Go for broke!〜当たって砕けろ!〜TS転生とアグネスデジタルとタキオントレーナーとetc.   作:曾我

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侵食する変態①

 アグネスタキオンは、目の前の光景を信じたくなかった。

 

 

 

「………………どの棚のだい…?」

 

 

 

 話は10秒前に遡る。

タキオンがトレーナー室に入ると、変態2人が赤と黄色に身体を点滅させながらウマ娘ちゃん写真集を読み耽っていた。

 棚の中の薬は最終検査が完了しており、試薬品ではなく完成品である。飲んでも発光したり変形したりしないはずなのだが。

 

 

 

「おぉタキオントレーナー様ご機嫌麗しゅう!」

「どこの棚の薬を飲んだのかなぁ!?」

「あの金庫の中の物を全部です!」

「………」

 

 

 

 トレーナーの私物を勝手に拝借するなとか「危険!絶対に開けるな!」と貼り紙してあっただろうとかそういう事ではない。

『アグネスタキオンの作った試薬品』を自ら進んで飲むウマ娘が何処にいる!?怖くないのか!?

 

「申し訳ありません!でもタキオン様お手製のお薬にタキオン様の何かしらが入っているかも知れないと思った瞬間ッ…欲望に抗えきれず…ッ」

「タキオントレーナーの作った薬…一度で良いから飲んでみたくて…」

 

 

 

(そうだ。この2人は変態だった。デジタル君は知っているから良いとして…レクレスアタック君。事前調査で(あぁ、デジタル君と同類なんだな)と思ってはいたが『一度で良いから飲んでみたくて』とは…そういえばこのウマ娘、私と話す時の距離がやけに近い。…急に寒気がしてきた)

 

 

 

「「申し訳ありませんでしたッ!罰でもペナルティでも何でも受けますッ!」」

 

(どうせ罰やペナルティは、ご褒美に変換されてしまうんだ。それならば柄では無いが…)

 

 

 

「…いや、ちゃんと管理していなかった私の責任だよ。別に良いさ。今回は良いとして、今後はもう勝手に飲んだり、しないようにその…私からのお願い、なんだけれども…守ってもらえる…かな?」

 

 

 

「「ハイッッッ!!!」」

((タキオン様にッ!首をチョコンと傾けながら可愛くお願いされたあぁぁぁ!!!!!))

 

(……堪える。実に堪える。何だこの気恥しさは。寒気が…激しくなって来た。…まぁいい。今後、未完成の薬品や実験器具をトレーナー室に、持ち込むのは、やめよう…)

 

 

 

「…トレーナー様?いつもより顔色が優れない様子ですが、どうかされましたか??」

 

「???…何を突然?」

 

 

 

 タキオンはこの所、ずっと働き詰めだった。

 

「何も、変わりはないさ。ほら」

「……やはり顔色が優れませんねぇ」

「むぅ…世界一のウマ娘観察力を誇るデジタル殿が言うのであれば…」

 

 

 

 苦労はしなかったとタキオンは言っていたが、現役を引退してから今日まで、勉強や情報収集など必死に努力をしてきたのだ。

 その一方で、無意識に自身の健康管理に甘くなっていた。

 

「『世界一のウマ娘観察力』とはなんだい…私は何ともないの…に…」

 

ゆら…

 

「トレーナー様!?」

「タキオン様!?」

 

 

 

 タキオンは、人間もウマ娘も共通して、一番疎かにしてはいけない所を疎かにしていた。

 

「…ッ!?…!?」

「…レクレス殿ぉ!!」

「ハイ、デジタル氏ぃ!!」

 

 

 

 食事。タキオンは偏食を重ねすぎた。

 

ポフッ

 

「良かった…優しく受け止められましたね。レクレス殿、トレーナー様をソファへ」

「アイアイマム!!」

「うぅ…」

 

 

 

 早い段階で気付けたのは本当に幸いだった。

 

「トレーナー様!やはり大丈夫ではありませんぞコレはッ!」

「とりあえず保健室ですッ!」

「な、いや…」

「「喋っちゃダメー!!!」」

「…」

 

 拒否しようにも力が入らない。二人はタキオンの身体を手分けして慎重に抱え、持ち上げる。

 

「…レクレス殿?分かっていますね?」

「…勿論です。これはあくまでも…」

「「『看病』!!あくまでも『看病』!!!」」

 

 

 

 タキオンはそのまま保健室へ運ばれて軽い貧血と診断され、食生活について答えると先生にみっちり絞られた。

 点滴を受けたら今日はもう帰宅し、1日は安静にするよう念を押された。

 

 

 

「全く大袈裟だねぇ。私のサプリメントは、完璧だというのに」

「…トレーナー様?」

「…タキオン様?」

「…うん?…う…」

 

 点滴のルートをくるくる回して遊びながら何気なく言ったタキオンの一言に、二人が反応した。

その目は明らかに怒っている。

 

「畏れながら申し上げますタキオン様!いくらサプリメントといえど、それだけでは限界があります!ちゃんとした食事でしか摂れない栄養素だってあるんですッ!」

「そうですそうです!現にトレーナー様は倒れられました!」

 

 

 

 何も言い返せない。正論すぎる。

現役時代のトレーナー弁当。確かにそれを食べていた時は妙に調子が良かった気がする。

 

「……」

 

 しかもタキオンは新人トレーナーであり元競走バのウマ娘でもある。そんな彼女が、トレーナー契約を結んで一週間足らずの間に、担当ウマ娘の目の前で不摂生による貧血で倒れた。

どう思われるだろう。

 

 

 

(ションボリしてるトレーナー様可愛いっ!)

(タキオン様のこんな顔が見られるなんて…うへへ)

 

 

 

 トレーナー失格だ。

普通なら『自分の管理も出来ない人にトレーナーは務まりません』と一方的に契約解除を言い渡されてもおかしくない。むしろそうするだろう。

目の前の2人が普通で無い事を忘れていたタキオンが、力無く呟く。

 

「キミたちは…これからどうする…つもりだい…?」

 

 

 

「…どうするもなにも…」

「今からタキオン様を家までお送りして…」

「ご飯をお作りして…」

「食べさせて…」

「あっその前にお風呂が先ですね…」

「お着替えもしなきゃいけませんね…」

 

や め て く れ

 

 そうじゃないそうじゃないそうじゃない。

求めている答えのベクトルが違い過ぎる。なんなんだこの2人は。

 というかお風呂!?お着替え!?冗談じゃないそれくらい自分で出来る、というか家まで帰るのも自分で出来る!!タクシーだ!!!

 

 

 

「…さて、終わりましたね、点滴」

「…その様ですね。さてトレーナー様。お医者様から『今日はもう帰るように』言われてらっしゃいましたね」

「トレーナー不在で身体が点滅を繰り返したままトレーニングというのも周りから変に思われますし…」

「自主トレはしっかりしておきますし…」

 

「タクシーで帰るッッッ!!!!!…うっ……」

 

 言い放ったタキオンだが、急に動いたのがいけなかったのか再びベッドに倒れ込み、視界が暗くなる。

 

「おっと!!…ほら~やっぱり~。タクシー使うにしても少しは歩きますし、この状態で1人で帰るのは危険ですよ~ゴルシちゃんMk-III号は後でお届け致しますので~」

「やはり私たちがお送りした方がよろしいかと~。先生もそう思われませんか~?その方が…」

 

 

 

「ワォ、あんし~ん☆」

 

 

 

 

 

(せめて、せめて自分の尊厳だけは…)

 薄れる意識の中、タキオンは考えるのをやめた。




レクレスアタック
あくまでも『看病』と言い聞かせている

アグネスデジタル
あくまでも『看病+α』と言い聞かせている

アグネスタキオン
「貧血の当日に風呂は無いだろう!せめて清拭…そういう事じゃない!」
清拭と着替えだけは死守したい

アグネスタキオン私生活ポンコツ概念が書きたかっただけなんです。

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