白亜回廊へと流れ込んでくる彼女達の記憶・経験・感情。
自分が二人の何も知っていなかったことを痛感する。その悲哀、その慟哭、その献身。
それら全てをしかと理解し、噛み砕き――その上で俺は言う。
「――
眉間にシワが寄るのが分かった。額に青筋の浮かぶ感触がした。ギリ、という音で、自身が歯を食い縛っていることに気がついた。
「何でだ……?」
「あ、う、ぇ……?」
ただ許せないという思考だけが、生命力に代わってこの肉体を駆動させる。
「何でだ? 何で、こんなに! 死んだ奴のことを想って、苦悩して、罪を感じてッ! そんな風に思える心も意思も――
「ク、ウマ――?」
だから、何より許せないのはそれだった。
二人がこんなに苦悩するのは死者を慮れるからだ。道徳というものに真面目に向き合っているからだ。責任感があるからだ。何もかも無視してそんなのは自分のせいじゃないと言ってしまえば全て解決するのに、そう出来ないぐらいの優しさがあるからだ――何でそんなに優しい人間が、こんなに嘆いて苦しまなきゃいけない?
白亜に貫かれ、昏倒した二人がふらつきながら目を覚ます。
俺が殺した数分を彼女らを覚えていない。彼女らの認識には、ただ死の間際に荒れ狂う俺の姿だけがある。
「む、村雨くん……何、なんで、何が――」
「いいかよく聞け再街ィ!
「な――」
血を吐いて叫ぶ。時間は無い。無いからこそ、それをはっきりさせておかなくてはならない。
白亜から流れ込んで来た情報を踏まえて、俺は再街に血濡れの指を突き付ける。
「その上で言うぞ!
「まっ……待って、待って! 急に、そんな――!」
「黙れェ! テメェの言い分聞く気も時間もねえんだよこっちは! 何度でも言うぞ、
霞み眩む視界に、彼女らの狼狽する顔が映る。
二人とも混乱して状況なんて掴めていなかった。アンセスタはどうしていいか分からずに義手を虚空に彷徨わせ、再街は訳も分からず泣きそうになっている。
「無意味だ! こんな迷宮、何の意味もねえッ! ここにどれだけ人間を囚えて、逃げられないようにしたところでッ、お前の心なんざ誰にも理解されねえよ! ああ当然、俺だってそうだ! ヒトの気持ちなんて分かるわけねえだろ! テメェらのことだって知るか馬鹿が!」
視界の端に映る
【ステータス】
村雨空間 Lv8 HP1/69kg
【ステータス】
村雨空間 Lv8 HP0.7/69kg
【ステータス】
村雨空間 Lv8 HP0.4/69kg――
そんな数値の減少に正直何も感じない。本当のところ、俺が死ぬのも生きるのもどうでもいい。実際大して変わりの無いことだ。――だが、こいつらのしみったれた絶望だけは見過ごせない。
「……っ、ぅ……!」
涙の落ちる音。虫の息で吐いた言葉に、再街は追い詰められていた――そんな程度の奴だ。コイツは。
再街左希も、そしてアンセスタも。そんな程度の言葉で動揺する、普通の女の子だ。
だから、絶対に――こんなワケの分からない力を持って、こんなワケの分からない場所に、こんなワケの分からない理由で閉じ籠らされて良いわけがない――!
「何、なの……?! 知らっ、知らないなら、そんな勝手なこと言わないでよ! 私の、私たちのこと、何一つも分からないのなら――、ッ!?」
一歩、大きく、踏み出した。
だがそれ以上は進めなかった。あるいは倒れ込んだというのが近いかもしれなかった。だが倒れきる前にリノリウムに強く、大きな音で靴底を叩きつけて食いしばった。
……ああ、確かに分からない。こんなどうしようもない境遇に、共感なんて出来はしない。彼女が本当に分かって欲しいその痛みを、同じように感じることも出来はしない。
「
至近。
「お前が何を言っても、」
白亜の右腕を前に伸ばす。
「お前の何を知っても、」
届かない――
「お前の何も分からなくても――お前の全てを助けてやる。
限界まで手を伸ばす。届かない。
「……なん、で」
「何でだァアア゛ア゛?! 中学校からの知り合いだろうが! 今まで二回同じクラスになったことがあっただろ?! そんなことすら関係なしに、お前が目の前で辛そうにしてるってだけじゃダメなのか?! そんな理由で命を賭けるのはバカバカしいか!? ンなワケがねえだろうがただの思いやりが理由の全部で何が悪い! そうだよなアンセスタァッ!」
「え、あ、そ、その、」
手を、伸ばす。届かない――再街が、手を伸ばさない限りは。
「信じろ! 理屈も無く命を賭ける俺を信じろ! 意味も無く他人を助けようとする他人を信じろ! 理由無く助けが与えられるこの現実を信じろッ! そして理解しろ――こんな
「け、けど――!」
「罰を受けたいならこんな場所でなくたって良い! 償いたいなら一つの方法に囚われるな! お前はいつか許される――自分を許せるようになる! お前はそんな人間だ! そうなって良いだけの心がある人間だ! 俺に分かるのはそれだけだ!」
白亜が霞んでいく。視界の端に浮かぶ
【ステータス】
村雨空間 Lv8 HP0.1/69kg
これ以上は、保たない。力も、命も。
「手を、伸ばせ、再、街……! この白亜に触れればッ、全て忘れる! 力も無くなる! ここで話したことを何もかも忘れて! それでも、俺が! 全て忘れたとしても、何の保証もなく、俺たちがッ! 助けに来ることを信じて、手を――!」
そして。
震えながら。
再街の手が――
「――ふむ」
防犯カメラのモニター越しに、男は見ていた。
壁に背を預け、簡素な丸椅子に王者の如く腰かける。
隣で床に転がっているのは、『自分』を治療し続ける
右腕が六本、左腕が三本、右足が四本、左足が二本。右でも左でもない手足が一本ずつに、腕とも足ともつかない四肢が二本。
『ナオサナキャ、ナオサナキャ、ナオ、ナオサ、ナ』
右の肩口には本来あるべき腕が無い。そこに必死に腕を生やそうともがいているのだろう。だが、生えてくるのは頭や胴。この自殺産道にある限り、蘇生・治療行為は絶対に成功しない。
いや、それを言うならそもそも死体自体、治療しようが放置しようが何の意味も無いのだ。
「まあ、そうはいかんから厄介なわけだが」
男――アインソフが、大量に四肢を生やした死体から腕を無造作に一本千切り、スポーツ観戦をしながらフライドポテトをつまむかのように、
この自殺産道自体は
つまりは呪いの藁人形だ。対象の顔写真、対象の髪の毛。そう言った縁の物を傷つけることによって対象に同じダメージを与える儀式。
本来ならば格上の相手には通らない代物だが、ことこの迷宮に限っては
相手の力を使っている以上、相手がどれだけ強かろうが、最強であろうが、
アインソフでさえこれと同じ性質を持つ迷宮など覚えが無かった。強いて似たモノを挙げるなら、かつて都市伝説として流行した『一人かくれんぼ』などこれに近いか。
あれの本質は自分で自分を対象とする
条件が複雑故に嵌らない相手にはいくらか下準備が必要になるが、嵌る相手には即座に仕掛けることが出来る。自分の場合は、先日喰らって肉体を奪った通りすがりの男性を『自分殺し』と定義して呪をかけられたか。
やはり、近年の迷宮は興味深い――そんな、新しく発売されたトレーディングカードの効果を確認する程度の感慨で人間一人を破滅的に歪めておきながら、不死者は静かに笑みを見せる。
「だがまあ、大して使えんな、これは。刺さる相手が少ない割に状況を整えてやるのも面倒だ」
「今はお前だ。もう誤魔化しも要らん。
躊躇などするはずもなく。
解き放たれる不可視の波動。
積み木細工を倒すように、不死者は少女を暴走させた。
【ステータス】
村雨空間 Lv8 HP0/69kg
前触れ無く噴き出したリノリウムの槍が俺を貫き、
「――あ?」
芯を打つ衝撃が、世界に無音をもたらした。
最後の命が漏れ出していく。
心臓が身勝手に鼓動をやめる。
全身の血液が死に絶えて、認識の全てが白に染まる。
この体の中に在る
血液が脳を巡ることを止めていく。だが、反して思考は明瞭だった。
走馬灯、なんてものじゃない。そんなものが見える地点はもうとっくに通り過ぎている。
だからこれは、単純に――俺が脳ではない部分で思考を始めてしまったというだけの話。
切り離されていく肉体との接続。剥がれていく内宇宙に対し、熱を失いきっていない頭が必死に抵抗を表明する。
熱い。まだ熱い。まだこの命は諦めていない。まだ死なない。死んだ程度で死ぬはずがない。死んだ程度で諦めるほど、この村雨空間が諦めの良い人間であるはずがない。
だから。
なのに。
俺が最後に思うのは――
「……あぁ――」
――
脳を冷やす、凍った思考。
だって、そもそも、本当は――
本気で言えた自信が無かった。
本気で言った自信が無かった。
なのに一体どうして、そんな言葉が誰かに届く――
地面に叩きつけられると同時、ぜんまい仕掛けの終わりみたいに全身が停止を迎え入れる。
村雨空間、死亡。
何が起きたのか分からなかった。
貫き飛ばされていくその姿を、受け止めることも出来なかった。
アンセスタの背後を通り過ぎて、少年が墜落する。
一拍遅れて振り返る。
その身体が起き上がることは、無い。
「……!」
即座に眼球が機械音を立て、少年を解析する――
呼吸無し。心拍無し。脳波無し。
完全に、死んでいる。
「クウマ――、ッ!」
駆け寄ろうとした瞬間、再街左希から伸びてきたリノリウムの棘を黄金光で焼き払う。
「止まっ、てください、再街左希ッ! もう、何の意味も――!」
「なんで……」
「それは、こっちの――!」
「
「な、」
生々しい有機音が炸裂した。
「っぎ、あッ、ぁあああ゛あ゛あ゛ッ!?」
再街左希の苦鳴と共にその両腕から噴き出す無数の膿。
赤黒い腫瘍から誕生する胎児のような形の
「第三、照準!」
光砲が敵性の全てを薙ぐ。
飛来する攻撃の全てを撃ち落とし、攻撃の源である彼女を抑えようと走り寄る。
しかし。
「待っ」
《その混乱を殺戮に》
再街左希が戸惑いの目でアンセスタへと向き直った瞬間、
彼女の爪が自動的に罅割れ、アンセスタに向けて何百にも枝分かれした槍として伸長する。
ノーモーションでの攻撃がアンセスタの虚を突いた。暗い色の血液が脇腹から噴き出し、非人間的な苦痛の
「
「ち……違っ、違う! だって、何も――!」
《その否認を殺戮に》
ここまでの戦いで散らばり、破壊された院内備品。その全てがグロテスクに膨張し、耐えきれずに爆ぜた。混合して迫り来る無数の薬品群及びガラス片。
光の盾でそれらを弾きながら、しかしアンセスタは解析し、確信する。
「……まさか、最初から彼女の認識を――!」
《当然の拒絶を。僅かな隔絶を。微量の恐怖を。些細な猜疑を。さらに追加して、救難、混乱、否認、哀願、悲痛、苦鳴、懇願、絶望――全てを殺戮に置換する。だからまあ、
膿が爆ぜる。腫瘍が裂ける。
再街左希の意思を基点に、再街左希の思考とは無関係に迷宮が攻撃で埋め尽くされる。
上昇していく脅威に応じ、アンセスタの視界で青白い
〝『再街左希』はより強くなった〟
〝『再街左希』は成長した〟
〝『再街左希』は――〟
そしてその度に強化される自殺産道の原初と根幹。
可能性の根たる少女の『罪悪感』を糧に、更に更に更に。
まるで針葉樹の如く、全身へ肉の槍を生やしていく彼女の姿――
「こ、のッ、アインソフ・ヨルムンガンド――!」
暴走する彼女を前に、アンセスタはここにいない邪悪に向けて声を上げる。
だが、そんな叫びなど何の意味も持たない。目の前にある再街左希がただ腫瘍の塊へと堕ちていく。
もはや手遅れだ。因果を逆行し全てを『なかったこと』に出来る
「
背から噴射される黄金光。ダメージ覚悟で肉の地獄を突破しながら、最速で再街左希へと突き進む。
そんな理屈にこれ以上屈する義理は無い。
そんな理由でさっぱりと再街左希を介錯してしまえるなら、最初からこんな迷宮になど囚われてはいない。
縄状へと変形する黄金の形。
蛇のように放たれた光のロープが、彼女を絡め取らんと宙を舞う。――しかし。
『「
幼い少女から飛び出した爪槍が、その拘束を引き裂いた。
身体に風穴を空けながら、少女は傷口に黒を集めて再生する。
だが、そうやって再起する様はどこか惰性だ。意力も気力も何も無く、義務感を思わせる態度で小さな人影がアンセスタへと襲いかかる。
「再街、
『あなたの方こそわかってないよ。わたしが何なのかもう忘れたの? ただの迷宮のアーティファクトに姉だの妹だの言ってもしょうがないでしょ』
即座に光縄で四肢を絡め取る。だが、その瞬間に少女は自身の手足を強引に引き千切り、死角へと。
瞬きの内に再生しながらアンセスタへと五指の爪槍を振り下ろす。
『結局のところお姉ちゃんを助けるのだって、あのお兄さんがお姉ちゃんを助けようとしたのに助けられなくて死んじゃったからってだけなんでしょう? 態度だけ奮起したみたいなポーズ取ってもさ、責任感や罪悪感から逃れられないままじゃ自殺産道は攻略でき――』
全てを無視した光撃が、少女を遥か彼方に吹き飛ばした。
死角からの振り下ろしを見もせずに片手で迎撃しながら、アンセスタは鬱陶しげに言う。
「――空間の話を聞いていなかったのですか、貴方は。今そういう話はしていません。ぐだぐだぐだぐだとやかましい。それはそれ、これはこれでしょう。単純に人が苦しんでるから助けるのです。邪魔をしないでください」
そうしている間にも、再街左希の暴走は加速する。アンセスタが全力で黄金歴程を振るえばまとめて焼き尽くすことは容易だが、それでは再街左希も死んでしまう。しかし、手加減した威力では膨張する攻撃群を突き破れない。
暴走を止める手立ては、ある。
拒絶、隔絶、恐怖、猜疑。分析する限り、アインソフが施している精神干渉は全て再街左希自身の悪感情を基点としている。僅かにでも攻撃性のある感情を『種』にして、それを実際に攻撃として発展するレベルに肥大化させているのだ。
ならば、攻撃性のある感情を一度全て払拭してしまえば――
「ッ、」
思考を遮るように、再生した再街右弥が躍りかかった。その小さな体から放たれた凶悪な攻撃を受け止める。
「だから、このままではあなたの姉が――」
『知らない! わたしはアーティファクトだって言ったでしょう!? 攻撃しろって指示が出てるんだから攻撃するの! それ以外の何でも無い!』
爪の刃、リノリウムの槍、医療器具の檻。数々の攻撃を繰り出しながら、アンセスタに向けて少女は叫ぶ。
『助ける助けるって、口だけで! あなたたちは具体的なことなんて何も言ってない! そんな強引な開き直りで、納得なんて出来るわけない!』
「別にあなた達の納得なんて求めてません。そもそも、こんな
『だからって、何も言ってくれないの!? 責任の取り方は自分で考えろって!?
「…………」
アンセスタが、口を閉じた。
戦いが静止する。今もなお事態は動き続けている中で、その一瞬だけが凪いでいた。
『違うって言ってよ……! そうじゃないって、証明してよ! なんでそこだけ、寄り添ってもくれないの!?
「――――」
血を吐くような、懇願だった。
既に両者ともに武装は解除している。叫びを上げる少女に対し、アンセスタが一歩、歩み寄った。
『それだけで良い……! その言葉さえ心に届けば、お姉ちゃんは救われるのに! なのに、な
「じゃあもう自分で言いなさい」
叩き込まれたのは拳であった。
一切の容赦無く顔面。肘からスラスターを噴いて加速した手加減無しの全力全開。
幼児の鼻骨など余裕でへし折れる一撃が、再街右弥を四回転させて宙に舞わせた。
「いい加減にしないと殴りますよ。さっきから聞いていれば勝手なことをごちゃごちゃと。あなたのお姉さんでしょう」
『……っだから! わたしはただのアーティファクトだって言った! 本当の妹でもなければ人間でもない! わたしがそう思ってたから何!? そういう風にできてるだけの物がそう思っただけのことに何の意味がある!?』
「
それは彼女の怒りに呼応した物か。悲しみに呼応したものか。あるいは、もっと、別の感情か。
「本物でなかろうが本気でなかろうが本心でなかろうが知ったことではありません。あなたがどう思おうがどう思っていようがどうとも思っていなかろうが関係さえありません。例えあなたの言葉に何の思いも宿っていなくても、それでも――
『――――』
心がある、とはそういうことだ。
頑張っているように見えれば応援したくなる。
苦しんでいるように聞こえれば慰めたくなる。
生きているように感じれば大切にしたくなる。
人間である限り、人心ある限り、このアナロジーからは逃れることはできない。
「ただの腫瘍に過ぎないから? ただの機械に過ぎないから? 本当は生きてなどいなかったから? ……そんな『事実』で納得出来るなら、
そして――
「言いなさい、再街右弥。あるいはその残滓、その可能性、そのまがい物とさえ言えないのかもしれないアーティファクト。再街左希の願望の収束でしかないのかもしれないあなた。そんなあなたの言葉でさえ、この再街左希には――わたしたちには、届く。……届いてしまう」
『っ……!』
動揺、あるいは混乱。
生命か否かも判然としない少女が揺らぐ。
『……わたしのことを、何もかも忘れ去って欲しいなんて言えない』
しかし、そこに真実が無いなどと、誰にも思えないような狼狽で。
『でも! だからって!
叫びが、迷宮に響き渡る。
『ただ、どうしようもなく始まることの出来なかった家族が居て! そのことが、後ろを向かない理由になってくれればそれで良かった!! 人生を投げ捨てずにいられるような、些細な重りでいられればそれで良かった!! こんな風に、人生の何もかもを押し潰してしまうほどの荷物になんて――わたしはなりたくなんかない!!』
それで、止まった。
きっと信じきれてはいない。迷いだってあるだろう。だけどそれでも、と思う感情が、彼女の中から消えてなくなるはずは無い。
だが、確かに。再街左希の暴走が、その一瞬、確かに――停止した。
「第三、照準ッ!」
撃ち抜く。
膨れ上がった攻撃群を、黄金の光が貫き壊す。再街左希本体に傷一つ与えず、害なる全てを切除する。
道は出来た。
拘束が間に合うかは五分。拘束が成功するかは一分。拘束した後、無力化し続けることが出来るかは完全に不明だ。
だとしても、と。
躊躇い失敗率を振り払う。もはや一片の迷いなく駆け出そうとして――
「――――」
――足が、止まる。
信じられないものを見た。
だが、どこかで、信じていたものを見た。
「……
村雨空間が、立っていた。
あり得ない。
あり得るはずがない。
こうしている今ですら生きているはずがない。生命質量はゼロを計測したままだ。死んでいない時点で異常。動いて、言葉を発しているだけで超常過ぎる。
だが立っている。「まだだ」と。屈服という回路が、最初から存在しないかのように。
「お前が何をしようが……お前に何をされようが……」
理屈に合わない。もはや何も流れ出ないはずの傷口から、血のように噴き出す白亜の閃光。あれは何だ。
理屈が分からない。今にも崩れ落ちるその体を支えるように、背後に佇む、
「お前が!
爆発的な白光。
視界全てを染め上げる漂白の一撃が、今度こそあらゆる悪性を消し飛ばす。
残る因果など何も無い。
白亜の吹き荒れた後には、全てを戻された少女だけが、意識を失い倒れていた。