堕ちる白。目覚める黒。   作:蒼京 龍騎

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読者の皆様方、お久しぶりです。蒼京龍騎です。
長らく更新を止めてしまい申し訳ありませんでした。
学業の忙しさが苛烈を極め、執筆にかけられる時間も減った上にスランプに陥ってしまい執筆が滞り、ここまで時間がかかってしまいました。
久しぶりの投稿ということで文章が拙くなってしまっているかもしれませんが、読んでいただけると幸いです。


歪ーゆがみー

 

一夏side

「……結局なんだったんだ、あれ」

どうにかモノレールに間に合い、IS学園へ戻ってきた俺は寮の自室まで向かう階段を上がりながらため息混じりに呟いた。

『魔王の目覚めに、心からの祝福を。我らは方舟の玉座にて貴方様をお待ちしております』

帰り際にスコール達が、俺に向かって跪きながら放った言葉。

いきなりそんな事を言われて、訳が分からず逃げるようにその場から離れてしまったが……その言葉を思い出す度、頭の中で一つの単語がやけに引っかかる。

……魔王。

良い意味では無いその単語は、間違いなく俺に向かって投げられた。

つまり、スコール達の言葉を素直に受け取るとするならば。

「いやいや、ありえないだろ」

声に出しながら否定する。

俺は織斑一夏。ただISに乗れてしまっただけの一般人だ。

魔王なんて恐ろしい存在なわけが無い。

そんな訳が無い……というのに、何故か。

「…………」

俺が魔王……いや、そうでなくとも、普通の人間では無いのかもしれないという考えを否定しきれなかった。

思い当たる節が、幾つも存在してしまっていたから。

あの日。改修された無人機が学園に襲撃をかけてきた日に、のほほんさんを守ろうとして発現した『Overload』という謎の力。

俺はそれがISによって起こったものだと思っていたが……それにしては不自然な点があった。

あの力が発動する直前、確かに俺の視界には『Orimura Ichika Overload Activate』の文字が表示されていた。『Overload』を除いて日本語に訳せば、『織斑一夏、Overload起動』になる。

だが、これではまるでISではなく……俺自身が『Overload』を発動したと言っているようだ。

あんな現象、ISでも起こせるか怪しいというのに人間である俺が起こせる訳が無い。

自然と、俺という存在が普通ではないという考えに行き着いてしまう。

「……っ」

そう考えてしまうと、言いようのない恐怖が俺を襲う。

俺という存在が、人では無いナニカに変わってしまっているかのようで、足元がふらつき、手が震える。

「落ち着け俺……俺は俺だ、織斑一夏だ……」

それでも俺は織斑一夏だ、と自分に言い聞かせるように呟いて、震える手に力を込めながら部屋へ向かおうと顔を上げたところで気付く。

「……あれ、いつの間に」

知らぬ間に、自室の前まで足を進めていたらしい。

扉にはしっかりと自分の部屋の番号が書かれている。

「まぁいいか。とっとと入ろう……ッ!?」

部屋に入ろうと鍵を刺しこもうとしたところで、目の前の扉が突然開き始めた。

困惑する俺を置き去りに、ギギギと、重たい音を上げながら扉が開いていき。

「……んぅ?あ、おかえりおりむー」

開き切った扉の向こうから現れたのは……モコモコとした寝巻きを着て眠そうに目を擦るのほほんさんだった。

「────可愛い」

先程まで抱えていた悩みの一切合切を押しのけて、その言葉が出てきた。

ただでさえ小動物っぽい可愛さを持つのほほんさんが、モコモコと抱き心地が良さそうな寝間着を纏い、少しあざとく見えてしまうほどにうっとりした目を擦る。

思わず抱きしめたくなるようなその姿に、脳を殴られたかのような衝撃が走った。

「えへへ〜」

照れるように、微笑むのほほんさん。

「……あれ〜?その荷物どうしたの〜?」

なにかに気づいたように目をぱっちり開いて、俺の持つ荷物を指さしながら聞いてくる。

寝ぼけていたのか、俺が持っている荷物に気づいていなかったらしい。

「ああ、これ全部のほほんさんへの土産。渡したいけど量あるし、まず部屋入っていいか?」

「お〜!!!ありがとねおりむー。ささ、入って入って〜」

手招きで中に入るよう催促しながら、のほほんさんが玄関と部屋を仕切る扉の向こうへと向かう。

それに着いていくように俺も部屋の中へ入ると、部屋の半分がのほほんさんの私物らしき物品の数々に埋もれていた。

残った半分には俺の私物が入っていると思われる段ボールが積み上げられており、自然とこの寮に初めて来た日のことを思い出す。

……あの日も、今思い返せばかなり理不尽だったな。

そんなことを考えながら、手に持つ荷物をベッドの上に乗せてから腰掛ける。

長い間重たい荷物を持っていて疲れたのか、僅かな眠気が俺を襲い、軽く欠伸をしてしまう。

「ねぇねぇおりむー、外出楽しめた〜?」

ベッドで横になったのほほんさんが、どこか気遣うような口調で聞いてくる。

「ああ。美味いクレープも食えたし、土産いっぱい買えたし気分転換できたよ」

「そっか〜。楽しめたみたいで良かった〜」

まるで自分のことみたいに、のほほんさんが嬉しそうな笑顔を浮かべる。

この笑顔を見ると、自然と俺も笑顔を浮かべてしまう。

……ああ。やっぱりのほほんさんが近くに居ると落ち着く。

「……そうだ、おりむー」

「ん?」

何かを思い出したかのように、のほほんさんがベッドから起き上がって話し出す。

「お嬢様……更識先輩と簪ちゃんのことだけど、本当にごめんね」

「……?なんでのほほんさんが謝るんだよ」

いつもと違う、間延びしていない口調での謝罪に困惑した俺は、不思議に思い聞いてみる。

さっきの話し方から、のほほんさんと更識姉妹には何らかの関係があるように感じたので恐らくその事に関してだろうが。

「織斑先生から聞いたんだ、二人がおりむーに酷いことしたって。

だから、あの二人の従者の私が、代わりに謝りたかったの」

「じゅ、従者……?え、のほほんさんって二人のメイド的な立場だったのか?」

「うん、まぁそんなところかな」

一瞬従者という単語が分からず硬直するが、意味を思い出して聞き返してみる。

のほほんさんが、更識姉妹の従者。

これは所謂、主人の無礼を部下が代わりに詫びる、といった感じのことを俺は現在進行形でされているわけだ。

……何故かは分からないが、腹の底から急激に何かが吹き上がり、頭に血が上ってくるような感覚に襲われる。

「のほほんさんが謝る必要はねぇよ。

……悪いのはその二人、謝るべきなのもその二人だろ」

更識楯無と初めて出会った時の事を思い出す。

俺に許可を取らず、勝手に俺の部活の所属先を学園祭の優勝景品に仕立て上げられ。

強引に演劇に付き合わされ、電撃機能付きで外せない王冠を着けさせられながら五人組の殺意しかない猛攻を避ける羽目になり。

半ば強制的に同室にさせられ、それどころか部活の決定権すら奪われ。

……挙句の果てには、数日前のあの事件。

はっきり言えば、俺はもう楯無に対して愛想が尽きていた。いや、正確に言えば一発ぶん殴りたくなるほどに、更識楯無という人物に恨みを持っていた。

護衛のためにと聞かされていたとはいえ、俺の我慢にも限度はある。

極めつけに、俺の罪悪感を利用して仲直りのための仲介役にしようとした。実際、俺に非はほとんど無いというのに。

「俺は都合の良い道具じゃねぇぞッ!!!!……っ、ぁ」

怒りが有り余って叫んでしまった。

……駄目だ。心のコントロールが上手くいかなくなっている。

自分の内で煮えたぎる、制御出来ない怒りに恐怖を覚える。

先程叫んでしまったせいか、のほほんさんが無言のまま固まっていた。

怖がらせていないだろうかと、チラリとのほほんさんの顔を見てみる。

「……おりむー」

静かに、俯きながらのほほんさんが俺の名前を呟く。

ベッドから起き上がって、のほほんさんは俺の隣まで来てベッドに腰掛ける。

「ごっ、ごめん、俺、そんなつもり、じゃ」

頭が恐怖で埋め尽くされ、俺はまともに回らない思考と呂律でのほほんさんへの弁明を始めた。

のほほんさんはそんな俺に何も喋らず、その手を俺の後ろに回す。

────ぎゅっ。

「……っ!?」

突然、視界が白一色に埋め尽くされ、顔全体に柔らかくて暖かいものの感触が広がった。

一瞬何が起こったのか分からなかったが、すぐに理解した。

今、俺はのほほんさんの胸に顔を埋めているのだと。

「……良い子。おりむーは良い子だよ」

優しく、赤子に語りかけるように囁きながら、のほほんさんは俺の頭を優しく撫でる。

繊細な手が頭を撫でる度、渦巻いていた激情が静まり、じんわりと胸の辺りが熱を帯びていく。

「もう、今日は休も?一回眠ってから、胸に溜まったものをゆっくり出そうね」

さすさす、と俺を撫でながら言う。

確かに、今日は色々なことを考えすぎて疲れてしまった。

のほほんさんに言われるがまま、今日はもう休もうと決めた直後。

「……ぅ」

強い眠気が俺を襲った。

のほほんさんに抱きしめられて、心地の良い言葉を囁かれて安心したせいだろうか。

抵抗する時間すらなく、俺はのほほんさんの胸に抱かれたまま眠りに落ちた。

 

 

────そう、眠ったはずだった。

『やぁ、久しぶり♪』

「……は?」

気付けば、俺はあの白と黒の空間に立っていた。

それだけに留まらず、目の前では変わらず黒のウェディングドレスを纏った少女が嬉しそうに笑顔を浮かべて、手をヒラヒラと振っている。

「……は?はぁ?」

いきなり起きたこの現状に、俺は声を漏らして呆然とするしか無かった。

疑問が、とめどなく脳内で溢れ出す。

この空間は何だ。君は一体誰だ。何故俺に語りかけてくる。

多すぎるそれらの質問を整理できず、声を出せないまま硬直しているとそんな俺を見かねたのか少女が口を開く。

『まぁ、いきなり連れてこられて色々疑問に思うのも仕方ないよね。今日はね、質疑応答タイムってことで一夏をここに呼んだんだ。何か聞きたいことあったら早めにね、この場所もそう長く保てないから』

「……じ、じゃあまず、君は一体誰なんだ?」

未だに疑問が渦巻き、頭の整理がつかない状態だったが、少女の言葉からここに居られる時間が限られていることが分かる。

だからこそ、俺はこの機会を逃すまいと質問を捻り出した。

正体の掴めない目の前の少女。まずはそんな彼女についての情報を得ることにした。

その質問に対して、少女は一瞬だけ悲しそうな顔を見せてから顎に手を当て、何かを考えるよう数秒俯いた後。

『ボクは……クロ。『白式』のコア人格に押さえつけられてた『白式』本来の人格。

ボクの役目は────君を、呪いから解放して、導くこと』

「……呪いから、解放?」

少女改めクロから色々と気になるワードが出たものの、特に自らに関連しているだろうその単語が気になり、反芻するように呟いてしまう。

『……一夏はもう気付いてるはずだよ。

普通なら怒るべきところで怒らなかったり、知り合いに殺されかけても普段通りにしていた、人格が壊れてるとしか思えない自分の異常性に』

「……っ!?」

クロの真剣な眼差しと共に放たれた言葉によって、一瞬にして混乱していた頭が驚愕と共に冴え渡っていく。

確かに、今まであのクソ女共に幾度も殺されかけ、傷つけられてきた。

だと言うのに、以前までの俺はそれを少し気にする程度で済ませるどころか少したりとも怒らず、仕方がないの一言で済ませてきた。だが、それ以外のことであれば普通に怒りもしていた。

……クロが言ったように、異常極まりない。人格が破綻している。

まるで、特定人物に対する怒りの感情を抱けないようにしたような……!?

「まさ、か」

そこで、ひとつの考えに至る。至ってしまった。

先程クロが言った呪い。

もしこれ(・・)が、そうだとしたら?

もし呪いだというなら。それが……人為的なもの(・・・・・・)だとしたら?

『そう……それこそ、君がかけられていた呪い。人格破綻者が考えて植え付けた理想の人格。

だからこそ、怯えないで、安心して欲しい。君は違うモノになっているんじゃなくて、元に戻っているだけなんだよ』

「……は、ははっ。なんだよ、それ」

優しく、諭すような口調で言われ、笑い声が出てしまう。

何故か、クロの言葉を真実として受け止められてしまう。

状況が物語っているのも理由の一つだが、何よりも信じられる情報が一つ。

……クロなら、嘘を吐かないという絶対的な信頼。

以前感じた懐かしさ。俺を肯定する彼女の胸に抱かれた際に心から安らげた感覚によるものだ。

足から力が抜けて、ぺたりと地面に座り込む。

怖くてそうなった訳では無い、これは安堵だ。

今まで自分が異常に変化してしまっていると考えていたものが、実際のところ本当の自分が現れ始めていただけという事実が。恐怖に怯え、燻っていた心を晴らしていく。

────そうか。これが俺か。

普通に怒って、普通に殺意も湧いて、普通にやり返して、普通に物事を考えられる。

心が。感情が。本来あるべきものが戻ってきたような感覚。

「ククっ……ははははっ……はっはっはっはっ!!!!」

大きな笑い声が、口から零れる。

今この瞬間、俺が本当の俺になれた気がして、嬉しくて嬉しくて堪らない。

自らを化け物だと考えていた自分へ言いたくなる。それが普通の、本当の俺なのだと。

誰があんな人格を植え付けたと問う気などない。こうして元に戻れたのだから。

まるで世界が透明になったようだ。気分が良い。

『────白の呪い、60パーセント解除完了。人格の完全復旧を確認』

そんな最中、頭の中でクロの声とは違う声が響いた。

この声は以前にも聞いたことがある。あのクソ共に初めて怒った時に聞こえたものだ。

俺が俺になったことを祝福するようなその声に、更に気分が舞い上がる。

ああ。この快感に身を任せて、暴れてしまいたい。

そう考えていると、クロが何かを思い出したかのように「あ」と声を漏らした。

『そうだ、言い忘れるところだった。朗報だよ一夏、明日君が倉持技研に行くことになって、そこでボクに乗れるから。強くなったボク、楽しみにしててね♪』

「お!?マジか、そりゃ楽しみ……って待て。強くなったってどういう────」

嬉しい報告の後に続いたクロの発言に追求しようとしたが、否応なしに言葉が止まる。

……時間が来たのだろう。この空間が、ノイズを帯びながら崩壊し始めていた。

『あちゃー……悪いけど、そろそろ時間だ。やっぱりバレないように通信するのは難儀だね。

それじゃ、話の続きはまた明日。暴れ散らかしながら話そうね♪』

「え?あ、お、おう……」

どこかへ引き上げられる感覚を覚えながら、俺は物騒なことを言いつつ手を振るクロに手を振り返した。

 

 

「……いい気分だ」

空間の崩壊に巻き込まれる前に何かから引き上げられたかと思えば、俺はベッドの上で横になっていた。

あの空間での出来事は鮮明に覚えている。それ故に、寝起きだというのに気持ちが昂って仕方がない。

起き上がって横を見てみれば、既に起きているのかベッドにのほほんさんの姿はなく、学校へ行く準備を始めているようで洗面台の方から可愛らしい鼻歌が聞こえてくる。

「……礼を言わなきゃな」

ベッドから降りて、洗面台へと向かう。

「あ、おりむーおはよ〜……って、なんかすごいスッキリした顔してるね〜?」

洗面台の鏡越しに、髪を結っているのほほんさんと俺の視線がかち合い、いつもの間延びした声が飛んでくる。

それが、何故かとても嬉しくて、すこしのほほんさんをからかいたくなってきた。

「おはようのほほんさん。いやー昨日のほほんさんに抱きしめてもらったからか、最高にいい夢を見たんだ。ありがとう、おかげでものすっごく気分が良い」

「……あ、え、えと……うん。よかった〜」

満面の笑みと共に感謝を伝えると、昨日のことが恥ずかしいと言わんばかりに口元に手を当てて、のほほんさんの顔が赤くなっていく。

(あぁぁぁぁぁ可愛いぃぃぃぃぃぃ!!!!!!)

その庇護欲を大いに掻き立てられる顔の可愛さに心の内で悶えていると、髪を結い終わったのほほんさんが気まずそうに俺の方へ赤くなったままの顔を向ける。

「その……今はもう大丈夫そうだけど、悩みがあったら言ってね。私に出来ることならなんでもするから」

「……ありがとう、でも俺はもう大丈夫だ。

なんたって、のほほんさんのハグが最高すぎて悩みどころか色んな葛藤が全部吹っ飛んじまったからな!!!!」

ドヤ顔を決め、再びのほほんさんをからかう。

ああ、何故だろう。

こうしてのほほんさんをからかうのがすごく楽しい。

のほほんさんが感情を顕にしているところを見るのが面白い。

……以前は、全くそう思わなかったというのに。

のほほんさんを可愛いと思いはしたが、ここまで正直に言わなかったのに。

これも、本当の俺になったおかげだろうか。

「も、もうやめてぇ〜!!!わざとでしょおりむぅ〜!!!」

顔を抑えて悶えるのほほんさん。

あまりの可愛さに写真を撮りたくなり、スマホを取り出そうとしたが流石に駄目だという理性が働きスマホに伸ばした手を止める。

「ふふっ、あははははっ!!!!いやー満足満足。のほほんさんのイイ顔見れたしここまでにしとこ」

言いながらのほほんさんの肩を軽く叩く。

本当はもう少し意地悪をしたいところだが、ここで止めなければ学校に遅れかねない。

と。ふとのほほんさんからの視線を感じ、ちらりと見てみる。

のほほんさんは、何があったのか気になっているような様子で俺の事を見上げていた。

「……なんというか、本当に明るくなったね〜?いったい、どんな夢見たの〜?」

若干赤さが残った顔で問いかけてくる。

その質問に『夢の中で少女に諭されて覚醒しました』なんて言えば余計心配されかねないので正直に言う訳にもいかず。

どう返すか少し悩んだが、最適な案が思いついたので、俺はそれを伝えることにした。

「……とってもイイ夢さ。

 

 

 

 

────俺が、本当の俺を見つけた夢」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬side

「────」

虚ろな目で天井を見上げながら、千冬は片手に持った缶ビールを傾けて流すように飲む。

既に床は空き缶で覆い尽くされており、それらは全て千冬が今日飲んだものであることから、かなりの量を短時間で飲んでいることが分かる。

「……どうすればいい……もう、奴を信じられんよ」

ため息を吐くように、暗い表情のまま言葉を漏らす。

千冬は今、学園に体調不良と偽って休暇を取り自室に篭っていた。

学園で教鞭を執っていた時の覇気は無く、何か越えられない壁に当たってしまったかのように絶望している。

普段の様子からは到底考えられないほど千冬が思いつめていたのは、二日前に交わした電話のせいだった。

 

 

 

「────から!!!一夏のアレはなんだと聞いているんだ!!!」

『落ち着いてよちーちゃん、私もアレについてはなんにも知らないって言ってるでしょー?』

「とぼけるなッ!!!あんな力が一夏に……『白式』にあるなんて聞いていないぞ!!!お前がなにかしたんじゃないのか!?」

時は遡り、千冬が学園の屋上にて不審な行動を見せた教師……ジャジュ・ラギリウを問い詰めようとして返り討ちに遭った後、自室に戻った千冬は束に電話をかけていた。

先日一夏と『白式』が行使した異常なまでの力。千冬はそれに束が関与していると直感し、声に込められるだけの怒りを込めて携帯の向こうに声を飛ばす。

が、いくら聞いても帰ってくるのは「知らない」といった類の言葉。

ISを作った本人である束が知らないわけがないというのに、何度も何度も同じ答えが返ってくる。

ならば、と千冬は別の質問を飛ばしてみることにした。

「なら……『白式』が異常進化したのは何が原因だと言う気だ!?『銀の福音』(シルヴァリオ・ゴスペル)以上の力が、突発的な形態移行で発現するわけが無いだろうが!!!」

『それはねー、多分だけどいっくんが原因だと思うよ?』

「……は?一夏が?」

思わぬ質問の答えに、唖然としてしまう。

『うん、まぁ簡単に言えば……いっくん、ものすごーく気分悪くなった時あったでしょ?それで精神状態が極端に悪くなったいっくんを守ろーって『白式』が張り切っちゃって異常な力を身に着けちゃった、って所だと思うよ。こう考えれば『白式』がナノマシンでいっくんの怪我を治したのも納得でしょ?』

「『白式』が、一夏を?」

ありえない、と否定しようとしたが……出来なかった。

確かに、今まで『白式』が幾度も一夏の窮地を助けてきたのは事実だ。初めてISに乗った時は一次移行で単一仕様能力を開花させ、『銀の福音』戦では二次移行して一夏を死の淵から掬い上げた。

ならば、今回は一夏を精神的に助けようとして、心を傷つけようとしているモノという正体がハッキリしない存在から一夏を守るために、あれほどの力を身に付けたということになるのか。

『まぁでも……アレは言わば一種の暴走状態って言った方がいいかも。このままだと『白式』がまたトンデモ進化する可能性は十分にあるね。次はもっともーっと強くなったりして。だがしかぁし!!!これを直す方法はある!!!』

「なっ!?本当か束!!!」

やっと一夏の問題解決に漕ぎ出せそうな話題が出たことで、千冬は嬉しさを隠さずに聞き返した。

『ホントホント!!!そしてその方法とは〜……ズバリ!!!

私の可愛い箒ちゃんと二人で遊びに行かせる!!!そうすればいっくんは箒ちゃんと楽しめて心も癒せて一石二鳥!!やっぱ束さん、天才!!!」

「……は?」

浮つきかけた気分が、その一言で底に落ちた。

同時に、言いようのない不安が千冬を襲う。

「待て。束お前、もしかしてだが……今一夏が箒を、いや、深く関わった専用機持ち達と距離を置いている事を知らないのか?」

唖然として声が漏れそうになったのを抑え、聞いてみる。

『いや、知ってるよ?』

「では何故──」

『いっくんと箒ちゃんズがちょっと喧嘩しちゃっただけ(・・・・・・・・・・・・)でしょ?

なら話し合ってお互いに謝れば万事解決!!!』

まるで、これが正解だと言わんばかりの束の声が、自信たっぷりに言い放つ。

声色から分かる。巫山戯(ふざけ)て言っている訳では無い。

束への落ちていた信頼が、さらに落ちてゆく。

「……お前、本気で言っているのか」

『本気と書いてマジと読むぐらい本気だよ?』

「……ああ。わかった、もういい。この件はお前には頼らん」

呆れ果て、千冬は通話を切る。

もう、束は役に立たない。いや、元々人にとって大切な何かが欠落している奴に頼ろうとしたのが間違いだったのだ。

あんな阿呆、二度と頼るものか。

 

 

 

そうして啖呵を切っておきながら、今このザマである。

自らの頭では思いつくわけもないあの現象の原因をこの二日間徹夜で詮索し、学園内の機密情報に手を出して調べ尽くしても、解決策が一片たりとも見つからなかった。

そもそも、あれはISを作った束にしか分かり得ないものかもしれないというのに、愚かにも自分一人でどうにかしようと考えた自分を呪いたくなる。

手詰まり。その絶望感から逃れるため、酒を飲み続けていた。

もうこのまま何も考えたくない。

疲れ果て、何度目か分からない酔いも回ってきたのか意識が微睡む。

そのふわふわとした心地良さに身を任せ、千冬は目を閉じた。

 

『……見ていられないね、本当に』

 

そして、意識が途切れる直前。

誰かの……聞き覚えのある、懐かしい声が千冬の鼓膜に響いた。

 

 

 

 

 

Multi side

 

『…………』

沈黙が、その場を支配していた。

ISを纏った五人の少女は、ただ互いに武器を握りながら沈黙を貫き続けていた。

少女達が今いるのは、IS学園のアリーナ。

別々のクラスに配置換えを行われ、交流が激減した少女達が、専用機同士の訓練を口実に情報交換を図るために集まったのだ。

しかし、喋り出すものは一人としていない。

 

 

『もううんざりなんだよ!!!!お前らが居る時間は!!!!俺が傷付く時間は!!!!

……消えろよ……俺の目の前から消えろッ!!!!!』

 

 

少女達の頭の中では、何度もこの言葉が反芻していた。

それは、少女達が異性として好きな少年から放たれた言葉。

この言葉は少女達の胸に深く突き刺さり、自らのしてきた所業を思い出させた。

一人は少年に理不尽な暴力を振るい。

一人は少年に罵倒を投げかけ。

一人は少年に我儘を押し付け。

一人は少年から受けた恩を仇で返し。

一人は少年に行った所業を忘れ。

そのような事をしでかしたというのに、少女達は少年を好きだからという理由で自らの行為を正当化し、少年へ責任を転嫁をして。

その末路がこれである。

少女達は少年の近くから引き離され、それぞれのクラスで冷ややかな視線を投げつけられる日々を過ごしている。そんな日々を過ごせば精神が摩耗するのも当たり前だ。

しかし、それでも少女達は。

愚かにも、少年のことを諦めていなかった。

あれだけの怒りを吐き出した少年の、あの怒りを一時的なものだと思い込み、いつか許してくれると心の内で考えていたのだ。

だからこそ、こうして今自らが置かれている状況を受け入れていた。

そして、もし。

彼がいつか自分達を許してくれるのならば。

自分達を、もう一度傍に居させてくれるのならば。

今までの所業の全てを償い続けることを誓っていた。

 

────だからこそ、許せなかった。

 

少女達が離れた途端、少年に一気に近づき、親しい間柄となったその少女……布仏本音を。

少年と楽しそうに日々を過ごす彼女を。

本来なら自分達が居た場所に存在する彼女を。

「……皆、目的は一緒ってことね。私もあの女をボコりたいし」

目から光の消えた少女達の一人が誰にも聞かれていないことを確認しながら声を発する。

「私から嫁を奪ったのだ……相応の報いを受けさせてやる」

「ふふふ……どんな風にボロボロにしようかなぁ……」

「わたくしが、醜く踊らせて差し上げますわ……」

「……許さん……よくも一夏を掠め取りおって」

反応はそれぞれ異なっていたが、胸に抱く思いは共通している。

自分達の居場所を奪った少女を、排除する。

痛めつけ、二度と少年に近づかないようにした上で、その場所から追い出したい。

その自分勝手で下劣な願いのために、少女達は結託する。

 

 

……愚かな少女達は、気付かない。

そんなことをせずに、正直に思いを伝えて謝ることが最良の選択であることを。

今行おうと画策している行為が、少女達にとって最悪の選択であることを。

 

────それが、世界を壊すカウントダウンを、始める行為だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────Break down phase……2.4

 

Ability release ,『無類神器』

IS ability copy start……




久しぶりの投稿でしたが、ここまで楽しんで頂けたなら幸いです。
次話投稿は未定ですが、3月以降に自由時間が増えるのでそこで書いていきたいと思っています。
感想、評価等を送っていただけると嬉しいです。どうかお願いしますm(_ _)m
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