色んな作者さんのオリジナル小説を読み漁っていたら、また自分も挑戦したくなりました。どうぞ気軽に見ていってください。
海に面する港町オータル。そこにある屋敷は夜も更けたこの時間、物々しい雰囲気に包まれていた。
鎧を着込んだ屈強な男達が屋敷の内側と外側を巡回し、厳重な警戒態勢を敷いている。
「マルク君、警備の方は万全かね?」
自室の机で書類仕事をしていた太った男が傍らに立つ鎧の男に声をかけた。
太った男は頭髪のない50歳くらいの男性であり、名をトリアンという。このオータルの町に居を構える魔道具販売会社の社長だ。
鎧の男の名はマルク。トリアンが雇った傭兵部隊の隊長だ。
トリアンに尋ねられたマルクは自信満々に答える。
「ご安心を、ネズミ一匹入り込めはしません」
「そうか、引き続き頼む。敵はどこから来るか分からんからな」
トリアンは書類仕事の手を止めて悩ましげに眉をひそめる。
「暗殺者がワシの命を狙っているという情報が正しければ今夜中に襲ってくるはず。くれぐれも用心してくれ」
「はい」
このトリアンという男、表では大きな魔道具販売会社を経営するやり手の社長なのだが、裏では様々な国に武器を密輸する武器商人をしている。私腹を肥やしてほくほくな生活を送っていたトリアンだが、裏の伝手である情報を手に入れた。トリアンの裏の活動が目を付けられ、暗殺者が狙っているというものだ。
恐ろしくなったトリアンはそれを聞いてすぐ傭兵を雇った。この辺りの地域で名の知れた腕利きの傭兵だ。彼らに警護を任せているわけだが、不安は拭えない。
普通の暗殺者なら十分撃退できるだろう。だけどもし、裏社会で噂になっている"あの暗殺者"が来たら、この警備でも突破されるかもしれない。
__フッ……
「っ! な、なんだ!?」
その時、急に部屋の明かりが消えた。急に真っ暗になってトリアンは混乱する。
「様子を見てきます。少々お待ちを」
暗闇の中でマルクの声と部屋から出ていく音が聞こえる。一人で恐怖に怯えて待つ時間は思いの外短く、ものの数秒で明かりは回復した。ほっとするトリアンだが、マルクがいつまでたっても戻ってこないことに気づく。
「マルク君! どうかしたのかね!」
「お呼びの人物はこちらですか?」
大声でマルクを呼ぶトリアン。その耳元で、聞いたことのない声が囁かれた。
「っ!?」
その声に驚いたトリアンはガッタンバッタンと椅子から転げ落ちる。腰を抜かして立ち上がれず、尻もちをついたまま必死に後ずさる。
「こっ、子供!?」
トリアンに声をかけた人物は小さな子供だった。上も下も真っ黒な服を着て、首に巻いた黒いマフラーで口元を隠している少年。ウェーブのかかったくすんだ灰色の髪と感情を読み取れない藍色の瞳が特徴的だ。
少年はトリアンへ何かをポイッと放り投げる。床にカラカラと転がったそれを見ると、血のついた傭兵隊のバッジだった。
「ひっ!?」
そのバッジはマルクが鎧に付けていたものである。つまりマルクはあの短い間にこの少年に殺されたということ。
「な…な……!?」
少年はさらに追加でガシャッと物を投げる。血のついたバッジが大量に入った袋だ。それはマルクだけでなく、部屋の外にいた傭兵達も全員この少年に殺されたことを意味する。何の物音も、異変も感じさせずに。
「まさかっ……まさか貴様は……!」
トリアンは震えた声で少年を指さす。少年は特に表情を動かさず、短剣を構えた。
これほどのことができる暗殺者にトリアンは心当たりがあった。まさにさっき襲撃を危惧していた人物、天才的な潜入・暗殺の技術で瞬く間に裏社会にその名を知られた暗殺者。任務とあらばどんな警備も警戒もかいくぐって確実に標的を消す殺しの申し子。
「”
それがトリアンの口にした最後の言葉になった。少年はその短剣でトリアンの命を奪い、もの言わぬ死体とする。標的と傭兵数十人を殺し、今夜この屋敷で起こったことを知る者はいない。
「任務完了」
知るのはただ一人、この灰色の暗殺者だけだ。