ココロネ・リンカーネイション   作:rippsan

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待ち受けていた黒い存在。結衣を呼び寄せたその目的は何か。


異黒笑渉

「随分酷い目に遭ったらしいな。ご自慢の制服もボロボロだ」

 

 耳元で聞こえていた声が消え、目の前に居る黒い物から同じ物が発されている。声の主と思しきそれは、私の姿を見てケラケラと笑い出す。

 

「な、何がおかしいんですか!」

「んや、悪い悪い。全くみっともない格好だな」

 

 謝りながら貶されても、全く誠意が見られない。

 

「にしても、上出来な戦いだったな。他の連中は成す術もなく死んでいったってのに、お前は腕二本で生き残った。流石は連中期待の戦力だ」

 

 それは私の前に歩み寄り、しげしげと身体を見つめてから一つ息を吐いて愉快そうに笑う。

 

「れ、連中?」

「RMCだったか?俺達の世界にクソ迷惑な研究所をおっ立てて無断占拠してやがる連中のことだよ」

「俺達の世界....」

「そうだ。ここは俺達が管理してる世界だ。それを連中は許可なく改造してくれやがった。いつまであんなものを放置してる気かは知らないが、さっさと出ていってほしいもんだ」

「こ、ここはどこなんですか。あなたが管理しているなら分かるんですよね」

「ここは俺達の世界だ。名前なんて物はない。強いて言うなら、これまた連中が勝手に命名してくれた『錠前の魔境」だな」

 

 魔境。大袈裟な単語が飛び出す。

 

「この世界は俺達があるバケモノから隠れる為に作った世界。お前の暮らす荒津市に重ねてカモフラージュにしてたところを....めざとい蛇共だよ」

「重ねて....カモフラージュ?」

「なんだ?実力はあってもココは空っぽか?」

 

 尖った指のような物で頭であろう場所をつついたそれは、再びケラケラと笑い出す。

 

「付け焼き刃でそこまでやったのか?ハッ。こいつは一級品だな!ますます使えそうだ」

「な、なんなんですか」

「いや、思っていた以上に何も知らないんだと思ってな。実力者なうえに笑いのセンスも天性の持ち物とは....気に入ったぜ。お前とは退屈しなさそうだ」

 

 クスクスと吹き出しながらやっとのことで静かになったそれが一つ咳払いをして私に向き直る。

 

「いいぜ、これもお互いの為だ。必要な事は教えてやるよ。まずはここについて知ってもらおうか」

「....お願いします」

「と、その前に腕を治しておけよ。悪いがそういうのは俺達の専門外だ。医療キットが何だとか言ってたんだ。出来るんだろ?」

 

 

 腕の処置を終えバックの蓋を閉じると、遠くから私を眺めていた黒い物が感嘆の声を上げる。

 

「ほう。注射一つで傷が治るってのか。子供のお遊びみたいだが、連中の技術ってのは底が知れないな」

「私も詳しくは分かりませんが、そうらしいです」

 

 興味深そうに私の腕を見たそれは、腰を掛けていた家具から降り、咳払いをして私の質問に答え始める。

   

「良いか。まず世界ってものは一つじゃない。並行する大量の世界があって、それが層になって出来てる。もしもの世界。並行世界ってやつだよ」

「別の可能性。と言う話ですよね」

「ふむ?そこは分かるんだな」

「す、少しなら」

「なら手っ取り早く済ますぜ」

 

 ニヤリと笑うような素振りを見せたそれが続ける。

 

「この世界はお前の暮らす荒津市の上に俺達の仲間の力を被せた型に俺達が手を加えたモノだ。改造された荒津市ってやつだな」

「つまり、並行世界ではないと言う事ですか」

「その通り。この世界は荒津市に掛けられたヴェールみたいなモノで、端からは見えないように出来てるんだ....まあ、それを見付けて入り込んだ蛇が居るわけだがな」

 

 それが肩をすくめて自虐的に笑う。

 

「でも、どうしてそんな事を」

「言っただろ。俺達は隠れてるんだ。出来る限りバレないように細工する必要がある」

「な、なるほど」

「リソースの出所は丁度適役が付いてきたからそいつを利用して、後は出来上がった型に俺達が細工を仕掛けて完成ってな要領だ」

「だとしたら、貴方はどこから....そうです。貴方は誰なんですか。教えて下さい」

「んー、まあ約束だからな。しかしどうしたもんか。俺達にも名前は無い。だが人間ってのはコミュニケーションに名前を使う」

 

 歯切れの悪い反応をしたそれは、一人で何事かをぶつぶつと呟く。名前が無いとはどう言う事なのか。

 

「よし、なら俺達は『リッジ』って事にする。じゃあお前の名前も聞かせてもらおうか。人間にも名前はあるだろ?」

「か、神代結衣です」

「結衣ね。オーケー理解した。よろしく頼むぜ」

「リッジさん。貴方はどこからこの場所へ?それに、名前が無いと言うのは」

「まだ聞きたいのか?しかも妙に痛いところを。さてはなかなかに鋭いやつだな」

「ご、ごめんなさい」

「まあいいさ。俺達はこの世界の住人じゃない。遥かに離れた別の世界からここに逃げてきた。異世界の住人ってわけだ。それで名前が無いってのは簡単だ。俺達は役割を与えられて働き、時期が来たら代わりに交換だけの道具みたいなモノ。そんな道具にいちいち名前なんて付けても意味がないだろ」

「....」

「まあ、元々俺達は名前なんて無くても仲間くらい認識出来るからな。役割が俺達の名前みたいなもんだ」

 

 随分と変わった世界に生きているようだ。きっと私達には不便な場所だろう。

 

「もういいか。ならこっちからも聞かせてもらうぜ。お前、なんで魔術を使えるんだ?アレは正しい知識が無いと扱えないらしいが」

「そうなんですか?」

「それは俺達が聞きたいんだよ」

「そう言われても、私にもさっぱりで....病気の治療を受けて、気付いたらここであのロボットに襲われて、偶然会った人に貰った道具を使ったからとしか....」

「ふむ?治療に道具....ねぇ。つまりお前は連中の特注品ってわけだ」

「と、特注品」

「ならあのガードボットも始末して当然だ。やはり働いてもらうにはお前が適役だな」

「働く....ですか」

「取引の話だ。お前に頼みたいことがある」

「....」

 

 私がここにやってくる前に声が口にしていた言葉を思い出す。目の前の奇妙な存在は何を要求してくるのだろうか。

 黒一色の奇妙な姿を前にいっそう増した不審感に意識せず喉が鳴り、生暖かい唾液が喉を降りていく。

 

「連中をここから追い出す手助けをして欲しい」

「連中を追い出す?」

「お前にしてみれば恩人かもしれないが、俺達には苦労して作り上げた世界を荒らす迷惑な滞在者だ。一刻も早く俺達の世界から出て行って貰いたい。そこでお前の出番だ」

 

 楽し気な声で私を指さすそれは、不気味な成りに目を瞑れば友達同士で悪企をする無邪気な子供のようだ。

 

「連中の強みは物量だ。俺達がどれだけ手を回しても届かないところで好き放題されたんじゃ何の意味もない。ここに送る捨て駒も吐いて捨てる程あるらしく、ちょっとした破壊工作は未遂で処理されて振り出しだ」

「それなら、もっと大きな作戦を立てれば良いんじゃ」

「それだ。お前が来たおかげでその作戦ってのを思いついた。ついさっきな」

「そんな突然思い付いた作戦で成功するんですか」

「心配には及ばない。俺達はこの世界の管理者だぜ?」

「それなら私に頼る必要ないんじゃ....」

「楽したいのは誰だってそうだ。その為に都合のいい道具が現れたなら使うのは当然だろ?」

「....」

「そう不満そうな顔するなって。お前にも充分メリットはあるんだからな」

「それは、確かにここは安全そうですし、案内してもらった事には感謝していますけど」

「ああ、あれはお前を生きてここに連れてくる為のサービスだ。死なれたら取引も何もないからな。先行投資ってやつだよ」

 

 指を振って私を制したそれは、鼻を鳴らして答えを続ける。

 

「まず、連中を追い出す為に必要な条件ってのを俺達で考えた。そこから聞いて貰うとするか」

「....はい」

「一つ。連中の活動拠点を壊す。ここで生活している人間ってのは出来損ないの捨て駒共だ。ガードボットの暴走で簡単に全滅する程度には弱い。そしてこの建物にガードボットが配置されているのは、外の化け物から中の人間を守る為だ。活動の要になる要塞を破壊してやれば、いくら人間を送り込んでも直ぐに全滅する。無限の捨て駒にも底はある筈だ。連中の戦力を削ぎ落すには手っ取り早い」

「....そんな。罪もない人を危険に晒するって事じゃないですか」

「連中が諦めたら良いだけの事だ。俺達も立派な被害者なんだぜ?」

「....ですけど」

「力の無い物は淘汰される。生き残りたきゃ死ぬ思いで足掻かなきゃならない。力をつけて生き足掻かなきゃならないところを、ここに居た奴らはガードボットに守られていたからと後回しにして生きていた。これから俺達の計画で何が起ころうと、それは奴らが考えて生きることだ。こんな世界じゃ、価値の無い奴を誰も助けちゃくれないんだよ」

「....」

「そして二つ。連中の目的を果たす。これは連中の話を盗み聞いて分かった事だが、奴らは何らかの研究をしているらしい。ジンレツショウとか言うモノらしいが、俺達にはさっぱりだ」

「人裂症なら、私が治療してもらった病気の事だと思います」

「ほう?更に前を使う理由が増えたな。連中の目的がそこにあるなら、お前が俺達の世界に来た理由も納得が行く」

「ここに来た理由....」

「治療後のリハビリみたいなものだろう。連中にしてみれば経過観察序でにデータ収集を済ませようって事だろうな。兎に角、連中の言う研究ってのがお前の病気についてなら、満足する結果が出ればそれでこの世界から手を退く可能性もある。これは間違いなくお前がキーパーソンの計画だな」

「目的を果たすと言っても、具体的には何をするんでしょうか」

「それはこれから調べて行く事だ。今は見通しが立っただけでも大収穫だ」

「そ、そうですね」

「で、取引の話に戻ろう。俺達がお前に出せるメリットは、脱出のバックアップってのでどうだ。この建物一つから出る事にも苦労してたような状態だ。仲間は一人でも居た方が心強いだろ。それに俺達はこの世界の管理者だ。事が上手くお前に向くように細工をしてやることも出来る。勿論、お前が無事にこの世界から脱出するまでの支援だ。文句は無いだろ?」

「なんだか都合が良すぎるような気がしますけど....」

「お前がこの作戦の要になる以上、サポートを惜しんでられないだろ。ガードボット一機にあの大立回りなんだからな」

「う....」

「本物の魔術師ならもっとスマートに倒すんだろうな」

「仕方ないじゃないですか。初めての戦いだったんですから」

「まあそうだな。とは言えあの戦いに満足されちゃ困る。さっきも言ったが、建物の外にはガードボットを越える化け物がウジャウジャと居るんだ。俺達でも全てをカバーすることは出来ない。戦いと魔術の技はしっかり鍛えておかないと、あっという間に死ぬ事になるぞ」

 

 ヘラヘラと笑い私の反応を楽しんでいたそれが静かになる。

 

「で、どうする。俺達と手を組んでここから脱出するか。それとも休憩が済んだらここを出てまた暗い研究所を一人で探検するか....ここなら時間は腐るほどある。悩みたきゃ存分に悩みな」

 

 わざとらしく一人と言う単語を強調し、それは笑いを堪えながら私を煽る。それの提案が正しければ、ここからの脱出は楽になるのだろうが、やはりどうにも不安を拭い切れない。

 

「本当に裏切らないんですね」

「だからそうだって言ってるだろ?だいたい裏切って俺達に何のメリットがあるんだ」

 

 馬鹿な奴だと一蹴し、それは大袈裟な声と動きで私に語り掛ける。

 

「お前の身体を乗っ取れって?お断りだね。こんなナリだが生憎憑依だなんだって芸当は専門外だ。それにお前の身体なんて宿にしてもここで役に立つ筈がないだろう。それともお前を踏み台にしてここから俺達が逃げるってのか?何のためにこの世界を作ったんだよ。わざわざ居場所知らせに大手振りながら隠れ家から飛び出す逃走犯がどこに居る。お前と入れ替わっても何も変わらない。寧ろお互い状況が悪化するだけだ」

 

 どちらも正論。それにとって私は自身の直面した問題を解決する為の協力者であり、計画に関わる重要な戦力だ。裏切ったところで何の得もしない。それを疑い過ぎるあまりに考えもしなかったが、言われて考えてみれば全くその通りだ。

 

「う....ごめんなさい」

「それで、どうなんだ。お前にもこれ以上無いメリットだと思うぞ。もっとも、俺達と組むより割の良い仲間が居るってなら話は別だろうが」

 「....はい。よろしくお願いします。リッジさん」

「そう来なくちゃな。よし、そうと決まれば早速準備開始だ。まずはこの施設の電源を復旧させなきゃならない。まずは発電室へ向かってくれ。それとこいつも返しとく」

 

 それの手には何故か私の携帯電話が握られている。

 

「いつの間に!?」

「ちょっと細工させてもらったが、別に使う分に支障は無いから心配無用だ」

「さ、細工....爆発したりは」

「しない。何で陥れる話になるんだ。お前を支援するのに必要な機能を入れただけだよ。必要無くなったら勝手に消える。どれだけ信用無いんだよ俺達は」

「....ごめんなさい」

「どうせ元々のそれの機能は使えないんだろ?こっちの世界用に調整しておいた。邪魔になるようなモノはない」

 

 人は見掛けによらない。

 それが人なのかは別として、善意で手を貸してくれようとしているのは間違い無いようだ。過度に疑って不審がる私の方が悪意のある人間に間違われても文句は言えない。

 

「で、ここからは別行動になるわけだが、何か確認しておきたいことは」

「え、えと。この建物にはまだあのロボットは居るんでしょうか」

「両手で数えられる量だが居る。一度倒した相手なんだ、倒せない事は無いだろうが....そうだった。何やら新型の試作機が投入されたと連中が言ってたな。そいつとは会わなように動くのが賢い選択だろうな」

「その、目的の発電室と言うのは....私、機械の修理なんて出来ませんよ」

「その心配はいらない。到着したらその電話とか言う機械で俺達を呼べば仕事は終わりだ」

「わ、分かりました....何と言うか、便利なんですね」

「俺達の作った世界だからな。手の届く場所の事なら朝飯前ってやつだ」

 

 一問一答の質問に、それは台本でも用意しているかのようにスラスラと自信ありげに答える。

 他に聞くべき事は無いかと考えている内、ある重要な目的を思い出す。

 

「西園寺さん!」

「あ?なんだ急にデカい声で」

「こ、ここにもう一人私と同じ人が居る筈なんです!」

「同じ?それはどういう意味でだ?」

「え、えと、私と同じ病気で、私と同じ治療を受けて、私と同じ場所....つまりこの建物に、それで....」

「待て。聞くから落ち着け。慌ててるのは分かる。それだけ重要なら尚更落ち着け。ちゃんと整理してから話さないと解決出来なくなる」

「は、はい。ごめんなさい」

 

 落ち着き払った様子で私を制し、それは溜め息を吐く。

 

「まず、そいつは人間で、お前と同じ状態にある。その同じ状態ってのはなんのことだ」

「西....その人も私と同じ人裂症の患者で、私と同じ施設に治療を受けに来ていたんです。ここに来るまでに会った人に聞いたことなんですが、私ともう一人の人間がこの場所に送られる予定だったそうで、その特徴が同じなんです」

「ふむ....それで」

「その人も助けないといけないんです。私の問題に巻き込んでしまったので....」

「....こっちにメリットはあるのか」

「ええと、恐らくですがその人も私と同じ力を持っていると思います。それに、私より体も丈夫で運動も得意なひとですから、私より強いと思います」

「なるほどね....にしても、見てたところ身体能力どうこうで勝てるような敵じゃないよなアレは」

「う....」

「その人間が何だか知らないが、お前の世界の常識がこっちに通用するとは思わない方が良い。現にお前の魔術でガードボットは倒れた。そいつも同じように魔術を使えるとしないと説得力には欠けるな」

「で、ですが、戦える人は一人でも多い方が良いはずです!」

「まあそうだな。万が一の時はその人間を盾にしてお前を逃がしたら良い」

「それは駄目です!」

「それはまた何でだ。聞かせてもらおうか」

「私を助けてくれたからです」

「....ハァ」

 

 心底くだらないと言った様子で息を吐いたそれの空気が呆れを帯びる。

 

「あのな。この際義理人情は捨てた方が身のためだ。ここの連中にそんな甘ったれたモノは備わってない。命晒す状況でお涙頂戴の大根芝居なんてウケも取れないぞ」

「ですが!」

「共倒れになったら無意味だ。一人でも生き残らなければ全ての努力が水の泡になるだろ」

「っ....」

「その人間を救出しようって話。それには乗ってやるよ。だが仮にお前の身に危険が及んだ時には真っ先に切り捨てさせてもらう。今の俺達にはお前の命が何よりの最優先だ」

「私なんかより西園寺さんの方が!」

「そいつが誰だかなんて興味はないし、お前がどれだけ自分を卑下してそいつを高めようが、俺達にすればガードボットを撃破してここに居るお前の方がよっぽども優秀で価値のある存在なんだよ。分かるか?」

 

 価値ある存在。滅多に聞くことも無い称賛の言葉に怯むが、引き下がるわけには行かないと反論を止めることはしない。

 

「私がここに居る事そのものが西園寺さんの後押しがあってこそなんです。決してあなたにとって価値の無い人ではありません!」

「そっちの世界での経緯や事情じゃない。実力の話をしてる。この世界で生き残る為に必要な力が無いなら、身代わりくらいにしか役に立たないって話をしてるんだ」

「どうしてそんな命を無駄にするようなことばかり!」

「寧ろあんな危険な思いをした直後に何でお前は仲間を連れて生きて帰るだなんて無謀な考えを出来るんだ。馬鹿なのか」

「ばっ!?」

 

 熱くなる私に対し、それは言葉を返すごとに無意味な会話への飽きが分かりやすく浮かび上がってくる。

 

「ガードボットを怖がってる割には随分大胆な行動に出る。そんなにそいつが大事か」

「あ、当たり前です」

「ふーむ....」

 

 それは面倒だと顔に浮かぶ程に冷めた様子で私を見ていたが、堪えかねてか深い溜め息を吐く。

 

「譲る気は無いワケだな....仕方ない。ならこうしよう。作戦通りその、サイオンジとか言うやつを助けることはしよう。そいつを切り捨てるかどうかは見極めさせてもらう」

「見極める....」

「お前がそこまで気に掛けるんだ。さぞお強いバケモノなんだろ。なら試してみようぜ。本当にこの脱出計画に必要な人間かをな」

「....」

「これからの行動を見て、そいつにお前と同じかお前以上の才能があったなら考えを改める」

「それは」

「そいつも一緒に守ってやるって話だ。お前一人助けるだけでも忙しい事だが、俺達の目的を果たす為の協力者なら出し惜しみをするのはナンセンスだからな」

 

 やれやれと大袈裟な身振りをしてそれは息を吐く。

 

「あ、ありがとうございます。リッジさん!」

「礼を言うには早いだろ。そいつに価値がないなら俺達は考えを変えないってことなんだからな。お前がやるべき事はそいつが優秀な奴だって事を願うか、そうでないならそいつに才能があるように俺達を騙す事だ」

「っ....はい」

「にしても、クヨクヨしていたかと思えば急に勢い付いたりまたしおらしくなったり。忙しい奴だな」

 

 疲れないのかと言うそれの表情は子供っぽいにやけ顔に戻っている。

 

「あれか....それらしいのは居た。赤髪の女か」

「そうです!西園寺さん....良かった」

「安心できる状態じゃなさそうだぞ。絶賛ガードボットとの追い掛けっこの真っ最中だ」

「え!?」

「こっちからの干渉は出来そうにないな....仕方ない。さっき使った道でお前をそいつの所に送る。とにかく必死で走れ」

 

 それの横に黒い楕円が現れる。中は吞まれそうな漆黒に濡れている。

 

「一つ教えておく。お前がガードボットと戦った時に使った力だが、アレは意識することでお前の身体能力を強化する力だ。出鱈目に速く走れるし上手くやれば殴るだけでガードボットに風穴が空く」

「あのロボットに....」

 

 冷や汗が浮かぶ。

 

「速く走りたいと意識してこの中を走れ。そうすればそいつの所まで時間はかからない。あとは魔術と組み合わせてもうガードボットを倒すなり逃げるなり好きにしたら良い」

「わ、分かりました」

「作戦は簡単。お前の仲間と合流して安全を確保出来たら俺達を呼べ。後はさっきやったのと同じだ。生きて戻ってくることだけ考えろ。死んだりするなよ?ミイラ取りがミイラになったなんて話が聞きたくて送り出すわけじゃないんだからな」

「はい。行ってきます」

「しっかりやって来いよ」

 

 黒い穴を潜り、速く走ると念じて足を動かす。

 踏み出す足は羽が生えたように軽く、一歩ごとに歩幅を増して肌を撫でる風が強まる。黒い世界では景色でその速さを知る事は出来ないが、きっと燕のように走っているのだろう。

 

                               ●

 

 

 視界に青みがかった灰色が映る。

 

「見えた!」

 

 ポーチの中に手を突っ込み、マギアコアに触れる。

 脳裏に浮かぶイメージを読み取り、指先に力を流す。

 跳びたい。願い黒い床を蹴る。

 世界が切り替わると同時に視界が彩られ、暗い世界が目を刺す。浮遊感が身体をつつみ、ゆっくりと地に向かって落ちていく。

 駆動音は右から。着地すると同時に忌々しい音の主に向けて指を突き出す。

 

「魔弾ッッ!!」

 

 赤黒い弾丸が空を切り、視界に飛び込んだ鉛色の巨影を襲う。後方からの衝撃に体勢を崩したロボットが電子音を鳴らす。

 

「な、なに!?」

 

 巨体の向こうで上がった声に安堵と焦燥が同時に湧き上がる。ロボットの脇を抜けると、向き合う形で固まったままの人影が見える。

 

「西園寺さん!」

「だ、誰!」

「逃げましょう。走ってください!」

「っ。分かった!」

「敵性存在に増援を確認。執行態勢を変ーーー」

「魔弾!」

 

 起き上がろうとするロボットの頭部に弾丸を叩き込み、人影を追って走る。

 後方で鳴る電子音。たった二発であのロボットを倒せるはずもない。逃げても戦ってもここからが本番だ。




書き上げて投稿したつもりでしていない。本来なら年末にあげていたはずのもの。
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