二人の少女は如何に危機を脱するのか。
「づっ....傷を」
ドクドクと脈打つように痛む足の傷を特異点の力で治療し、吹き飛ばされた西園寺さんを探す。
「西園寺さーー」
影が動き、再び樹木が槍のように突き出される。
視界外で起きた事に反応が遅れるが、攻撃は私を一直線に狙ったものなのか、身体を捻る痛みに倒れた背後を通り過ぎたそれが土壁に刺さる音がする。
間近を過ぎた樹槍を取り巻く殺気が肌を撫で、怖気が沸き上がる。
幸い、その攻撃で敵は動きを制限され、私の力も回復を始めていた。
叩き付けられた背の傷を治療し、残された力で土煙の上がる方向へと走る。
ブレザーの袖で口元を覆い、煙の中へと潜り込む。
壁を頼りに西園寺さんの姿を探せば、土に汚れた彼女のカーディガンが土煙の中に見える。
「西園寺さん!」
「結....衣?」
「逃げましょう!ここを離れないと!」
「....あいつは?」
「分かりません。ですがあの魔物が....」
「分かった....まず傷を」
「この中にいてください。息苦しいかもしれませんが、煙が晴れるまでは魔物の視線を遮ってくれます」
「結衣は....」
「私が魔物の相手をします」
「駄目だよ。そんなことしたら....っぐ」
「上手くやります。西園寺さんは一刻も早く傷を」
立ち上がり、煙の外へと走り出す。
彼女が生きていると分かった事で、それまでの不安もましになる。
土煙から飛び出し魔物の方を向けば、それと視線がぶつかる。
嘘のように柔軟にしなる腕が鞭のようにぐにゃりと曲がり、私目掛けて振るわれる。
「障壁!」
より厚い壁。扉のような盾の、イメージを脳内に組み上げ、魔術を発動する。
「うっ!?....くっ!」
どっしりと重く、分厚い光の壁が展開され、あまりの重量に腕を地面に引き摺りおろされそうになる
厚く奥行きの広がった盾の向こうを伺う事は叶わないが、これだけの重さがあれば巨大な魔物の攻撃にも対応し得るだろう。
地を踏み締め、盾に身体を預けて攻撃を堪える。
鐘を鳴らすような衝撃。地鳴りのような振動が光の壁を貫き全身を震わせる。
盾に掛かる力が消えたのを確かめ、魔術を解いて再び魔物に向けて走る。
縮めた樹木をしならせ振り下ろされるそれは棍棒のようで、残された力では盾を作り出せたとして重みに耐えられず押し潰されてしまうだろう。
力を両足に集中させ、横っ飛びに攻撃から距離を取る。
木板を粉々に粉砕して尚止まらない樹木は地に巨大なクレーターを残す。
底面を地中に埋め込んだそれを引き抜く事に集中する魔物に隙が生まれる。
「っ!今なら」
魔物の顔面に向けて指を向け、ありったけの力を流し込んだ弾丸を生成する。
「これで....魔弾ッ!」
無防備な魔物の顔面に直撃した弾丸は木屑を散らして消滅するが、こともないようにこちらを見やるそれには全くの痛手になっていないように見えた。
「う、嘘....っづ」
あてが外れた絶望に追い討ちを掛けるように特異点の代償が苦痛となって襲い来る。
魔物はのっそりとした動きで私に視線を動かし、再び腕を振り上げる。
抵抗する術を失ったと言う事実が、敵の姿をより大きく見せる。
恐怖が見せるその幻像に怯えていたであろう心は、不思議なほど冷静だった。
木々を隠して頂点に停止する巨木の棍棒を追い、その奥にきらりと赤く光る物を見る。
照らされるそれは残された片腕で、異様に発達した腕とは対照的に、太さこそ桁違いなもののそれまで見てきた痩せた魔物の腕を樹皮で乱雑に補強したような形をしていた。
「あそこなら....」
パラパラと大槌の隙間から抜け落ちた砂礫が地に落ちる。
西園寺さんの動きを真似、魔物の懐まで前のめりに跳躍する。
着地で崩れた体勢を立て直す数秒の隙に槌は岩のようにゆっくりと落下して激しい地響きを起こす。
地を押し潰して
「これならどう.....魔弾!」
一度目の失敗を振り返り、離脱の余力を残して弾丸を放つ。
痩せた腕に直撃したそれが炸裂すると、魔物は大きく身体をよろめかせて後退する。効果はあったようだ。
一瞬の達成感に躍る心を抑え、魔物から距離を取りその動きを観察する。
転倒を免れたそれは像のように鈍重な動きで私に視点を合わせ、巨大な腕をその場で拳を叩き付けるように地に挿し込む。
埋もれた拳が蠢いたかと思えば、巻き付いていた樹木の群れがするすると抜けるように剥がれ、地中へと消えていく。
不気味な光景に湧き出す嫌悪感に思考がぶれる。
警戒が緩んだ私の足下の土が盛り上がったかと思えば、先の尖った槍のような根が突き出す。
「っ!?」
間一髪で飛び退くも、休む暇なく再びローファーを押し上げるように地面が膨れ上がる。
足を取られながら踵を返して走り出し、これも寸でのところで避ける。
切り裂かれた風を首筋に感じ、その素早く正確な攻撃に焦燥感が高まる。
足を着けば待ち伏せていたかのように樹木の槍が顔を出し、一度避けようとも抜いた足を再び地に着ける頃には次の攻撃が襲って来る。
それは私の居場所を的確に狙っているらしく、特異点の力を使用しなくとも回避する事は容易だ。
問題は私の体力で、次々と襲い来る樹木に休む間もなく走り続ける事はとても身体が保たない。
現に、こうして走る間も心臓と肺が苦しみを訴えている。どこで力が尽きるとも分からず、敵の間合いから離れる為ひたすらに足を動かす。
「く....ぅ」
逃げる程にドスドスと土の破れる音が近付き、悲鳴を上げる身体が動きを止め掛けた時、着地した地面の動きが止まり、変わりに地鳴りが一帯を震わせる。
「結依!」
西園寺さんの叫ぶ声がする。振り返れば肘を突いて体勢を崩された魔物と対峙する彼女の姿が見えた。
「西園寺さん!その魔物の弱点はーー」
魔物の痩せた左腕が動く。
鈍重な右腕に比べ、重苦しい鎧の無いそれの振り払われる速さは攻撃の隙を突くには充分だろう。
ごう、と地を抉る腕。激しい土煙が霧のように立ち上る。
西園寺さんの姿を探して目を凝らせば、土煙の上方に跳び上がった彼女が鉄筋を構えるのが見える。
「セアアアッ!」
落下の勢いに任せて叩き付けられる鉄筋の一撃が魔物に直撃する。
寝そべるように地に伏せた魔物だが、のそのそとした動きで上体を起こし右腕を地に突き立てる。
「西園寺さん。逃げて下さい!」
あの攻撃が来る。
警告の声に走り出した彼女の後ろを樹木の槍が貫く。
一歩、二歩と彼女が地を踏む度にその後ろを槍が襲い、私の時と同じ逃走劇が始まる。
「走って下さい!そうすれば攻撃は届かない筈です!」
私の答えに振り返った彼女は大回りに弧を描きながら魔物に向けて進路を変える。
「西園寺さん!?ど、どこへ!」
「逃げるよ!準備して!」
「逃げ....どうやって!」
「待っ....てて!」
鉄筋を構えた彼女は魔物の右腕に近付くと、延び出た太枝の鎧に飛び乗り、二度目の跳躍と共に腰だめに構えた鉄筋を魔物の頬に叩き込む。
ビンタを受けたように首のねじ曲がった魔物が、今度こそは横倒しに地面へと転倒する。
魔物の前に着地した西園寺さんは直角に方向を変えて私に駆け寄ってくる。
「結依。手を出して!」
「は、はい!」
西園寺さんに向けて手を伸ばせば、彼女の手はそれを掴むと軽々と私を担ぎ上げて再び走り出す。
「出口まで突っ切るよ。落ちないでね!」
「上星野台に....西園寺さん、攻撃が来ます!」
彼女の肩に揺られながら魔物に目を向ければ、樹木の槍を作り出した攻撃への備えか、それは拳を地に向けて振り上げていた。
「まだやれるわけ!?....ホント勘弁してよ!」
殴り付けるような風に狭まった視界で敵の姿を追う。
叩き付けられる拳。地に降りた西園寺さんの足を起点に隆起する土。
「うっ!?」
私を狙った時とは明らかに違う、延べられたように広がった凹凸のある道。針山のように生え伸びるであろうその中心に取り残された未来は想像に難くない。
「くっ....そお!」
吹き飛ぶ景色と大きく揺れる身体。衝撃に揺らいだ身体で再び前を見れば、激しい地鳴りと共に巨大な木が道を突き破って姿を現す。
魔物の姿は木々と土煙によって隠され、身体には巻き上げられた土がパラパラと降り注ぐ。
「結依。生きてる!?このまま逃げるから掴まっててよ!」
「え!?は、はい!」
●
「死ぬかと思った....」
「.....」
危機一髪の逃走からすぐ。西園寺さんは自然公園を出た後も休むことなく走り続け、入り口付近の住宅街に到着して足を止めた。
私を肩から下ろした彼女は深い息と共にそう呟く。
「あんな魔物聞いてないって。一体何があったの」
「浅木さんが....あの人が魔物に」
「え?嫌だな結依。そんな冗談」
「この目で見ました。あの人が植物に....木に身体を覆われてあの怪物になるのを」
「....本当なの?」
「はい。西園寺さんが襲われた後。私もあの場に残っていました。浅木さんの手から木が生えて、身体を覆い尽くして、そうしたらあの魔物が」
「人間が魔物にって。そんなことが....リッジなら何か知ってるかな」
「どうでしょうか。研究所の外の事情には詳しくないように見えましたが」
「だよね....やっぱアタシ達で調べないと駄目だよね」
「....あの魔物は」
「魔物?そう言えば浅木だっけ。あの人はどこに行ったの?」
「その事ですが、きっとあの魔物が浅木さんなんだと思います」
「あの魔物が?嫌だな、そんな冗談」
「この目で見ました。私もそう思いたいですけど....あれは確かに」
「アタシよりはっきり見てた結依が言うならそうか。まあ、人間の手から木が生えるなんてあり得ないもんね」
男の手から伸び出た木が瞬く間にその身体を呑み込み、あの怪物へと変貌させてしまった。
ほんの一瞬の出来事はそれを夢のように錯覚させたが、その後に待ち受けていた衝撃を思えば、それを否定する方がずっと困難な事だろう。
「浅木だっけ。どんな人間だったかは詳しく知らないし、話した時間もそんなになかったけど、なんか悪いやつには見えなかった。アタシ達を助けてくれようとしてたのは本当だと思う」
「そうですね....研究所の外で私達以外の人と出会えたのは初めてでしたし、リッジさんも歓迎してくれたと思います」
「....それもあんな怪物になったら無理なのかもしれないけど」
「....はい」
「でも....あの魔物どうしたら良いんだろう....勝てる気がしないよ」
「何か作戦を考えないと、次の戦いでいくら私達が万全の準備を整えたとしても勝機はほぼ無いと思います。そ、それで、西園寺さんが休んでいる間、私なりにあの魔物の特徴を探ってみました。役に立つかは分かりませんが、良かったら聞いて貰えますか?」
「そんなことしてたの!?よくあんなバケモノ相手に...勿論。聞かせてよ!」
短い時間ではあるが、実際に魔物との戦いで分かった事がある。
「魔物を覆っている木は魔術を打ち消してしまうほど硬いようです。私の魔弾も殆どダメージになっていないみたいでした」
「それはアタシも感じたよ。身体が動くようになって結依を助けに行ったけど、殴っても腕が滑ったくらいだったし、顔を攻撃しても殆ど効いてなかった」
「chevalierにはしっかりとダメージがありましたし、何か秘密があるんでしょうか」
「多分ね」
「話を戻しますが、あの木は攻撃にも使えるようで、自然公園から逃げる時に魔物が使用した攻撃がその一つだと思います。西園寺さんと私が受けた攻撃がそれに似ていましたし、魔物を守る以外にも何か隠していると思います」
魔物を守る樹木の鎧。
それは魔術の一撃を通さず、特異点の力でも破る事は困難な硬度を持っている。
加えて、あの樹木の槍は一撃必殺の大技ではないとは言え、時間を掛けて追い詰められたならば確実に命を奪われるだろう。
「なるほど....そうだ。アイツが左腕でアタシを攻撃した時、腕が赤く光ってたような気がしたんだけど、それは何か分かる?」
「そ、それです。あの時は攻撃に邪魔されて伝えられなかったんですが、あの赤く光る腕が魔物の弱点のような気がするんです」
「弱点!?本当に!」
「か、確証はありませんが、左腕を狙った魔弾には別の反応が見られましたし、そうなのかも知れません」
「分かった。次の戦いの参考にさせてもらうね」
西園寺さんが携帯電話を取り出し、数回の操作の後で耳にそれを当てて会話を始める。内容からして相手はリッジさんのようだ。
「分かった。もう少しここを探索してから戻る。それで良いよね。結依?」
「は、はい。私もそうします」
西園寺さんの提案に頷き、リッジさんに答える。
稲原区全体に広がる緑化現象。それまでは朧気なシルエットにつつまれ、にわかには信じがたかった主犯の正体も、今となってはあの魔物であれば可能なのではないかと思える。
ならば、自然公園から離れたこの一帯でも何らかの痕跡は見付けることが出来る筈だ。
携帯電話をポケットに戻し、西園寺さんは拠点に改造された家へと足を向ける。
その後ろに続いて家の中を進めば、彼女はリビングのソファに座り息を吐く。
「ちょっと休憩しよう。なんか色々あり過ぎて混乱しそうだよ」
「そうですね」
「隣良いよ。座って座って」
「い、いえ!西園寺さんはソファで寝ていても」
「結依が居るのにそんなこと出来ないって。席があるんだから二人で平等に休まないと」
「わ、私は疲れていないので」
「嘘吐かなーい。疲れてますって顔に書いてあるの見えてるからね?」
「え、え?」
「遠慮しないで座って。結依から来ないならアタシが引っ張って座らせちゃうよ?」
「わ、分かりました。分かりましたよ」
伸ばした手をわさわさと動かして悪戯っぽく笑う彼女に促されるままソファに腰を下ろせば、誤魔化していた疲れに押し潰されるように力の抜けた身体がその中に沈んでいく。
「ほら疲れてる。山道歩いて公園探索。魔物相手にあれだけ戦ったんだから、アタシがくたくたなのに結依が元気な方が不思議だよ」
「う....」
「万全な状態で戦わないと危ないなら、遠慮なんてしてる場合じゃないでしょ?休む時はしっかり休まないと」
「....ごめんなさい」
「謝る必要はないけどさ。じゃあちょっとお仕置きね」
肩にとすんと軽い物が触れる。顔を横に向ければ、西園寺さんの頭が私の肩に触れているのが見えた。
「ひああっ!?西園寺さん!?」
「いてっ、こら逃げないの」
「な、なにを!?」
「お仕置きって言ったでしょ。少し休みたいから結依も協力してよ」
パニックになって身を剃らせば、彼女はソファの上に転がって短く呻く。
「き、協力と言われても」
「一人で寝るのも不安だし。良いでしょ?」
「う....だからってそれは....は、恥ずかしいです」
「慣れれば大丈夫だよ。こんな状況でもなきゃお願い出来ないし、思い出作りにね?」
「....分かりました」
罪悪感と羞恥心にまとわりつかれ、しぶしぶ身体を起こして姿勢を正せば、再び彼女の感覚が肩に触れる。
「....なんか違うなぁ」
「はい?」
「こう、頼んでまでするとなんかそれっぽさがないなって」
「ど、どういう事でしょう」
もたれていた体勢を整え、むず痒そうに眉をひそめる彼女に聞けば、普段の明るい彼女からすれば可笑しく見えるしかめた表情で私を見て口を開く。
「漫画とかでもこう言うのって自然な流れで起きるからグッと来るんだよね。分かる?」
「あの、ええと....はい」
彼女の言いたい事はさっぱりだが、それなりの持論があるのだろうと頷き、先を促す。
「そう思うとこれは違うなって」
「そ、そうなんですね」
「となると、もっと結依と仲良くならないと実現出来ないなぁ」
「....」
「まあ、協力して行動すればそれも解決するよね。土壇場ではバッチリ息も合ってたし」
「で、出来るだけ....頑張ります」
よし。と頷く西園寺さんがソファの開いたスペースに横になって目を閉じる。
人が眠るには一人が丁度収まる程度のそれに押し込められた彼女の姿はやけに窮屈そうに見える。
「あ、あの....西園寺さん?」
「なに?」
「寝室もあると思いますし、そちらを使っては」
「結依が使いなよ」
「いえ、西園寺さんが....」
「アタシなら大丈夫。家じゃ疲れてるとソファで寝ちゃうから慣れっこだし」
「遠慮されているなら....その」
「....そう言われちゃ弱いな。言い出しっぺはアタシだし。分かった。まず見に行こう。話はそれから!」
頭を掻きながら起き上がった西園寺さんが、リビングを後に家の奥へと向かう。後ろを付いて歩けば、彼女はプレートの掛けられた寝室であろう部屋の扉を開く。
「わっ、タブルベッドじゃん。ラッキー!」
「本当ですね。これならゆっくり休めそうです」
喜びに弾んだ声を上げる彼女の後ろから部屋を覗けば、そこはダブルサイズのベッドがどっかりと置かれ、周囲には洒落た装飾が施された快適なサイズの寝室だった。
「うん。これだけあれば二人で休めるね」
「ふ、二人でですか?」
「ダブルベッドならアタシと結依の二人で寝られるスペースがあるからね!」
先にベッドの前まで進んだ彼女はそれに腰掛け、シーツの手触りを確かめると満足げに親指を立てて見せる。
「結依は右派?左派?」
「え、ええと....それなら、右で」
「オッケー。じゃ、アタシが左で寝かせてもらうね」
西園寺さんはベッドの左半分で身体を横たえ、その状態で私に手招きをする。
「ほら、結依もおいでよ」
「ええと....では、失礼します」
残ったベッドのスペースに横に寝転がると、寝返りを打った西園寺さんと目が合う。
「にひ。快適だね、結依」
「っ....そう、ですね」
「赤くなったー。可愛いなぁ」
「からかわないでください!」
「あ、ちょっとそっぽ向かないでよ」
「お、おやすみなさい!」
「むぅ。はーい、おやすみー」
距離が近い。今に始まった事ではないが、それを実感する度に心臓が破裂する程に脈を打つ。
彼女の言うように、探索や戦いの場では自分でも不思議な程連携を取って助け合えると言うのに、その盾が無くなった途端に彼女と向き合うのが恥ずかしくて仕方がなくなる。
「あの、西園寺さん....私と居て楽しいですか?」
「ん?何で?」
「廃墟街で私に声を掛けてくれた時から、何も変われていないじゃないですか。そんな私と居て、西園寺さんは嫌にならないのかと思って」
「全然。アタシはつまらなくなんてないよ?だってこうして過ごしてる時間だって結依との思い出になるから」
ごそりと音がして、遠くに飛んでいた西園寺さんの声がはっきりと聞こえるようになる。
「時間なんてどれだけかけたって良いんだよ。そうやって作っていく思い出はいつか結依が皆と仲良く出来るようになって、友達が出来た時にアタシと結依だけの特別な思い出になるからさ。その時間はどれだけ長くたって構わない。それだけ沢山の思い出を結依と話して居られるんだから」
「....変わっていますね」
「かもね。でも結依と仲良くなりたいのは本当だし、思い出を作りたいのも本当。覚えてられなくなるくらい思い出を作って、何年も経ってから思い出して、笑いながら話したいよ」
「....」
「だから結依は結依のペースで頑張れば良いんだよ。アタシはどんな思い出も楽しみにして待ってるからさ」
「....はい」
目元が熱を帯び、浮かび上がった涙が肌を伝う。
「でも、これは絶対忘れられない思い出になるなぁ。結依との初めての冒険だし....まあ内容が映画の世界みたいだし。一生掛けても経験できないだろうなぁ」
「....はい。私も絶対に忘れません」
「じゃ、これはアタシと結依の一番大切な思い出になるね。何か楽しくなってきた。絶対生きてここを出てやるぞ!そしたらもっと楽しい思い出も一緒に作ろう!」
「はい。ありがとうございます。西園寺さん」
思い出。それまで写真に納め、栞で留め、寂しさの紛らわしにしてきた物。
一人きりで振り返るだけの虚しかったそれも、新しく作るのは二人の思い出にしようと言う彼女。
やはり私には勿体無いほどに、彼女は輝いている。
涙に濡れた顔を見せる事も出来ず、ただ声の震えを悟られないように答え、目を閉じた。
巨影の猛攻を掻い潜った二人。
次なる目覚めは、何をもたらすのか。