灰銀のハイバラ   作:みるちー

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episode2 輪廻

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと目が覚めた。

 

 見知らぬ天井、見知らぬ布団、嗅いだことのない匂い。

 知らない部屋に置かれたベッドの上で、俺は眠っていたようだ。

 

 ……あれ? 俺は死んだのではなかったか?

 

 暗い部屋の中で上体を起こして辺りを見回す。俺が寝ているベッドは白いカーテンに囲まれている。そして服も、水色の浴衣のような清潔なものに変わっていた。病衣というやつだろうか。では俺は奇跡的に助かって、病院に搬送されたのか?

 いや、この部屋は病室という感じじゃない。この白いカーテンといい、部屋の狭さといい、学校の保健室という方がしっくりくる。

 

「……あれ、俺の身体……」

 

 ふと自分の身体に違和感を覚えた。

 なんか全体的に軽いというか、小さい気がする。自分の手を見つめると、よりそう感じる。

 何だこの紅葉まんじゅうのような可愛いおてては。確かに俺は運動なんてほとんどしないインドア派だったが男子大学生の端くれ。肌は少し黒っぽかったし、毛だって生えていた。腕だってもっと太かったはずだ。こんなに細くてぷにぷにと柔らかいものじゃなかった。

 

__ズキンッ!

 

「っ!?」

 

 急に頭に激痛が走る。

 脳の奥深くでトゲだらけの虫が暴れているような耐え難い痛み。思わず頭を抱えて髪の毛をぐしゃりと握る。

 同時に身体も燃えるように熱くなってきた。心臓がドクンッドクンッと破裂するかと思うほどの強さと速さで鼓動を刻み、胸を中心に身体中の細胞が溶けそうなほどの熱が広がる。

 

「……ぁぁぁぁあああああぁぁっ!!!」

 

 味わったことのない苦痛に俺は声を荒げた。人間の喉から出たとは思えない怪獣みたいな声。

 頭と胸を押さえてベッドの上をのたうち回る。いつの間にか部屋は明るくなり、数人の大人が慌てた様子で部屋に駆け込んでくる。その人達もまた、見慣れない恰好をしていた。

 大人達は暴れる俺を何とか落ち着かせようとしていた。だけど一向に痛みと熱が治まらない俺は尚も暴れ続けた。

 

__ここはどこだ……っ? 俺はっ、どうしちまったんだ……!?  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから約半月、色々と落ち着いた俺は状況を理解した。

 

 端的に言うと、どうやら俺は生まれ変わってしまったようだ。

 やはり俺はあの交通事故で死んでいた。死の間際に、「もし生まれ変われたら……」なんて願ったが、まさか本当に叶うとは思わなかった。

 

 その結論に至った理由は色々あるが、まず何といっても容姿だ。

 鏡を見た時、俺は始め、映っているのが自分だと信じられなかった。

 

 肩に届くか届かないくらいのボブカットの髪の毛。色はくすんだ灰色。

 すっと通った鼻筋に整った輪郭。少しばかりつり上がっている目には藍色の瞳が内包されていて、クールな印象を与える。

 前の俺とは似ても似つかない絶世の美少年が映っていたのだ。

 

 黒髪黒目の典型的な日本人だった俺の面影が何もないその姿。

 鏡をペタペタ触ったり、頬っぺたを抓ったりして何度も確認したが、夢でも妄想でもなかった。

 この身体の主は間違いなく俺だったのだ。

 

 そうなると名前ももちろん違う。この身体での俺の名前は”ルイ”だ。

 まったく記憶にないが、俺が自分でそう名乗ったらしい。

 

 あの時部屋に入ってきた大人達に詳しく話を聞けば、このルイという少年。かなり訳ありだ。

 というのも、ある大雨の日にボロボロの恰好で孤児院の前に倒れていたというのだ。あの大人達はその孤児院で働く人で、俺を助けてくれたというわけ。

 慌てて駆け寄って大丈夫かと声をかけると、俺は弱々しい声で

 

 「ぼくは……ルイ…………ルイ、なんだ……」

 

 とひたすら繰り返していたという。そんな俺を急いで医務室に運び治療を施したが、一時期心肺が停止して生死の境をさまよい、一週間も目を覚まさなかったと話してくれた。

 

 ここからは俺の推測になるが、このルイという少年もその時死んだのではないかと思う。

 ルイが死んだことで一時的に魂が抜けた空の肉体。そこに何らかの原因で同じく死んだ俺の魂が入り込むことで、俺は今、ルイとして生きているのではないか。そう推測した。

 

 何故そんな予測を? そう思うだろう。根拠はちゃんとある。

 何を隠そう俺は、ルイとしての記憶も持っているのだ。

 

 ルイは、貴族の家に生まれた5歳のお坊っちゃんだ。

 それなりに満ち足りた生活を送っていたけど、ある時から親の見る目が変わった。急にルイをゴミのように扱い、冷遇し、その存在を全否定した上で追放した。金も使用人も、何も持たせずに文字通りに捨てたのだ。

 

 突然降りかかった、たった5歳の子供が受けるにはあまりにも酷な悲劇。ルイは精神的にも肉体的にも疲弊し、ボロボロになりながらも何とかこの街の孤児院まで辿り着き、力尽きたのだ。うわ言のように「ぼくはルイだ」と呟いて、信頼していた親から否定されてしまった自分を励ましながら……。

 

 その記憶が前世のものとは別に俺にはある。

 

 だから俺は思う。自分は前述した過程でルイの身体に入り込み、生まれ変わったのだと。

 いや、正確には俺とルイが融合し、新しい”ルイ”が生まれたというべきか。医務室で目覚めた時に味わった、頭痛に身体が燃えるような熱。あれは俺とルイの記憶が混じり合い、また、この身体と俺の魂が接続を果たした時に発生した症状だと考えれば辻褄が合う。

 

 生まれ変わりだの、魂だの、理系大学生としてはあまりにも非科学的で論理も何もない推論だが、状況から見て俺はそう結論付けたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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