仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ外伝 仮面ライダーツルギVS仮面ライダーシェリフ 作:大ちゃんネオ
青白い光の中に二人。
光の正体は部屋の中に置かれた無数の水槽達の照明によるもので、水の音が常に鳴り響き、怪しげな雰囲気を醸し出していた。
この部屋にいる者の一人は女で、ブロンドの髪を緩めにパーマをかけ、その性を見せつけているようなピンク色のドレスに身を包んでいた。
もう一人は男。スーツを着こなし、髪型も七三分けにしてきっちりとした印象を人に与える。
男はジュラルミンケースを抱えており、ケースの中身を女に見せていた。
中には10本の禍々しいUSBメモリのようなものが並んでおり、女はそれを怪しげな目で眺め、内心感じた不信感を口にした。
「こんなので本当に超人になれるの?」
「ええ、可能でございます」
男は自信しかないように女の問いに答えた。
逆にそれが女の不信感を高めたが、男は女を見透かしているかのように言葉の魔力で誘惑する。
「信じられないのも当然かもしれません。しかし、貴女はこんな眉唾物と罵られるようなものにすがるほど切羽詰まっているはず。これひとつで貴女の憂いを晴らすことが出来るのです。騙されたと思って、おひとついかがですか?」
女にはまだ引き返すことが出来た。
この悪魔の誘惑をその足で振り切ることが出来たのだ。
しかし、動いたのは足ではなく手であった。
ケースの中のUSBメモリを一本掴みとる。
メモリに記されたGというイニシャルが、優雅な長いヒレを持つ魚のようであった。
「
この世界に新たな怪物が生まれる。
こうしてまた、平和を蝕む悪が生まれていく……。
東京。日本の首都であり、たくさんの人が行き来するその場所で、一人の少年が立ち尽くしていた。
「どこなんだよこれ…。携帯の電波は全く通じねえし見たことのねえもんしかねえしわけがわからねえ…」
周囲を見渡してそう呟いた。
「最近変な事件多いよね」
「本当にな」
「ビルが溶けるだの連続誘拐事件だの物騒な世の中になったな」
見慣れないビル群や見たこともない薄い板状の何かを触りながら歩く人々に、僕は底知れぬ恐怖を感じていた。
脳がこの状況を理解することを拒否している。完全にパニックを起こしていた。
「何が……一体何がどうなってるってんだ!! ここはどこで今はいつなんだ!!」
その考えが僕の頭の中を支配し、周りの人間から浴びせられる奇怪な物を見るような目線を気にする余裕など、今の僕は持ち合わせていなかった。
どうしてこうなっているのか。それは数分前まで時を遡る必要がある。
「でぇい!!」
背中に棒のような物を携えた黒い仮面ライダー、シェリフが握りしめた拳を気合と共に虎のような姿をした異形、ドーパントに向かって叩きつけ、間髪入れずに右足を突き出してヤクザキックを喰らわせる。
ドーパントはグゥッ!!と呻きよろめいたがすぐさま立て直し、その手に持つ長く鋭い爪で引き裂こうとした。
「うおっと危ねぇ」
しかしそれを後ろにのけぞることでそれを回避し、追撃のために振り下ろされたその腕を掴むと乱雑に、力の限り投げ飛ばして街路樹の幹に直撃させる。
「ガッ…!!」
いくらドーパントになり体が頑丈になっているといえど、脳を揺さぶるほどの衝撃には耐えられないらしい。へなりと地面にへたり込み動かなくなった。
そして、それを見逃すほどシェリフは甘くなかった。
「これでトドメだ」
ドライバーのスロットからHという文字が立ち入り禁止テープに似たイニシャルで印字されたUSBメモリのようなもの━ガイアメモリを引き抜いて腰にあるスロットに差し込み、スイッチを押し、右手を握り締めて拳を構える。
《Hazard!!Maximum Drive!!》
あたりに響く音声。それは、ドーパントにとっては死神の声とほぼ同義で、意識を取り戻したドーパントはすぐさま立ち上がり、フラフラとよろめいて逃げようとシェリフに背を向ける。
シェリフは腰を落として体を捻り……。
「逃がすかッ!!」
そう叫んで力強く地面を蹴って飛翔し、ドーパントまでの距離を一瞬にして詰めた。伸ばした左手で振り向いたドーパントの頭を鷲掴みにするとそれを地面に叩きつけ、地面に這いつくばったそれに馬乗りになり、ドーパントの胸板に向かって黒い何かを纏う拳を振り上げた。
「トドメだ!!」
その言葉と共に振り下ろされた拳をかわすことは叶わなかった。シェリフの全体重を乗せたその攻撃を喰らい、ドーパントの周囲の地面が凹んだ。そしてサッとドーパントから離れたシェリフ。次の瞬間。
「グアアアア!!」
汚い咆哮と共にドーパントは爆発する。パキンという何かが砕け散る音がして、それはドーパントを撃破したことを意味していた。
「T……やっぱりメモリはタイガーだったか」
安直すぎるんだよ。飛び散ったメモリの破片を拾い、そう吐き捨てて握り潰す。目線の先にはぐったりとして横たわるドーパントの素体がいた。中年の男性。その男性にシェリフはゆっくりと歩み寄る。
「ヒィッ!」
そう悲鳴をあげて怯える男性に、シェリフはしゃがみ込んで男の頭を掴み、自分の顔にそれを近づけた。
「あんたがどういう経緯でドーパントになったのか知ったこっちゃないが、やっちゃいけねえことをやったって自覚はあるか?」
男性に静かに、優しく語りかけるシェリフ。しかし男性はその優しさの裏に隠れた殺意を感じた。下手なことを言えば殺されると頭の中で考え、首が取れそうになるほど縦にガクンガクンと振った。
シェリフはそれを見てそうか、と呟くと再び男性に問いかける。
「そうだ。あんたはやっちゃいけねえことをやったんだ。許されないことをしたんだ。反省するか?」
「わ、わかった。きちんと反省する!もう二度とガイアメモリは使わない!警察にも行く!だから……!」
手を離してくれ。その男性の願いを、シェリフは聞き入れなかった。ゆっくりと首筋に手を這わせ、恐怖を煽るようにしながら顔を一層近づける。
「ガイアメモリには強力な依存症状を発揮させる何かがある。今更そんなこと言ったって手遅れなんだよ。刑務所に行ったって無駄だ。どうにもならねえ。だから、あんたに残された道は一つしかない」
顔を掴んでいた手を離し、男性の首を掴んだ。両手で、ガッチリと。
極度の恐怖から呼吸を早める男性。シェリフは仮面の下で凶悪な笑みを浮かべると、はっきりと彼に言い放つ。
「俺にここで殺されること。あんたが取れる道はそれ以外にないんだよ!!」
そう言うと同時に力の限り男の首を絞めた。男は首を絞めるシェリフの手を引き剥がそうとしたがただの人間がライダーに敵うはずがない。どれだけ暴れても、どれだけもがいても、その手が緩むことはなかった。
次第に力が抜けていく。首にあてがった手から感じるはず男性の心臓の鼓動も聞こえなくなって、シェリフは彼が完全に死んだことを確信すると辺りを見渡して目撃者がいないことを確認し、近くを流れる大きな用水路に遺体を投げ捨てた。
そこからしばらく歩き、人気のない路地裏でドライバーからメモリを引き抜いて変身を解除した。
「はぁー疲れた疲れた」
そんなことを言ってポケットからカルパスを取り出し呑気にそれを齧る少年こそ、仮面ライダーシェリフその人。
名を黒神恵理也という。
「今回のは結構弱かったからいいけどこうも多いと流石に体に来るなぁ」
肩を動かしながら呟いた。これで今月ドーパントと戦ったのは五回目だろうか。六回目なような気がしなくもないが、とにかく多いのだ。酷い時だとドーパントと戦った翌日にドーパントと遭遇するなんてこともあるくらいだ。疲れない方が無理だという話で、しかしそれでも殺らなくちゃいけないから戦う必要がある。
「さっさとドーパントがいなくなりゃいいんだけど…っとなんだなんだ」
ズボンのポケットが音を立てて震え出す。僕はポケットに手を突っ込んで音の正体、ガラケーを取り出すと画面を見る。
「電話か。誰なんだろ。まあどうせ蒼なんだろうけど」
電話がかかってきている旨を示す画面と、相手の電話番号が表示されているそれを見てそう呟いて電話に出た。
この時、僕は気付くべきだったんだ。携帯の画面を見なかったのが運の尽き。電話番号が表示されてはいるがその番号が文字化けを起こしていることに。明らかに異常だということに。
「はいもしもし。……もしもし?おーい聞こえてます?」
出たのはいいものの、無音の電話に首を捻る。回線が悪いだけなのかもしれないけど、大体こういうのは決まってただの悪戯電話だ。そう思い電話を切ろうとした。しかし、携帯を耳から離そうとした瞬間、僕の耳は微かに誰かの声を捉え、すぐさま耳に携帯を当てる。
『たす━……!!……ダー!!━けて!!』
「聞き取れない……。なんて言ってるんですか?」
聞こえたのはいいが、途切れ途切れで雑音だらけの何を言っているのかわからない音声に思わず聞き返した。通じたとはいえ何を言っているのかわからないんじゃ意味がない。限界まで耳を澄ませる。
『助けて仮面ライダー!!』
「なんッ────!?」
はっきりと聞こえたその音声に驚愕して言葉を失った。今仮面ライダーとか言わなかったか?
聞き間違いじゃない。絶対にそう言った。なんなら今でも助けてライダーという言葉が聞こえてくる。だが何故俺がライダーだということを知っている?
今まで誰にも話したことがないはずなのに、何故?
そもそもなんで俺なんだ?
頭の中に様々な疑問が浮かんだ。が、それらは全て空の彼方まで飛んでいった。
「どこにいるんだ!? 教えてくれ!!」
普段は自分の復讐のために戦っているが、誰かの救いを求める手を払えるほど悪人にはなれなかった。焦りながら叫ぶ。もしドーパントに追い詰められているというのなら猶予はないはずだ。声からして恐らくは子供だ。どう考えても非常事態。助けるなと言われても動かざるを得ないだろう。
ヒーロー振りたいとかそんなんじゃなくて、一人の人間としてじっとしていられなかった。
「助けてあげるから場所を教えてくれ!! そこから動くなよ!!」
そう言った次の瞬間、俺はほんの一瞬気を失っていたらしいが、それに気付くことはできなかった。
『ツー……ツー……』
「あれ?」
途端に切れた電話。これはいよいよ持って電話の向こうの子の身が危険だ。早く助けに行かないといけない。そう思い路地裏から飛び出した僕の視界に広がったのは……。
「……え?」
慣れ親しんだ風都の景色ではなく、見慣れないビルが立ち並ぶ知らない場所だった。
喫茶Hamelnのカウンターではマスターである藤堂権兵衛が新聞を広げて眉をしかめていた。
「ビルが溶けたぁ? なんだか最近変な事件がちょくちょく起こるなぁ。章太郎も気を付けるんだぞ」
「それなら大丈夫だよ。ね、燐兄ちゃん?」
テーブルの拭き掃除をしていた章太郎がカウンター席でコーヒーを嗜しなんでいた御剣燐に声をかけた。
カップをソーサーの上に戻した燐は章太郎に顔を向けて、「それならもう大丈夫」と告げるが同時に忠告もした。
「けど、いつ何が出てくるか分からないから、とにかく気を付けるようにね」
「ああ、そうだぞ章太郎。とにかく変な世の中になったんだ。いくら燐君達が来てくれるようになったとはいえ、注意するに越したことはないぞ。連続誘拐事件なんてのも起こってるんだからな」
「はーい」
章太郎の間延びした返事が店内に弛緩した空気を生み出すが、昼のバラエティーを流していたテレビが臨時ニュースに切り替わると空気ががらりと変わる。緊張の糸が張り詰められた。
『臨時ニュースをお伝えします。新宿区歌舞伎町に怪人が現れたとのことです。警察が機動隊を出動させ────』
即座に燐が動き出す。
店の外に飛び出て、軒先に駐車していた愛車スラッシュサイクルに跨がり発進する。
「頑張ってねー!」
章太郎が燐の背中に向かって叫ぶ。
声援を背に、ライダーは加速していった。
「理解が追いつかない……」
走り始めてから数分後、新宿駅から少し離れた場所にあるベンチに座り込んで頭を抱えていた。
理由は単純明快。僕の置かれた状況だ。
「タイムスリップしてるならまあわか……いやそれだけでも意味わかんないけどなんだよ風都が存在してない架空の都市って……。しかも仮面ライダーがテレビ番組だって? もうわけわかんねえよ……」
そう。この世界、僕のいた2009年ではなく2020年で場所は東京。それだけなら辛うじて理解はできる。断じて納得はしたくないが。
しかし、訳のわからないことに仮面ライダーが特撮番組として娯楽になっているときた。俺の知る風都はその番組の中の架空の都市なのだという。まるで夢を見ているかのような状況に困惑し、しかし妙に冷静になっている自分もいることに内心驚く。
「唯一の救いはお金は変わらず使えること、か」
無一文じゃなくてよかった。本当に少ないが、食料だけなら何日分程度はなんとかなりそうだ。寝床は……家に帰ることが物理的に不可能である以上、もう野宿する覚悟を決めるしかない。それ以外にどうしようもないから仕方がない。どこかに宿を借りようにも、そうするには絶望的にお金が足りない。食料を確保できるだけありがたいと思った方が良いだろう。
「にしてもビルが溶けて倒れる、ねぇ」
立ち寄ったコンビニで見た新聞の一面を思い出す。風都でも似たようなことが…というか全く同じことが起きていたな。巻き込まれて犯人とも戦ったし、焼け死ぬかと思ってかなり焦ったな…。確か犯人は口封じか何かで殺害されたんだったか。なんともまあ可哀想な死に様だな、とラジオでそれを知って感じたのを覚えている。
「……普通に考えてビルが溶けるなんてことあり得ないよな」
顎に手を当てて考える。ビルを溶かすだなんてかなりの高温を……。それこそマグマのような熱さを持つ何かじゃないと不可能だろう。向こうでいうところの超常犯罪のそれに酷似している。
しかしドーパントやら何やらがいないとなると……。だけどそれ以外にそんなことが出来るとは思えない。本当にドーパントは……怪人は存在していないのか?
しかし風都以外で出没したなんて話は聞かないし、そもそも風都自体が存在していないのだからガイアメモリなんてものが生み出されるはずもない。
「この世界は一体どうなって……」
湧き上がった疑問は、直後に聞こえた一発の銃声にかき消された。
「銃声……?」
珍しいこともあるものだ。風都だと日常茶飯事……というほど頻繁に聞こえるわけではないがまあそれなりによく聞く。だが、それ以外の都市で銃声を聞いたなんて話は滅多に聞かない。まず間違いなく何かが起きているんだろう。
もし仮に怪人のような何かがいたとして、その時は変身して殺せばいいしただの犯罪者の集まりが暴れてるだけだったらゆっくりと離れればいい。うん、何も問題はない。
「行ってみるとしますか」
ベンチから立ち上がって銃声が聞こえた方向に走り出す。銃声の聞こえた方向からは逃げ惑う人がたくさん走っていて、つまりそれを逆行すれば恐らくは何かのいる場所に辿り着くことが出来るということだ。
人と人の間を縫うようにすり抜けながら走る。こうして逆行していればすぐに人波は少なくなるはず。あまりの人の多さに辟易しそうになるがもう少しの辛抱だ。
昼の都内は交通量も多く、人も多い。ましてや歌舞伎町、新宿ともなれば特に人が多い。更に怪人が現れて警察が動いているなら交通規制もされているだろう。
ならばと左手にデッキを持たせ、ミラーに映す。巻かれたベルトのバックルにデッキを装填すると同時に叫ぶ。
「変身!」
穢れなき白の鎧に身を包む。
仮面ライダーツルギ。
それが、戦士としての僕の名前。その名の通り、剣を用いて戦うのだ。
変身してしまえばこのスラッシュサイクルの性能を遺憾なく発揮出来ると更なる加速。
風を切り裂き、ビルのカーテンウォールへ一直線。
近くにいた人々はガラスを突き破って何者かがビルに突っ込んでしまう!
なんて、思っただろう。しかし、僕は
ガラスを割ることなく、ミラーワールドの中へ。
ミラーワールドには渋滞も交通規制もないのでトップスピードで現地へと急行することが出来るので移動はミラーワールドを使う。
特異な音の支配する世界に駆動音をかき鳴らし、走る────!
「ゆ、許せ……許してくれぇぇ!!!」
薄汚い歌舞伎町の路地で若い金髪の男が尻餅をついて怪物に命乞いをしていた。
その怪物は鮮やかな赤と白に彩られ、長い鰭を模した袖とスカートのような部位が怪物を着飾っているように見せている。
怪物の名は、ゴールドフィッシュドーパント。
「今更許せなんて……そんなこと出来るわけないでしょ!」
怪物は女の声で吼えた。
異形の腕が男に迫る。
そんな中、響いた銃声。ゴールドフィッシュドーパントの胸部に一発の銃弾が命中した。
機動隊の狙撃手による狙撃。だが、ゴールドフィッシュドーパントにはまるで効いていないようだった。
そして、一斉に集結する盾を装備した機動隊員達。男を庇うように立ちはだかり、これぞ好機と男は一目散に逃げ出した。
「私の邪魔をする奴は誰であろうと……殺す!」
盾を構え、数で迎え撃とうとする機動隊であったがドーパントに普通の人間が敵う道理はない。
腕の一振りで屈強な男達が吹き飛ぶ。
鍛え上げられた男達が、
道端に倒れ伏した機動隊員達。再び男を狙い、追いかけようとするゴールドフィッシュドーパント。
────その耳に何処からともなく響いたバイクのエンジン音を拾った。
……それは、ゴールドフィッシュドーパントの前に立ちはだかっていた。
どこかの鏡がちょうど日光を反射して、それの正体を隠している、分かるのはバイクに跨がっているということ。
それはバイクから降りると、コツン、コツンという足音と共に光の中から現れる。
それは、光と同じ白であった。
「お前は……なんだ!?」
あれも自分と同じ存在かと思ったがあれは違うと瞬時に察した。
あれほどの気高さを自分は備えていないと理解した。
あれは、自分にとっての敵だと。
そして、その純白の騎士ツルギは腰の剣を抜いたのだった。
一歩、足を動かす度に。
倒れている警察の人達が視線に入る。
自分が、もっと早く来ていればこんな目に合わずに済んだはずだ。
自身の罪が為す道を、生存者がいてほしいという祈りと怒りに燃える剣を携え進む。
その道の先にいる者は、自身が倒すべき悪である。
「お前は……なんだ!?」
答えない。
答えなど、必要ない。
あるのはただ、敵を切り裂くというただひとつ。
静かに抜き放つスラッシュバイザーの刀身が白刃という言葉の通りに光を照らし、怪人ドーパントに狙いを定めた。
「はぁぁぁ!!!!」
赤いドーパントが攻撃してくる。袖が舞い、まるで金魚のようだという感想が出てくるが雑念は捨て、ドーパントの腕を回避しながらすれ違いざまに腹部に一閃。
「ぐあっ!? こ、このぉ!!!」
ドーパントはまるで癇癪を起こした子供のように腕を振るい迫る。
このことから武器の類いはないと判断。
腕を剣で受け、そのまま流す刃で斬る、斬る、斬る。
「観念して変身を解いてください。あなたの負けです」
地に膝をついたドーパントに鋒を向け勧告する。
ドーパントはガイアメモリというアイテムにより人が変身した姿である。
人を守るために仮面ライダーとして戦っている僕にとって切り裂くべきはドーパント、ガイアメモリである。
ドーパントとなっても人は人。
僕が守るべき人なのだ。
「……つう……うああああ!!!!!」
ドーパントは最後の抵抗をしてみせようと乱暴に右腕を突き出した。
なんてことない攻撃と拳で受け止めようとしたが、それは止めろという危険信号に従い剣で受け止めると、その腕は刃と化していた。
「腕が剣に……!」
「これは……うらぁぁぁぁ!!!!」
突然の出来事にこのドーパントの認識を改めざるを得なかった。
本人も把握していなかった能力のようだが、水を得た魚の如く調子づき始めた。
ゴールドフィッシュドーパント。
金魚の記憶を内包したゴールドフィッシュメモリにより変身したドーパントである。
金魚は古来から人間により飼育されてきた魚であり、長い歴史の中で品種改良が繰り返され様々な姿形へと変化していった。それが反映されたのかゴールドフィッシュドーパントの能力は自身の肉体を最適化することであり、ツルギの剣戟によりその腕を剣に改良したのだった。
「そら! そら!」
凶刃が迫る。
勢いは向こうについた。……そう思うのは判断が甘い。
何故ならここは僕の距離であるからだ。
「甘い!」
刃を弾き、無防備に晒した身体に剣を叩き込む。
後退るドーパントに追撃しようと迫るが、ドーパントの左腕が変化するのに気付き、接近をやめて距離を取るがこの判断は誤りであった。
「食らいなさい!」
ドーパントの左腕は禍々しい金魚へと変貌し、金魚の口から高圧水流が放たれる。
まともに食らえば大ダメージは必死。回避に専念する。
「僕を近付けさせないように進化したのか……!」
不規則な動きでドーパントに接近しようとするが水流が道を阻む。ろくな狙いも定めず乱発する水流は逆に読めない。
これでは接近出来ないが……。
「なら、狙いをつけさせなければいい」
今度はただ直線を駆ける。
狙いをつける必要などないほど、ただの近付いてくる的である。
【SWORD VENT】
走りながらカードを切る。
愛刀である『リュウノタチ』を召喚。更にもう一枚カードを切る。
「死ねぇぇぇぇ!!!!」
ドーパントが水流を放つ。
【SWORD VENT】
それとほぼ同じタイミングでカードが読み込まれ……。
眼前に迫る鉄板すら貫くだろうという威力を持つ水流。だが、目の前に現れたもう一振りの剣が水流を防いだ。
大剣『ドラグバスターソード』である。
地面に突き刺さったそれに向かってなおも駆け跳躍。ドラグバスターソードを足場に更に跳び、リュウノタチによる一突きがドーパントの胸を穿った。
「ガッ……!?」
再び地に膝をついたドーパントに太刀を向ける。
なんとか説得するしか、この怪人を倒すことは出来ないのだ。
「早く変身を解除してください。ガイアメモリは長時間使用すると悪影響があります。だから……早く」
「……ふざけないで、私の復讐はまだ終わってないの!!!」
二度目の説得にも応じないドーパントが襲いかかる。
このままでは、ドーパントとなってしまった女性がまずい……!
数分ほど走り、僕は路地裏に身を隠して様子を伺う。警察車両が五台くらい止まっていて、目を凝らすと何人か警官が倒れているのが見える。断続的に金属音が響いていることから察するに、何者かが怪人を食い止めているんだろう。これだけの人的被害で済んでいるのなら大したものだ。
少し近づいてパトカーの影に体を伏せ、何が戦っているのか見る。
「金魚っぽいドーパントと……あれはなんだ……?」
もう一人は一体なんだと首を捻る。この世界では怪人と呼ばれるのであろうそれがドーパントであることはすぐにわかったが、白い騎士のような格好をした奴は何者なんだろうか。
「あの白いのも仮面ライダー……なのか?」
彼を観察してそう呟いた。確かに風都の都市伝説に照らし合わせると、化け物から市民を守る彼は立派な仮面ライダーだ。そこに間違いはないと思うし、俺より遥かに真っ当にライダーをやっているんだろう。しかし、ベルトのどこにもガイアメモリを差し込めそうな場所は見当たらない。もし彼が仮面ライダーだというのなら一体どうやって変身しているのだろうか。
バックルにある箱状の物からカードを引き抜いて武器を召喚しているのを見るに、まず間違いなく僕の知っているライダーシステムはとは別種のものを使っているのだろう。そうなると……。
「早く変身を解除してください。ガイアメモリは長時間使用すると悪影響があります。だから……早く」
「やっぱりメモリブレイクは出来ないのか」
そこでメモリブレイクできるだろうというタイミングで、しかしそうしようとはせず投降を促しているのを見てそう呟いた。
メモリブレイクをできるのはドーパントと同じくガイアメモリを使って変身する仮面ライダーだけであり、彼はメモリを使って変身する僕とは違うシステムで変身しているが故にメモリブレイクができず、故に自主的に変身を解除してもらいメモリを回収する、と。
そうすることしか出来ないがために、相手が折れないこの状況をひっくり返す決め手に欠けていると。恐らくはそういうことだろう。
そして白い仮面ライダーの説得は失敗に終わり、ドーパントが再び暴れ始める。
大体状況はわかった。
「つまり殺すべき敵がそこにいるってわけだ」
そう言いながら懐からドライバーを取り出して腰に当てた。自動で腰に巻き付くそれを手で軽く叩いて、もう一度懐に手を突っ込んで一本のUSBメモリのようなものを取り出す。
これこそがガイアメモリだ。使用する者を怪物にも仮面ライダーにも変えるもの。大きくHと印字されたそれのスイッチを押す。
《Hazard!!》
周囲に音声が響く。その音が聞こえたのか、新手!?と驚愕している声が聞こえてきた。
「変身」
静かに言ってスロットを横に倒した。
《Hazard!!》
再び音声が周囲に響き、続いて警告音のような音が響き渡ると共に黒い装甲が俺の体を覆っていく。
俺の体が全て覆われたことを確認し、手のひらを握ったり開いたりしてその感覚で頭が切り替わる。
「あなたは……」
「おい、白いの。メモリブレイク出来ないんならそこに倒れてる警官を避難させろ。地面に転がってて邪魔なだけだ」
警察車両の影から体を出して白いのにそう言って、背中に装備されている棒を引き抜いて、鎌へと変化したそれを構えるのだった。