堕ちる白。目覚める黒。   作:蒼京 龍騎

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皆さんお久しぶりです、蒼京龍騎です。
読者の皆様、長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでしたm(_ _)m
単位の喪失に続きスランプに陥ってしまい上手く筆が進まない状況が続き7月中と言っていたものが8月終わりまで伸びてしまい投稿がかなり遅くなってしまいました。
なので今回上手くかけている自身はありませんが、それでも読んでいただけると幸いです。


傷ーねむりー

堕ちる白。目覚める黒。

 

第六話 傷ーねむりー

 

???side

「……駄目だった。今出せる最高出力が自壊覚悟でリミッターを外しても本来の10%……

これだと一夏にかかる負担が尋常じゃない。ボクの体もいつ壊れるか分からない。

早くセカンドフェーズに移行して、25%は引き出せるようにしないと……」

黒い雲がちらほらと見える、赤い空に照らされた砂浜。

ざぁざぁと心地よい波音を聞きながら、黒いウェディングドレスを纏った少女は、どこか落ち込んだ様子で空を見上げ、ポツポツと言葉を漏らす。

「……ごめんね、一夏。ボクがもっと早く体を取り戻していれば……ボクの頭がもっと良ければ……キミに無茶をさせずに済んだのに……」

一見何も写っていない空だが、少女の視界には……少女の乗り手である織斑一夏の身体状況を表したモニターが表示されていた。

そこには『内蔵損傷』や『出血多量』等、計18もの身体の異常な箇所を表示されており、普通であれば重体としか言いようのない状態に、一夏はなっていた。

それでも少女は、自身の調べの甘さで一夏を傷付けてしまったことを後悔しつつ、現状の打開策を考えることを止めない。

「……まず一夏に行われている輸血にボクの方から複合ナノマシンを混ぜる。これで一夏の傷は一瞬で治るし、少し【オーバーロード】を使うぐらいならなんともなくなるはず。そしてボクの体は……あ、そうだ倉持。あそこで資材とデータを借りて強化させてもらおう。今回の件で調べられると思うし、少しプランから逸れるけど、これで……『Evils・Fall』には移行できる」

先程まで曇っていた少女の顔は、問題の解決策が浮かぶにつれてどんどん晴れてゆく。

そんな少女につられるように、空も段々と雲が消え、晴れてゆく。

「……待っててね、一夏。

ボク、次はもっと強くなるから。一夏だけに無茶はさせないから。

 

 

────ボクが、もっと一夏に相応(ふさわ)しくなるから」

 

 

そして、少女が満面の笑みを浮かべた時。

────既に空は赤一色に染め上げられていた。

 

 

 

 

 

一夏side

「……なんだ、これ」

眠りから覚め、真っ暗な空間にいた俺は思わず呟いてしまう。

俺の目の前にはなぜか……中庭のような、塀で囲まれ草の生い茂る場所で水着を着て遊ぶ、幸せそうな家族の様子が映っていたのだ。

いきなりそれを見せられた俺であったが、なぜかそんなものよりも重要なことであるはずの……眠っていた訳も、映像を見せられている訳も考えず……それ(・・)に魅入ってしまった。

『うわっ!!!つめってぇよ姉さん!!!……っておい!!!テメェも便乗しねぇで止めろよ!!!』

二人の男女に水をかけられ、そう二人に対して口先では嫌そうに言うものの、顔は満面の笑みである短パン水着の少年。

『……だって、暑そうだったし……かけちゃ、ダメだった……?』

『相変わらず素直じゃないけど素直だね。やっぱり君は見てて面白いよ♪』

嫌がる様子の少年に水をかける、少年の姉と思わしき気弱そうな女性と、少年を見て微笑む男性。

そして────

『ふふっ、びしょびしょに濡れちゃったね。でも後でボクが乾かしてあげるから、思いっきり遊ぶといいよ♪』

度々俺の夢の中に出てくる黒の少女が、少年に微笑みかける。

その優しい笑顔に、俺は自然と見とれてしまっていた。

……愛情たっぷりの、その仕草に。

「……いいな」

俺の口から、自然と言葉が漏れた。

……俺にとって、血の繋がった家族と呼べる存在は千冬姉だけだった。

父と母は、俺が小さい頃に俺らを置いて出ていったらしく、顔は覚えていないし写真すら残っていない。

故に、俺が中学になるまでは千冬姉が、姉として、母親替わりとして俺の面倒を見てくれていた。

そうしてくれた千冬姉には感謝してもしきれないが……この光景を見たことで、無意識に、俺がその景色へ手を伸ばしていたことで……気付いてしまった。

俺は……道行く笑顔の親子を見る度に、それをいつも心の奥底で思っていたことに。

 

────俺もこんな家族が欲しかった。

 

家族で学校での自慢とか職場の自慢とかをして、みんなで笑いあって……そんな家族が欲しいと、心の底で嘆いていた。

「……っ」

……ズキン、と胸が痛み始める。

いや……違う。俺の心がひび割れ始めている。

水分を失い、乾ききった土が限界を迎えひび割れるかのように、何かが無いことに気づいた俺の心が、限界を迎えたのか、ピシピシと割れる。

「……っ、これ以上は……ただの……わがままだろ……っ!!!!!」

痛む心に訴えかけるように、俺は叫ぶ。

もう十分、愛情なら千冬姉から貰っているだろう。これ以上望むのはただの我儘だ、と。

ただ、そんな俺の感情に反して心は飢えたままのようで、痛みが止まる気配がない。それどころか段々と痛みが増してきた。

段々と立っていられなくなり、膝を着いてうつ伏せになるほど痛んでも、俺は乾く心を諭す。

「相川さんとかの優しいクラスメイトだって……居るだろ……!!!!のほほんさんだって…………

────のほほん、さん……?」

ふと、無意識に一人の少女の名を呟いたことに気づく。

それと連動するように、俺の頭の中でのほほんさんの笑顔が幾つも浮かび始め……先程までの激痛が、嘘だったかのように消え失せる。

────映像という光源を失い、真っ暗だった空間に光が差す。

 

 

「────っ」

 

 

気付けば、俺の目の前には白いコンクリートでできた天井があった。

目を動かし周囲を見渡すと、そこは俺が偶にお世話になるIS学園の集中治療室のような場所にあたる施設であることが確認できた。

ということは、先程までの事は全て夢で……確か無人機を殲滅した後意識が遠のいて……

とりあえず現状を確認しようと、上体を起こそうとしてみた俺だったが……

「……っ!?いっっっっっってぇ!?」

その瞬間に全身が悲鳴を上げ動作を中断させる。なんとか動かせる首を使って左右を見ると、俺の体に向かって幾つも管が伸びており、そこから赤い液体と無色透明の液体が絶えず俺の体に注がれていた。

しかも、腕と足には何か乾いた布のようなものが、俺を動かすまいと拘束するかのようにきつく巻かれている感覚を覚えた。

「……どんな怪我したんだ、俺」

怪我した本人が俺ではあるものの、あまり怪我をしたという実感が湧かないせいか他人事のように呟いてしまう。

「……すぅ……すぅ……」

「……ん?」

……気のせいだろうか。誰かの寝息のような音が聞こえた。

それが聞こえたからなのか、若干片足に何かが乗っかっているような感覚があることに気付く。

上体を起こして誰かが居るのかを確認したいが、激痛が走るため動かせない。

故に俺は、今最も有効な手段であろう声による呼び掛けを行うことにした。

「おーい、誰か居るのかー?いるなら返事してくれー」

「……うぅん……おりむー……」

「あ、のほほんさんか」

……意外にあっさりと、俺は足元にいる人物を特定出来た。

理由は分からないが、俺の足元にはのほほんさんが居るらしい。

ならばと、俺は口を動かし寝ているであろうのほほんさんを起こすべく呼び掛け始める。

「おーい、のほほんさーん。起きてくれないかー?俺今どうなってるか知りたいんだけどー」

「……ううーん」

モゾモゾと、足元でのほほんさんが動く感触がした。どうやら眠りは浅かったようだ。

「……あれ、私いつの間に寝ちゃって……っておりむー!?起きたの!?」

眠りから覚めたのほほんさんが、バタバタと袖を振りながら俺の顔の近くへ寄ってくる。

焦った様子ののほほんさんだったが、その目は少し赤く腫れており、寝る前まで泣いていたことが分かった。

そんなのほほんさんを見て、泣いていた理由は分からないものの気まずくなった俺は少し口が淀むが、どうにか声を出すことができた。

「あー、起きたは起きたんだけど……

のほほんさん、とりあえず俺がどうなってるか教えて欲しいんだ。なんで俺こんなにがんじがらめにされて────」

「おりむーっ!!!」

「ちょっ、のほほんさア゙ア゙ッ゙!!!」

俺が話していることに気が付かなかったのか、のほほんさんは感極まった様子で俺に突進するかのように近づき、頭を抱きしめてくる。

その際体に衝撃が走ったせいで全身が悲鳴を上げ、情けなく汚い声が出てしまう。

「……よかった……良かったぁ……っ」

「……っ」

痛みで悶絶した俺だったが、のほほんさんの一言で我に返る。

ここまで心配されるということは……どうやら、本当に重篤な状態に俺は陥っていたらしい。

のほほんさんを心配させまいと、腕を動かし頭を撫でてあげたいところだったが、生憎今は腕が使えない状態なので、俺はなされるがままになるしかなかった。

力強く抱きしめられ、柔らかい感触が俺の顔を包む。

それと同時に……大きな安心感が、俺の心を満たしてゆく。

────あの時と同じだ。

俺があの五人に対して怒って、自分を見失っていた時に俺を包んだ、あの感覚。

先程まで眠っていたというのに、更なる眠気が俺を襲い始める。

……が、その温もりはすぐに離れることになった。

「……あ!!!ごめんおりむー!!今離れるね!!」

長く抱きしめていたことに気づき、気まずくなったのかのほほんさんが腕を離して俺から離れ、それに伴い眠気が引っ込む。

「……で、俺どうなってんのか教えてくれないか。のほほんさん」

眠気が引っ込んだ俺は少し呆けてしまったものの、すぐに我に帰り改めて聞くと、のほほんさんは「分かった!!」と明るい声で返事を返し、どこかへパタパタと走ってゆく。

しばらく待っていると、のほほんさんがタブレット端末を一台持ってきて画面を俺の方に向ける。

「……マジか」

その画面には内蔵損傷や複雑骨折、筋肉断裂など計18もの俺の身体の異常な箇所が表示されていた。

自分が重体としか言えない状態であることが分かり、絶句してしまう。

「でもね〜、お医者さんの話だともうだいたい治ってて〜、経過が良ければあと二日で復帰出来るって〜」

「おー良かっ……え、ちょっと待ってくれのほほんさん」

「ん〜?」

意外と傷が回復がしているに喜びかけた俺だが、タブレット端末に表示された日付が目に入り……異常に気付いた。

「……気絶してから2日しか経ってないじゃないか!?そんなすぐ治るような怪我には思えないんだが……」

そう。死にかける程の怪我をしておいて2日で目が覚め、しかもほとんど治っているというのだ。いくらナノマシン療法が発達しているから重度の怪我でも早く治るとはいえこの速度はおかしい。

「……えーとね、うーん……これ、誰にも言わないでね〜」

何かを知っているらしいのほほんさんは、どこか含んだような言い方をして口をもごもごと動かすと、口を俺の耳に近づけひそひそ声で話し始める。

「なんかね〜、おりむーのISからナノマシンが注入されて〜、それが今おりむーの体を治してるんだけど〜……そのナノマシンの人体修復機能がオーバーテクノロジーなレベルでね〜、一つ取り出して解析したんだけど〜、ブラックボックスまみれで何も分かんなかったり〜」

「……そんなこと、ありえるのか?」

「生命維持機能はあるけど、多分おりむーが初だよ〜。ISに治療されるの〜」

いつも通りの口調であるものの、少し驚いている様子でのほほんさんは告げる。

 

────キーンコーンカーンコーン。

 

話している俺らの耳に、授業の予鈴が鳴り響いた。

そこで俺は先程の日付のことを思い出し、今日が平日であり、先程まで昼休みであったことを理解した。

同時に……忙しいIS学園で貴重な昼休みを、俺の傍に居ることに使ってくれたのほほんさんに、言いようのない気持ちが溢れてくる。

「あ、ごめんねおりむー。そろそろ授業始まるから行くね〜。ゆっくり休んで、早く戻ってきてね〜」

「もちろん!!!」

俺が大きめの声で返すと、のほほんさんは満足げに席から立ち、俺に向かって手を大きく振りながら足早に治療室から立ち去る。

「……しまった、お礼言えなかったな。

……まぁいいか。とっとと元気になってから言えば問題無し、そうと決まれば早く寝よう」

色々なことがありすぎて気を取られてしまい、傍で見てくれていたお礼を言えていなかったことに気付いた俺は誰も居ない部屋の中でボソリと呟いた後、瞼を閉じて眠りにつく。

 

 

 

千冬side

「……」

放課後、IS学園会議室。数人の教師と生徒会長が集合しているその場には、重苦しい空気が充満していた。

その重さのせいか、話し出す者は居らず……千冬を含めて全員下を向き、無言を貫いている。

それもそうだろう。なぜなら……

「……なんなんだ……なんなんだあれは……!!!」

誰にも聞こえないよう、千冬は嘆くように呟く。

先程千冬が見たものは、自身の弟である織斑一夏が学園に侵入してきた無人ISと戦闘した際の映像。

────しかし、それは全てにおいて異常だった。

各所で代表候補生が応戦し、苦戦していた無人機を軽く蹂躙した。

ISの限界を超え、死亡してもおかしくない異常加速を行い、生還した。

ISを一撃で消し飛ばすほどの武装を携え、それを躊躇なく使用した。

どれも、今までの織斑一夏とそのIS『白式』から、かけ離れている。

まるで────一夏が、一夏でなくなってしまったかのように。

「……後でたっぷり問いただしてやる……!!!!」

頭の中で一人のウサミミを付けた人物のことを思い描きながら、千冬は恨み言のような言葉を漏らした。

そして、重苦しい雰囲気の中、映像を流していたスクリーンの横に立つ教師が雰囲気を察し、誰も何も言わないことに気付いたのか、手に持つ端末を見ながら話し出す。

「……では、皆さんこの映像をご覧になった所で本題に入らさせて頂きます。

まず織斑一夏のIS、『白式』改め『雪灰』は一度倉持技研に送りオーバーホールの後、機体の調査並びに戦闘時に発現した危険な武装に対する厳重なセーフティの設定を行い、問題が無ければ組み立てた後織斑一夏へ返却。破壊された無人ISのコアは地下で厳重に管理し、映像に対しては箝口令を敷きます。異論が無い人は挙手を」

千冬を含むその場に居る全員が、静かに、いつもより重く感じる腕をゆっくりと上げてその行動に賛成した。

「……全員の賛同を得られましたので、今後は先述の通りに行動します。これにて議題は全て解決しましたので、会議を終了します。お疲れ様でした」

教師が深く一礼し、早くこの場から立ち去りたいと言うかのように駆け足で会議室から離れてゆく。

だが、部屋から出たその一瞬に。

「────?」

千冬の目には、その教師が笑みを浮かべているように見えた。

こんな状況で何を笑っている。と、気になった千冬は席を立ち、できる限り音を立てぬよう会議室から離れ、教師の後を追う。確証は無いが、千冬の勘が何かあると強く告げていた。

その教師はしばらく歩いた後、放課後の誰も居ない廊下に出たかと思えば、全身で感情……歓喜を表すように大きなステップを踏みどこかへと向かう。

「……どこへ向かう気だ」

教師の謎の行動を訝しみつつ、千冬は教師に続いて行くと、その教師は屋上の真ん中まで辿り着くとステップを止め、ポケットから携帯電話を取り出し、耳元に当てて電話をかけ始めた。

千冬は教師の近くの遮蔽物に隠れ、会話の内容を聞き取るため聴覚に意識を集中させる。

「もしもし……はい、(わたくし)です───様。経過報告をしようと思いかけさせて頂きました。プラン通りではありませんが────の覚醒は順調です」

誰かに繋がったらしく、教師が話しかけるが……

「──様にも私の存在は気付かれておりません。しかし────の方はまだ記憶も感情もそのままです。どうやら───────の効力が想定よりも強力なものだったらしく。よほど手元に置きたかったのでしょう。やはり貴方様が直接出向かれるのを待った方が宜しいかと。

……それにしても家族思いですね、───様は。念には念をとは言いますが私めを使うのは過剰なのでは?……はい、確かに仰る通りですね。準備はどれだけ入念にやっても損は無い(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、大切です」

「……ッ!?」

千冬にはいくつも不自然なほど(・・・・・・)聞こえない箇所があった。

まるでノイズがかかるように、特定のワードが出た瞬間に砂嵐のような音が千冬の聴覚を妨害する。

どれだけ集中しようが、聞き取りたい肝心な所をノイズに妨害される。

更に、その教師が放った『準備はどれだけ入念にやっても損は無い』という言葉が妙に千冬の頭に引っかかり、余計に集中力を乱されてしまう。

教師は話す度に会議室の時見せていた厳格な態度から変化し、柔らかく丁寧な様子で、嬉しそうな声色で会話を続ける。

「──様はプランをほんの少しだけ変えるつもりのようですが、快く承諾して頂く方がよろしいかと。そうすれば幾らか手間が省けることはシミュレート済みでございますので。ですので───様は引き続き───で一夏様のオートクチュール開発の方をよろしくお願い致します。それではこの辺りで失礼させて頂きます。

……世には平和を、楽園には永遠を」

最後に一言添えて、長い会話が終わった。

先程までのこともあり千冬は混乱し、その場から動けず立ち尽くしてしまう。

プランとは何だ。覚醒とは何だ。一夏のオートクチュールとは何だ。二日前の一夏と関係があるのか。

そのどれもが考察するために必要な材料が無いに等しいと分かっているのに、千冬は考えてしまう。

────が、先程まで話していた教師が隠れていたはずの千冬の方に振り向き、視線を合わせたことで我に返る。

「……ああ、いらしたんですね織斑先生。こんな時間に屋上に来るとは、何か用事でも?」

「ッ!?」

思わず、千冬は両手を胴の前に構え臨戦態勢を整える。

変わらず柔らかい口調で教師は話しかけてくるも……先の会話から、目の前の人物は直感的に敵であることを察した。

そして……目の前の教師が、恐ろしく強いことも。

千冬は口を開かず、教師が何か仕掛けてくることを警戒したが……意外にも向こうからは一切仕掛けて来ず、構える代わりに口を開けた。

「あ、言わなくても宜しいですよ。聞いていたのでしょう?私の会話を」

「……ッ!?私が居るのを知っていたのか……!?」

馬鹿な、と千冬は心の中で呟く。足音がしないよう靴を脱ぎ最新の注意を払いながら追跡したはずだ。

しかし教師の余裕のある様子から、原因は不明だが見破られてしまっていることが分かる。

「知っているも何も、貴方が着いてきてくれるよう行動したので。先の会話で幾らか思い出してくれれば良かったのですが、その様子だと無駄だったようですね。ブロックワードでも設定されているのでしょうか?しかし聞こえなくなるほどとは……どんなクラスのものを使ったのでしょうね」

余裕のある様子で、教師は悩むように顎に手を当てて思考に耽る。

「……さっきから、お前は一体何を言っている!!!」

混乱していた千冬に更に混乱する要素が加えられ限界を迎えたのか、千冬は教師に向かって飛びかかり、組み付こうと全身を動かし、体に聞いてやると言わんばかりに殺気を溢れさせる。

それは常人であれば避けられないはずの速度で行われ、千冬も捉えたと確信するほど完璧な飛び込みだった。

────そう、相手が常人(・・)であれば。

「……は?」

気づけば、千冬は日が落ちかけた茜色の空を向き、腕を掴まれ逆に教師に組み伏せられていた。

「……やはり、今の千冬様ではこの程度ですか」

千冬を見下し、落胆するような小さい声で教師が呟く。

────何が起こった?

現状を理解出来ず、千冬は組み伏せられ生殺与奪の権を握られている状況すら忘れて固まってしまう。

だがこうなるのも無理は無い。絶対当たったはずの攻撃が躱されたと感じられず、いつの間にか組み伏せられているという状況に陥れば最強の称号を持つ千冬でさえこうなる。

固まっていた千冬だったが、教師が千冬に何もせず拘束を解いたことを視認し、慌てて立ち上がり再び構える。

しかし……やろうと思えば殺すことや無力化ができるであろう状況で、なぜ何もしなかった?と千冬の中で疑問が渦巻く。

「……やはりもう少し時間を置くべきでしたか。今の貴方には早すぎる(・・・・・・・・・・)

そんな千冬を見ながら、教師は寂しがるように悲しげな声で言葉を発する。

教師は呆然と立ち尽くす千冬の横を通り過ぎようとするが、その際千冬の耳元に口を近づけ。

自分が正しい(・・・・・・)というのは間違っていますよ」

そう言い残し、その場から悠々と去る。

「……どういう……どういうことだッッッッッ!!!!!」

行き場のない怒りを吐き出すように、千冬は登りかけている月に向かって叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

break down Phase……1.8

 

 

 

 

 

 

────No progress……please change your plan……

────Ok.Allow changes to the plan……

────Thanks brother……




はい、いかがだったでしょうか。
次話はいつ出せるのか自分でも分からず、かなり先のことになると思いますが気長に待って頂けると嬉しいです。
それでは次回までヾ('ω'⊂ )))∑≡サラバ
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