ココロネ・リンカーネイション   作:rippsan

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姿を現す謎の巨大ガードボット。
リッジの持ち帰る情報を手がかりに、二人は脅威を克服することが出来るのだろうか。


反々牙剥

 

 黒いシェルターの中は至って自然な様子で、空間が異様に広いと言う違和感だけがどことない居心地の悪さを抱かせる。創作の世界にありがちな怪物実験を行う研究室と言ったところだろうか。リッジさんはこのシェルターも自作したと言っていたが、これほど大きく作る必要はあるのだろうか。

 

「いちいち歩くのも疲れちゃうなぁ。リッジのやつ、普通の部屋と同じくらいにしてくれたら良いのに」

「....」

「結衣?」

「....」

「結衣!」

「ひあっ!?な、何でしょうか」

 

 突然掛けられた西園寺さんの声に上ずった素っ頓狂な声が上がる。恥ずかしさに身体が熱くなるが、西園寺さんは憂うように私を見ている。

  

「大丈夫?何か考え事でもしてた?」

「え、あ....その」

「chevalierの事。やっぱり怖かった?」

「....」

「アタシに出来る事はある?」

「それは....」

「敵の情報だけでも教えてよ。一緒に考えられる事があるかもしれないからさ」

「分かりました」

 

 不確かな情報を無闇に教えることは気は進まないが、私を助けようとしてくれている西園寺さんの言葉に偽りはなく、その思いを無碍にしてしまう方が悪いように思える。

 

「リッジさんにお話したことと変わりませんけど、他のガードボットよりも大きかったです。それに力も桁違いで、防火扉をあっという間に壊してしまいました」

「他のガードボットより強いってことだよね。まあ、わざわざ立派な名前が付いてるんだし特別なやつだってのは予想付くけどさ」

 

 時間にして数十秒。一分にも満たないほんの僅かな体験でも、その衝撃は私の記憶に焼き付くには充分だった。身体を屈め、丸めた半身から放たれる深紅の光。それまでのガードボットが直立していた廊下を窮屈そうにあのガードボットは動いていた。踊場に追い掛けてきた来た時にも、体当たりだけで閉じた防火扉を撥ね飛ばして私の前に現れた。伸ばされた背丈から見下ろされた時の恐怖は忘れられない。他にも幾つか感じた事はあったが、思い出すほど背筋を凍らせる恐怖心に言葉の歯切れは悪くなる。

 

「装甲の間を縫って攻撃は出来ないかな。騎士の鎧は堅くて攻撃を通さないけど、鎧の継ぎ目にある隙間を攻撃すればダメージを与えられる。chevalierなんて騎士を名乗ってるなら案外弱点もそれになぞらえられてるかもしれないよ」

「装甲の間を....凄く危険な方法じゃないでしょうか」

「....無理はあるよね。うん。アタシも思った」

「だな。無謀も無謀。言うだけなら良いが、いざやるとなれば話は別だ」

 

 向かい合わせに座っていた私と西園寺さんとの間に白い影が浮き上がり、ヘラヘラとした声が床から聞こえる。

 

「ひっ!」

「何!?誰!」

「おいおいビビる事無いだろう。俺達だよ俺達」

 

 床に視線を落とすと、片面印刷のコピー用紙が海藻のように揺れ動いている。

 

「り....リッジさん。ですか?」

「そうそう。情報収集から帰った所だ」

「もう。何かの嫌がらせなわけ?驚かすにしてももうちょっと普通に出来ないの?」

「ふぅむ?普通とは言ってもなぁ」

 

 用紙が私の前に広げられ、後ろの床からリッジさんが崖を這い上がる人間のように現れる。

 

「chevalierに関する情報を見付けたぜ。あの納品書にデータが隠されていたようだが、解除法が見付からない以上はどうしようもない。セキュリティの雑な記録からどうにか見つけただけの情報だ」

「それ、大丈夫なんだよね」

「心配はいらない。一先ず弱点は見付かったから、必殺の一撃を喰らわせてやればやれるはずだ」

「へえ。で、その弱点って言うのは?」

「ここだ」

 

 用紙の前に胡座をかいたリッジさんが、(もや)がかった丸い指で紙面の幾つかの部分を円形になぞって示す。それが持ってきたのは、chevalierに関する情報が纏められた資料のようだ。漂う靄に阻まれるそれに目を凝らして見れば、chevalierを構成するパーツや、ガードボットが武装ユニットと呼んでいた武器についての記述があった。

 

「まず、あのガードボットが俺達へ仕掛けたのは電波妨害だ。監視カメラの通信を遮断してお前達へのサポートを邪魔しようとしていたようだ。調べてみて分かったが、あれはパルスウェーブ。それも超高出力のクラッキング効果付きのな」

「クラッキング....だからカメラが壊れたって事?」

「だろうな。あのガードボットはパルス発生装置を装備している。それなら他の機器を破壊する事も簡単だ。だが、同時にあいつの弱点もそれだ」

「弱点....ですか?」

「自分の武器が弱点って、それじゃおかしくない?」

「相手は試作機だ。テスト段階で投入されたのだとすれば、完全な仕上がりだと言えなくてもおかしくはない」

「そ、それでその弱点と言うのは」

「奴のパルスウェーブは攻撃に特化した武器だが、システムとフレームはその出力に耐えられるように設計されていない。つまり一度放ったウェーブが何かしらの手段で奴に戻った場合、発生させた奴のシステムがやられる....かもしれない」

「パルスウェーブを反射....そう言う作戦でしょうか。でも、私達に出来るでしょうか」

「その為に俺達からもプレゼントを用意したぜ」

 

 リッジさんが手を開くと、渦を巻くようにうねった靄が丸く変化し、掌程の大きさの球体が生まれる。

 

「それは?」

「奴が発生させるパルスウェーブに対抗するための切り札。電波反射装置(ウェーブリフレクター)だ」

「ふうん。それであいつを倒せるの?」

「倒すわけじゃない。時間稼ぎと脱走に利用するのが精一杯だ」

「利用する。ですか?」

「ああ。こいつも作ってはみたものの、chevalierを倒すには力不足。反射させたパルスウェーブで、そのクラッキング効果を奴に跳ね返し足止めを。あわよくば脱出の道具にまで使えたら理想ってところか」

「....失敗したらどうなるの」

「死ぬ。なんてことは俺達がさせないが、相応の傷は覚悟してもらわないといけないかも知れない」

「....」

「相応の傷って....何なの」

「....聞かずに成功させることだけ考えてくれ。さて、話が沈んだ方向に向かう前に作戦の話をしよう」

「....はい」

 

 不安そうに顔を歪めた西園寺さんの質問に答えず、リッジさんは新しく地図を取り出して資料の上に重ねる。

 

「実行は一階エントランス。奴のパルスによる妨害は時間が経てば消える。狙いはパルスウェーブを再度発生させた時にリフレクターの反射で動きを止めることだ。一人が奴と打ち合い、パルスウェーブを発生させたタイミングでもう一人がリフレクターを起動してウェーブを反射させる。あれだけの広場ならどれだけ暴れようが問題無いし、お前達も特異点を使えば奴の攻撃から逃れられるだろう」

「具体的にはどうしたら」

「結衣の見立てから、あの装甲に攻撃は通じないと見て良い。奴からの攻撃を止めることや、矛先を変える事は出来ても破壊には至らない。奴のパルスウェーブを誘い、動きを止めた隙に逃げる。これだ」

「何だか簡単そうだけど」

「速攻戦を仕掛けられない分、勝利する作戦より難しいぞ。生き残る事が目的だが、敵はいかなる攻撃も通さない鋼鉄の城塞。それも疲れ知らずのロボットだ。用心は忘れるな」

「分かりました。リフレクターの説明もお願い出来ますか」

「任せろ。取り敢えず二人とも手に持って確かめてくれ」

 

 リッジさんが放った(ほうった)球体を掴む。手を開いて見れば、それは緩やかな点滅を繰り返す電球を純白の薄板で覆った近未来的なデザインをした道具のようだ。

 

「もう一度言うが、それはchevalierの奴を倒す為の道具じゃない。ただ奴のパルス攻撃を跳ね返して足止めをするだけの時間稼ぎだ。性能を限界まで引き上げたお陰で、使うにもテクニックが必要になった。蓋を開ければ諸刃の剣とは言え、出鱈目な攻撃手段に変わりはない。面倒な物を....」

「テクニック....ですか?」

 

 苦々しい言葉を吐くリッジさんに問えば、唸るようなくぐもった声の答えが返ってくる。

 

「奴のパルス攻撃を反射出来るのは最高出力の状態だが、無理のある強化をしたせいでその性能を引き出せるのは発動してから数秒の間だけなんだ。起動時に限界出力で発動し、後は時間と共に減衰していく。起動のタイミングを間違えればパルスを反射出来ず不発になりやり直し。下手をすればそれが壊れる」

「それってまずくない?」

「替えはあるがセルの量にもよる。兎に角、お前達でも扱えるようにしたつもりだ。どうにか乗り切ってくれ」

「そんな他人任せな....」

「戦闘向きじゃないんだよ俺達は」

 

 膝上に両手を乗せ、リッジさんが私と西園寺さんを見る。表情の無い顔から伝わる緊張感に、背筋を伸ばして聞き入れば、それは大きく息を吐いてから話を始める。

 

「作戦の再確認だ。パルスウェーブの妨害の切れ間、奴がパルスウェーブを再発動する時にリフレクターでそれを反射。奴の動きを止めた隙を突いてここから脱出する。出来そうか?」

「で、出来る....と思います」

「聞く程大変そうだけど....そうしないと出られないんでしょ。ならやるしかないじゃん」

「その覚悟があるなら大丈夫そうか。と、詫びと言っても頼りない物だが、お前達の助けになるはずだ」

 

 リッジさんが床に向けて手を開くと、ごろごろと大小の様々な道具が落ちる。

 角灯(ランタン)、水晶玉、それに小さな長方形の端末のような物だ。

 

「青い炎の点く角灯。そいつは俺達の拠点を外に作るためのアンカーとして使う。ここから脱出したら、手頃な場所に置いてくれ。次にマギアコア。結衣に借りた物を複製して作った。紗姫も使えて損はないだろうから持っておいた方が良いだろう」

「本当に!?やった!ありがとうリッジ!あんた良い奴じゃん!」

 

 マギアコア。その単語を聞いて眉を動かした西園寺さんは、続くリッジさんの言葉に目を輝かせる。リッジさんから受け取ったそれを見つめ、子供のように声をあげて喜ぶ姿には、不思議ときらきらと輝く小さな光が浮かんでいるようだ。対するリッジさんはころころと変わる彼女の態度に溜め息を吐いている。

 

「....最後。紗姫にはもう一つ。お前は直接敵と殴り合う事が多くなるだろうから、その為にこいつを渡しておく」

「何これ。新型のスマホ?」

 「電磁円盾(エッジバックラー)。装着型のエネルギーシールドだ。バッテリーの電力を使ってエネルギー障壁を展開する。小型で防御範囲も狭いが、展開速度と硬度には自身アリだ。試しに使ってみると良い」

「使うって....これを着けるってこと?」

「装着後は掌に起動スイッチが作られる。手を握れば一瞬でエネルギーシールドが展開されるってところだな」

「ふうん」

 

 西園寺さんが端末を左腕に装着すると、その掌にグローブ状のスイッチが現れる。西園寺さんが手を握ると、端末から滑らかな弧状の光の盾が投射される。

 

「おお」

「....凄いです」

「盾と言っても真っ正直から攻撃を受け止めるより攻撃を剃らして避けるのが目的だ。バッテリー容量も少ないから万が一の保険程度に思っておいてくれ」

「了解。でも無いよりマシだよ。ありがとね、リッジ」

「口で聞くより役立ててくれる方が有難いな」

「よっし、やる気も出てきた。結衣も準備は良い?」

「はい。行きましょう、西園寺さん」

「無事を祈るぜ」

 

 

 トンネルを抜けた先は一階の上層部。ガラス張りの柵が下層に広がる艶のあるタイル床と、夜に支配された外の景色を映す。

 

「通信は....繋がらないか。妨害はさっきより強いのかも」

「敵に近いと言うことでしょうか」

「分からない。でもリッジの言う作戦ではこの妨害が消えるのを待たないといけない」

 

 柱の陰に二人で身を隠し、声を殺して話していると突然床が揺れる。

 

「来た....で良いよね」

「はい。chevalierです」

「何が騎士よ。気取った名前の割に、やってる事はテロリストだっての」

「気付かれていないのは幸いです。このまま妨害が無くなるのを待ってから動きましょう」

「ナイスアイデア」

 

 息を潜めて待つ事暫く、携帯の通信がノイズ音を弱める。時間と共に妨害効果が弱まっている証拠だろう。

 

「もうすぐかな。結衣、リフレクターの準備は出来てる?」

「はい。いつでも行けます」

 

 周期的に床を鳴らして進む音は、姿の見えない敵の恐怖を高め続けている。破裂せんばかりに鳴り響く心臓の音は、止まらない恐怖を加速させる。この目で相手を見られないと言う状況がこれほどに心を掻き乱すものだろうか。

 

「....エスカレーターがあったから、発動の少し前にそこからchevalierの前に降りてリフレクターを起動しよう。真正面からなら間違いなく成功する筈だから」

「分かりました」

「よし、音を立てないようにゆっくりね」

 

 身を屈めて柱から離れ、柵から離れた壁際を歩く。下層に続くエスカレーターに近付くまでに通信のノイズは晴れ、後はchevalierのパルスによる妨害を待つだけとなった。

 エスカレーター脇の柵の前に屈み、リッジさんのまとめた資料にあった動きの前兆を待つ。

 柵の端に現れた灰色のシルエット。一足にして視界の中に入り込んだそれは、エスカレーターの中頃よりも高い全長を有していた。背面に背負った腰上まで伸びる巨大なコンテナが大きさをより際立たせている。その姿はさながら動く要塞だ。

 

「っ....」

 

 (あらわ)になった恐怖に溢れそうになる声を殺す。動きを止めたchevalierが電子音を鳴らすと同時に、隣で控えていた西園寺さんが鉄筋を握って動く。

 

「行くよ」

 

 柵の手すりに手を掛け、西園寺さんが宙へ飛び出す。一泊遅れ、私も柵を越えてchevalierの上空に飛ぶ。落下の速度は数秒で敵を私達射程距離まで運ぶ。狙うのはその先、床だ。

 

「敵性存在確認。推測地点より差異を修正。自律規定プログラムにより対象を排除」

 

 聞こえた。恐ろしい言葉が。聞こえる筈のない言葉が。

 背を向けていた巨影からは聞き飽きた単語が、耳に染み付いた無機質な音で発される。気配を殺して動いていたと言うのに、それは私達の存在を感知した。それどころか、予測して待ち構えていた。

 違和感に気付いたのは西園寺さんも同じようで、構えていた鉄筋で守りの体勢に入る。

 

「西園寺さーー」

 

 空を裂く轟音と、鈍い打撃音が広いエントランスに反響する。柱のように巨大な腕が伸び、先んじて飛び降りた西園寺さんの姿が視界から消える。後方で爆音が響き、肌を崩れたコンクリートの(つぶて)が打つ。

 

「攻撃対象再設定。対象。神代結衣」

 

 深紅のサイトが突き上げるように全身を照らす。無機質な光は蛇の眼光のように私を見上げている。

 

「障壁!」

 

 咄嗟に魔力の壁を展開する。壁面に突き出された無数の銃口が衝突し、身体が瞬く間に宙へと押し上げられ、広げられた光の壁にはバリバリと亀裂が生じる。

 チリ。と小さな金属音と共に銃口が駆動を始める。フラッシュバックする逃走時の光景が思考を染め上げる。

 chevalierは妨害効果が無くなればすぐにパルスウェーブを発生させる。計画に間違いは無い。音もなく近付いた筈だ。

 

「っ!」

 

 回転する銃口に踊らされた光の壁がずるりとその上から外れ、体勢を崩した私は無防備なまま突き上げられた腕から下層へと落下する。

 

「かっ....ぁあ」

 

 激しい衝撃に視界が明滅し、吐き出し掛け喉で支えた空気が呼吸を阻む。仰向けで転がった身体を震える腕で叩き、どうにか呼吸を取り返す。

 最高速に達したバレルが金切り声のような音を鳴らして上層に向けられている。振り向いたchevalierの紅い光が再び私を捉える。光に焼かれあやふやになった世界で目に映るその巨大な影は、赤い月に照され堂々と佇む石像のようだった。

 号砲の音を聞き終えるより速く、その何倍もの発砲が続く。放たれる弾丸に砕かれた礫が雨のように降り注ぎ、みるみるうちにエントランスを砂煙も角張った瓦礫で埋め尽くす。

 

「うっ....ケホッゴホッ」

 

 巻き上げられた塵に噎せ返り、手放しかけた意識が戻るが、そこには倒れた敵に剣を突き付けんとする騎士のように、回転するガトリング砲を私に向けて動かすchevalierの姿があった。

 撃ち出される弾丸は天井から壁へと鉛の焼跡を刻んでいく。レーザー銃さながらの弾幕は、一撃が掠めることでさえ容易く人間程度の命を刈り取るだろう。

 速く。逃げろ。

 何度か足が滑るが、一度床を捉えて蹴飛ばせばその速さはchevalierの弾幕から逃れるには充分だ。

 

「西園寺さんは」

 

 見上げた天井には白い煙が立ち込め、吹き飛ばされた西園寺さんの姿を見付けることは叶わない。

 爆発するような勢いで膨れ上がる不安に乱される心を諌め、エスカレーターへ向けて走る。

 二十メートルほど走ったか。視界が端から黒く霞み、腹の底に違和感を覚える。時間切れが近い。

 高く。跳べ。柵の向こうまで。

 右の足で地を踏み、身体を傾けた勢いで上に向けて蹴り上げる。二秒と掛からず柵の手前にまで身体が浮き上がるが、それが限界だったか受け身を取るだけの力は身体に残っておらず、目眩に意識を取られた隙に壁に激突する。

 

「あぐっ!」

 

 余った勢いは壁との衝突では殺し切れず、弾かれた身体は床からの追い討ちを受ける。倒れたままで呼吸を整え再び天井を仰ぐが、下層で巻き上げられる煙は絶え間なく上層の換気扇へと吸い上げられ、一向に晴れる様子はない。

 

「この、やってくれたな!」 

 

 怒号と共に砂煙が槍のように伸びる。射撃に鈍い激突の音が混じり、甲高い駆動音が緩やかに消える。

 

「っ....西園寺さん!?」

 

 立ち上がって柵の下を覗けば、煙の中で人影がchevalierの周囲を飛び回っている。ガトリング砲の射程の遥か内側。機体スレスレの位置に陣取り、その装甲を打ち続ける様は初めての戦いで見た姿と同じだ。

 

「排除対象。西園寺紗姫が再起」

 

 煙に埋もれたchevalierの脚部が朱に輝き、一瞬にして西園寺さんとの距離を取る。昇ってくる焼けた空気の臭いに鼻を押さえる。ブースターで咄嗟に離れたようだが、手応えを失った西園寺さんは直ぐに攻撃を停止してchevalierを見る。

 

「チッ....逃げんな!」

 

 不満の滲む声で唸った西園寺さんはすぐに追撃へと打って出るが、chevalierは左腕に装着した巨大な盾を構えて静止する。

 

「西園寺さん!止まって下さい!」

 

 制止するより速く間合いに辿り着いた西園寺さんは構えた鉄筋を振り抜くが、chevalierは盾を構えたまま後退して攻撃を避け、空振りに終わった攻撃で体勢を崩した西園寺さんに盾を突き出して突進する。

 盾の攻撃を全身に受けた西園寺さんが吹き飛び、広いエントランスを一直線に駆け、ガラス窓に反射して地に伏せる。

 chevalierはそれまでのガードボットとは桁違いの反応速度と対応力で西園寺さんを圧倒した。あれが試作品の機体だと言う言葉が冗談に感じられる程だ。

 

「西園寺さん!」

「生体反応健在。完全鎮圧開始」

 

 叫び声など届く筈もなく、離れすぎた距離を詰める方法も思い付かない。chevalierは西園寺さんに向けてガトリング砲を構える。

 

「結衣。聞こえるか」

「り、リッジさんですか!?助けて下さい!西園寺さんが!」

「逃げろ。作戦は失敗したが、奴は紗姫に気を取られている。今なら正面入口がガラ空きだ」

「何を言ってるんですか!西園寺さんを助けないと!」

「知らん。やるべき事は説明した筈だ。無闇に戦う必要はなかった。奴がパルス攻撃に出るまで逃げ回れば良かったものを、出過ぎたのはあいつの責任だろう」

「そんな!」

「俺達はここから出なきゃならない。その為にお前達両方を失うわけにはいかないんだよ」

「ふざけないで下さい!西園寺さんは!」

「何だっていいがとっとと動けよ。愚痴も罵倒も後で気が済むまで聞いてやる。今は奴を出し抜く事が先だ。死にたく無いんだろう?お前一人で勝てるのか。あの化け物に」

「っ....」

 

 義理の問題ではない。西園寺さんに向けられた言葉が脳裏に過る。生き延びたいのならそうする他に方法は無い。西園寺さんを見捨てるなどあり得ない事とは分かっていても、リッジさんの言葉に間違いは無い。

 

『何事にも必要な犠牲はある』

 

 心の内側へと広がる痛みが、取り除くことの出来ない激しい痺れとなって全身を襲う。西園寺さんも同じ痛みを味わったのだろうか。

 

「結衣!速くしろ!」

「でも!」

「お前も死んで全て無駄にするつもりか!」

「っ!」

 

 跳べ。一歩でも遠く。そして速く。

 

 柵に手を掛け、西園寺さんがそうしたように乗り上げると同時に跳躍する。

 

「敵性存在の行動開始を検知。排除対象を変更」

 

 硝子を打つ甲高い炸裂音。間も無くしてそれは床のタイルを砕く物へと変わり、着地と同時に目の前を弾幕が埋め尽くす。風を切る弾丸の音と焼けた空気の臭いが全身を震わせる。

 罰だ。西園寺さんを見捨てる事をよしとした私への罰が下ったのだ。罪悪感に呼吸が荒くなる。

 攻撃のあった方向に目を向ければ、ガトリング砲を構えたchevalierが狙いをこちらに向けていた。

 

「負荷制御機能を第一武装ユニットに収束。給弾倉より弾丸の充填を開始」

  

 このまま死ぬのだろうか。一か八か魔術で応戦するべきか。

 

「....」

 

 動かなければ確実に殺される。しかし西園寺さんのような正面からの攻撃は防がれるだろう。何か工夫を凝らさなければならない。

 マギアコアに触れ、魔術のイメージを脳に組み上げる。銃口から放たれる弾丸。その軌道を直線から曲線へと変え、弧を描くイメージへと組み替える。

 

「第一武装ユニット。制圧射撃準備」

 

 ガトリング砲のバレルが高速で回転を始める。二度の猛攻撃の記憶に鳥肌が立つ。額と背筋から吹き出す氷のような汗に歯を喰い縛って堪え、イメージを維持したまま指先へと力を流すよう意識する。

 

「魔弾!」

 

 失敗したなら残るのは死。時間を稼ぐのなら何がなんでもchevalierを止められる攻撃でなければならない。半端な攻撃が効かないのなら撃ち出すのは力を込めた一撃。飛翔する弾丸は命を持つかのようにうねり、緩やかな軌道を描きながらchevalierへと向かう。魔弾はガトリング砲の先端部に直撃し、衝撃に逸らされた砲身からは大量の弾丸が掃射され、重心の制御に失敗したまま明後日の方向へと凪ぎ払われる。

 ガトリング砲にエネルギーを注ぎ込んだ状態での機体制御には無理があったのか、射撃の反動に振り回さたchevalierの腕はガトリング砲が地面と衝突した事で、そのまま動作を停止する。

 

「づッ!」

  

 立ち上がろうと足を動かそうすれば、激しい頭痛がそれを阻む。

 

「な....んで」

 

 ここに着くまでに使用した特異点の存在がぽんと弾けたように浮かび上がる。身体を動かせる限界まで引き上げた一撃は確かにchevalierの攻撃を止める事に成功したが、直前の行動を失念した早計な判断は同時に私を追い込んでいた。

 chevalierがガトリング砲を床から引き抜き、再び私に向けて構える。今度こそは死を覚悟するが、chevalierが動くことはない。

 

「バレル異常。銃身歪曲(わいきょく)を検知。集団率低下。掃射時間調整による補完。又は第二武装ユニットの使用を推奨」

 

 パニックで荒く乱れる呼吸を落ち着け、応接カウンターの後ろに身を隠す。次の攻撃は何だ。ガトリング砲を撃ち込まれたら一巻の終わりだが、幸いなことに魔弾の影響で射撃精度は落ちているようだ。

 

「....西園寺さん」

「チッ。そう簡単に逃がしてはくれないか」

「リッジさん....ごめんなさい」

「生きているなら構わない。それに、紗姫もまだ生きている筈だ。無理な指示だったがよく聞いてくれたよ。感謝するぜ」

 

 噛み殺したような声色のくぐもった声がする。携帯を取り出して耳に添え、舌打ちをして何かを呟くリッジさんに謝罪すると、それは居心地の悪そうな態度で苦笑する。

 

「それで、ここからどうすれば」

「これが通じているなら、まだパルス妨害は使用されていない。奴が警戒しているのかもしれないが、こっちにもチャンスがある証拠だ....しかしあのガトリングは厄介だな。いくら特異点で防いだとして一撃で済む攻撃じゃない。数秒と待たずにミンチにされるだろうな」

「はい。幸い特異点の力がある間は逃げ回る事は出来そうですけど、それが使えなくなったら私の足ではすぐに追い付かれると思います」

「....今の攻撃でガトリングを完封出来たなら良かったが、性能が落ちただけで、お前達に有効な武器であることは変わらない。奴があれを捨てることは期待しない方が良いな....」

「一度西園寺さんと合流した方が」

「出来るならそうしろと言いたいが、奴の攻撃を避け切れるか?」

「それは....無理です」

「だよな....どうにかして攻撃の手段を変えられないか。だな」

「っ....ごめんなさいリッジさん。一度離れます。chevalierが」

「了解。死ぬなよ」 

 

 リッジさんと交わした会話で僅かだが心に余裕が生まれる。携帯を仕舞い柱の影からchevalierの姿を見れば、首を上げて私を見据える紅い光と視線が交わる。

 カウンターから飛び出し、再び扉に向けて走ると、炎がエントランスを照らし、壁のような盾を振り上げたchevalierが轟音と共に私に迫る。

 

「っ!」

 

 床を埋め尽くす黒い影に特異点の力で跳躍して攻撃から逃れる。盾の衝撃で揺れる地に足を取られ着地と同時に床を転がる。

 

 立ち上がれ。走れ。

 

 床に足を叩き付けて起き上がる。立て直し再び一歩を踏み出そうとして視界が傾いて落ちる。

 

「あ....れ」

 

 体勢を崩したか。上手く行くと信じた甘い考えは脳に浮かび掛けた途端に尻尾を掴んで引き戻され、身体がそれより遥かに悪い状況を痛みで伝える。

 

「ッーー!」

 

 折り畳んだ足に乱暴に差し込まれた分厚い鉄板。声に出来ない痛みの原因はそれで間違いないだろう。

 叩き付けられた盾から伸びたそれもまた盾なのか。予想も付かない物を隠していたと驚愕する暇もなく。全身を照らす光に鳥肌が立つ。

 

「右足に骨折を確認。対象の行動を抑制」

 

 chevalierの言葉に耳を疑うが、床に触れるだけで激しい痛みを伴うそれを骨折と考えるのは自然だろう。

 

「ぅ....ぁあ」

 

 バケツの水を掛けられたように全身が汗に濡れ冷やされる。ガトリング砲が鼻先に下ろされ、歪に並んだ銃口からは焦げた金属の臭いが漂う。

 

「結衣。回復しろ!特異点なら身体の再生も出来る。急げ!」

 

 リッジさんの声に答えられない。照らす光が。無数の黒い穴が。漂う硝煙の臭気が。回り出す砲身の駆動音が。五感全てが眼前に迫った死の予兆に絶望し、次々と遮断されていく。

 

「ッあああ!!」

 

 火花が舞い、黒に閉じ掛けた景色を照らす。あり得ない情景に瞬きをして確かめれば、影に溶ける赤い髪の束が(なび)いている。銃身に叩き付けられた光が暗闇に慣れた目には眩しい。流星のように駆け抜けたそれがガトリング砲の銃身を押し飛ばす。

 

「こっちだ馬鹿野郎!アタシはまだ死んでない!」

「西園寺....さん」

「第一武装ユニット損傷拡大。機体損傷の可能性有り」 

 

 払われたガトリング砲を力任せに引き戻し、chevalierは追撃に走る西園寺さんを牽制する。内払いに振り抜かれた銃身に阻まれた西園寺さんは素早く後退して私の手を掴み、chevalierから距離を取る。

 

「西園寺さ....うぅっ!」

「ご、ごめん。傷の回復まだだったんだ」

「傷....?」

「特異点の力で回復出来るってリッジが。結衣は回復に集中して。chevalierはアタシがやる」

「でも西園寺さんは」

「アタシも怪我は回復したから大丈夫。結衣が助けてくれなきゃ死んでたかも知れないからさ。今度はアタシの番だよ」

「....ごめんなさい」

「謝らないでよ。治ったら魔術で援護をお願い」

「はい」

 

 chevalierが振り向くより先に西園寺さんが頭部目掛けて跳躍する。眼前に現れた敵に目を向けたchevalierのヘッドカメラを目掛けて西園寺さんが展開されたエネルギーシールドを叩き付けると、chevalierの機体が体幹を維持しようと身を沈める。手応えある一撃に声をあげそうになるが、chevalierは動きを止めず次の行動へと動いている。特異点の力で治療した足からは嘘のように痛みが除かれ、思考もクリアなものに戻っている。

 

「魔弾!」

 

 攻撃を終えて着地した西園寺さんを狙い盾を振り上げた腕に弾丸を撃ち込めば、衝撃で停止した動きに遅れが生じ、彼女は射程の外まで後退する。手にしていた鉄筋は取り落としてしまったのだろうか。彼女が使っているのはリッジさんから受け取ったエネルギーシールドだ。

 

「西園寺さん。chevalierは逃げ出そうとする相手に攻撃を集中させるみたいです。上手く利用したら、パルス攻撃を誘導出来るかも知れません」

「なるほど。ならあいつが攻撃だけでアタシ達を捌ききれないようにすれば」

「はい。きっと」

「じゃあその作戦で」

 

 西園寺さんは提案に頷くと一直線にchevalierに向かって走る。当然にその対処に動いたchevalierの攻撃を回避して西園寺さんが叫ぶ。

 

「結衣。出口へ!」

「っ。はい!」

 

 chevalierが私に反応してガトリング砲を向けるが、西園寺さんがその先端にエネルギーシールドを叩き付けて軌道を逸らす。銃身を足場にしてこちらに跳躍した西園寺さんを追ってchevalierが盾を構える。私の足を攻撃した手段と同じ物だろう。

 

「魔弾!」

 

 西園寺さんに向けられた盾の先に弾丸を放ち、動きを遅延させる。盾から黒いプレートが射出されると、西園寺さんはそれを乗り継いで再び跳躍する。

 

「走って!」

「はい!」

 

 西園寺さんの声を合図に入り口の扉へ振り向いて走り出す。ガトリング砲が損傷し、chevalierはその使用に対して慎重になっている。私と西園寺さんを同時に殺す手段としてガトリングを使用する事が不適切だと判断されたなら、パルス攻撃を選択する可能性がある。

 いくら高性能な機械兵器だとしても、データや確率に囚われた選択だけを全てとしているのなら、時にそれは間違った判断にも転び得る。私達にも勝機は充分に残されている筈だ。

 

「施設封鎖。侵食電磁波(クラッキングパルスウェーブ)起動」

 

 chevalierの肩部からアンテナのような物が現れ、青白く帯電する。

 暗闇に光るその感覚に走る足を止めてchevalierと向き合い、鞄からリフレクターを取り出す。アンテナを注意深く睨み付け、焦りを落ち着けていく。

 迸る電流がほんの一瞬消え失せる。

 

「させない!」

 

 目を焼くように目映い点滅を繰り返す電流が波となって発される。一瞬速く起動したリフレクターがchevalierから発生したパルスに反応し、産み出されたそれを反射する。捕獲ネットのように収縮するパルスが巨大な影を照らしながら呑み込めば、ヘッドカメラが蛍光灯のように点滅を繰り返し、その体躯からは想像もつかなかったchevalierの動きが突然錆びの生えた(ブリキ)人形のように鈍くなる。ギリギリと音を鳴らしていた関節は次第に軋みながら動きを止める。

 

「....これで」

「....除。対象健在」

 

 脱力感に呆然とする視界の中、紅い光が甦る。パルスの残り香であろう青白い火花を散らして身を起こしたchevalierが両腕を振り上げる。ガトリング砲と大盾はその手を離れ、脚部パーツの後ろで破裂音が響き巨体が目の前まで迫る。鈍化した動きといえど、重量の枷を外した攻撃は私達を捉えるに充分な時間があった。

 

「ぐっ....そのまま倒れてろ!」

 

 砂礫が舞い視界が阻まれたかと思えば、振り下ろされる拳の向こうに西園寺さんが現れる。装着されたバックラーは腕ではなく膝で青い光を放ち、突き出された足が頭部に衝突しバリバリと明滅する。

 

「セアアアッ!」

 

 額を弾かれたchevalierが上体を反らせ、仰向けに転倒する。

 

「....ふぅ。今度こそ倒れたよね。リッジ。多分終わったよ」

「....パルスウェーブを返して止めるだけで良かったが、まさかそこまでやるとは。底知れない奴だ」

「正直ここまでやらないと勝てなかった。やり過ぎないとアタシ達が死んでたかも知れない」

「生き残ってくれたならなんだって良いさ。兎も角良くやってくれたぜ。これで漸くカビ臭い牢獄からも脱出出来る」

 

 倒れたchevalierの上に降りた西園寺さんは、携帯を取り出しリッジさんとの通信を始める。

 

「結衣も無事か」

「はい。何とか」

「よーし、そうしたらさっさとここを出ようぜ。外の空気が待ちきれないんだ」

「はいはい。後方支援は楽で良いよね。少しは休ませて欲しいんだけど....あ、リッジ。あんたにもらったシールド、壊れちゃったんだけど直せる?」

「おっと、そいつは残念だったな。まあ、外に出れば手頃な素材もあるだろうし、力の制限も無しだ。替えのシールドか、それ以上の物を作ってやれる筈だ」

「へえ。案外壊して見るもんだね」

「どのみち素材さえ揃えば強化してやるつもりだった。偶然壊れるのが先だっただけだな」

 

 軽々とした調子でリッジさんと言葉を交わす西園寺さん。直前の戦いの疲れを感じさせないような流暢な会話に彼女のタフさを実感する。流石は警察官の父親を持つ人だ。

 

「リッジ。早いところ結衣を休ませてあげたいんだけど、ここを出る前にそっちに戻っても良い?」

「いや、外に出て拠点を作ればここより快適なキャンプが出来る。それに、こんな血塗れの死体の山の臭いなんていつまでも嗅いでいたくないだろう?一先ずここの周辺に角灯を設置して拠点を用意しよう。結衣が今にも死にそうだって言うなら止めないが」

「い、いえ。私は大丈夫ですから、ここを出ましょう。またchevalierが動き出さないかも心配ですし」

「決まりだな。早いところ拠点選びを頼むぜ。久々の外の世界が楽しみで仕方ない」

 

 通信が終了すると、西園寺さんはchevalierから降り、腕の関節に突き刺さった鉄筋に手を掛ける。

 

「何これ、固い。もしかして食い込んでる?」

 

 彼女が再び力を込めて軽々と引き抜かれたそれの先端には幾重にも重なったコードの束が絡み付いていた。

 

「うわ。妙に重いと思ったら....気持ち悪」

「コードがこんなに....」

 

 ピシピシと軋むような音を鳴らすそれは千切れる事なくchevalierの機体内で発生する電流を放っている。

 

「西園寺さん....それは捨てた方が」

「よっと。え、何て?」

 

 きょとんとした表情で小首を傾げる西園寺さんの後ろで墜落音がする。

 

「な、何か抜けた?」

 

 音の方向を向いた西園寺さんが再び驚きの声をあげる。彼女の影から視線の先を覗くと、そこにはコードに繋がった箱が瓦礫の中で青白い光を明滅させていた。

 

「....あれなんだろう」

「発電機のようなものでしょうか」

「アタシ、見てくるよ」

「だ、駄目です!そんな正体の分からない物」

「でもあれを外すか運ぶかしないと鉄筋を持ち帰れないよ」

「ならせめて私が!」

「結衣は疲れてるんだから休んでないと」

「それでも駄目です!」

「うーん。でもなぁ」 

「リッジさん。これが何か分かりますか?」

 

 西園寺さんが動くより早く箱に近寄り、インカメラの映像をそれに向けてリッジさんへ通信を繋ぐ。

 

「どれどれ....ジェネレーターの類いか?にしてはバカみたいな電力反応があるな」

「何か分かりますか?」

「さあな。異世界のトンデモ技術には疎い。何かに使えそうなのは確かだし、捨てるのも勿体ない。そこに放っておいてくれ。後で俺達が拾って弄ってみる」

「はい。お願いします」

 

 正体の分からないそれに興味を示すリッジさんに回収を任せ、西園寺さんと共にドアを潜り抜ける。

 

「何とか....なりましたね」

「死ぬかと思ったけどね」

「はい。ガードボットの最新型。試作型で良かったと心から思います」

「うん。でもリッジの話通りなら、これからもあんな怪物達が山ほど襲ってくるってことだよね」

「はい。この世界からの脱出。これからもっと大変な戦いになると思います」

「まあ、やるだけの事はやろうよ。続けるうちに戦いにも慣れる筈だし....慣れて良いものじゃないけどさ」

「はい。必ず脱出しましょう」

「さあ、まずはリッジの頼みを解決しよう。早く拠点を用意しないとだね」

 

 西園寺さんの提案に頷く。扉を潜り、見上げた空は呑まれんばかりの夜闇(よやみ)に覆われ、黒みを含む紫色に染まりどろりとした粘りのある雲を浮かべている。蠢く雲からは不気味な生命力のような物を感じ、それからは雨ではなく千切れた一部が汚泥のように地上に降り注ぐのではないかと生々しくグロテスクな想像をさせる。

 開かれた脱出劇の幕の向こう側には、私の幼稚な想像力を嘲笑うかのような地獄が待ち受けていた。

 

 

「これがその『魔術使い』ですか」

「ええ、通信設備は投入と同時に破壊。しかしバイタルサインは健在。どうやら魔術の力には目覚めたようね」

「実力は未知数。やり辛い相手になると思いますよ」

「その為に貴女に取引を持ち掛けた。人間界で魔術のエリートとなれば『萩村』か『ユルト』の二門。黒魔術であればユルトの右に並ぶ家はないもの。貴女に勝る術者は存在しないわ」

「いささか過大評価な気もしますが....私の願いにも答えていただけるのなら断る理由もありません。お願いします。S」

「勿論。直ぐにでも向かえるわ」

「....その呼び方。面倒ではないのですか?」

「そうでもないわ。寧ろ何かの秘密組織みたいで楽しいと思わない?」

「貴女がそう思うのなら私は構いません。無粋な質問でしたね」

「....じゃあ、よろしくお願いね」




盾の役割を殆ど果たさないままお釈迦になったバックラー君。
前戦の鉄筋君の方がパリィ紛いな仕事してた辺り可哀想だなと思う作者。
 ゲーム内ではチュートリアルストーリーを予定。chevalier戦は少し捻った戦いにしてみたいとも思う。そろそろイラストも更新したい。
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