織斑一夏はぬぼーっとしていた。眼の前にあるのは時間という絶望、理由は簡単今執り行われているのは在学生である1、2年には全く縁もゆかりもない話である卒業式だったからだ。
この織斑一夏と若干名は本当に本当に何も関係ない稀有な人間であったが、それでも現1年生には辛い物ではあった。眠くなるような怪電波を発する校長の話、なぜか登壇し卒業生へエールを送る用務員、送辞答辞にいたっては生徒会長どうすんねんと言いたくなるような有様だった。
補足すると、卒業式の1か月前には練習成果の発表も込めて大会が行われ、もはやそのノリで卒業式を迎え底辺校の成人式でもここまで騒がないだろうと思うくらいのあり様だった。なので、男である織斑一夏は黄色い声の疎外感も相まって、胸、または腹の底に黒い物がぐーるぐるぐーるぐると渦巻いていた。
「世界滅べ。」
キャーとキャーの黄色い声の合間にそう言ってしまうぐらいには追い詰められていた。追い詰められてはいたが、もはや諦めた切り替えていこうと思いつつも心中では穏やかではない。
祭りか式典かわからない騒ぎ具合でも、粛々と卒業式は進んでいく。自分の中にあるこの黒い感情も一緒に卒業させてくれと願うものの神様でも無理な話で、やはり感情はそのままに卒業式の終わりを告げられた。
「続いては、新任教員の着任式を始めます」
どうやら延長戦のようだった。いや、式典ではない一夏の自分の暗い感情との延長戦だった。一夏の耳には新任教員の紹介はみじんも聞こえず、目だけが大きく見開き視線が釘付けに口は大きく動揺しパクパクと開けたり閉じたりしていた。そもそも、知っていたからとってつけたような紹介など聞く必要はなかった。
「新任教員の先生から挨拶をいただきます。」
そのものが行うすべての行動を一夏は他流試合でもするかのように注意深く常にISは起動できるようにして。
見ていた。
「私は長たらしい前置きはあまり好きじゃない。だから私からこの学園生活、そしてそれからの人生において一つだけ。」
「ISは人と無機物を繋ぐ。ISに自分を預ければ答えてくれるだろう、空を飛びたいと思えば大きな翼を授け、大地を駆りたいと思えば力強い足を授ける。」
「そしてこれから私を見てくれ。私はその最たるものだ、だからこれからの数年間私を値踏みするかの様に過ごしてくれ。それが彼の手向けになると信じているから。」
「最後に精一杯自分の人生をそしてISを楽しみ、この犯罪者のような人生を送るな、そしてこの犯罪者のように死んでみてくれ。」
「この挨拶を……………死んでしまったある男にささげるよ」
これは、新たな物語。前にいた彼はなくなってしまったけど。
有機物と無機物の中間のような生物は笑った。全てが光が輝いて仕方無いというように、とある男の幸せを取り戻すかの様に。
これから起こる出来事に幸あらん事を願って。
◆ ◆ ◆
俺は目を覚ました、長い夢のように俺の意識はふわふわと浮いていたが忘れもしない顔が視界に映った。
「さてさて?君は死んでしまったね?」
「そういえば神様転生ものだったなこれ。」
「いやー精神が死んでも死ぬのねこれ?。」
「うん、もはや「そこ」しかないからね。」
「そして、ひとつ伝えなきゃいけないことがある。君には次はない。」
「やっぱり?」
「エネによって肉体は生きているからかなりのイレギュラーってことなんだろうな。適当に精神だけを赤ん坊に入れるわけにもいかないし。」
「そういうこと。」
「そしてここに呼び出したのはさ、君はこの結末に満足していたのかな?ってこと、どうだった?第二の人生は?」
「言うまでも無いさ。」
「俺は、幸せを貰った。そしてそれを次に渡した。俺が残したものは脈々と紡がれることだろう。俺が願った普通の人生と何が違う?違わない。俺は信頼できたし仲間もできた。盲目に信頼出来るものができたのは本当に幸せなことだ。」
「だから俺が「もっと」なんて言えるわけがない」
そう言ったらふんわりと笑った。そういうのを分かっていたように。
「そう、言うと思っていた。」
「言わなかったらまた死ななきゃいけなくなっちまう。」
「それじゃ、バイバイ。」
俺はまた笑った、最後は、最後の最後だけはこの笑みを浮かべて死ぬのが一番いいだろう。皮肉屋はこうして死ぬのがお似合いさ。
口角の片側を吊り上げた卑下た笑みで俺は不敵にこういった。
「なに、地獄でまた会おう。」
何かが俺を包んでいく感覚、これはたぶん二度目なのだと思う。そうして俺は目をつむりその感覚に委ねて考えるのをやめた。
くぅつか(ry)。
長々とやってきたこの小説ですがこれにて完結です。
長い間読んでいただきありがとうございました。