灰銀のハイバラ   作:みるちー

7 / 7
episode6 ~開花~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__ピシャアッ! ゴロゴロ……ッ!

 

 凄まじい豪雨が窓をふきつけ、激しい雷が鳴る夜。孤児院の職員室は真っ赤な鮮血が飛び散る殺人現場と化した。俺の目の前に、よく鍛えられた肉体を持つ成人の男が血まみれで倒れている。瞳孔が開いていてピクリとも動かない。死体だ。

 

 その男をじっと見つめる俺の手には血で真っ赤に染まった黒板の指し棒が握られていて、パジャマにもたっぷり返り血を浴びている。

 

「ル……ルイ君…?」

 

 その俺の後ろでは、ミーナさんが腰を抜かして座り込み、目を見開いてはくはくと口から言葉にならない音を出している。

 

 

 __俺は今、人を殺したのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界に転生して、孤児院で暮らすことになってもう半年が経った。長いようで短かった気がする。

 こっちの生活にも大分慣れた。元の世界が恋しくないわけではないが、この世界にも故郷に感じるような愛着が湧いてきている。

 

 例の魔法制御の訓練も順調だ。毎日のように庭の草をむしっては崩し、むしっては崩しをくり返していたらようやく水だけを蒸発させることに成功した。手の中の草が崩れることなく、しおしおと萎びていった時の喜びは忘れられない。

 あらゆる物質を変質させるルイの特有魔法…、いちいちこう言うのも面倒だな。『量子(クォンタム)』と呼ぶことにしよう。

 ルイ特有魔法『量子(クォンタム)』の道はこれでぐっと開かれたのだ。

 

 

 

 そんな感じで生活していたある日の夜、俺はベッドから抜け出して廊下を歩いていた。

 その日は非常に天候が荒れている日で、外では激しい豪雨と雷が鳴り響いていた。そんな天気のせいか妙に落ち着かなくて眠れなかった俺は、職員室に向かっていた。

 この孤児院ではミーナさん達が先生変わりとなって勉強も教えてくれている。ルイの記憶のおかげでこの世界の文字も読める俺は授業に使う本を何冊か貸してもらおうとしていた。本でも読んで頭を疲れさせれば眠くなるだろうと思ったのだ。

 

「失礼します」

 

「は~い。あ、ルイ君。どうしたの?」

 

「どうも眠れなくて、本を何冊か貸してもらえませんか?」

 

 職員室には他の職員はおらず、ミーナさんが一人でコーヒーを飲んでいた。ミーナさんは俺の頼みにニコッと笑って本棚から何冊か本を出してくれた。

 

「はい。じゃあこんなもんでどうかな?」

 

 持ってきてくれた本は3冊。『対帝国戦の兵士 ~隠蔽された戦争の罪~』、『歴史に学ぶ為政者の思考』、『世界の毒物大全』だ。

 ……何というか暗いチョイスだ。確かに俺は精神年齢は19歳の大学生で、ルイも貴族として高等な教育を受けてきたから頭が良く、普段の授業でもミーナさん達のサポートをしているが仮にも5歳の子供にこの本はないんじゃなかろうか。1冊目の『対帝国戦の兵士』なんて、昔起きた帝国との戦争でこの国の兵士が女性捕虜相手に強姦していたと思い切り書いてある。この人の情操教育の観念バグってるのか。

 

「この本は私のオススメだよ。これで歴史に興味を持ってくれると嬉しいな」

 

 渋い顔でミーナさんを見上げるとキラキラとした笑顔を向けていた。ふざけてるとかはなく、本気で自分のオススメを紹介してくれたみたいだ。少し天然だったりするのか、ミーナさん。

 普段は子供好きの可愛いお姉さんって感じなのに、こういうドロドロしたのが趣味なのかこの人。ちょっと意外だな。

 

「……ありがとうございます。読ませてもらいますね」

 

「うん。待ってて、今ホットミルク持ってくるから」

 

「お構いなく」

 

 ミーナさんはぱたぱたと職員室を出ていった。俺は一先ず3冊の本をミーナさんの机の隣の机に置き、椅子に座る。とりあえず『対帝国戦の兵士』を読み始めた。

 戦争の裏で起きていた薄暗い事例を何個か列挙して、何故そんなことが起きたのかという考察と改善案が述べられる、という構成の本だった。

 戦争という極限状態では理性の働きにはあまり期待できず、人は感情と欲望のままに行動してしまう。規律を守るためには現場の指揮官や上層の司令部がしっかり機能し、兵士を感情レベルでまとめ上げる必要がある、というのがこの本の作者の意見だ。そのような考察と事例が何ページにもわたって書いてあった。

 大学生の俺にはちょうどいいボリュームの本だ。ミーナさんの趣味とか情操教育云々と文句を言ってしまったが、結果オーライだったようだ。何なら彼女の思惑通り、少し歴史に興味が湧いてきている。心理学とか当時の国々の情勢とか、様々な知識を踏まえて考察すれば別の面が見えてくるのではないか、人はどういった状況でどういう行動を起こすのかを知りたい、なんて気持ちが出ている。何だかんだいってこの本は当たりだった。

 

「お待たせルイ君。ホットミルク持ってきたよ」

 

「ありがとうございます」

 

 ミーナさんが戻ってきた。ほこほこと湯気を立たせるマグカップを手に持っている。それを俺の目の前に置いてくれた。一旦読書をやめてマグカップを手に取る。飲んでみると前の世界でも飲みなれた何の変哲もないホットミルク。特別美味しいってわけではないけど、何だかほっとした気持ちになった。ホットミルクだけに、なんてね。

 

「……ねぇルイ君。ここの生活には慣れた?」

 

 内心寒いギャグを言って一人で面白がっていると、隣の席に座ったミーナさんがそう話しかけてきた。

 

「そうですね。もう半年もお世話になってますから」

 

 俺はマグカップから口を離して答える。

 

「……私達は? まだ怖い?」

 

 するとミーナさんは不安気な顔をしてそう聞いてきた。顔を見ると、彼女の今の気持ちを表しているかのように瞳が揺れている。

 …なるほど、ミーナさんはルイが大人にただならぬ報復心を持っていることを見抜いていたのだ。まあ、あれだけ大人を嫌った態度をとっていれば気づかないわけがないのかもしれないが。

 今でもこの身体の中に、大人に対する黒い感情はぐつぐつと煮詰まっている。だけど最近は、この孤児院の人達限定ではあるが徐々に軟化しているように感じる。他の大人に対しては相変わらずだが、ミーナさん達相手だと言葉や言動が少しずつ柔らかくなってきたのだ。これはルイが毎日真摯に向き合って世話をしてくれるミーナさん達に心を開いてきているということだろう。

 

「……そうですね。まだ怒りや恐怖心を捨てきれたわけではありません」

 

「……そっか」

 

「でも、ここの人達は暖かくて優しいので、好きですよ」

 

 こうして俺を心配してくれるミーナさんに、俺は正直な気持ちを伝えた。俺の最初の言葉に悲しそうに俯いていたミーナさんは、それを聞くとパッと顔を上げた。何を言われたのか最初は理解できていないようでポカンとしていたが、意味を飲み込むとパァッと笑った。

 その顔を見ると何だか照れくさくなって、プイッと顔を逸らして再び本を読み始める。そんな俺を見てミーナさんはフフッと笑った。

 

「ねぇルイ君__」

 

 ミーナさんは嬉しそうに顔を近づけてまた話しかけようとしてくる。

 

 

__パリィンッ!!

 

 その時、突然職員室の窓ガラスが割れた。そちらへ顔を向けると、黒い装束を身に纏った如何にも怪しい男がいた。ポタポタと身体に付着した雨を床に垂らしてすでに職員室に侵入している。

 

「っ!」

 

 その男を知覚できたのは一瞬。そいつはナイフを構えてこちらに襲い掛かってきた。ミーナさんが俺を抱えて何とかその攻撃をかわす。男のナイフがミルクの入ったマグカップを破壊する。白い水滴が辺りに飛び散った。

 

「……ッ! ルイ君っ! 大丈夫!?」

 

「……はい、なんとか」

 

 突然のこと過ぎて何が起こったのか分からない。男はナイフに付いたミルクを振り払い、ゆっくりこちらを振り向いた。

 

「騒いでも無駄だぞ。助けは来ない」

 

「っ! 他の皆に何をしたのっ!?」

 

「なに、ちょっとした睡眠魔法だ。ここでどんなに物音を立てようが他の連中は朝まで目を覚まさない。お前も使ったことがあるだろう?」

 

「っ……!」

 

 男の言葉にミーナさんは顔をゆがめる。よく分からないが二人は何か因縁というか関係がある様子だ。

 

「……狙いは私?」

 

「ああ。ある男から依頼を受けてな、報復だそうだ。お前も現役時代相当恨みを買っていたようだな」

 

「…………」

 

「まぁ仕方ないがな。俺達の仕事はそういうものだ」

 

 男が話している間、ミーナさんは左足のソックスの中から小さな投げナイフを取り出して構えていた。男に気づかれないよう死角で。

 男と話していた内容といい、どうやらミーナさんはただの孤児院のシスターというわけではないようだ。その目は真剣そのもので、いつもの子供好きのお姉さんの姿はどこにもない。

 

「ふっ!」

 

 数秒か、数分か。

 男とミーナさんがじっと睨みあい、緊張状態の中雨の音だけが聞こえる時間が続いた。その静寂を破ったのはミーナさん。構えた投げナイフを男へ投げた。

 

 男はそれを冷静に見極め、手のナイフで弾いて防御した。しかし、その隙にミーナさんは男へと肉薄していた。弾かれて空中で踊る投げナイフをキャッチし、男の脇腹目掛けて振るう。

 だがその攻撃は男によって防がれた。ナイフを持っていない方の手で腕を受け止められ、投げナイフも叩き落された。武器を失ったミーナさんの胴に膝蹴りを入れ、よろめいたミーナさんの右肩にナイフを突き刺した。

 

「っ!! くっ……!」

 

 ミーナさんはそのまま俺の方へ倒れてくる。ナイフが突き刺さった右肩からは血がどくどくと流れ出ている。

 

「悪くない腕だが残念だったな。現役を退いたお前じゃ俺には勝てん」

 

「っ……!」

 

 ミーナさんが悔しそうに男を睨む。

 俺はここまでの二人の動きをただ呆けて見ていることしかできなかった。何とか状況を嚙み砕いて整理すると、男とミーナさんは元同僚でミーナさんはすでに引退した身。そしてその仕事はこの男のように家に忍び込んで特定の誰かを害する仕事……殺し屋といったところか。男が言っていた”恨みを買う仕事”というのもそういうことだろう。

 

「……さて、後はお前に止めを刺して任務完了なわけだが…」

 

 懐からもう一本ナイフを取り出した男は、そこまで話してちらりと俺を見た。口元がマスクで隠されているのでよく確認できないが、目元の動きからニヤリと笑っているような気がする。嫌な予感がして警戒心が警鐘を鳴らした。

 

「っ! まさかっ……!」

 

「目撃者は消しておかないとな」

 

 その予感は的中した。男は手負いのミーナさんから俺に狙いを切り替えたようだ。前世を含めて向けられたことのない明確な殺意に冷たい感覚が背筋を抜ける。

 

「待って!!」

 

 ミーナさんの声を無視した男は俺に肉薄してきた。さすがはプロの殺し屋。無駄のない動きで駆けてあっという間に俺との距離がゼロになった。

 

「悪く思うなよ…!」

 

 銀色の刃が振るわれる。それは俺のような幼子の命などいとも容易く奪い去る__

 

 

__はずだった。

 

 

「……?」

 

 ナイフが振るわれた瞬間、突然時間の流れが緩やかになったのだ。物理的にそうなったわけではなく、あくまで俺の感覚的な話だが。

 

 ナイフを振るう男の動き、俺の名前を叫ぶミーナさんの声、外で降る雨の水滴……。

 

 感覚が研ぎ澄まされて、俺以外のすべてのものがスローモーションに感じる。この感覚には身覚えがあった。

 前世の死の間際、あの憎きおっちゃんの赤い車が突っ込んできた時、今と同じように時間の流れがゆっくりになった。死を前にして身体中の神経が逆立ち、うっすらと走馬灯すら見え始めるこの感覚…。

 

あの時は突然のこと過ぎて硬直してしまい、何もできずに死んでしまったが二度目となると冷静に状況を俯瞰できる。

 落ち着いて身体をわずかに反らしてナイフをかわし、その側面に指を這わせた。

 

「”量子(クォンタム)”」

 

 その指からナイフへ魔力を挿入。ここ半年ですっかり慣れ親しんだ作業だ。ナイフの化学構造内部へ入り込んだ魔力で結合内部の電子を自由に放出してやる。

 

__…ボロッ

 

「なっ!?」

 

 金属原子同士の結合は、分子内を自由に移動する自由電子でつながっている。その電子を俺が解放したことで、ナイフの金属結合が崩れた。まるで乾いた泥だんごのようにボロボロと残骸が床に落ちる。さっきまで鋭利な刃物だったのが嘘みたいだ。

 

 驚いている男の隙をついてその懐に潜り込む。武道が染みついたこの身体が自然とそう動いた。

 今男は左足に体重をかけている。その左足の膝に手をついてまた魔力を流す。

 

「”量子(クォンタム)”」

 

「っ!?」

 

 男は急に左足に走った鋭い痛みに顔をゆがめてガクンと体勢を崩した。その際左足からバキバキッと嫌な音が響く。

 骨の主成分であるリン酸カルシウムの組成を崩してやったのだ。男の左足の骨はスポンジのようにボロボロ、とても体重を支えられない。

 

 その隙に男の後ろに回り込み、机の上にあった棒を手に取った。ミーナさん達が授業で黒板を指す時に使う指し棒だ。手頃な長さでかつ先は人を刺せるほど鋭い。

 

「っ!」

 

__ドスッ!

 

「があっ……!」

 

 躊躇なくそれを男の背中に突き刺した。指し棒は上手いこと貫通して男の胸から先が飛び出す。

 男はゴフッと血を吐いて、そのまま前のめりに倒れた。指し棒が男の身体から抜けてその際に血が噴き出し、俺の身体にかかる。

 

「ル…ルイ君……?」

 

 後方からかけられたミーナさんの声に、ふと現実に引き戻される。気づかない内に気分が高揚して身体がかなりの熱を持っていた。ふーっと息を吐いてそれらを逃がす。

 

 

 ……人を殺した。

 

 正当防衛とはいえ人間を一人、惨たらしくこの手にかけた。

 絶対にするはずがなかった非日常的な経験。けれど俺の心はひどく落ち着いていた。ひどく興奮することも狼狽することもなく、水面のように穏やかな気持ちだ。

 

 ルイの強烈な報復心と俺の理性が混じり合った結果だ。

 ルイからしてみれば蛇蝎のごとく嫌いな大人が、しかも明確な殺意を持って襲ってきたのだ。殺したくなるのも当然。俺自身も反撃しなければという意思があったため、ごく自然にこの男を殺した。

 男の殺害に成功して、強い達成感と快感を覚えるルイの報復心。それを俺の理性が飲まれまいと抑え込んだ。

 

 こんな感じで二つの心が複雑に作用した結果、人を殺したというのに俺は気持ち悪い程平常心を保っている。何も変わらない、いつも通りの俺だ。

 

 

 血まみれの指し棒をぽいっと投げ捨てて、ミーナさんのもとへ駆け寄る。

 

「ミーナさん、大丈夫ですか?」

 

「えっ? う、うん。大丈夫だよ…」

 

 俺のことを呆けた様子で見ていたミーナさんはしどろもどろに返事をする。

 

「…ルイ君は? その、大丈夫……?」

 

「はい、特にけがもありません。少し待っていてください、救急箱を持ってきますから」

 

「あ…待って……」

 

「すぐに戻ります」

 

 そう言って俺は職員室を出た。血まみれのパジャマを着た少年が孤児院の廊下を歩く。どう見ても普通ではない光景だが、俺はどこまでも普段通りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの夜から数日経った。

 男の死体は孤児院の皆に知られないようミーナさんが手慣れた様子で処理した。あれ以来ミーナさんが俺に対して若干びくびくというか、たどたどしくなったが表面上は変わらぬ生活を送った。

 

 

 そして今日、非常に唐突だが俺はこの孤児院を旅立つことになる。

 

 

 

「クシャナ、ルイ君をお願いしますね」

 

「ええ、もちろん。責任をもって」

 

 早朝のまだ誰も起きていない時間、俺は孤児院の玄関先でダークエルフの女性の横に立っていた。

 名前はクシャナさん。肩先程度の長さの銀髪に褐色の肌、笹の葉のような耳に青い瞳という絵に描いたようなダークエルフの女性だ。上は白のブラウスの上に黒い服を羽織り、下は太ももの三分の二程度を隠す黒のスカートを履いていてレディースのスーツの様な服装をしている。

 彼女はミーナさんの元の職場の仲間であり、俺を引き取ってくれることになった人だ。

 

「…じゃあルイ君。クシャナのところでしっかりね」

 

「はい、今までお世話になりました。他の皆にもよろしく伝えてください」

 

 ペコリと頭を下げてミーナさんに挨拶をして、クシャナさんと二人で孤児院を去る。

 朝焼けの、この世界に来てから約半年過ごしたストレインの街を歩く。あんまり孤児院から出なかったから見慣れたわけではないが、半年も過ごしたこの街を今日去るのかと思うと感慨深い。

 

「…ルイ少年、ミーナから話は聞いていますね?」

 

 二人ともしばらく黙ったまま歩いていると、クシャナさんが話しかけてきた。俺はクシャナさんの青い瞳を見て返事を返す。

 

「はい」

 

「…”殺し”の道は血生臭く、険しいものですが大丈夫ですか?」

 

 クシャナさんはミーナさんの職場の元仲間。つまりはそういうことだ。

 あの夜の出来事で、ミーナさんは俺に並々ならぬ殺しの才能を見出したらしい。殺意を前にしても的確に行動できる判断力、胆力、”量子(クォンタム)”という類まれなる魔力、そして何より人の命を奪っても一切動揺することのない精神力…。どれをとっても暗殺者として一級品だそうだ。

 ”量子(クォンタム)”の魔力はほぼゼロから工夫して鍛え上げたものだし、精神力のほうも複雑な事情が絡み合ったものだが、傍から見ていたミーナさんにはそう映ったらしい。

 

 ミーナさんが言うには、その一般人から逸脱した殺しの才能はいつか周囲とのすれ違いを起こし、俺自身を苦しめることになるという。だからこそこれからどんな生き方をするにしてもクシャナさんのもとで殺しの技術を学び、力の制御を身に付けるべきだというのだ。

 

 そういうわけでこれから俺はクシャナさんに暗殺者としての修業をつけてもらうことになった。

 殺しという今まで触れたことない、触れようともしてこなかった世界に飛び込むのは正直恐い。これでもたった半年前まで日本で法と秩序に従って生きてきたのだ。

 

「…はい、大丈夫です。自分で選んだ道ですから」

 

「……そうですか。私の訓練は厳しいですからね。しっかりついてきてください」

 

 

 だけど、あの時殺し屋の男と対峙してこの手で殺した瞬間、言い方があっているのか分からないがとても”充実”していた。自分の経験や知識、力をフルに使ってあの男を殺し、自分とミーナさんの命を守ったのだ。命を奪ったことにはまだゾクゾクとした恐怖を感じるけど、身が打ち震える程の達成感と快感があったのは事実だし、ミーナさんを守れたことに確かな誇りを感じていた。

 

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 もしかしたら俺が探し求めていた意義が、生きる道がここにあるのかもしれない。そう思ったからこそ俺は今回の話を受けて、クシャナさんといくことを決めたのだ。

 

 ここから先、どんな世界を生きることになるのか。少しの恐怖と、確かな期待が俺の心で渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。