ、どうか許してくれたまえ。隣ィ、失礼しても宜しいかい?」

「へアッ!あっ、はいっ!ど、どうぞっ!!」

 

 返事を聞くと、アグネスタキオンは「どうも、ありがとうそれでは…」と一見ゴルシちゃん号に見えるが色々部品が付け足されている乗り物から降り、レクレスアタックの隣の席に座る。

 

 

 

 アグネスタキオン!幻の三冠バ!

 そのウマ娘が!今!横にいるッ!

 大声を出してしまい食堂大注目!

 

「…ア、アグネスタキオンさん、脚の方は…?」

 デジタル氏が遠慮がちに尋ねる。

 

「ハハッ、どうにかこうにか、普通に歩ける程には回復したよ。うん。まぁ走るのは…残念ながら生涯無理だろうが、ね」

 

 ゆらゆらと首を左右に振りながら、タキオンは飄々と答える。

 

 その言葉にレクレスアタックとデジタルは思わず黙りこくってしまう。

 

「ハーッハッハッハッハ!!そうなるだろうと思っていたよ!安心したまえ、私の精神状態は至って普通、だよ!」

 

 言うやいなやタキオンはある物を二人に見せる。

 

 

 

「「コレ、は…」」

 

「そう、トレーナーバッジ。うん、実は在学中からこっそり勉強はしていてねぇ。まぁ、流石に簡単だったとまでは言わないが、大した障害もなく…合格。だ!」

 

 

 

 引退した幻の三冠バが、トレーナーになって帰ってきた。もしかしたらもう会えないと思っていたのに。

 

 レクレスアタックに至ってはタキオン故障の際に「史実…再…現……」と項垂れ、一生会えないかもと思ってしばらく何も手に付かない状態の時もあったのに。

 

 二人は顔を見合わせ。

 ギュインとタキオンに向かい。

「「…おめでとうございますッ!!」」

 

「いや、うん。ありがとう。まだ担当も何も、決まってはいないけれどもねぇ。」

 

 そう言ってカッカッと笑ってみせる。

 既に食堂は大騒ぎで、ウマ娘のみならずトレーナーたちまでもが集まって来ている。

 その状況を察してか、タキオンはいきなり本題を切り出した。

 

「…さ、て。私も一応、トレーナーとなったんだ。一応ねぇ。…そこで、だ。…私が『可能性』を追い求めていた、という話は…うん知っているね?残念ながらそれは途中で、休止を余儀なくされたがそれでも。私は、未だ諦めていない…可能性というものを。未だに…捨てられない。自分自身での達成が無理なのであれば…信頼のおける他のウマ娘に『可能性』の向こう側を…見て欲しい。常々、そう思っているのだよ」

 

 そう言うとタキオンが目を細めてニヤリと笑い、二人を交互に見やる。

 

 

 

 こういう時に限って即座に勘が働くから困る。

 

 

「えっ!?えっ!?ま、ままま待ってください!私選抜レースにも出走したこと無いんですぅ!!」

 

「ぼ、ぼぼぼ僕もこの春、に、入学したばっかりで…」

 

「おぉやぁ?デジタルくぅん。まぁぁぁだ選抜レースにも出ていなかったのかぁい?それにしても、トレーニングは、していた…だろう?うん?」

 

「それは…トレーニング自体は普通に…こなしていますけれども…ゴニョニョ…」

 

「うん宜しい。キミは?」

 

 はいこっちはOK。次。と言わんばかりにタキオンがレクレスアタックを凝視する。その顔は笑ってはいるがレクレスアタックには解る。前世で何回も経験した。

 

 この表情をしている相手に下手な事は絶対に言えない。慎重に言葉を選ばなくては。…しかし…自分は…あれ…どうしたいんだ…?

 

 

 

「僕、は…トレーニングは普通に出来ているんですが、その、インターバル走法だけが…どういう訳か苦手で…」

 

 タキオンは目を細めたまま視線を横にずらし、鼻に人差し指を当てて何やら考えている。

 

 

 

(マズった!?マズった!?地雷踏んじゃったの俺!?)

 

 数秒の沈黙の後、タキオンが口を開いた。

 

「…うん、そうだね、確かに。インターバル走法はお世辞にも、良いと言える代物では、無かった」

 

「え」

 

 

「だぁが…それ以外のトレーニングは…難なくこなしていたじゃあないかぁ!ハハッ実はねぇ、見ていたんだよ昨日!君のトレーニング風景を!たまたま、た・ま・た・ま…通りがかっただけだったんだけれども、ねぇ!」

 

 

 

 推しの一人に情けないトレーニング風景を見られていた。

 

 

 

「ピギッ」

「レクレス殿!?」

 

「見てみたいなぁ…二人の走りを。…キミたち午後、自由になれる時間は、あるかな?うん?」




レクレスアタック

芝A/ダートA

短距離E/マイルD/中距離A/長距離A

逃げA/先行G/差しG/追込G

保有マイナススキル
ペース配分苦手
周りにいるウマ娘たちのペースに呑まれ、レース展開と自分の残り体力を把握出来ずに走ってしまい、スタミナ消費率が大幅アップ。

固有スキル
今は未保有



レクレス(reckless)
無謀な、無鉄砲な、向こう見ずな



ゴルシちゃん号ライセンス生産タキオン改造版Mk-III
Mk-IIの試運転役を務めさせた元トレーナー君には申し訳ない事をした。不幸な事故だった。五体満足なのは幸いだったが。早く退院出来る事を願っているよ。





最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

アグネスデジタルとTS転生オリウマ娘のイチャイチャ小説が読みたかったので、小説を初執筆させて頂きました。作者は実際の競馬・レース・トレーニングについてはそれほど詳しくないので、色々ガバガバだと思います。性格を掴みきれていないキャラクターもいるので、性格改変タグを付けてあります。
あらすじにも書きましたが、この作品のアグネスタキオンは口調、身振り手振りが独特です。特に身振り手振りについては昔流行った某推理ドラマの主人公である、黒いコートを羽織った警部補さんのソレです。
アグネスタキオンが史実通り皐月賞を最後に引退してしまっていますので、念の為アンチ・ヘイトタグを付けています。

アグネスタキオンの句読点と三点リーダ、!?マークなどはわざとです。完全に自分の趣味です。あまりに「読みにくいんじゃい!!」というお声があれば、直させて頂きます。。

別タイトル『TS転生オリウマ娘がアグネスデジタルを推そうとしたら逆に推されていた』『アグネスのヤベー奴とヤベー奴と共に海外GIへ万歳突撃する話』

ありがとうございました。

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