灰銀のハイバラ   作:みるちー

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episode4 孤児院での生活

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いただきます」

 

「「「いただきます!」」」

 

 朝食の時間。孤児院の食堂に集まってテーブルを囲み、パンと目玉焼きをいただく。

 ミーナさんを始めとする孤児院の大人達が声をかけると、子供達は待っていたかのように朝食にありつく。そんな彼らを横目に、端の席で俺もパンを食べ始めた。

 この孤児院には俺の他に15人前後の子供がいる。俺のようなよっぽどの訳ありは珍しいが、皆身寄りがなくてここに預かってもらっている身だ。5歳から9歳くらいの子供達ばかりなので、食事の席はなかなかに賑やかだ。

 

 

 さて、ここまで俺がどういう状態で生きているかについて話してきたと思う。その中で、貴族とか王とか魔法とか、現代の地球で暮らしていたらあまり聞きなれない単語を度々使っていたことに気づいただろうか。

 

 そんな単語が出てくるということは、そう、ここは俺が暮らしていた地球ではない。似て非なる、いわば異世界に来てしまっているのだ。

 

 科学の代わりに魔法が発達して、魔物とかモンスターとか架空の生き物が普通にいて、何だったら魔王だって存在するらしい世界だ。

 ゲームやアニメであるような、剣と魔法のファンタジー世界。そこに俺は紛れ込んでしまったようだ。他人に憑依して生まれ変わる、なんてあり得ない体験をしているわけだから、もう何が起こっても驚かない。ただ、俺とルイの魂は世界の垣根を越えるほど強く引かれ合ったのかと思うと感嘆する。

 

 街の建物や周囲の人の服装、文化、諸々を観察してみるに中世ヨーロッパに近い世界だ。文化的に洋風な印象だし、建物とか服とかがどことなくレトロな感じだ。

 だが完全に中世ヨーロッパというわけではない。魔法技術の賜物なのかは知らんが、トイレや風呂は現代日本とそう変わらない代物だった。下水道もきちんと整備されているし、少し街を歩けばスーパー的なお店もある。新聞や本、雑誌なども前世とほぼ変わらないクオリティで売られていた。少し大きな街に足を延ばせば映画館だってあるという話だ。もちろん携帯電話やテレビなどないものもあるが、それでも現代日本で生活していた俺があまり不便を感じない程にこちらの世界は充実していた。

 

 だから完全な中世ヨーロッパやファンタジーの世界に来たというよりは、マンガやラノベ、ゲームの世界に迷い込んだという方が正しい。感覚的にはファンタジーをモチーフにしたテーマパークにでも来た気分だ。

 

 ちょっとちぐはぐに感じることはあるが、俺にとってはすごくありがたい。あれだけ便利な現代日本で生活していた人間が急にガチの中世ヨーロッパに飛ばされたら生活面で躓く。生活を豊かにしてくれてる魔法様々である。

 

 

 

 

 

 

 

 状況確認にかなり時間をかけてしまった。ここまで長々と語ってしまったが、今の俺の状況を一言で表すとこうなる。

 

 ”魔法が発達したファンタジー世界に迷い込んで、ある少年に憑依して生まれ変わった”、だ。

 

 現実離れした状況なのは重々承知だが、これが事実なのだ。そして俺はこの世界で”ルイ”として生きていくと決めた。俺もルイも、死ぬまで叶えることができなかった望みを叶えるために。充実した人生を送るために。この見知らぬ世界を生きていく。

 

「おい、魔なし」

 

 差し当たってまずやるべきなのは生まれ変わった俺の才能を測ることだろう。生きる意義を見つけられるのかは前も言ったように運次第だが、いざ見つかった時に活用する道具が分からないのでは話にならない。

 

「おいっ! 聞いてんのかっ!」

 

 ルイは自分の無能さを死ぬ寸前まで嘆いていたけど安心してほしい。俺は幾多の自己啓発本を読みこんだ才能博士だ。どんな人にだって他人とは異なる才能を持つ。それを俺が見つけ出してやろうではないか。

 

「聞いてんのかって言ってんだよっ!」

 

「っ!」

 

 食べ終わった皿を厨房へ下げながら考え事をしていたら、いきなり誰かに突き飛ばされた。地面に尻もちをついて食器を落としてしまい、皿やコップが床に散乱する。

 

「新入りのくせに無視しやがって! 生意気なんだよお前!」

 

 顔を上げると体格のいい茶髪の少年が俺の前で仁王立ちしていた。7歳の少年でこの孤児院のガキ大将的ないじめっ子、フシト君だ。子分の男子を二人従えて、俺を見下ろしてニヤニヤと笑っている。

 

「……何か用ですか?」

 

「あぁ? お前みたいな能無しに用なんてあるわけねぇだろ。調子乗んな」

 

 言ってることがめちゃくちゃだ。まぁ子供のいじめなんてこんなものだろう。俺は「そうですか」、と返事をして散乱した食器を拾い集める。相手にするだけ無駄だ。

 

「そうですかじゃねぇんだよ!」

 

__ガッシャーンッ!

 

 フシトは今度は俺の背中に思い切り蹴りを入れてくる。俺は前のめりに倒れ、勢いよく投げ出された皿は地面にぶつかると派手に割れてしまった。幸い俺に怪我はない。

 

「生意気なやつめ! お前みたいな能無しはそうやって地面に這いつくばるのがお似合いだ! 分かったか魔なし!」

 

 倒れた俺の姿を見て機嫌よくフシトは笑う。

 魔なし、能無し。フシトが俺に向けて言う言葉、これは孤児院に入ったばかりの頃に受けた健康診断で俺の持つ魔力があまりにも少なかったことが起因している。この世界の人間なら誰もが多少なりとも持つ魔力が俺にはほとんど存在しない。周りから見れば明らかに異質で、そして明らかに人間として劣等だ。

 

 いじめっ子にとってはさぞかしいい標的だっただろう。だから俺に魔なし、能無しなんてあだ名を付けて皆で笑う。

 俺をいじめることができてフシトは気持ちよさそうだ。たかだか小さな街の、小さな孤児院の2歳も年下の男の子より自分が上だと証明できてそんなに嬉しいか。

 俺は、いや俺達は天才と呼ばれるような高みを目指しているんだ。こんな奴に構ったところで時間の無駄。さっさと飽きて去っていくのを待とう。

 

「おいっ! お前ら何やってんだ!」

 

 それにここにいるのはフシトのような奴ばかりじゃない。ちゃんとこんな風に助けてくれる奴だっている。

 フシトと俺の間に、オレンジ色の髪の少年が割り込んできた。その鋭い黄色の瞳でフシトを睨みつける。その眼光にフシトは後ずさった。

 フシトと同じ7歳の少年、レオンだ。

 明るく快活な性格の男の子で、孤児院の子供達から慕われている人気者。フシトとは正反対の少年だ。俺がフシト達にからまれていると度々助けてくれる人物でもある。

 

「ルイ、大丈夫? 怪我はない?」

 

「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

 

 床に倒れた俺を、青いボブカットの髪の女の子が起こしてくれた。レオンの幼馴染の7歳の女の子、アスリカだ。優しい性格の彼女もレオンと同じく子供達の人気者。皆のお姉さん的な存在だ。アスリカは俺を立ち上がらせると、ポンポンと服に付いた埃を払ってくれる。俺にニコリと優しく笑いかけると、キッとフシト達を睨みつけた。

 

「あんた達はまたルイ君をいじめて! こんな小さい子相手に恥ずかしくないの!?」

 

「ふんっ、そいつが悪いんだよ! 魔なしのくせにちんたらとオレの前を歩いてやがるから!」

 

「お前の前を歩いて何が悪いんだ? 俺だって目の前にいるぞ。何なら俺も突き飛ばしてみるか?」

 

 レオンの言葉に、フシトはうっと言葉を詰まらせる。レオンは外で遊ぶことが好きなスポーツマン、その身体は子供ながらに鍛えられている。一方フシトは体格はいいものの、あまり運動をしないため身体能力は劣る。喧嘩になれば痛い目にあうのはフシトだろう。

 

 皿を割った音を聞いた子供達が集まってきた。視線がどう見ても悪者のフシト達に集まる。

 

「……ちっ! 覚えてろ!」

 

 視線に耐えられなくなったフシトは取り巻きを連れてそそくさと食堂から出ていった。ほっと息を吐くと後ろからアスリカにぎゅっと抱きしめられた。

 

「むぎゅっ!?」

 

「ルイ君! 大丈夫だった!? 怪我はない!?」

 

「大丈夫だって……さっき言いました……!」

 

「心配なのよ! ルイ君こんなに可愛いのに顔とかに傷がついたら大変だわ!」

 

 ぎゅうぎゅうと思い切り抱きしめてくるアスリカに俺はされるがままだ。視線でレオンに助けを求めてみるが、レオンは「好きにさせてやってくれ」と言わんばかりに苦笑いをするだけだ。

 こんな感じで、俺はアスリカにまるで弟のように可愛がられている。事あるごとに抱きしめてくるし、普段から「可愛い可愛い!」と連呼して、たまに同じ布団で寝ようなんて誘われる。過保護な姉のような溺愛っぷりだ。確かにルイの見た目は女の子に見えなくもない程可愛いし、薄幸系の美少年といった感じだが、一体何がトリガーとなってここまで溺愛してくれるのか分からない。

 まあアスリカみたいな可愛い女の子にこうして可愛がられるのはまんざらでもないんだけれども。

 

「レオン、アスリカ。助けてくれてありがとうございます」

 

「いいって、気にすんな」

 

「そうよ! またいじめられたらいつでも言ってね! すぐ駆けつけるから!」

 

 アスリカに抱きしめられたままお礼を言うと、二人から頼もしい言葉を貰った。二人はこの孤児院で初めて友達になってくれて、右も左も分からなくて混乱していた俺にこの世界のことを色々教えてくれた恩人で、大切な友人だ。

 

「じゃ、散らばった皿片付けるか」

 

「あ、大丈夫です。ぼくがやりますから」

 

「え~、でもルイ君怪我しちゃわない? 危ないよ」

 

「それくらいできますから、大丈夫です。心配しないでください」

 

 俺がそう言うとレオンは素直に、アスリカは渋々任せてくれた。俺は二人にもう一回お礼を言って、カチャカチャと割れた皿を拾い集める。

 

 

 

 

 

「魔なし、ねぇ……」

 

 

 片付けをしながら、俺はフシトに言われた言葉を思い出す。

 魔力がない、つまり魔法が発達したこの世界で魔法が使えない無能。フシトはそう言っていた。

 

 確かに一般論ではそうなのだろう。ルイが両親から捨てられた原因も、もしかしたらこれなのかもしれない。

 だけど、彼らは認識を誤っている。確かに魔力はたくさん持っていた方がより多くの魔法を扱えて優秀なのだろう。しかし、魔力がない=無能ではないのだ。

 

 俺は木のスプーンを拾って、じっと見つめる。

 おもむろにそれに魔力を流した。フシトに馬鹿にされた、限りなくゼロに近い微量な魔力だ。普通ならば何も起こらない。

 

__ボロッ……

 

 だが、木のスプーンは俺に魔力を流入されると形を崩した。水分を失って乾ききり、ボロボロとおが屑のように崩れる。

 それを見て俺はニヤリと笑う。

 

 

 

 __魔なし? 無能? いや違う。ルイはある意味とてつもない魔法の才の持ち主だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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