仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ外伝 仮面ライダーツルギVS仮面ライダーシェリフ   作:大ちゃんネオ

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散るものと残るもの

 喫茶Hamelnに急いで戻った燐を待っていたのは権兵衛であった。

 眠っていなかったのか、目の下に隈が出来ており憔悴しきった様子でいたが燐に気付くとすがるように燐に迫った。

 

「章太郎があれから戻ってきていないんだ!」 

「すいません……。僕が自分の世界に戻ってしまったばっかりに……」

「なんで戻ったりなんかしたッ!!!」

 

 燐の胸ぐらを掴みあげた権兵衛。

 燐は権兵衛を直視出来ず殴られても仕方ないと、そう思った。

 

『燐くんは~自分の世界に危機が迫っていたから戻ったんですよ~。それを責めるのは筋が違うと思いますよ~』

 

 二人だけのはずの店内に響いた少女の声は鏡の中から響いていた。

 鏡の中の少女アリスが、どこか退屈そうにしながら呟いていた。

 

『どうです? もしも自分の世界がヤバいって時に自分は他の世界にいたら。戻りますよねー? 自分の世界の方が大事ですもんねー』

 

 アリスの言葉を聞いた権兵衛は燐から手を離した。

 大切な家族が誘拐されたのだ、冷静でいられるはずもない。

 力なくカウンター席に座り込んだ権兵衛は項垂れ、頭を抱えた。

 

「……もしも章太郎の身になにかあったら、俺は兄貴達に顔向け出来ねえよ……」

「……敵は、僕と取り引きすると言っています。僕が行けば、章太郎くんや他に捕らえられた人達を解放すると……。だから、行きます」

 

『そんな……馬鹿なんですか燐くんは! 罠に決まってます!』

 

 鏡の中からアリスが声を荒げる。

 誰が聞いても罠だと断ずるだろう。

 そして、誰だって止めるだろう。

 それでも、御剣燐という男に止まる理由はなく、赴く理由があった。

 

「罠だとしても、全部斬って、章太郎くんや捕まってる人達みんなを助けるよ。仮面ライダー、だからさ」

 

 静かに、アリスに向かって微笑む燐。

 その笑みを見て、アリスは我慢の限界だと溜まりに溜まっていた感情を爆発させた。

 

『なんでですか! 燐くん、あなたにはあなたの世界があるんです! この世界をわざわざ燐くんが守る必要なんてないんです! もしあなたが死んでしまったら……』

 

「アリス……」

 

 燐はまっすぐとアリスを見つめ返す。

 その瞳に強い意志を宿して。

 

「確かにここは僕の世界じゃないけど……それでも今は、ここにいる。章太郎くんって友達もいるし、ムゲンさんと一度守った世界だからさ、戦う理由はたくさんだよ。それに、死ぬつもりもないしね。……いってくる」

 

 独り、戦いに赴く。

 ドアに備わる鐘が寂しく響く。

 天気はぐずつき始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかの路地裏に座り込み、身体がようやくしっかりと言うことを聞けるようになったので近くに放置されていた瓶カゴを蹴り飛ばす。

 だが、こんなものでは腹の虫が治まらない。

 

「御剣……!」

 

 こんなにも俺を苛つかせる奴は初めてではないだろうか。

 人の邪魔ばかりする奴は、ドーパントのことをちっとも理解しちゃいない。

 そんな奴が……!

 頬に一粒、水滴、雨粒。

 それを皮切りに、しとしとと雨が降り注ぐ。

 

「恵理也さん……」

 

 下駄の音と共に現れたカンナさんが俺に傘を差す。

 すると、どうだろう。

 ざわついていた心が落ち着いていく。

 

「カンナさん……」

「ツルギに、勝てなかったのですね……」

「ッ……。はい……」

 

 そう、勝てなかった。

 勝てなかったのだ、僕は。

 ……なぜ勝てなかった。

 

 ────なぜ勝とうとした。

 

「ぐ……」

 

 ノイズが走る。

 いや、雑音と処理していいものなのか……?

 

「ついて来てください……」

 

 差し出された百合のような手。

 触れたら手折ってしまわないだろうかと不安になるような手を取り────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨脚は時間と共に強まり、暗くなる頃にはざあざあという音を立てるほど。

 カンナさんに連れられて来たのはどこかの山奥にある廃墟と化したホテルだった。

 

「かつて、この国が好景気だった時に乱造されたリゾートホテルのひとつですよ。時代を感じますねぇ」

 

 ロビーの闇の中から現れた男は当然だが知らない顔だ。

 若くもなく、老いてるというわけでもないような男でデコを見せつけるような髪をしていた。

 

「カンナさん、この人は……」

「彼もまた、ドーパントを憎む者……。私達の仲間です……」

「仲間……」

「滝藤修一といいます。よろしく、黒神恵理也くん」

「え、ええ……」

 

 会釈し、微笑んだ男にどこか怪しさを感じたがそれは気のせい。

 彼は、新しい、仲間……。

 

「彼も、貴方と同じようにこの世界へ招かれたライダーなのです……」

「ええ、そうなんです恵理也くん。まさか、私と同じような者がいるとは思わなかった。嬉しいよ」

「貴方も、ガイアメモリのある世界から……?」

「ええ。大事な妻と娘をドーパントに殺され、ライダーになりドーパントを殺すことを誓いました。ほら、こいつが私の相棒です」

 

 紹介しますと言って、滝藤さんの周りを飛ぶ……というより泳ぎ回っている。

 

「ライブモード搭載型のガイアメモリです。自律行動が出来るので、なにかと便利なんですよ」

「すげぇ……」

「今夜、ここに私の家族を殺したドーパントが現れます……」

 

 その言葉に、心臓が跳ねた。

 カンナさんの、仇……!

 

「ここに、来るんですか」

「ええ、誘き出すことに成功しました……。なので、どうかお願いいたします……。滝藤さん、恵理也さん……」

 

 頼られた、カンナさんに。

 カンナさんの仇を、俺が……俺が、討つ!

 

「はい……!」

「恵理也くん。彼女の仇を討つために君の力を向上させたい。……これを」

 

 滝藤さんが手渡してきたのは、無骨な銀色のベルトと禍々しい……いや、見間違いか……。一本のメモリ。Hの文字。これは、ハザードメモリ……。

 

「次世代型ドライバー、ガイアドライバーとそれに対応するメモリ。当然、君に合わせてハザードメモリにしてある。君なら使いこなせるはずだ」

 

 次世代型ドライバー……。

 これなら、もっと、もっとドーパントを殺せる……!

 

「ありがとうございます!」

「ああ、その力でドーパント共を倒していこう」

「はい!」

 

 嬉しかった。

 こんな、仲間がいることが。

 嬉しかった。

 自分と同じ志を持つ人がいたことが。

 

「恵理也さん……。ドーパントが来るまで、まだ時間があります……。こちらで、休んでいてください……」 

 

 カンナさんに案内され、廃墟ホテルを一室を借りる。

 廃墟のわりには綺麗で、このベッドなんかは普通に寝ても問題なさそうだ。

 

「恵理也さん……」

「なんです……っ!?」

 

 唇に当てられる柔らかいもの。

 カンナさんの顔が近い。近すぎる……!

 

 永遠のように感じた時間はほんの数秒ほどだった。

 離れていく感触に、寂しさを覚える。

 

「必ず殺してくださいね……」

「は、はい……」

 

 そうだ、カンナさんのために殺すのだ。

 殺す、殺す、殺す。

 殺、す……。

 あれ……。

 なん、だっけ。

 なにを、ころすんだっけ。

 ああ、いや……。

 べつにおれがかんがえることではない……。

 おれはただ、ころす。

 ころす、ころす、ころす、ころす、ころす。

 おれはただ、ころしつくすだけ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眠りについた恵理也を後にして、カンナは滝藤のもとへ。

 滝藤の部屋には四人の年齢様々な男女が待機していた。

 

「ゴールドフィッシュでもっと戦闘データを集めたかったのですが……。おかげで、彼等を使う羽目になりました」

「いいわ。使えるものは、なんでも使って」

「そう、ですね。あのライダーのガキも使って、ね」

「……そろそろ時間です。あとは、任せました……」

「了解」

 

 時刻は23時30分。

 御剣燐がやって来るまで、あと30分……。

 

 

 

 

 

 

 降りしきる雨の中、山奥の廃墟となったリゾートホテル。

 人々に捨てられ、忘れ去られ、置き去りにされて20年は優に過ぎた。

 そんな場所へ一人、臆することなく堂々と立ち入るは御剣燐。

 朽ち果てたロビーの中央に立ち、闇の中へと声を発した。

 

「約束通り来た! 章太郎くん達を返してもらうぞ!」

 

 闇へと消えていく燐の声。

 それに対する返答は、声は声でも銃声。

 闇の中から迫る一発の銃弾。

 燐の眉間を貫こうとしたそれを、スラッシュバイザーが切り裂く。

 

「やはり、約束を守るつもりなんてないか……」

 

『流石だよ御剣燐。噂に違わぬ剣の腕だ』

 

 闇の向こう側から響く声。

 アクアリウムドーパントの男のものと気付いた燐はスラッシュバイザーを構え直す。

 

『すまないね、約束を守ってくれたのに。私も約束通り人質を返してやりたいところなんだが……。ま、約束を守るような人間ではないよ、私は』

 

 二発目の銃声。

 スラッシュバイザーを盾にして、燐はこれを弾く。

 

『返してもらいたければ、私を倒すことだ。だが、メモリブレイクの出来ない君にそれが出来るかな?』

 

 三発目。

 斬り捨て、声の響く闇の中へ。

 暗い通路を通り抜けるとホールが広がり、吹き抜けた二階から銃撃。

 

「ッ!?」

 

 これまでのような真正面から一発ずつではない。

 四方から浴びせかけられる銃弾の雨。

 ホールの中を駆け抜け、避けられぬものはスラッシュバイザーで弾いていく。

 銃弾も普通のものではない。

 スラッシュバイザーの刃を濡らす水滴。

 さっきまではついていなかった。

 この銃撃を切り抜けた時についたもの。

 

 燐が刃を見ている間に柵を飛び越え降り立つ四体のゴールドフィッシュドーパント。

 右腕が金魚を模しており、その口から水の弾丸を発射していた。

 ゴールドフィッシュドーパントは連携の取れた隙のない動作で燐へと迫る。

 その様に燐は気圧される。

 これまでのドーパント達とは何かが違う。

 あたかも、訓練された兵士のような動き。

 

『金魚は平安時代に中国から日本に持ち込まれた人との関わりがもっとも古い観賞魚のひとつだ』

 

 銃声騒ぐホールに響く男の高説をわざわざ聞くことはしない。

 燐は目の前の脅威に対処するのに精一杯であった。

 

(変身させてくれない……!)

 

 異様なほどの統率の取れた連携が燐がツルギへと変身することを許さない。

 

『人間は金魚を品種改良していき、多くの品種が生まれた。ゴールドフィッシュドーパントはその品種改良が容易いという点に優れていてね。君との戦闘により改良されたゴールドフィッシュは君を倒すことに特化している』

 

 それは流石に聞き捨てならなかった。

 歌舞伎町で戦ったゴールドフィッシュドーパントはこのためのものだったのかと。

 

「なに……!」

 

『もっと戦闘データが欲しかったところだったが、今日の女は戦ってはくれなかったからな。おかげでまた()()()()()()()()()()()()に頼ることになった』

 

「別の、技術……?」

 

 整列したゴールドフィッシュドーパント達が人の姿に戻る。

 20代から40代までの男女二人ずつ。

 精悍な顔立ちから、彼等が訓練された兵士であると見受けられる。

 

 そのうちの一番若く見える女が燐に向かって駆け出し、蹴りを見舞う。生身の人に剣は向けられないと蹴りを手で払いのけ、続く顔面を狙った拳を受ける。

 女と触れた燐はその感触に目を見開く。

 

「冷たい……!?」

 

 いやに、冷たい。

 女からは人肌の温もり、体温といったものを一切感じられなかった。

 

『驚いたかい? 彼等はNEVER。死体を利用した不死身の兵士達さ!』

 

「死体を!? ぐっ!」

 

 腹部を蹴り飛ばされた燐はバーカウンターの上に転がる。

 そこへ即座に撃ち込まれる銃弾達。

 ゴールドフィッシュドーパントへと戻った兵士達による一斉射。

 燐は間一髪カウンターの上で身を転がして床へ落ちることでそれを回避するも銃撃は止まない。

 古い、置き去りにされた酒瓶達が割られて破片達が飛び散る。

 硝煙と埃が舞い、目視出来なくなった頃に射撃は止む。

 

「やったか?」

 

 ゴールドフィッシュドーパントの一人が呟く。

 あれだけ撃ち込めば御剣燐は蜂の巣だろうと。

 リーダー格のゴールドフィッシュが指示を出し、二人が少しずつバーカウンターの方へ近付いていく。

 煙も少しずつ晴れていく……。

 

「ッ!?」

 

 気付く。

 煙の中にいる者を。

 煙の中に立つ者を。

 煙の中で煌めく緑の鋭い視線を─────。

 

【SWORD VENT】

 

 天より舞い降りる一太刀が煙を切り裂き、白き剣士ツルギの姿を顕とさせる。

 ツルギの登場に驚くゴールドフィッシュ達をよそに太刀を手にしたツルギは一瞬で近付いてきていたゴールドフィッシュドーパントへ距離を詰め、反応不可能な速度の突きを繰り出す。

 

「撃て! 撃てぇ!」

 

 降りだす弾丸の雨を切り裂き、ツルギの斬撃は見舞われる。

 四体のドーパントを相手にツルギは圧倒していく、上回っていく。

 宵に青い光を纏う白き鎧と剣に穢れはなく、無垢なる剣が悪を切り裂く────。

 

「流石、目をつけられただけはある……。次の段階だ」

 

 二階から戦いを見下ろす滝藤がそう呟くとゴールドフィッシュドーパント達がツルギに背を向け走り出す。

 ツルギはドーパント達を追いかけ続く。

 暗い通路の中、銃撃を切り払いながら進み辿り着いた先に待っていたものは……。

 

「ッ……」

 

 闇の中、靴音響かせ近づく者がいる。

 ツルギは太刀を構え直し、備える。だが、闇の中から現れた人物にその構えは緩む。

 

「恵理也さん……?」

「……ドーパントは、殺す……」

 

《Hazard》 

 

 ガイアメモリを起動させる恵理也。

 そのメモリは禍々しく、その名を告げた。

 恵理也の腰に巻き付けられた銀色の無骨なベルトにメモリが挿入され、変貌する。

 それは、歪んだ仮面ライダーシェリフのようだった。

 ドロドロと溶けたかのような質感の黒い身体に血溜まりのような真っ赤な瞳。

 

 ハザードドーパント。

 

 それが、今の黒神恵理也であった。

 

「うあぁぁぁ!!!!! 殺すッ!!!」

 

 ツルギへと襲いかかるハザードドーパント。

 燐は反応が遅れ、胸部を殴りつけられ火花を散らす。

 吹き飛ぶツルギを逃さぬとハザードドーパントの猛攻は続く。 

 追撃。

 拳をツルギに打ちつけていく。

 

「恵理也さん……! どうして! どうしてですか!? ドーパントを誰よりも憎んでいた貴方が!」

「うるせぇ!!!! ドーパントは俺が殺し尽くすッ!!!」

 

 今の恵理也には、ツルギがドーパントとして映っていた。

 そして、己は強化されたシェリフなのだと。

 燐の声は届かず、恵理也の暴走は止まらない。

 

『御剣燐。君が人との戦いを忌避していることは知っている。君は人を守る者である。だからこそ、人とは戦えない。君の世界のライダーとも、ドーパントとも。守るべき人である以上、君の剣は鈍る』

 

 滝藤の声が響く。

 更に、ゴールドフィッシュドーパント達も現れ銃撃が始まる。

 ツルギはその猛攻に劣勢となっていく。

 

『御剣燐。全ては君を始末するための罠だったのだ。ドーパントという人が変貌する怪人をこの世界に放ち、君に対処させ、君の世界を魔人教団に襲撃させ、君を疲弊させていく』

 

「罠……だと……!」

 

『我々の脅威となりうる仮面ライダー。まず我々を嗅ぎ回っていた君から始末して、他のライダー達への見せしめとしよう。惨たらしく、守るべき人の手により君は殺される! 仮面ライダーツルギ! ここでお前を手折る!』

 

《AQUARIUM》

 

 滝藤はアクアリウムドーパントへと変身し、エネルギーを溜めていく。

 自身の最大火力を放つために。

 

「くっ……」

 

 ハザードドーパントの攻撃とゴールドフィッシュドーパントの銃撃を浴びるツルギ。

 なんとか掻い潜り、奴の語ったとおりのシナリオにならないよう頭を回していく。

 そして、あることに気付く。

 

 ゴールドフィッシュの銃撃は恵理也にも当たっている。

 味方関係なしなのか、ドーパントだから平気なのでそうしているのか。

 ……いや、違う。

 最大の狙いは自分なのだろう。しかし、黒神恵理也もまた仮面ライダーである。

 仮面ライダーを始末するという目的なのであれば、黒神恵理也を利用した果てに殺すつもりなのだろう……!

 

「恵理也さん! 目を覚まして! あなたは敵に利用されているんだ!」

「黙れ! 敵はお前だッ!」

 

 燐の言葉は届かない。

 返答の拳がツルギの顔面を捉える。

 よろけるツルギの全身に弾丸が浴びせられ、足元がふらつく。

 だが、ツルギは立ってみせた。

 諦めてはならない。

 黒神恵理也を救うために。

 

「ドーパントは、殺す! 殺すッ!」

 

 ハザードドーパントの拳が迫る。

 

「────この、馬鹿野郎ッ!!!」

 

 ハザードドーパントの拳に合わせ、燐の言葉と共に放たれた右ストレート、クロスカウンター。

 負けたのはハザードドーパント。

 初めて倒れ、ツルギを睨み付ける。

 

「恵理也さん……貴方は、仮面ライダーだろッ!!!」

「ッ!?」

 

 恵理也の胸を、何かが打った。

 ぼやける視界。

 目の前にいるドーパントが仮面ライダーツルギへと変わっていき、自身の手が仮面ライダーではなくドーパントのものに見える。

 

「は……? なんだ、これ……」

 

 その現実に混乱する。

 自分は一体、なにをしていた────。

 

『恵理也さん』

 

 頭痛と共に響くカンナの声。

 

『必ず、殺してくださいね────』

 

「う、うあぁぁぁ!!!!!」

 

 狂い、再びツルギに向かうハザードドーパント。

 放つ拳は受け止められ、今度は眼前でツルギの、燐の言葉が叫ばれる。

 

「恵理也さん! 貴方はドーパントを憎み、ドーパントを殺してきたんですよね。貴方の行いを僕は認められない。けど、貴方の行いが誰かを救ってきたはず! 貴方は仮面ライダーシェリフ! ドーパントではない! 僕の、僕達仮面ライダーの仲間だ!」

 

 命中する弾丸の痛みなど無視して、銃声をかき消すほどの声量で思いを叫ぶ。

 その思いは、恵理也の中に響くカンナの声を打ち消す。

 

「俺、は……」

 

 正気を取り戻した恵理也に安堵する燐であったが、アクアリウムドーパントが既に最終の発射態勢に入ったことに気付いた。

 

「諸共死ね、仮面ライダー」

「ッ!!!」

 

 恵理也に囁き、ハザードドーパントを投げ飛ばすツルギ。

 それと同時に、ツルギはアクアリウムドーパントの放った超高圧水流に貫かれたのを恵理也は見た。

 そのまま壁を砕き、嵐の中に放り出されたハザードドーパントは地面に叩きつけられ恵理也の姿へと戻り雨に打たれる。

 

「みつ、るぎ……」

 

 泥を這い、手を延ばす。

 

「俺の、せいだ……! 俺が、御剣を殺した……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツルギの鎧は砕け散り、生身を晒す。

 腹部に空いた風穴からは大量の血が流れ出て、血溜まりの中に御剣燐は倒れた。

 仮面ライダーツルギは、手折られた。

 

「死んでいる、な」

 

 御剣燐の死を確かめる滝藤。

 確実に始末したと、確信する。

 

「ようし、それじゃ、あの坊やも始末するぞ。まだ遠くには逃げてないはずだ」

「────それには、及びません……」

 

 黒い闇の中からぼうと現れる白い女、カンナが滝藤に言いつける。

 

「彼は私の術中。やがて、精神は凍りつき廃人になる……。わざわざ、手にかける必要はありません……」

「……そう、ですね。では、次の段階へ?」

「ええ……。この世界に、ガイアメモリ製造のための施設を作り、満たしましょう……。この世を、悪意で……」

 

 闇の中へと消えていくカンナ達。

 血溜まりに倒れる御剣燐は置き去りにして。

 

 

 

 

 

 

『燐くん? どこですか、燐くん?』

 

 ホテルの鏡の中を歩き回るアリス。

 嫌な予感がすると、燐の後を追ってはきたがホテルは静寂の中。

 しかし、戦闘による破壊の後はある。

 ここで戦いがあったことは明白。

 戦いはもう終わったのか、それとも場所を移したのか。

 

『燐、くん────?』

 

 アリスは見つけてしまった。

 御剣燐を。

 御剣燐の遺体を。

 

『燐くん!? 燐くん! 起きてください燐くん!』

 

 アリスは呼び掛ける。

 返事はない。 

 それでも、呼び続けて自身の契約モンスターへと命じた。

 

『燐くんを、こちらへ』

 

 アリスの影から伸びる荊の蔦が燐を包み、ミラーワールドへと連れ込む。

 そして、アリスの生み出す黒い空間が二人を覆う。

 ミラーワールドとも違う、アリスの世界。

 ミラーワールドと違い、生身の燐が消滅することもない。

 

『燐、くん……』

 

 燐の遺体を抱き、対面する。

 その冷たさと、手をべたりと濡らす血が御剣燐の死を現実と思い知らせてくる。

 

 ……御剣燐の死と向き合うのは彼女にとって二度目のことであった。

 

『大丈夫よ……。私はあの時の私じゃない……』

 

 自身に言い聞かせるアリスは一枚のカードを取り出す。

 時計が描かれた、タイムベントのカード。

 そして、ツルギのデッキを燐の手に持たせ発動する。

 

『永劫回帰────』

 

 燐の傷が癒えていく。

 死因となった腹部の傷以外にも御剣燐の戦いはこれまでの戦いによって傷だらけとなったいた。

 それらも全て、癒えていく……。

 

『死なせません……。燐くんは……』

 

 全ての傷は消える。

 永劫回帰。アリスのタイムベントはアリスの想いが具現化した能力を持っていた。

 

『燐くん。起きてください。燐くん』

 

 呼びかける。

 涙を堪えて。

 だが……御剣燐は目覚めない。

 生を感じさせない。

 

『そん、な……。どうして! 傷は完全に癒えたんです! 起きてください燐くん! 燐くん! 燐、くん……』

 

 力なく、頭を垂れる。

 感じてしまった、分かってしまった。

 そして、受け入れてしまった。

 御剣燐の死を。

 

『燐、くん……』

 

 茫然自失。

 アリスはただただ流れる涙で御剣燐の頬を濡らし、静かにその遺体を抱きしめ続けた────。

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