俺の名前は豪 茂浦(ごう もうら)。突然の上官からの命令により前提督が謎の失踪を遂げた鎮守府―――いわゆるブラック鎮守府に着任した提督だ。
着任前の引継ぎはえらく簡単に、手早く行われた。それによればこの度俺が着任することになった鎮守府、礎弩霧鎮守府はなかなか規模が大きいらしく、所属する艦娘は戦艦や空母が多めで練度もそこそこ高いとか…。
え、ブラックどころか好物件なのでは…?
一方で駆逐艦や巡洋艦の数は異様に少ない、というかほぼいない。憶測にすぎないが火力を重視しすぎるあまり、戦艦や空母を抱えすぎて運営が破綻したのだろうか?
そして何より…前任が残した「私が私じゃなくなる」という意味深なメッセージが気がかりだ。前任―――彼女はこの言葉を執務室に残して行方をくらました。
絶対ろくなことがない…そうは分かっていたものの、上官からの命令を拒否するわけにもいかなかった。仕方がないと諦め、俺は礎弩霧鎮守府に着任した。
そして着任早々俺を待っていたのは、艦娘たちからの手厚い歓迎…ではもちろんなくて、「ここはあなたの来るところではありません」という拒絶だったのであった。
■
「…あー、これからよろしく頼む。特に質問等なければ…以上を持って解散とする。本日は集まってくれてありが―――」
形だけでも…と行われた着任挨拶では艦娘たちからの冷めたような視線を一身に受け、彼女たちの前で話すというだけで汗が止まらなかったのを覚えている。
そして解散の号令を聞いて足早に立ち去る彼女たちを見るに、歓迎されていないのは火を見るよりも明らかだっだ。
だが初日が駄目でも明日、それが駄目なら明後日…そうやって長い時間をかけて信頼関係を構築していけばいい、当時の俺はそう軽く考えていた。
「油田防衛の任務、ごくろうさま…!よく頑張―――」
「報告が終わりましたので失礼させていただきます」
「…あ、はい」
別に命令に従わないわけでもない。むしろしっかりと戦果をあげてくれている。だが戦果の報告さえ済ましたらあとは要はない…と言わんばかりの態度。
あくまで上司と部下ってことなんだろうけど…もう少しコミュニケーションというものを…ねえ?
「…………」ワイワイガヤガヤ
「…………」ワイワイガヤガヤ
「…………」ワイワイガヤガヤ
食堂での一人飯にももう慣れた。
一応着任してからしばらくは一緒に飯でもいかが?と積極的に彼女たちの輪の中に入ろうとした…。
だけれど…
「…………」
「…………」
「…………」
俺が声掛けると途端に静かになるのやめてくれませんかね?数秒前まで楽しくおしゃべりしてたじゃないですか…。無表情&無反応に胸のあたりがズキズキしますよ…。
「あー、すまん」
そのまま無理やり席に座って一緒にご飯を食べれるほど肝は座ってはないし、非常識でもない。逃げるようにその場を後にした。それから何度も、時には相手を変えたりしてチャレンジしてきたがどれも同じ結果に終わった。
もういつからか声を掛けることもなくなった。
…徹底的な線引き。あなたと私たちは上司と部下であり、それ以外の何ものでもないのですと突きつけられた気がした。
…実際それでもいいのだろう。むしろ徹底的に公私を分けることで私情がもつれることもない。
あくまで上司と部下…うん、分かる分かる。
…………
………
……
…
でもこれ艦隊これくしょんじゃん!?(メタ発言)
在りし日の艦艇がわざわざ美少女に擬人化されたんだから侍らせたいじゃん!?
なんだこれ!?
…典型的なブラック鎮守府あるあるは今のところ見当たらないけれど…美少女侍らせられないなんてそれはもうブラック以外の何ものでもないだろ!いい加減にしろ!(暴論)
…ということで俺は、このブラック鎮守府を立て直すっ!
とは言うものの、この孤立無援の状況でこのブラ鎮を立て直すなんてほとんど無謀に近いだろう。
だからこそ俺はあるものに目をつけたのだ。
■
…それは工廠の奥に埃をかぶった状態で眠っていた。しかも驚いたことに三つも完備されている。
どうやら前任は建造ドックを使っていなかったらしく、彼女にとってはこれらは粗大ごみだったようだ。だが俺にとってはこの状況を打開する切り札である。
「フフフ、こいつを使えば…」
手押し車に載せた資材を見て思わず笑みがこぼれる。というかそもそも気が付いたのだ…。
仲間がいないなら作ればいいじゃない!!!
「えっーと、燃料30、弾薬30、鋼鉄30、ボーキ30と…」
試しにと燃料、弾薬、鋼鉄、ボーキ…各資材のメーターを30に合わせてスイッチを押す…。その工程を残り二つの建造ドックにも同じように施すと埃まみれになっていた三つの建造ドックはガタガタと音を立てながら無事に動いてくれた。
あとは待つだけである。
それはそうとこの鎮守府はとにかく大食らいの戦艦・空母ばかりなので資材の管理が非常に厳しい。今回俺が資材の保管庫から持ち出せたのも燃料、弾薬、鋼鉄、ボーキともども100ずつだ。
ちなみに今後の計画だが…簡単なことだ。
俺の手駒を増やして増やしまくる。それこそ…この鎮守府に前からいた艦娘たちを上回るくらいの数を…だ!
そして多くの艦娘に囲まれている俺を見たら最後、ここに元々いた彼女たちも流れには逆らえず俺の側につくしかなくなるはずだ…!
フフフ、完璧すぎる!フハッ、フハハハハハッ!!!
ピコーン ピコーン ピコーン
おっ…!!
将来的に俺が艦娘たちに囲まれてキャッキャッウフフしている様子を思い浮かべていると建造ドックから音が…!そして驚く間もなくドックが開き、白い煙が噴出される中、現れたのは…
「…あなたが司令官?雷よ!かみなりじゃないわ!!」
「…駆逐艦朝潮っ!勝負ならいつでも受けて立つ覚悟です!!」
「…長月だ。駆逐艦を侮るなよ」
………
……
…
こうして俺のブラック鎮守府立て直しが今、幕を開ける―――