ドニwith亡霊が征く! FE覚醒ロスト0チャレンジ!! 作:しやぶ
──時は少し遡り、ギャンレルがゲリバの訃報を受け取った日のこと。
「イーリスを征服する。その上で、初手をどうするか」
何事においても『戦い』というのは、準備期間で勝敗が決しているものだ。その点で言えば、戦争終結後も厳しい環境が
──しかし、それを理由に手を抜けば双方共に犠牲者が増えてしまう。彼の目的は『征服』であって『蹂躙』ではない。勝利した後、手に入れたイーリスの全てを自軍の戦力に変えることが目的なのだ。
「……その前にまず、『何を以て終戦とするか』だな」
前回の戦争は、聖王の死によって継続不能となったが……アレは本来『ギムレー教の撲滅』を表向きの目的とした、終わりのない無差別大量虐殺であった。互いのために、明確な『終戦の形』は用意しなければならない。
「……エメリナの首を取る、ってぇのは……
繰り返すが、彼の目的はイーリスを滅ぼすことではない。後のことを考えれば、エメリナを生かしておいた方がギャンレルにとっては楽になる。
「民意の高い愚か者ほど使いやすい奴はいねぇからなぁ……最低限、今までに溜まった鬱憤を清算する程度には働いて貰うぜぇ?」
しかしそうなると、双方が認める『明確な終戦』となり得るものは何があるか。
「──そうだ、
終戦までの見通しを立てたギャンレルは次に、『開戦の形』を考える。
「イーリスとやり合う上で一番厄介なのは『天馬騎士団』だが……初手で潰すのは無理だな。コイツは後だ」
制空権は戦力差を覆し得る。だからこそ、彼女らは軍縮の最中でも勢力を落とすことがなかった。
ギャンレルからすれば早期に封じ込めたいところだが、天馬騎士団は中央を守っている。物理的な距離の問題で、必然的に後回しになってしまう。
「次に厄介なのが、『クロム自警団』
コイツらなぁ……いつどこに現れるか分かんねぇから、ある意味天馬騎士団より扱いに困るんだよなぁ……」
頭数こそ少ないものの、彼らは個々の練度がフェリアの精鋭に劣らない。鎮圧のために動かせる戦力を、常に一定数待機させておく必要があるだろう。
「それに、引き抜きたい奴もいるしな」
現状、組織としての戦力はペレジアが圧倒的に高いものの……彼の国には『英雄』と呼べるだけの『個人』がいない。
……いや、正確には一人……本気を出せば
閑話休題。
ヴァルハルトは伝説に名を残す『英雄』と遜色ない武力を誇る。対抗し得る『英雄』が、東の大陸にも必要なのだ。ドニやクロムといった英雄候補が自警団に固まっている以上、ギャンレルは下手に彼らを討つことができない。
「となると、脅威度・距離的に初手で潰すべきは──」
*
「──失礼いたします! 火急の知らせ故、無礼は平にご容赦を!」
イーリスとフェリアの同盟成立後、イーリス城内にて。
クロムとリズからエメリナへの任務達成報告を遮る形で、天馬騎士団団長フィレインが入室する。
「何事ですか、フィレイン」
「テミス領に、ペレジア軍と思しき一団が侵入! 領地が襲撃を受け、マリアベル様が誘拐されました!!」
マリアベルはテミス伯の一人娘である。彼女を人質にされた今、イーリス側は大きく動きを制限されることとなった。
「ペレジア王ギャンレルは、マリアベル様がペレジアへ不法侵入したと主張し、テミス伯に賠償を請求しています!」
「あいつら……! どこまで性根が腐っているんだ!?」
「クロム、どうか落ち着いて」
「しかし姉さん──」
怒り心頭に発するクロムに向けて、エメリナは静かに宣言する。
「私が直接、ギャンレル殿と話をしに行きましょう」
『!?』
それは端的に言って、自殺行為に他ならない。
「駄目だよ! お姉ちゃんまでいなくなっちゃったら、わたし……!」
「リズ、イーリスの民が攫われたのですよ。王たる私が助けに行かずして、どうするのです」
「なりません、危険過ぎます!」
「……だが、マリアベルを見捨てることはできない。姉さん、俺も行こう」
「わたしも行く! ダメって言われてもついてくから!!」
「なっ!?」
王族総出で敵地に向かうなぞ、前代未聞の愚行だ。
……しかしフィレインは、こういう時の彼らが非常に頑固であることを知っている。説得は時間の無駄であり、事態の悪化を招くだろう。
「〜〜っ、ならば! ならばせめて、天馬騎士団を護衛に! 我々が命を懸けてお守りしますから!」
「ありがとう、フィレイン」
「あぁ、お前達が来てくれるなら心強い」
「うん、天馬騎士団の皆が来てくれるなら安心だね!」
そうと決まれば善は急げ。彼らはこの日の内に出発準備を整え、出陣した。
*
──そして、会談当日。
ただし場所は、国境の峠。椅子も何も無ければ、そもそも屋内ですらない。いかにも『周囲に伏兵が居ます』といった場所だ。
(すぐ近くに砦があるから、より不自然なんだよなぁ。だから『暗愚王』なんて呼ばれるんだぞギャンレル)
『いんや、相棒……珍しく読みを間違えたなぁ。これ多分、狙いはエメリナ様じゃあないべ』
(……どういうことだ、相棒)
カイトは事前に、未来の情報をドニに伝えている。故にこのことも、ドニは知っていた。被害を抑えるための『根回し』もしていた。
だがドニは、カイトがギャンレルの真意を読み間違えたという。
『ギャンレルさんの本命は、たぶん──』
「これはこれは、王族総出でいらっしゃるとは」
「ギャンレル殿……この度の件、ご説明いただけますか」
(あっ、始まっちまった)
『んだなぁ』
時間は無情に進んで行くものだ。その流れには、人類最強の英雄ですら抗えない。
(でもまぁ)
『おら達なら』
──きっと、どんな策もその場で粉砕して征くのだろう。
「本件につきましては、陛下に代わり私から説明致しますわ」
「あなたは?」
「インバースと申します。以後、お見知りおきを」
役職などは敢えて明かさず、彼女は
(……なんという闇の魔力。クロムと対極に位置する、暗闇の加護ですか)
魔術の素養が高いエメリナは、すぐに彼女が護衛であることに気付いた。
「……マリアベルは、無事なのでしょうか?」
「彼女であれば、あちらに」
インバースが指し示した方向には、両手を縄で縛られた上で、男に拘束されているマリアベルの姿があった。リズが悲鳴を上げる。
「この者は、無断で国境を越えて我が国ペレジアに侵入。それを止めようとした我が国の兵士に傷を負わせたため──」
「いいえ! わたくし、そのようなことはしておりませんわ! いい歳こいてウソを言うのはやめやがれですわ
(相変わらずエッグい口調してんなぁ……)
「………………。
……ふふ……と、まぁ。このように騒ぎ立てたので、仕方なく捕まえた次第ですのよ」
長い長い沈黙を挟みつつも、インバースは冷静に建前を並べた。
「うちの国に忍び込み、兵を傷付けた……こいつぁ許せねぇ大罪だよなぁ? それに見合った誠意ある対応をしてもらわなきゃあなぁ?」
「嘘ですわ! 不法侵入をしたのはこの者達の方です! 無惨に焼かれた我が領地の惨状を見ていただければ分かります!」
「うちの国は何の関与もしていないが、その件についてはご愁傷様。大勢殺されちまったんだってなぁ? おーおーかわいそうに」
「このっ、恥知らず……!」
「マリアベル……大丈夫です、私は貴女を信じていますよ。
ギャンレル殿、意見の相違があるようですね。話し合いで、真実を明らかにしましょう」
「話し合いがしたいってんなら、まず詫び入れて出すもん出せや。でなきゃ、この女を今すぐ処刑したっていいんだぜ?」
「貴様……!」
「クロム、やめなさい」
怒りのあまりファルシオンに手をかけた弟を、エメリナは静止する。
「ギャンレル殿、アナタの要求するものとは? それを用意すれば、マリアベルを解放してくれるのですよね?」
「ああ。アレとなら交換してやってもいい」
「アレとは?」
「決まってんだろ? 【
「我がイーリスの至宝ですか……」
「あぁ。どんな願いも叶えられるという伝承を持つ神器。是非とも試してみたいもんだよなぁ」
実際の所、炎の台座にそんな力はないのだが。アレもまた、ファルシオンと同じく
(アレさえ破壊すれば、ギムレーが完全復活することはなくなる。屍兵の出現が止み、ヴァルムが東の大陸に侵攻する理由が消せる)
「……炎の台座に、アナタは何を願うのですか?」
(……、…………?
いや、何も願わねぇよ。願っても叶えてくれねぇし)
とはいえ『ぶっ壊します☆』とも言えないので、ギャンレルは表向きの願いを言うことにした。
「我が願いはペレジアの民の願い──イーリス聖王国民の皆殺しだぁ!」
(まぁ、できないんだけどな! いいぜ、『炎の台座にそんな力はありません』と言って、オレの無知を笑えばいい!)
対するエメリナの答えは、
「おやめなさい!! 台座の力は世界が滅びを迎える時、人々を救うという願いのために使われるべきものです!」
「…………は?」
(何を言っているんだ、コイツは。まさか自分の国の国宝の力が何なのかも知らねえのか? 今まさに、その台座が世界を滅ぼす決定打になるかもしれねぇ状況なんだぞ?)
「……もう、いいわ。めんどくせえ」
ギャンレルはこの瞬間、エメリナを完全に見限った。
「──殺していいぞ」
潜伏していた戦士達が、エメリナに襲いかかる。同時にインバースも、マリアベルの元へ向かった。
「姉さんに手出しはさせん!」
エメリナの方は、クロムが躊躇なく斬り捨てた。しかしマリアベルを救出するには距離があり過ぎる。
「ドニ、マリアベルをお願い!!」
「言われずとも!」
リズの懇願にノータイムで応じ、ドニはブケファロスを飛翔させるも……素人目には、間に合うように見えなかった。
(おい相棒。奴さん、普通にエメリナ様のこと殺しに来たんだが?)
『その話は後だべ! 今はマリアベルさんを!』
(『言われずとも』つったろ? 既に弓の射程圏内だ。おそらく必要ないけどな)
『分かってるけんども、流石のおら達だってこの長距離狙撃は万が一があるべ!』
(スマンスマン)
「──これで、戦争開始ね。貴方の大切なお友達も、ここでみーんな死んじゃうかもしれないわ」
「そんな……嫌……! リズ……!」
「ああ、かわいそうに。じゃあそのリズちゃんが死ぬ姿を見なくていいように、ここで先に貴方を殺してあげようかしら」
「──っ」
そうしてインバースが魔力を励起させ、カイトが弓を引き絞り──それらが放たれるより先に、突風がペレジア兵を吹き飛ばした。
(──来たな)
「マリアベル、今助けるから!!」
(……誰? 気配も魔力も、この瞬間まで感知できなかった)
インバースは目を細め、急速に接近してくる少年を観察する。
(これは……
武人が目を使わず周囲の状況を把握する際用いる『気配』というものの正体は、『音』である。そして『音』とは『空気の振動』だ。つまり空気の拡散を制御すれば、気配の遮断に繋がる。魔力についても、出力を極限まで落とせば感知はその分難しくなる。
「リヒトさん!? どうしてここに……」
「あらあら。可愛いボーイフレンドだこと」
「なっ、違いますわよ!?」
(まぁこの娘との関係はさておき。巧いだけじゃあ、この私には勝てないわ)
「こんなところまで一人で来るなんて、偉いわね坊や。歓迎してあげる」
マリアベルへ放つ予定だった魔法の矛先が、リヒトに向かう。その出力から、ペレジア内でも抜きん出た彼女の実力が垣間見える。
「子供扱いしないでよ!」
対するリヒトは出力の制限を解除。本気のエルウインドで迫り来る魔法を逸らし、マリアベルの元まで辿り着いた。
竜巻が彼女を拘束している男を吹き飛ばし、風の刃がその手に結ばれた縄を切り裂く。
「リヒトさん……!」
「マリアベル、酷いことされてない!?」
「ふふ、感動の再会中に失礼だけど──ここからどうするのかしら?」
人質を拘束していた兵士も倒され、マリアベルの拘束も解かれたというのに、インバースの態度は余裕だった。
──それはそうだ。周囲にはまだ無数の伏兵がいる。それに、『一人で敵に向かう』のと『味方を庇いながら逃げる』のとでは難易度が違う。
「こうするんだよ!」
「「!?」」
リヒトが選択した魔法は、ウインド。軍用魔法の中で最も低火力のそれを用い、彼は
当然彼女は防御するが……
(……なるほど。巧いだけじゃなくて肝も据わっていたのね。自分を攻撃するだなんて)
「ひゃあっ!?」
「ごっ、ごめんマリアベル! 変なとこ触っちゃった!?」
「い、いえ。お気になさらず……」
彼はマリアベルを抱いて、距離を取ることに成功していた。
「なら良かった! このまま跳ぶけど、いい?」
「えっ、あの……大丈夫ですの? 人一人抱えて動き続けたら、リヒトさんの体力が……」
「大丈夫、マリアベルは軽すぎなくらいだから! ちゃんとご飯食べてる?」
「も、もう! こんな時に何の心配をしてるんですの!?」
(……あの子達、本当に恋仲じゃないのかしら?)
それはともかく。
ダークペガサスナイトたる彼女は追撃しようと思えばいくらでも可能であるものの──爆音と土煙をばら撒きながら着地したソレを見て、彼女は肩をすくめた。
「退き時ね。貴方には勝てる気がしないもの」
「あぁ、おめさん達ペレジアの負けだべ」
「……いくら貴方一人が強くても、イーリスじゃあペレジアに勝てないわよ?」
そう言って彼女は、ドニに手を差し伸べる。
「こっちに来なさい。貴方なら重宝してあげるわ」
「お断りだべ。まあ、
「……それは残念」
どこか遠くを見つめながら勧誘を断った彼の姿に、得体の知れない恐怖を感じたインバースは──
「……『残念』は、おら達の台詞だべ」
ファウダーの被害者であり、世界線によってはいずれ味方となるこの二人は、早期に引き抜こうにも難しい。本来なら彼にとっても、ペレジアとの戦争は避けたい事態だったが……
『ギャンレルさん個人の説得は可能でも、ペレジア国民全体が説得できない以上……さっさとケリをつけるのが、一番互いのためだべ』
とあるペレジア兵曰く、ペレジア国民は『遺恨という名の呪いに縛られている』状態だ。エメリナの言葉一つでコロリと態度を変えた、正史におけるあの一幕は、現実的じゃあない。
──まぁ、一番嘘みたいなのは彼の存在そのものなのだが。
感傷を打ち切った彼は、『叫び』により高らかに宣言する。
「全ペレジア兵に告ぐ! 降伏せよ!! 武器を置いて逃げれば命までは奪わない!!」
「……なんだアイツ? 戦場に鍋被って出てくるって……バカなのか?」
「はぁ!? お前こそバカかっ、『不殺』のドニを知らないのかよ!?」
「不殺って……じゃあ戦った方いいだろ。敵前逃亡よりマシだ」
「おまっ、バッ、お前……! もういい、オレは逃げるぞ!!」
「はぁ!? オイオイ、マジで逃げやがった……」
彼の存在を確認した途端、ペレジア兵達がざわつき始める。
「アイツがいるってことは……」
「あぁ……
「おい、
──そして、誰もいない砦に
「う、うわああああああ!?!?」
「やっぱり
太陽──と見紛う程の巨大な炎を生み出したのはロビン。味方からは『華がある』と慕われ、敵からは『鬼のようだ』と恐怖される者。
「……相変わらず、凄まじいな」
「このくらいはできないと、ドニの露払いにもなれませんから」
「……えっと、クロム? これさ……
「…………スマン」
クロム は 目を 逸らした!
ルフレ の 目が 死んだ!!
──STAGE CLRAR!
戦績:TURN1 MVP:ドニ&ロビン
大部分の者達はロビンの炎で戦意喪失し、逃走するか降伏して捕虜になった。戦いを選択した少数の者達も、大部分は拘束して捕虜にされたらしい。
*
「クソッ、どうして
戦争の口実を作った直後に王城へ引き返したギャンレルは、不機嫌そうに頭を掻く。
リヒトの家はかつて、マリアベルの家に並ぶ、イーリス屈指の名門貴族であったが……現在では没落している。
その訳は、ギャンレルの言葉から察せられる通りエメリナにある。
先の戦いで見せた活躍からも分かる通り、リヒトは軍人として非常に優秀だ。年齢からして、個人の才能と努力では説明が付かない実力を備えている。明らかに、高次の教育を施された結果だ。つまり彼の家は
……もう言わなくても分かるだろうが、リヒトの家は戦後の軍縮によって家財を押収された。それにより、『家柄だけの貧乏貴族』と揶揄されることとなったのだ*1。
にも関わらず、彼は聖王家を恨んでいない。ギャンレルは引き抜き候補から、彼を外した。
「──だが、本命は噂以上のバケモノだったな……」
転移を使う直前遠目に見えた、強大な魔術の威力を思い出し……彼は身震いした。
「やっぱ、オレの見立てに狂いは無かった。それでこそ、我がペレジアに迎え入れる価値がある」
そう。ギャンレルが想定していた引き抜き候補の筆頭はロビンだった。
「クロムは象徴として申し分ないが、エメリナ同様甘ちゃん過ぎる。ドニは強いらしいが……殺人童貞なんて論外。そもそも『鋼の槍を歯で止めた挙句噛み砕いた』だの『手刀で兜を割った』だのと、噂が一発で嘘と分かるモンしかねえ」
──※注:どっちも本当です。
「オレは貧民街から王になった男。欲しいモンは何だって、手段を選ばず手にしてきた」
そしてギャンレルは、舌舐めずりする。
「
──その目はどこまでも、暗く乾いた砂漠のようだった。
注:リヒトの家がいつ没落したかは不明なので、これは独自解釈です。
また、ギャンレルの賠償請求相手がイーリスからテミス伯になっているのは、原作の通り『国に請求』した場合、そりゃあ国のトップが出るだろうなということで。テミス伯に請求の方が場面としては自然かなと。
それと、『マリアベルは会話ができる距離なのに、長距離なの?』と思われた方がいらっしゃるかと思いますが……インバースの魔術で声と姿を届けていた、ということでお願いします。ゲームマップの配置的には結構な距離があるので……
ギャンレル→ロビンの一目惚れは、ギャンレルが女ルフレに一目惚れしていた公式設定からになります。