ドニwith亡霊が征く! FE覚醒ロスト0チャレンジ!! 作:しやぶ
断章:選択の果て
──燃える民家、飛び交う悲鳴、地を埋め尽くす死体の山。
イーリス聖王国の王都は、
……いや、今や世界全体からすれば、
「住民の方々は訓練通りに! 最寄りの砦へ避難してください!!」
「分かってるがよぉ! 道が
『ルイン』
2連撃の闇魔法が屍兵を民家ごと吹き飛ばし、住民に降り掛かろうとした
「──て、テメエェェ!!! なんで俺ん家まで吹き飛ばしてんだぁ!?」
「え〜? だってもう燃えてたし、潰した方が火災は広がらないよ〜?」
「だからってなぁ!!!」
「お、落ち着いてください! 今はとにかく命を最優先に! 復興支援は必ず行われますから!!」
「ぐ、うぅ……! 分かってらぁ!」
「じゃあね〜」
そうして兵士と魔術師に見送られながら、住民は砦へ向かった。
「……助かりました。ヘンリー様」
「どういたしまして〜。じゃあ僕は、次の獲物を探してくるから〜。君も避難誘導頑張ってね〜」
「あっ、待ってください!」
「ん〜?」
「……王城は、陛下は、大丈夫なのでしょうか」
火の手は城にも届いている。にも関わらず、聖王エメリナが避難したという話は聞かない。
1体1体が正規騎士と同等以上の力を持つ上に、死者故の高い継戦能力を備える屍兵を、ヘンリーは圧倒した。彼の力は、城にこそ必要なのではないか……そう思った兵士は、彼を呼び止めた。
「あ〜。あっちは大丈夫だよ〜。大丈夫すぎてつまんないくらい大丈夫〜」
「何故そう言い切れるのですか? 火の手が上がっているじゃないですか!」
「確かに、それで物は壊れるだろうけど〜死人は出ないかな〜。だってあっちには──いや、流石にコレはマズイかもね」
突然、魔法陣が天を覆った。
屍兵が人々を襲う手を止め、
──邪竜ギムレーが、やってきた。
*
「──あ、あぁ……」
──ダメだ、勝てない
ギムレーを見た瞬間、ルキナは自分の心が折れる音を聞いた。
だって、仕方ないだろう。
一撃で城壁を吹き飛ばし、ルキナを覗き込んだその瞳は──それだけで、彼女の全身をすっぽり覆えるほどの大きさだったのだから。
ルキナの持つ剣──『ファルシオン』は『ナーガの牙』 ギムレーを傷つけ得る、数少ない武器である。
……だが、
想像してみればいい。自分の目玉ほどの大きさもないアリが、人間の犬歯を持って『お前を殺す』と息巻いている姿を。
……ギムレーは今、まさにその心境にある。
「……哀れだな、王女ルキナ」
「──っ、黙れ!!」
「不完全でも『覚醒の儀』さえ行えば、なんとかなると……誰かにそう言われたか?」
「黙れと言っている!!」
ルキナはファルシオンを振るい、神竜の力を纏わせた風の斬撃を放った。しかし……
「こちらも言った筈だな。『哀れ』だと」
効いていない。直撃したにも関わらず、
「……その牙は、ヒトの身には重かろう。今、楽にしてやる」
「う、うあああああああ!!!!」
そうしてギムレーの牙が、目の前に迫って来ても……ルキナはただ、ファルシオンを離さないようにするだけで精一杯だった。彼女には、何もできなかった。
「──だから、
「ルキナ、よく聞け……!」
「う、ぁ、はぃ……」
「南に──大陸の、南端に、向かえ……!」
「みな、み……」
「そうだ、『異界の門』を探せ……!」
「門……?」
──呆然としているようだが、それでも何を言われているのか認識はしている。それが確認できればよかったのだろう──伝えるべき情報を伝えると、彼は叫んだ。
「ルキナを連れて逃げろ、アンナァァァ!!!」
「んもうっ、こんな激戦区に商人を駆り出さないでよ! 高くつくんだからね!?」
「──ぇっ」
アンナと呼ばれた赤髪の女性は
「──んっ、がああああああ!!!!」
そして青年はギムレーの牙を押し返し、すかさず背中に差していた
「ククッ、クハハハハ! ようやく現れたな、我が宿敵──
ギムレーの目に、先程までの憐憫はない。本気で彼を、脅威として認識している。
「何やら見たことのない杖で王女を逃したようだが──心底どうでもいい! 貴様だ。貴様こそが、
その言葉に何を思ったのか、ドニは──
「哀れだな」
「……何?」
「『哀れ』だと言ったんだ」
それはギムレーが、ルキナに対し言い放った言葉だ。
「我の何が哀れだ、ドニ」
「
「……黙れ」
奇しくも、ギムレーはルキナと同じ言葉を口にした。
「おかしな話じゃねぇか──ギムレーからすりゃ、オレなんて虫けらの筈なのによぉ……どうしてファルシオンの担い手よりも警戒する?」
「単純な話だ。貴様が1番強い。だから最も警戒する」
「それがおかしいってんだ。虫ケラは等しく虫ケラ──ギムレーなら、そう言う筈だぜ? だからさ……早くそんなデカいだけのムカデなんかぶっ潰して、帰ってこいよ」
「黙れッ! ロビンは死んだ!!!」
「相変わらず寝起きが悪いみてぇだな!
「──合唱隊、支援開始ですッ!」
ドニが超人的な脚力でギムレーの頭部に飛び乗ると同時に、地上の屍兵を掃討した騎士達が合唱を始める。
無論ただの歌ではない──特殊な技能を用いた『叫び』による支援の重ね掛けだ。隊長のオリヴィエは、それに加えて『特別な踊り』による疲労軽減効果も送っている。
「……虫ケラ風情が」
それを鬱陶しいと感じたギムレーは、上空からブレスを放った。特に気負うことなく、本当に片手間で撃った一撃だが、直撃すれば合唱隊は全滅するだろう。
「させるものか!」
「絶対死守します!」
──故に当然、護衛がついている。
クロムとフレデリクを始めとした、世界有数の戦士達だ。
「お怪我はありませんか、クロム様」
「当然だ。それよりも、心配するべきはルキナの方だろう」
「気持ちは分かりますが……ルフレさんやヴィオールさんを交えて話し合った結果、これが最適という結論に至った筈です」
「分かっている。文句はない。……腕が一本になっても、こうしてアイツは最前線で戦ってるんだ。文句なんて言えるものか」
「……はい」
「だから、俺から言うのは文句ではなく激励だ──勝てよ、ドニ」
──ギムレーの悲鳴が、空に響き渡った。
*
「あ、あぁあ……なんで……なんで、逃げてしまったんですか」
ルキナは人類の希望として、屍兵がのさばるこの地獄において、大切に大切に育てられた。それは全て、ギムレーと対峙した時のため。この日のためだった筈だ。
「ルキナ、貴女は充分よくやったわ。ギムレーを前にしても、ファルシオンを捨てなかった。それだけで充分」
「そんな──そんなワケがないじゃないですかッ! 皆……皆死んでしまうんですよ!? 国中の皆が、私が逃げたせいで……!」
「
「合、格……? 何にですか」
「コレを飲む資格があるのかどうか……その試練によ」
そう言ってアンナが取り出したのは、うっすらと
「それは?」
「神竜ナーガの涙」
「……涙なんて、何に使うんですか」
「覚醒の儀──その代わりに使えるらしいわ」
「──できるんですかっ!?」
覚醒の儀は、神竜ナーガを復活させ、彼女の炎を身に受け心を浄化し、ファルシオンが持つ真の力を引き出すための儀式だ。本来は『炎の台座』と『5つの宝玉』が必要なのだが……
「できるというか、正確には
「はい。それでファルシオンが、『封剣』から『
今までは『ただ壊れないだけの剣』だったのが、『持っているだけで傷が再生する剣』に変わったのに加え、切れ味も増している。
「そしてナーガ様は、2滴の涙に残った全ての力を込めて、再び眠りについたわ」
「では、もう1滴は?」
「ドニが飲んだわ。彼が飲むのは決定事項よ。隻腕でも人類最強だもの」
「納得です。しかしコレは……お父様が飲むべきなのでは」
「皆そう言ってたわ。でもね、ドニが止めたの」
「……それは、どうして」
「ドニとクロムの2人じゃあ、どう足掻いてもギムレーに勝てないからよ。ナーガ様曰く、完全な覚醒の儀を行っていたとしても、千年封印するのでやっとらしいわ」
「……なら、私でも同じなのでは?」
「いいえ。貴女だけが、ギムレーを殺し得るのよ」
淀みない、ハッキリとした言葉だった。そう言い切れるだけの根拠があると、そう確信できる言葉だった。
──ルキナの心に、再び炎が宿る。
「ドニが何を探せと言ったか、覚えてる?」
「異界の門ですね」
「そう。そこでチキ達が待ってるわ」
「チキさんが? 何故」
神竜の巫女たる彼女は、対ギムレーにおける最大戦力の一人だ。後方で待機している意味がある筈だ。
「異界の門はね──『時渡り』の力を持っているの」
「時間を超えられるんですか!?」
「そ。でもそんなデタラメ、普通の魔力じゃ使えないから。そこで彼女の出番よ」
「なるほど……」
聡明なルキナは、この時点で作戦を把握した。
「私は過去に渡り、完全な覚醒の儀を行う。中途半端でも、神竜2人分の力があるなら……ギムレーを殺せるかもしれない、と。そういうことですね?」
「そういうこと! 過去に渡った時、その時代に自分が居ると色々危険だからね〜。記憶が吹っ飛んだり魔力が吹っ飛んだり、最悪死んじゃうこともあるの。だからクロムじゃ駄目なのよね」
「……随分と、お詳しいんですね?」
「あー。私の家系も、貴女と同じかそれ以上に、ちょっち特殊な『運命』が課せられてるのよ。『あらゆる時代のあらゆる国を見ろ』っていうね」
意外なほどに知られていないが、『アンナ』はどこにでも存在する。同じ名前、同じ容姿の『姉妹』があらゆる時代のあらゆる国に存在しているのだ。どこまで把握しているのかは分からないが、彼女らは己が『そういう存在』であると自覚しているのは確かだ。
「だから過去に行って、歴史改変について何か相談したいことができたら
実際、商人にならずに異界の門の門番をやっているアンナもいる。
「──さ、覚悟ができたのなら行きましょう。ドニがギムレーを足止めしてくれてる内にね」
「はい!」
──こうして王女は時を渡る。
絶望するには、まだ早い。