Go for broke!〜当たって砕けろ!〜TS転生とアグネスデジタルとタキオントレーナーとetc.   作:曾我

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巻き込まれる来訪者

「美しいッ!」

 

「美しくないッ!」

 

「尊いッ!」

 

「尊くないッ!」

 

 

 

 23時過ぎの栗東寮でレクレスアタックとアグネスデジタルが喧嘩を行っている。

 

レクレスは『デジタルは尊い』という主張を、デジタルは『レクレスは美しい』という主張を、双方譲らない。

 

 

 

「どぉ~してお認めにならないんですかねぇレクレス殿!?その整った金髪!端正な顔立ち!完璧なプロポーション!そろそろ『自分は美しい』という事実を受け入れたらどうなんでしょうかねぇ!?」

 

 事実である。

その美貌から、まだメイクデビュー前にも関わらずレクレスの噂は学園内に広まる一方である。普段の言動と行動は実に残念だ。

 

 

 

「デジタル氏こそ!どぉ~してお認めにならないんですかねぇ!?全てのウマ娘ちゃんに対する愛情!ウマ娘の為なら何をも恐れぬ行動力!誰もが見惚れる超ド級の可愛さ!そろそろ『自分は尊い』という自覚をお持ちになったらどうなんでしょうかねぇ!?」

 

 一部個人の見解である。

 

 

 

 

 

 そのうち2人の言い合いはお互いの良い所を羅列し合うだけの痴話喧嘩となり、口から砂糖を吐きながら突入してきたフジキセキにあえなく鎮圧された。

 

 

 

 

 

((……絶対に自覚させてやるッ!!!))

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 翌日。日曜日。アグネスタキオン宅。

 

「タキオン様!デジタル氏って尊いですよねッ!?」

「トレーナー様!レクレス殿って美しいですよねッ!?」

 

 タキオンの生活能力が一向に向上しない事もあり、2人は理事長・生徒会公認の元に週2~3回のペースでタキオン宅に襲来、数日分の料理をまとめて作ったり家中の掃除をしていた。

 

 タキオンが作った料理は必ずフライパンと同じ色になり、放っておけば数日でゴミ屋敷になる。更にはボヤまで起こす始末。タキオン1人にさせていたら絶対に危ない。これには反論も出来ない。

 

 

 

「どっちでも良いさ…」

 

 今日は割烹着を着せられているタキオンも、作れないなりに調理を手伝っている。

ジャガイモを剥けば皮の方が大きいしキャベツの千切りは2cm間隔だが、練習しないよりマシだろう。

 

「どっちでも良いとはど~ゆ…ってトレーナー様、包丁持ったら猫の手!猫の手!」

 

 

 

 せめて怖がらずに手の上で豆腐を切れるくらいまでは到達したい。そんな小さすぎる目標をタキオンが心に誓った時、インターホンのチャイムが鳴った。

 

 

 

「おや?お客様ですかな?」

「私が出るよ……」

 

椅子に割烹着をかけ、インターホンを覗いた途端にタキオンの顔色が変わる。

 

 

 

「………フ~ジ~キ~セ~キ~ッ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タキオン、久しぶり。ごめんよ、どうやら2人がこの食材を寮から持ってくるのを忘れたみたいで…」

 

 

 

 プシュー

 

 

 

「うっ!?」

「大丈夫さ。少し眠るだけだよ。少し、ね」

 

 アグネスタキオン+レクレスアタック&アグネスデジタル。そして今のスプレー。

 

悪い予感しかしない。

すぐさま逃げようとするが眠気が襲って来てタキオンに倒れ込む。

 

「2人ともぉ!フジ君がご来宅だよ。丁重に、もてなしてさしあげたまえ!」

「フ、フジ様が!?」

「フジキセキしゃまが!?」

 

「うぅ…」

「…フジくぅん。この前言っていた『借り』だけれどもねぇ…返して頂くよ、今から」

 

 タキオンの顔には『道連れ』の文字が彫刻刀で彫ってある。

 

いやだ。いやだ。目が覚めたらどうなっているんだ。というかいっそ覚めて欲しくない。

 

フジキセキの記憶は一旦そこで途切れた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「タキオン、あの時は本当にすまなかった」

「あぁ、別に気にしてはいないさ。気にしてはね」

 

 パシャ!パシャパシャパシャ!

 

「改めて謝らせてほしい。申し訳なかった。どうか許してくれ 」

「あぁ、許すよ。許すともさ」

 

 パシャパシャ!パシャ!パシャ!

 

「だからもう着替えても良いかなこの割烹着」

「だめだね」

 

 

 

「フジキセキしゃまの割烹着姿…はうぅ〜~…」

「お玉も持って……最ッ高ですねぇ……」

 

 すっかり喧嘩など忘れてシャッターを切り続ける変態たち。

 

 

 

 

 

「許してくれるならもう終わりにしてくれないか…頼むよ…悪かったから…」

 

「借りを返すと言ったのは、キミじゃあないかぁ、フジくぅん」

 

「返しにしては…対価が…」

 

「……私が、私が、あの日一体どんな思いをしたと思っているのかねぇ!?あの屈辱感!なぶられるような視線!どうだい実体験の感想は!!」

 

「とても気持ちの良いものじゃあ…ないね……」

 

「2人とも目線お願いしまーす!!」

「笑ってくださーい!!」

 

「キミたちは黙りたまえッッッ!!!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「休日にあんな目に遭うとはね…」

「少しは私の気持ちを理解して貰えたようで嬉しいよ。ちなみに2人の作った食事の感想は?」

「学園の食堂も美味しいけど、その何倍も美味しかったよ…」

 

 

 

「聞きましたか…我々の作らせて頂いた食事を…ハゥ」

「聞きましたとも…『美味しかった』と…ヒャウ」

 

 

 

 お互いに向き合い、感動に咽び泣きながら器用に魂を抜く2人。シャッター音が無ければもっと美味しかったのだが。

 

「そうかいそうかい。ではどうだろうフジ君。たまにここに遊びに来」

「丁重にお断りさせて貰うよッ…」

 

 務めて穏やかに振舞おうとしているフジキセキだが、そろそろ限界である。青筋が浮かびそうである。もう怒って良いと思う。

 

さっきからずっとこの調子だ。いかに食事が美味しかろうとそろそろ解放して欲しい。

 

そして帰る意志を伝えようとタキオンの顔を見たところで、フジキセキがおや?という顔をする。

 

 

 

「……しばらく見ないうちに、だいぶ穏やかな顔をするようになったね、タキオン」

 

「……からかっているつもりかなぁ?」

 

 

 ピクンと反応したタキオンが、ジト目でフジキセキを睨む。

 

 

「料理を作ってる最中もそうだったけれど、本当の笑顔、ってやつをしてたよ?」

 

「ッ冗談も程々にしたまえよ!?」

 

「ふーん、じゃあ2人が来るのは迷惑なのかな?」

 

「それはッ……」

 

 

 

 言えない。出て来ない。

それどころか2人と料理したり掃除をしている時。

ありがたい、とまで感じている自分に気付いた。

 

 

 

「…どうなのかなぁ?タキオン?」

 

 横顔に顔を近付け、わざとニヤニヤしながら聞いてみる。

 

「〜〜〜〜〜〜ッ…」

 

 くしゃくしゃと雑に頭を搔くタキオンの顔はどこか赤い。

 

 

 

 

 

「……なんでそんなに足繁く通うんだい?って聞いたらね、言ってたよ。心配だから、って。また倒れたりしたらトレーナーを続けられなくなるんじゃないか、もしそうなったら悲しいなんてもんじゃない、とね」

 

「それは…この、割烹着やらなんやらを着させる為の…」

 

「本当にそれだけなのかな?」

 

「……」

 

「見たところ、家の細かいところまで綺麗だし。食事も、毎回2人でうんうん言いながらメニューを考えてる所を何回も見たよ?私は」

 

「……」

 

「あぁ見えて2人は、タキオンの事が本当に心配なんじゃないかな……?」

 

 

 

 訳が分からない。本当に私の事を…何故?何故そんなに私のことを?

 

 

 

「ふふ、2人の為に、タキオンも頑張らないとね」

 

「~~~ッ!……分かっているとも!そういうキミの方は…どうなんだね!」

 

 

 強引に話題を変えようとしたタキオンだったが、その言葉にフジキセキの表情が一瞬暗くなる。

 

 

「……やめたよ、半年くらい前に」

 

「……やめた?だって?」

 

 焦って話題の選択を間違えたか。

そう思ったが、あえて突っ込んで聞いてみる。

 

「……主語を頂いても宜しいか」

 

「チームをだよ。レースに出られないのに、いつまでも枠を埋めてる訳にはいかないじゃないか。今の私は、栗東寮の寮長だよ。走るのは走るけど、実に情けない走りさ……」

 

 そう言うと屈腱炎を発症した方の足を上げ、伸ばして見せる。

 

「……ほら。ここまでしか曲がらない」

 

 諦めのような、悔しさのような、色々な感情が混ざった声でそう呟く。

 

 

 

 だがタキオンは、フジキセキの脚をまじまじと観察すると、口を開く。

 

「……フジ君。せっかく来たんだ。ちょっとこっちに」

 

「……おやおや、薬は御遠慮願うよ?……それに、私はもう諦めたんだ。もうこの脚は……」

 

「そんな事はしないさ。ちょっと風呂に入ってくると良い。上がったら、向こうの部屋へ。痛みが幾分軽減するかも、知れないよ」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「次。軽く触るだけだが、きっと痛いはずだ…ここ」

 

「ッ!」

 

「うんやはりね。ちなみにほら、このくらいの力でしか、触れていないがね?」

 

 そう言うとフジキセキの手にチョンチョンと触れて見せる。

 

「血流が悪くなっているという事もあるし……キミ。歩く姿を見て感じたんだが…怪我の箇所を庇って、今度はそこに負担が掛かり、さらに他の所を使って…かなりバランスが、悪い。一度走りのフォームを見てみたいくらいだねぇ」

 

「……やめたって、言ったじゃないか」

 

 

 自分に言い聞かせるように呟くフジキセキの、今度は全身を動かすこと数十分。

 

 

「…気分を害す事をあえて聞くけれどもねぇ。キミは、本当に諦めてしまった、のかな?」

 

「…走れるものなら走りたいさ。でも私の脚は、もう」

 

「…フジ君。もう一度足を動かしてみたまえよ」

 

 

 

 そう言われて動かすと、先ほどと比べ可動域が遥かに広がっていた。

 

 

 

「…嘘…だろう?」

 

「今度はゆっくり立ち上がって。脚全体を動かして。あくまでも軽く。」

 

 ……動く。動かせる。懐かしい…走りたい……

 

 

 

「……ッ」

 

「信じられないようだねぇ…そんなに目を見開いて。しかし、骨の位置を少し矯正しただけで、こんなに違うんだ。もしこれを続けて…トレーニングを再開すれば…」

 

「……中途半端な希望は、不幸になるだけだ」

 

 

 

 言葉を振り絞るフジキセキの眼前まで顔を近づける。

 

 

 

「可能性というのはねぇ?完全なゼロで無ければ。それは『可能性がある』という事なんだ。生きているんだ。まァ…私は残念ながら完全なゼロだがね…しかしだキミの場合は……」

 

「…ようやく…諦めが…ついたんだ…ッ!」

 

 感情を顕にするフジキセキだが、タキオンの眼を見た途端に言葉が出なくなる。

 

 

 

 あぁ、あの眼だ。アグネスタキオンが走っていた頃の、あの眼だ。

 

 

 

 タキオンが畳み掛ける。

 

「本当に?本当に諦めたのかい?キミは『チームをやめた』と言ったねぇ?本当に諦めたのならば、何故『走るのをやめた』或いは『レースをやめた』と言わなかったのかな?キミは…本当はまだ、走りたいんじゃ、ないのかな?」

 

「私は…私は…ッ」

 

「良いかい?私は今からキミに事実を言うがね?ファクトを言うがね?」

 

「…ッ」

 

 

 

 

 

「キミの可能性は、生きているんだ」

 

 

 

 

 

 妖しく、どこか優しい目でタキオンが微笑んだ。




タキオンのハンドパワーは世界一ィ!

物語が進む前に書いておきたい話もあり、例の如く不定期です!すみません!!
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