アフタースクール・ラビュリントス   作:潮井イタチ

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第11層「*ぐだぐだ*」

「〝――バッテリー残量が少なくなっています〟〝炉心を稼働するか、アンセスタを充電してください〟〝――バッテリー残量が少なくなっています〟〝炉心を稼働するか、アンセスタを充電してください〟〝――バッテリー残量が少なくなっています〟〝炉心を稼働するか――」

 

 ぐったりとしたアンセスタを自販機のある場所まで負ぶさっていき、適当なジュースを飲ませてみた。

 

「〝アンセスタを充電し―― 〟みゃあ。おなかがすきました」

「急に動かなくなるからマジでビビった……」

「黄金歴程が使えれば無限にエネルギーを生成可能なのですが。それと、ジュースじゃ全然足りません。迅速な補給を要求します」

 

 そういうわけで、近場のファストフード店へやってきたのだった。

 

 平日かつお昼前であるため、店内はあまり混んでいない。

 ズタボロになった体を椅子に預け、応急処置をした傷跡を替えの服の上から撫でる。

 とりあえずホッチキスで留めただけなのだが、すでに傷口がふさがりかけていた。少なくとも、服の上からではわからない。腕が使い物にならなくなってもおかしくない怪我だったが、激痛はありつつも普通に動かすことが出来ている。

 

「……治癒促進ナノマシン、だっけ。これ、副作用とか――」

「一度や二度の投与では問題ありません。多用すれば多発性骨髄腫のリスクが劇的に。あと、白髪が増えます」

 

 そう言う小さな口が、いつの間にかバーガーを食べ尽くしていた。俺の分も含めて。

 もうちょっと量の出るタイプの店に来るべきだったか。後悔する俺に対し、小動物のようにさくさくとフライドポテトをかじりながらアンセスタが言う。

 

「それで、クウマ。今後の方針については――本当にあれで良いのですか?」

「このまま向かってくる奴ら全員ブッ殺していこうぜ」

「ぱわー。好感度が上がります」

 

 方向性を再確認し、本格的な作戦会議へと移行する。

 

「ひとまずはアインソフを大ボスとして定めましょう。アレら超越七主(オーバーローズ)は、単独で一つの勢力として成立するほどの存在です。特に、アインソフは千四百年も世界の頂点、その一角に居座ってきた怪物。討伐すれば複数の大勢力に対する影響力が持てます。ノギスも軽率には我々に手を出せなくなるでしょう」

「そういうもんか」

「そういうもんなのです」

 

 言われてみればあのノギスの『主任』もそんな感じのこと言ってた気がする。

 

「重要なのは、この街にノギスの息がかかる前に決着をつけることです。つまりは、一週間以内に」

「一週間……」

 

 長くはない。世界を長きに渡って苦しめてきた巨悪を倒す準備期間と考えれば、短いにもほどがある。

 しかし、それを言うなら年季の長さでアインソフに敵う存在はいないのだ。ならば極論――本当に極論だが、一週間でも一年でも変わりはない。

 

「最低限の教練は行いますが、まともな戦闘訓練をする余裕はありません。準備するならば、物資・武備、そして戦術・戦略的な面を主とすべきでしょう」

 

 経験値の大小ではどう足掻いても敵わない。だから、道具と策に頼る。現実的だ。俺はアンセスタの合理性に感心しうなずく。

 

「すぐに済ませられるところとしては物資・武備面ですね。先ほど使ったこの糸も、もっとしっかりとしたものを用意しましょう。細かなところですが、装備の信頼性は重要です」

「それ毛布の糸だもんな……」

「ホームセンターで二、三千円のワイヤーロープを購入してくるだけでもかなり違うはずです。あの毛布も、戦闘に使うならばもっと軽くて丈夫な布の方がいいでしょう。……おっと、それとは別に新しい毛布も必要ですが」

「ん、ああ。ついでに買ってくるか。あの毛布、昨日と今日でズタズタになっちゃったし」

「お願いします。敷き布団と掛け布団とまくらとクッションも一緒に」

「ん?」

 

「あと、弊機のエネルギー切れを防ぐための食料も重要です。今回はエネルギー切れ寸前で決着がつきましたが、次もそう都合良くいくとは限りません。クウマの迷宮内に十分な貯蔵を持っておくべきでしょう」

「そうだな、買い込んでおこう」

「あとでいっしょにおやつ選びましょうね」

「あ?」

 

「それと、白亜回廊の中にいくつか電化製品を用意してもらえませんか? ノギスの専門エンジニアには敵いませんが、弊機にも多少の工作スキルはあります。素材があれば、状況に応じて簡素なデバイスを作る程度は出来るでしょう」

「うーん……まあ、俺の財布ならいくらでも使っていいけど……」

「ひとまず冷蔵庫とテレビがあれば文句は言いません。ゲーム機は既にあったので。迷宮内には水場もありましたし、必要な電気は弊機が発電できます。あと入ってた漫画、十巻が抜けてたので後で入れておいてください。全てはこれからの戦いのためです」

「待てや」

「にゃん」

「にゃんじゃねーよ」

 

 メカ少女が猫ポーズと鳴き声で誤魔化そうとする。人の体内で暮らす気かてめー。

 

「だって良い感じの部屋があったので。そも他のどこで過ごせというのでマイクレイドル。家族には弊機のことを知られたくないのではなかったので?」

「……こう、ドラえもんよろしく押入れとかで……」

「だめです。居住性が段違いです。犬小屋とホワイトハウスです」

「そんなに」

「携帯端末を貸してください、内装を撮ってきてあげましょう。少し失礼しますね」

「別にいいよ暴走した時に一回見たから。やめろ、腹に頭を突っ込もうとするんじゃない」

「服の上からだと入りにくいようです。脱いでください。胸元開けるだけでいいので。というかもう面倒なのでずっと胸元開けといてください」

「あーもう」

 

 どうにかアンセスタの横暴を押し止め、話題を戻した。

 

「真面目な話、戦闘目的に限らず様々な物品を入れておくべきです。迷宮主との戦闘では何が役に立つか分かりません。いくらでも物が持ち運べる以上は、その特性を最大限活かしましょう」

「迷宮の容量は莫大なのかもしれないけど、資金まで莫大に用意できるわけじゃないんだぞ……。それに、日用品が必要になる場面があるのは分かるけど、それはそれとしてやっぱり武器も要るだろ」

「それなら両方とも既にあてがあるではありませんか」

「……まさか」

 

 俺は唯一の心当たりを答える。

 

「室久の――蚩尤の迷宮か?」

(イエス)。迷宮主が居なくなったからと言って、迷宮自体が崩壊するわけではありません。最深部の(コア)を砕くか、物理的に全壊させない限りは迷宮はその機能を保ち続けます」

「確かにあそこなら武器も資金も手に入るか……でも、あそこはもうノギス工業に割れてるんじゃ?」

丸帝(まるて)主任の率いる小チームなら問題ないでしょう。彼らに迷宮探索を行えるほどの装備も人員もありませんから。出来て機械的な監視と人払いまでかと。弊機とクウマの特性があればほぼ確実にすり抜けられます」

 

 淡々と語るアンセスタ。

 

「いずれにせよ、まともな飛び道具――銃火器の確保は急務です。条件付きとはいえ、飛び道具無効のクウマが遠距離射撃に徹すればそれだけで相手には脅威ですから」

 

 つまり、まずはあそこで武器と資金集めというわけだ。いよいよゲームじみてきた。

 

「物資・武備的な面はひとまずこの程度にしておきましょう。詳細は後に再度相談を。では、次の議題です」

「ええと……戦術・戦略だっけ。現状でもかなり頑張ってるつもりなんだが」

「確かに、先の戦闘での作戦立案はほとんどがクウマによるものでした。その有効性と発想力は高く評価します」

 

 ですが、とアンセスタは逆接する。

 

「一点だけ――あなたの戦術管理には、重大な瑕疵が見られます」

「重大な瑕疵――?」

 

 細かい部分でのミスはいくつも思いつくが、重大とまで言われると逆に心当たりがない。根本的な部分での問題は往々にして本人に自覚が無いものだが……。

 

「……分からない。教えてくれアンセスタ。それは、一体……」

「ネーミングがダサいです」

「ネーミングがダサい」

 

 思わず復唱した。

 

「いえ、ダサいは不適ですね。直球過ぎると言いたいのです。先の作戦名も、『挟み撃ちにしてボコる』ではこちらの狙いが筒抜けです。その分では、あの白亜の右手にもろくな名前をつけていないのでしょう?」

「俺は一応『忘れろパンチ』って呼んでるけど」

「ダッサ」

 

 わざわざ意識して顔しかめやがったコイツ。

 

「いえ失礼、」

「意図せず感情が顔に出たみたいに言ってんじゃないよ完全随意表情筋」

「ともあれ、凝った名前というのはある種の符牒になります。味方にのみ意図を伝え、連携しやすく、かつ相手に悟られないようにする立派な戦術。というわけでちゃんと技名をつけてください」

「えー……じゃあ『フォーゲットパンチ』で……」

「みゃあ! みゃあみゃあ!」

「あーもーわーかったから」

「いざと言う時に叫びやすくて耳触りが良くそれでいて技にかける思いが伝わる感じの名前でお願いします」

「注文が多い」

 

 だが、そう言われてもこの白亜に特別な思いなんて無い。これは「元に戻す」ためのものだ。普通の日常を取り戻すための力。周囲が普通であってほしい、なんて感情に何か特別な名前をつけるのは難しい、と思う。

 

「注文と言えば、クウマは何を食べますか? 弊機の分だけ頼んで自分の分は頼んでいなかったでしょう。弊機がオーダーしてきてあげます」

「自分の分頼んだけど君が二つとも食べたんでしょ」

「だってクウマが『アンセスタは何食べる?』『うみゃあ。ダブルチーズバーガーが良いです』『じゃあ、ダブルチーズバーガーのセット二つで』と言ったのではありませんか」

「二つとも食えって意味じゃねーよ。特にオーダーないから、適当に定番っぽいの――あ、『ホワイトオーダー』とかどう? 技名」

「グッド。それでいきましょう」

 

 そんな感じでヌルッと諸々の名称を決めていく。

 なんだかんだと理由をつけてはいたが、ぶっちゃけアンセスタの趣味だろう。相変わらず無表情ではあるが、どこか浮ついた様子で俺から奪い取った携帯に何やら打ち込んでいる。

 

「……文句つけるわけじゃあないけど、もうちょっと真面目に……」

「なんですか。『前向きisベストだぜ』と言ったのはクウマではありませんか」

「言ったかなあ」

「なら、やっぱり、もっと……――()()()()()()()やった方が、いいでしょうか」

「――――。いや、そうだな。悪かった」

 

 含まれた意味を察する。伺うような彼女の瞳に、せめて明るく笑いかけた。

 

「楽しくやろう、アンセスタ。俺もお前も、何も間違ってないんだ。そりゃ、ずっとこの調子ってわけにもいかないだろうけど……だからって、ずっと辛そうにしてやる義理もない。――確かに、俺が言ったことだ」

「ではクウマの携帯に義手と連携して必殺技を使うと自動でBGMが流れるアプリをインストールしておいたので後で流したい曲を設定しておいてください」

「やっぱりもうちょっと真面目にやれ」




ヒチ(@hichipedia)さんからアインソフのイラストを頂きました!(二枚も!)これは見事な大人気キャラだと関心はするがどこもおかしくはない。マッチョで顔が良いのすき
【挿絵表示】
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