ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯   作:あぬびすびすこ

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 現在クラシック級の4月です


10、楽しく鍛える

「卯月の仇はとったぜ……」

「何を言ってますの……?」

 

 カフェテリアでもらってきたハンバーガーを片手に黄昏ているゴールドシップ。

 そしていつも通り困った様子で美しくハンバーグを切り分けるマックイーン。

 皐月賞を勝利したということを言っているのだ。皐月にレースしてないのに皐月賞という名前なのが許せないと憤っていたからな。

 その後すぐに引退しようとするゴールドシップをカバディで止める羽目になったのは語る事ではないだろう。

 

「そういうことですの。おめでとうございます! これでGⅠ2勝ですわね」

「おう! これで心置きなく余生を過ごせるってもんだ。ネジ工場にでも就職すっかな」

「まだ始まったばかりでしょう。クラシック路線にいくのですから、日本ダービーと菊花賞が待っています」

 

 マックイーンにそう言われるが、中々やる気がなさそうなゴールドシップ。

 レースの名前を聞いてもほげ~と惚けた様子でハンバーガーを頬張っている。

 ゴールドシップは三冠とか格式高い天皇賞とかそういうものに対しての執着が一切ないというか、称号について興味がないらしい。

 あるのは『アツいレース』ができるか否かだ。結果としてGⅠレースが一番アツいから出ているだけだし。

 

「目標はないのですか? ライスさんのように、誰かに勝ちたいというものでもいいと思うのですが」

「おもしれー走りして勝てりゃあ最高だな! おもしれーヤツもいりゃあいいんだけどな」

 

 ゴールドシップはうーんと唸っているが、今年のクラシック級は強いウマ娘たちばかりだ。

 ただ、前年のクラシック級。つまり今のシニア級が実力成績共に華々しいものがあるため、相対的に今のクラシック級はどうなのかと言われることはある。

 というか今のところ1番強いと言われているのはゴールドシップなんだけれども。

 

「貴方以上に凄いヘンなウマ娘はいないと思います……皐月賞での走りも凄いものでしたけど」

「すげー面白かっただろ! ゴルシちゃんも走っててすげー楽しかったからな!」

 

 皐月賞で見せたワープのようなコーナリングからの全員ぶち抜くレースは圧巻だった。俺たちとしては作戦通りだったわけだが。

 前日の雨の影響で稍重だけど荒れた内側に突っ込む走りは、日々のトレーニングの賜物だ。ぱかプチのコーナーリング練習は実を結んだわけだな。

 

 からから笑いながらハンバーガーを一気に頬張り、紙袋を丸めてドリブルをし始めた。

 そして遠くにいるウマ娘に向かって投げ飛ばした!

 

「へいパース!」

「は? うわっ、なんだし!?」

 

 投げた先にいたのは……ああ、トーセンジョーダン。

 ゴールドシップが何故かオラついて絡みまくっていくウマ娘だ。彼女のなにがそうさせるのだろうか。

 

「ちょっと! これハンバーガーの紙じゃん! ソースつくとこだったんだけど!」

「ジョーダンなんだからパスに反応しろよな。ダンクシュート決めれねーだろ!」

「意味わかんないっ! つーかあんたのせいで水こぼれたじゃん!」

 

 怒りながらジョーダンが詰め寄ってくる。そりゃあ怒るだろう。

 そのままご飯が乗ったトレイをテーブルに置くと、律儀に投げられた紙をゴールドシップに手渡した。

 

「はあー、せっかくのランチなんだから怒らせんなっつーの」

「お、わざわざ飯持ってくるとはな。いただきまーす!」

「これあたしんだから! あんた食べたんじゃん!」

 

 オムライスを食べようとするゴールドシップの腕を掴んで必死に止めている。

 いやぁ、仲がいいな2人とも。

 

「仲よくねー! ちょっと、ゴルシのトレーナーも止めてよ! 自分の担当でしょーが!」

「うるせー! アタシはフリーダムの翼が生えてんだよ! 重力じゃ止めらんねーぜ!」

「意味わかんない! くっそ、パワー強すぎだし!」

 

 ギャーギャーやかましくやりあってる2人。

 楽しそうだなぁとマックーンと目を合わせて苦笑いするのだった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「トレーナーさん」

 

 トレーニングのためにプールへ来ると、水着に着替えたブルボンに呼び止められた。

 真剣な表情だ……いやこれは単純に無表情なだけか。

 

「マスターからトレーナーさんの指示に従うように聞いています。ですが、このトレーニングについて質問があります」

 

 スッと俺の前に差し出されたのは尻尾……のおもちゃ。

 ヒトがウマ娘のコスプレをするときに使う衣装だ。

 

「私たちウマ娘が新たに尻尾をつけるのは残機を増やすためでしょうか。今日は降雨が見られないと思うのですが」

 

 残機……?

 今一よくわからないが、今日のトレーニングに使うんだよと説明する。

 

「?」

 

 不思議そうにぽかんと口を開けて宙を見るブルボン。

 結構接しにくそうなイメージだったが、思っていたより愉快な娘なのかもしれない。

 

 ブルボンを連れてプールサイドまで行くと、他のメンバーが待っていた。

 全員は揃っていないけど。新メンバーとライス、デジタルぐらいだ。他のみんなはレースだったり、本来のチームでトレーニングしていたり。

 

「おせーぞトレーナー! 待ちすぎて尻尾が増えちまったじゃねーか!」

「みんな増えてますよ」

 

 ものすごい冷静なツッコミがフラッシュから飛び出る。

 うるせーと言いながら2本の尻尾で引っぱたく。相変わらず器用だなぁ。

 

「で? 何をしようってんだ?」

「何のトレーニングかな?」

 

 ナカヤマがニヒルな笑みを見せてくる。

 隣に立つスマートファルコンがアイドルらしい可愛げのある笑顔だから、なんともいえない雰囲気になっているけど。

 

 みんなでやるのは、プールで尻尾取りだよと話す。

 尻尾をとられた人は脱落してプールサイド近くで待機。いっぱい尻尾を持ってる娘が勝ちだ。

 

「尻尾取りですか? あ、だから尻尾をつけたんですね」

 

 デジタルが自分の腰に付けた尻尾を手に持って納得する。

 やる事は極めて単純。プールの中で腰についた尻尾を引っこ抜く。要は水中鬼ごっこだ。

 俺のトレーニングに慣れているライスとデジタルはざぶざぶプールに入るが、ブルボン以外の新メンバーは困惑している。

 

「オイオイ、トレーナーさんよォ……遊びじゃあねェんだぜ?」

「はい、私も同意見です。せっかくのチームトレーニングですから、有意義に時間を使用したいです」

 

 ナカヤマとフラッシュが少し怒った様子で詰め寄ってくる。

 いや、すごく真面目に言ってるんだけど。

 

「鬼ごっこが真面目なトレーニングなの!? ファル子、ちょっとびっくりかも」

 

 みんなえぇ……と困ったような表情だ。

 うーん。やっぱり自分で考えているトレーニングは説得力に欠けるところがあるから、納得してもらうのが難しいな。

 ぱかプチを使ったトレーニングも樫本代理に怒られたりしたからなぁ……。

 

「とりあえずやってみりゃーいいだろ! オラ!」

「きゃ~~~!?」

「っと!」

 

 焦れたゴールドシップがスマートファルコンとナカヤマを担いでプールに飛び込んだ。

 爆音と共に水しぶきがこちらに飛んでくる。

 

「ミッション『水中尻尾取り』のオーダーを受理。開始します」

「……わかりました。今日はこのトレーニングを行います」

 

 ブルボンとフラッシュもプールに入る。

 やや納得していない様子だが、まあやってもらえればわかってくれるだろう。

 

 思っている以上に、水中での鬼ごっこはスタミナを消費するからな!

 

「よっしゃーーーー! サブマリン号、出航じゃーーい!!!」

「がぼがぼ! ゴールドシップさんのしぶきが口にっ! ひょおぉぉぉおおお~~~!」

 

 ゴールドシップが凄まじい水しぶきと共に走り出す。泳ぎじゃないのに凄い速度だ。

 近くにいたデジタルの顔面がビシャビシャと濡れてぶるぶる震える。こちらは興奮しているだけ。

 

「えぇ~! ゴールドシップさん速い~~~! ファル子そんなに動けないよー!」

「ら、ライスも頑張るぞー! よいしょ、よいしょ」

「ライスさんの追跡を確認。逃走及び尻尾回収を開始します」

 

 ゴールドシップの標的にされているスマートファルコンは必死に動くが、ジタバタするだけで中々逃げられない。

 ライスも可愛らしい声を出しているが、結構な速度でブルボンに突貫している。ブルボンもかなりのスピードで動きながらフラッシュやナカヤマに狙いを定めているようだ。

 

「水の中なのになんて動きしやがる……!」

「これは……」

 

 突っ込んできたブルボンとそれを追うライスを見て、ナカヤマとフラッシュも逃げ始める。

 しかし慣れないのかパワーの問題か、どんどん距離を詰められていく。

 

「オラァ! 一本釣りじゃ~~~い!」

「それは本物の尻尾だよ~! ウマドルはお触り禁止なんだよ!」

 

 スマートファルコンが捕まってしまったらしい。ゴールドシップが尻尾を片手に振り回している。

 

「確保しました。続いてナカヤマさんをターゲットに設定」

「くっ……やられました」

「ついてく、ついてく」

 

 フラッシュはブルボンにやられた。続いてナカヤマを標的にしたようだが、フラッシュの尻尾をとるのに手間取ってライスとの距離も詰まってきている。

 プールサイド近くに来たフラッシュに近寄る。そこそこいいトレーニングだろ、と声をかけてみた。

 

「……はい。水圧と水の抵抗でスタミナもパワーも使います。尻尾をとる条件を付けることで、思考力も試されます」

 

 冷静に考えてぽつぽつと答え、頷く。

 そして、少し困ったように視線を泳がせた。

 

「その、先ほどはすみませんでした。実際にやると、効果的なトレーニングですね」

 

 謝るフラッシュに気にしないでと話す。

 楽しくトレーニングしていけば、いつも以上の効果が期待できるからさ。楽しんでやってね。

 

「はい、わかりました」

「とったどーーーーッ!」

「尻尾の喪失を確認。敗北しました」

 

 ニコニコして尻尾を掲げるゴールドシップと、少し悲しそうな表情をするブルボン。

 わいわいはしゃぐみんなを見て、フラッシュは穏やかに笑いながらその輪に入っていくのだった。




 水中でのトレーニングはなんだかんだ何でも有効ですね
 負荷のかかり方が違いますし!
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