堕ちる白。目覚める黒。   作:蒼京 龍騎

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どうも、蒼京龍騎です。
読者の皆様、長い間待たせてしまい、大変申し訳ありませんでしたm(_ _)m
スランプやら学校の勉強やらでなかなか書けず、投稿が大幅に遅れてしまいました。
それゆえ文が拙くなってしまっているかもしれませんが、それでも良ければ楽しんでいってください。


Break down Phese2
祝福ーいわいー


一夏side

「……はぁっ、せっかく復活したのに気分は最悪だな……」

普段通り、俺は自分の部屋に行くための通路を通りながら呟いた。

今日怪我が全回復したおかげで、医師からの許諾を貰って久しぶりに教室へ向かって授業を受け、自分の部屋に戻る道中だというのに……俺の気分は沈んでいる。

「……早く戻ってこないかなぁ……」

再び大きなため息をつきながら右手首を見ると、そこにはくすんだ白のブレスレットの代わりに、巻き付けられた灰色のドッグタグ……<打鉄>の待機形態がプラプラと揺れている。

改めてその事実を確認すると、さらに気分が下がってゆく。

────俺の相棒が居ない原因は、昨日突如として起こった出来事からだった。

 

 

その日は目覚めた時の状態から劇的に変化し、普段通りに体を動かしても痛みが走らないようになるまで回復したものの……俺は医師からまだ安静にするように言われてベッドの上に座り、休んでいた間に遅れた分の学習内容を頭に詰め込むためタブレット端末とにらめっこしていた時だ。

「……ん?」

通路の方からカツンカツンと、ハイヒール特有の甲高い足音が響いてきた。

「千冬姉か?」

見舞いに来てくれたのか、と期待を馳せた俺は扉の方を凝視して待っていると、ハイヒールの音が俺の病室前で止まり扉が開く。

……しかし、入ってきたのは千冬姉ではなく。

長いストレートの黒髪を揺らし、やけに胸元が強調されたスーツを着た大人びいた女性が俺の部屋に入ってきた。

「────え」

その姿を見て、俺は一瞬固まってしまった。

別に胸元を凝視してしまったせいで固まった訳でもなく、千冬姉が来るという予想を裏切られて固まったわけでもなく。

(この人、どこかで見た気が……?)

────その女性に、強い既視感を覚えたからだ。

初めて見るはずの、その女性に。……まるで、夢の中の少女のように(・・・・・・・・・・)

既視感に捕えられて固まっていると、カツカツと高い音を立てながら女性が俺のいるベッドまで近づいてきた。

「……初めまして、織斑一夏くん。私はIS学園一年三組担任のジュダス・ラギリウと申します。今回は貴方に重要なお話がありここに来ました」

俺の目の前に来た大人びいた女性改めジュダス先生は、唐突に言いながら、俺に向かって軽く頭を下げる。

その際、先生の首からこの学園の教師が付けているネームホルダーが揺れた所が見え、確かにこの学校の教師であることが確認できた。

「……あ、はい、よろしくお願いします……?」

声をかけられたことでようやく我に返った俺は焦って言葉を返してしまうものの、特に気に留める様子もなく先生は話を続ける。

「まずいきなりではありますが、先日の職員会議において貴方のISを倉持技研に送り、そこで一度分解してから細かく調査することが決まり、先の戦闘においては箝口令が敷かれました。今日はそれに関する書類に同意のサインへの記入の催促に」

「…………」

いきなりISを回収すると言われ、普通なら理由を追求したり、困惑したりするところだと思うが……俺はその二つの反応を取らなかった。

あれだけの異常な性能を持つISを、学園が調べず放置する訳が無いだろう。

そう考えながら黙っていると、先生は不思議そうに首を傾げる。

「……理由を聞いたりはしないのですか?」

「何となく予想はしていたので……あれだけの性能を持ったISを学園が放っておく訳が無い、ですよね」

そう返答すると、先生は驚いたような表情を作った後に頷く。

「ご名答です。その代わりと言うわけではありませんが、調査期間中の間、貴方には学園から『打鉄』が貸出されます。紛失しないように注意して下さいね」

言いながら、俺に向かって右手を差し出してくる。

その手には、灰色のドッグタグ……『打鉄』の待機形態が握られており、俺はそれを受け取るために左手を出す。

先生は俺の手の中に『打鉄』を落とすと、次は俺の足上に敷いてある台に様々な書類を広げる。

「さて、まずこの書類ですが────」

その一言を皮切りに、先生はそれぞれの書類の内容説明を始め、俺はその説明を一つずつしっかりと聞いて内容を把握してから同意のサインを行う。

その作業を数え切れなくなるほど行い、途中で休憩などを挟みながらやっていると、日が暮れる頃になってようやく終わりが見えてきた。

スラスラと名前を書いて、最後の一枚を先生に渡すと、じっくりとその紙に目を通した後に大きく頷く。

「はい、これで全てです。協力有難うございました。

……そういえば、明日には授業に戻れるようですね。なにか分からない箇所があれば私も協力しますので、遠慮なく聞きに来てくださいね。では、早速預からせてもらいます」

笑顔を浮かべながら、先生が左手を差し出す。

俺は手首から『雪灰』を外し、差し出された手に慎重に置く。

先生は置かれた『雪灰』をしばらく見つめた後、懐にしまいつつ俺に向かって「では、これで失礼します」と大きく頭を下げてから部屋を後にした。

「……さて、今日からしばらくよろしくな」

誰も居なくなった部屋の中で、俺はドッグタグに向かってボソリと呟いた。

 

 

……と、そんな訳で俺の専用機『雪灰』とはしばらく離れることになってしまった。

その代わりに渡された『打鉄』を今日の授業で使うことになったが、『雪灰』の時のような一体感ではなく……受け入れ難い異物を纏っている感覚(・・・・・・・・・・・・・・・・)が強かったせいでかなりぎこちない動きになってしまっていた。

以前、IS学園に入るきっかけとなった際に触れた時はしっかりと一体感を感じていたのだが……それが嘘だったかのように。

しかもそれが復帰後最初の授業だったため、俺自身動かせなかったことにかなりのショックを受けてしまい授業中に呆けてしまうという事態が発生してしまった。

その上千冬姉が珍しく体調不良で休んでいることを山田先生から伝えられ、心配になって放課後に部屋を尋ねても「入ってくるな、伝染るぞ」とやけに圧が込められた一言で追い返されてしまったのだ。

そんな不幸ラッシュ故に、俺の気分は絶賛超絶下落中。

まぁ唯一幸いだったのが……例の五人がいつの間にやらそれぞれ別のクラスへ移動しており、のほほんさん含むクラスの皆に体調を心配されつつも、とても平穏で楽しい一日を過ごせたことである。

だが……もしその場にあの五人が居たらというイフの可能性を考えてしまい、更に気分が悪くなってくる。

「……外出でもするか」

悪い気分をどうにかしたくなった俺は、軽く外出することを決めた。と言っても、あまり遠くへは行けそうにない時刻だったため、学校付近の街をぶらぶらとうろつく形になるだろうが。

踵を返して、職員室に向かった俺は山田先生の机目指して歩を進める。

その道中、出会ったクラスメイトに「織斑くん顔色悪っ!?」や「朝のことなら気にしない方がいい!!!誰にだって失敗はある!!!」などと心配されたり励まされたりしながらも職員室に付いた俺はノックした後に扉を開け、山田先生の元に着く。

「すいません山田先生、ちょっといいですか?」

「あ、織斑くん。何か用ですか……って!?顔色悪いですよ!?体調悪いんですか!?」

俺の顔を見た瞬間に、山田先生がとんでもないものでも見たような表情になり大慌てで立ち上がり叫んだ。

「いえ、ただかなり気分が悪いだけです。それで気分転換のためちょっと外出の許可を貰いに……」

そこまで顔色が悪いのかと思いつつ、体調に異変はないため言うと、山田先生はどこか安心した様子で席に座り直った。

「そうですか……ならすぐに書いちゃいましょう!!!」

言いながら、山田先生がデスクの中を漁り手馴れた手付きで大量の書類の中から外出願と書かれた紙を取り出す。

その手さばきに「おおお……」と声が漏れてしまったが、そんな俺が微笑ましかったのか山田先生ははにかみながら書類とペンを俺に渡し、書きやすいように配慮してくれたのか席をずらしてデスクの正面を開けてくれた。

気遣ってくれたのが嬉しくて、深く頭を下げてからデスクの前に立ち、素早く必要事項を書いていく。

書き終えたものを山田先生に渡すと、抜けている箇所が無いかを確認するように紙に目を通し、問題ないと判断したようで大きく首を振った。

「はい、これで大丈夫です。あ、くれぐれも門限を破らないように!!!それでは行ってらっしゃい」

「はい、ちょっとそこまで行ってきます」

忠告に笑顔で返事をして、俺は職員室を後にする。

少しそこまで歩くだけなので、特に荷物を持たずにそのまま学校の外に出てモノレール乗り場に向かう。

乗り場に到着した俺はすぐさま時刻表を確認し、モノレールが来る時刻を確認すると、あと十分ほどで来ることが分かった。

俺は設置されている椅子に腰掛けるとポケットからスマホを取り出す。

なお以前のスマホは怒りに身を任せて握り潰して破壊してしまったため、今持っているのは千冬姉から渡されたものではなく学園から支給された超がつくほどの高性能品である。なんでもアサルトライフルの銃弾を食らっても傷一つ付かない上に世界中どこでも専用のインターネット回線により繋がり、バッテリーの容量も15日電源を着けっぱなしで電池切れしないというとんでもない優れ物……らしい。

そんなスマホを起動してみると、のほほんさんから一件のメッセージが届いているという情報が表示された。

「ん?……のほほんさんから?連絡先交換したっけ?」

連絡先を交換した覚えがないのほほんさんからのメッセージを疑問に思うが、特に警戒することなく内容を見て────

「────あっ!?あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!!?!??」

周囲に人がいるかもしれないというのに、俺は絶叫した。

メッセージには、こう書かれていた。

 

『おりむーへ

いきなりごめんね〜(〃・д・) -д-))ペコリ

今日から同じ部屋に住むことになった(強調)から連絡先交換しようと思ったんだけど〜

外出したって山田先生から聞いて連絡先教えて貰ったの〜(> <;)ゴメンネ

帰ってきたら二人でお話ししたいから待ってるね〜(っ ॑꒳ ॑c)マッテル

P.S お菓子食べながら待ってるからゆっくり外の空気吸ってきてね〜』

 

「……あばっ、あばばばばばばっ」

携帯を持つ手が震え、口から泡を吹きそうになる。

自分で言っておいてすっかり忘れてしまっていた。

『……のほほんさんと一緒が、いい』

過去に俺自身が発した一言が、思考を覆い尽くす。

あの時は精神的に弱り切っていたものの、だいぶ余裕を持てるようになった今その言葉を思い出すと……猛烈に恥ずかしくなる。

確かに事情を知っているのほほんさんが近くに居てくれた方が、俺の精神衛生上とても良いだろう。しかし……平常心で居られる気がしない。会った瞬間固まってその後もギクシャクしまうのがオチだろう。

抱きついてそのまま寝落ちしたり、一緒の部屋に住むなど……彼女でもない女の子にするべきでは無い行為を、今までの俺はのほほんさんにやってしまった。

なんとも情けないことだが……のほほんさんに会うのが恥ずかしいのだ、俺は。

「……ダセェ」

今まで行った自身の行動に対して、肩をガックリと落としながら自嘲するように呟く。

『間もなく、車両が到着します。白線の内側に下がってお待ちください。繰り返します。間もなく────』

そんなことをしていると、いつの間にか時間が経っていたようで乗り場にアナウンスが響き渡る。

俺は席から立ち上がり、白線ギリギリの所で立ち止まるとすぐに車両が到着した。

扉が空気の抜ける音と共に開き、その中へ入って近くの席へ座り、しばらく待つと車両がアナウンスと共に発進する。

高速で景色が移り変わる外を覗くと、既に空は茜色に染まっていて、あと一時間もすれば完全に暮れてしまいそうなほど日が傾いている。

「……返信、返しとこう」

そんな光景を見てなにか感化されたのか、俺はボソリと呟いて1度しまったスマホを取り出し文章を打ち込み始める。

『のほほんさんへ。

全然大丈夫だよ。むしろ俺の方が忘れてたから謝りたい。本当にごめん。

だから早く外の空気吸って戻るようにする。俺も言いたいことがあるから』

「……これでよし、と」

送信ボタンをタップし、軽快な音と共にメールをのほほんさんへと送る。

しっかりと送られたことを確認してから、再び携帯をしまい外の景色をぼんやりと眺める。

 

 

「……ヤバい、すっかり暗くなってるじゃないか」

モノレールから降りて街をぶらつきはじめた頃には、すっかり日が落ち夜中になってしまっていた。

街灯や建物から漏れ出る光で街は照らされ、まだそこまで遅くない時刻だからか人々の騒ぐ声や車の走る音で満ちている。

「えーと確か門限が21時で今は……19時か。まぁ軽く一時間はうろつけるな。

……さて、どこに寄ろうか」

改めて門限と現在の時刻を確認し、俺は騒がしい街へと歩を進め……

「腹減ったな……お、いいとこにクレープ屋。これ一つください」

「あいよ」

偶然やっていた出店でクレープを買い。

「……これのほほんさん好きそうだな……土産に買ってくか」

「まいどありー」

偶然見つけたかなりモフモフで巨大なクマの人形を買い。

「……これのほほんさん食べてたな……俺も食ってみるか」

「ありがとうございやしたー」

偶然ショッピングモールでのほほんさんが食べていた菓子のセットを買い。

「……のほほんさんに似合いそうだな、これ。一つください」

「ありがとうございました!!!」

偶然見かけたアクセサリーショップでのほほんさんに似合いそうなイヤリング(当然穴を開けないタイプ)を買い……

「やばい、買いすぎた……」

そろそろモノレール乗り場に向かわなければいけないという時刻になった頃に、気付けば俺は……右腕には巨大クマの人形と手にはイヤリングの入った袋を抱え、左手には大きめの袋に余すところなく入った菓子を持つという爆買い客もとやかく思える格好をしていた。

買った物の数は少ないものの、これがかなり重く両腕が悲鳴を上げている。早く運ばなければ腕がちぎれそうだ。

「……のほほんさん、喜んでくれたら良いんだけどな」

けど、帰ってこの土産を送った時にのほほんさんがどんな顔をするのか想像すると、痛みがほぼ治まる。

大量に買い物をしたせいでハイになっているのか、それとも帰ってからのほほんさんにこれらを送るのが楽しみなのかは俺も分からないが、若干浮ついた気分で重い荷物を抱えながら、モノレール乗り場への道を歩き始める。

道中、大量の荷物のせいで何人かの子供に指を指されて「あのお兄さんすごいの買ってるー!!!大人買いだー!!!」と言われ、すごいのと言われれば右腕で抱えているクマさん人形のことしか思い浮かばず今更ながら恥ずかしくなったが、のほほんさんのためだと自分を言い聞かせて恥をいくらか軽減した。

そんなハプニングがありつつも、モノレール乗り場まであと少しの距離まで近づいた俺は足を止めずに時刻を確認する。

現在は20時ちょうど。次のモノレールが来るまでに三十分程度の余裕があった。

道を歩きながら時計の画面を凝視し、俺は余った時間の使い方を考え始める。

「……まだ時間に少し余裕あるな。何しよ────」

しかし、時計を見すぎて前後の確認を怠った俺は……人気のない路地から女性が現れたことに気付かなかった。

ドンッ!!!

「うわっ!?」

「きゃっ!?」

衝撃と共に、俺の体が後ろに倒れる。

尻もちを着いた際の衝撃で荷物から手を離してしまい、辺りに散らばらせてしまう。

「いてて……何が」

痛みが走る尻を擦りながら、起き上がろうと顔を上げる。

そこには、先程俺が衝突してしまったのであろう高そうなドレスを着た女性が、同じく地面に尻もちを着いていた。

「っ!?だ、大丈夫ですか!?すいません俺の不注意のせいで!!!」

慌てて立ち上がった俺は、女性に向かって手を伸ばした。

その際に女性の姿をはっきりと見ることになったが、綺麗な金髪の長い髪と纏った赤色のドレスが特徴的であり、どことなく外国の人らしい雰囲気を醸し出していた。

「大丈夫よ、気にしないでちょうだい。私もよく見ていなかったから、悪いのはあなただけじゃないわ」

女性は俺の手を掴んで引っ張るようにして立ち上がり、所々汚れたドレスを叩いて汚れを落とす。

そこで改めてそのドレスを見たが……どう見ても高級品。生地や装飾が醸し出す雰囲気が、まさしく高級品のそれだ。

罪悪感と共に、そのドレスが一体幾らする代物なのかを想像して、恐怖で体が震えた。

「気にしないで、と言ったでしょう?それに、こんなドレスいくらでも手に入るわ」

俺を気遣ってくれたのか、女性が優しい口調で俺に言う。

「……本当にすいません」

余計に罪悪感が募り、口から謝罪の言葉が漏れ出た。

しかし女性は、逆に俺を心配するような視線を飛ばし、その視線を俺とその周囲を見るように動かした。

「それよりも、貴方の方こそ大丈夫?荷物が……」

「え?荷物……あっ!?」

先程地面に落としたものを思い出し、辺りに視線を向ける。

……現実は残酷だった。

「あーっ!?のほほんさんへの土産がぁぁぁっ!?!?」

周囲にのほほんさんへの土産が散らばってしまっており、幾つか箱が潰れてしまっている。

堪らず絶叫を上げながら、慌てて土産を拾い上げる。

幾らか歪んだ部分を押し直してなんとか形は戻せたものの、その痕がくっきりと残ってしまい見栄えが悪くなってしまった。これでは到底プレゼントとしては渡せない。

「あぁぁぁぁどうしよ……今から買いに戻る訳にもいかないし、このまま渡すのは流石になぁ……」

流石にこの状態で渡すのは気が引けるが、今から買いに戻るとしても圧倒的に時間が足りない。

万事休す。お手上げだ。

「……ねぇ、悲しんでいる貴方に朗報があるのだけど」

「……はい?」

そんな時だった。携帯を握った女性がクスリと笑うと、俺の横で一台の車が急停止した。

いきなり車が現れたことに驚いていると、縦長で黒塗りのその車の扉が開き……中から黒いスーツやメイド服を着た男女が現れる。

それぞれの手には、俺がのほほんさんへ買ったものと同じものが抱えられていた。

「私、ちょうど同じものを持っていたからあげるわ。ちょうどさっき要らなくなったところよ」

「……はっ?」

思考が止まる。

女性が言っていることを理解出来ず、俺は呆然と声を漏らした。

使用人のような人々を従える目の前の女性の正体が気になったのもそうだが、何故ここまで親切にしてくれるのか分からない。

ただの金持ちのお人好しという可能性もあるが……先程から、この女性に妙な既視感を覚えて仕方がなかった。

それも手伝って、俺が覚えていないだけで以前どこかで会ったのかと考えてしまう。

「……ああ、安心してちょうだい。これはタダって訳ではないわ。

これは先行投資。将来有望な君への、ね」

俺のことを知っている口ぶりで、ウィンクを送られる。

大人の女性特有の色気も相まって、心臓が一瞬跳ねた。

「スコール・ミューゼル。私の名前よ」

「……本当にすみません。ありがとうございます、スコールさん」

手を伸ばして握手を求めてきた女性……スコールの手を握って、改めて俺は礼を言う。

そして、俺に先行投資として与えられた荷物を受け取ろうと、執事の持つ荷物に手を伸ばす。

「先行投資、ありがたく貰います。俺、期待を裏切らないように頑張りますから!!!」

使用人が並ぶ順に全ての荷物を受け取ってから、俺は首だけでも深く下げながら宣言する。

「ええ、頑張ってね、織斑一夏君。

……ところで、時計を気にしていたようだけど、時間は大丈夫なのかしら?」

「……あっ」

言われてから、チラリと時計を確認した。

……出発まで5分を切っている。

「残り5分ッ!?ヤベぇ急がないと遅れる!!!」

「あ、少し待って頂戴」

大慌てで駆け出そうとするが、何かを思い出したようなスコールの声に止められる。

流石に恩人を無視する訳にはいかないので、足を止めてどうしても急がなければならないことを伝えようと振り向く。

「すいません出来れば先を急がせて……ッ!?」

視界に映った光景に、否応なしに声が止まった。

────跪いている。スコールだけではなく、その使用人の全員までもが俺に向かって膝を着き、頭を下げながら。

まるで、俺を崇めるように。俺を……仕えるべき主君だと言わんばかりに。

そして、その全員が声を揃えて────俺に告げた。

 

 

 

 

 

 

『魔王の目覚めに、心からの祝福を。我らは方舟(エリュシオン)の玉座にて貴方様をお待ちしております』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???side

「……は?重粒子ブレード?重粒子砲?重力操作?

……何このインチキ武装の数々!?そんで重粒子とかいう聞き覚えのない物質ナニ!?」

倉持技研。織斑一夏のIS『白式』を作りしそこで、ISスーツの上から白衣を着た女性が目を大きく見開きながら手に持った紙を凝視していた。

その紙には、先日倉持技研へ調査と機能制限の目的で運び込まれた『白式』改め『雪灰』となった機体の性能と武装が今現在分かっている範囲(・・・・・・・・・・・)範囲で書かれている。

……しかし、ISの調整を担う彼女にとってそれは、あまりにも異常なものだった。

「三次移行なんて世界初の現象起こしてるしそれでいて機体の基本スペックがありえないレベルで軒並み向上してるし重粒子っていうよく分からん粒子を生成してるし……てかいきなり機体の出力二倍にエネルギー容量五倍って、スペックだけ見たら他の機体泣くよ?もう軽く全部のISのカタログスペック越してるよ?

……改めて訳わかんないわ、この性能」

ブツブツと独り言を漏らしながら頭を抱え、大量に重ねられた紙を捲り続ける。

「重粒子……とんでもない物質だよ、ホントに」

異常と呼べる現象が描き綴られているその文章の中でも、彼女は一つのワードが特に気になっていた。

重粒子。『雪灰』の機体内部から発見された新物質。

それは赤黒い色をした極小の粒子であり、それ自体が膨大なエネルギーの塊である。

含まれるエネルギー量は今まで発見されているあらゆる物質よりも莫大であり、実質放射線を出さない核燃料と言っても良いほどのエネルギーを含んでいた。

そのエネルギーの恐ろしさを象徴するかのように、この重粒子を腕部の武装<禍爪>に蓄積し投射する重粒子砲なる武装が『雪灰』には存在するが……恐ろしいことに、シールドバリアどころか絶対防御を貫通し、学園を襲撃した無人ISの半身を消し飛ばしたという。

こんな芸当ができる兵器は、彼女の記憶が正しければ皆無である。

普通それだけの威力を持った武装を使おうものなら、原子力発電所クラスの設備から直接エネルギーを供給し、数十分は砲身内で暴発しないよう微細な調整を続けながらエネルギーを貯めないと放てない……というのに。

「早くなった分微細な調整をコンマ数秒でしないといけないってのに、射撃特化機体を上回るぐらい爆速で処理してるのが恐ろしい……数日前まで近接格闘機だったのが信じられんわ……」

元々織斑千冬の『暮桜』と同じ近接格闘に特化した機体として作られたはずの『白式』。

それが今や、遠近中のどれもこなせる上に過剰すぎる火力と出力を得た万能機(化け物)と化していた。

学園側が過剰にリミッターをかけるよう依頼して来たのも納得できる。

「……てか、内部データ漁ってたら見つけたこの……なんて読むんだ?

【無類神器】(むるいじんぎ)?ってのが武装の一つに載ってたけど、それらしきものがどこにもないってのが気になるな。場合によっちゃこれにもリミッターかけないといけないってのに────」

「しょっ、所長!!!!ここに居たのですか!?」

正体不明の単語に悩み、頭をポリポリとかいていたところで、慌てた様子の職員が彼女が居る部屋へ飛び込んできた。

ここまで全力で走ってきたようで、大きく肩を揺らしながら大きく呼吸を繰り返している。

「んー?どしたん?カエルでも食ったような顔して。私今『白式』の書類に目を通して頭痛が痛いところなんだけど」

「その『白式』がウチの資材喰ってまた変なことになったんですよ!!!細かい話は着いてから話すのでとにかく来てください!!!」

「……はぁ?」

思わず疑問の声が漏れた。

変なことになっているのは今に始まったことでは無いだろう、と言いたいところだったが……どうやら更におかしな事態が『白式』に起こったらしい。

職員が言った「資材を喰った」という一言に、興味半分怖いもの見たさ半分の気持ちを抱えながら、彼女は書類をテーブルの上に置いてから立ち上がり、職員の後に着いていく。

緊張しているからなのか、『白式』の在るハンガーまでの廊下に響く足音が大きく感じる。

ハンガー前に着き、職員がゆっくりと扉横の装置にカードキーを読み込ませ扉を開く。

「……マジか」

開いた扉の先。

眼前に映った光景に、彼女は絶句した。

 

 

────変わっていた(・・・・・・)

 

 

『白式』が、更にその姿を変化させていたのだ。

灰色だった装甲は黒に近づき、青紫だった箇所はより赤みがかかって紫色へ変色していた。

特徴的だった背の羽、<堕天翅>は四枚から六枚に増え、全体的に更に鋭利なフォルムへと変貌を遂げていた。

前ほど大きく姿形を変えた訳では無かったが、その変化は彼女にとって衝撃的なものだった。

「……四次移行(フォースシフト)、と見るべきかなぁ……」

「はい……信じられませんが」

ISの進化は二回ある。

一次移行。パイロットと機体の連動を最適化させるために行うもの。

二次移行。稼働時間と戦闘経験が蓄積され、ISコアや機体そのものとの同調が高まった時に発現する現象。

確認されているのはこの二つだけ。

だというのに、目の前の機体は今この瞬間、例外中の例外となった。

ただでさえ数日前に『白式』がありえないはずの三次移行したかと思えば、今度はパイロットが近くに居ない状況で四次移行という未知の事象すら起こして。

『白式』というISが、ISという枠組みから外れて、別のナニカへと変わっているようにすら思えてしまう。

「念の為簡易構造解析を頼んでいたのですが……やはりこの『白式』、異常ですよ」

「…………」

困惑した表情の職員から渡された書類を、彼女はパラパラと捲る。

そして、全てに軽く目を通し終わった時。

「……兎に角、もう一回細かく調査した後で織斑一夏君に乗ってもらうしかないね。何が変わったか、乗って貰った方が分かりやすいだろうし。

 

 

────この『黒望』(こくぼう)に」

 

 

新たに生まれ変わった『白式』の情報が書かれている箇所を見ながら、彼女……倉持技研所長、篝火(かがりび)ヒカルノは、書類の最後に書かれていたその機体名を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

break down Phese……2.0

Black Answer Phese 2『Evils fall』Evolution Complete.




読んでくださり、ありがとうございます。
感想、評価お待ちしておりますm(*_ _)m
次話投稿は未定ですが、気長に待ってもらえると幸いです。
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