ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯 作:あぬびすびすこ
アオハル杯のチームトレーニングは中々調子がいい。
クラシック級で走るゴールドシップにもいい影響が出ているので、夏前に1つレースでもと思って宝塚記念に登録した。
人気投票で出走者が決まるレースだから出れないかもしれないが、走りとキャラクター性の両方で注目を浴びているからなんとかなるかも……という考えだ。
皐月賞で内側からワープしたり俺にドロップキックしてきたりするパフォーマンスを見たら、ライトなファンはとびつきそうだしな。俺もファンだったら絶対にとびつく。
そんなこんなで宝塚記念への事前申請を終えた俺とゴールドシップはオフの日であるため学園外へ出かけていた。
最初の目的地はゲームセンターだ。遊ぶためと新しいぱかプチの補充のため。
「なんかおもしれーやつねーかな。ナスの煮びたしクッションとかよー」
煮びたしにする必要ある?
クレーンゲームのぬいぐるみやクッションをじぃっとみつめているゴールドシップにツッコむ。
「だってよお、トレーナーがとるのぱかプチかにんじんクッションばっかじゃねーか。たまには鮭とばとかこけしとか欲しいぜ」
唇を尖らせて不満を言ってくる。
普通のゲームセンターのクレーンゲームでは人気のぱかプチとにんじんクッションばかりだ。他はお徳用のお菓子とかそのぐらい。
そもそも鮭とばの見た目のクッションとか存在するのだろうか……いやこけしも大概だけど。
2人でどれをとろうかと物色しながら歩いていると、ダンスゲームがある一画で足音が聞こえる。
ただし、巧い人がやるキュッキュッという音ではなく、ドタドタというなんともぶさいくな音だ。
思わず視線を向けると、これまた意外な人が熱中していた。
「はっ……はっ……」
必死に体を動かしているのは樫本代理だ。
表情も動きも真剣なのに、全てのタイミングがものすごいズレていた。
へ、へたっぴすぎる……!
「ん? 何見て……おぉー!」
ゴールドシップがダンスゲームをしている樫本代理を発見してしまい、キラキラと目を輝かせている。
この目は遊び相手を見つけたという目だ! インタビューでやたらと突っかかる記者をいいように転がしてやろうと悪だくみをしている目だ!
「はぁ、はぁ……。どうすれば……」
普通にプレイしたとは思えない低成績を叩き出してゲームオーバーになった樫本代理は、肩で息をしながら考えこむ。
そんな彼女にニタニタ笑っているゴールドシップがそろりそろりと近づく。
「ヘイ彼女ぉ! プリクラで証明写真撮ろうぜ!」
「………」
くるりと振り返った樫本代理はゴールドシップを見て固まった。
そして視線を俺に向け、目が合うと再びビシッと固まる。
ものすごい笑顔のゴールドシップに、苦笑いの俺。そして動かない代理という謎の状況だ。
数秒経ってゆっくりと腕を組んだ樫本代理は、眉尻を下げて一言。
「……まずは話を聞いていただきたい」
ゴールドシップは思わず吹き出してゲラゲラと笑った。
「まさか運動できねーとはな!」
「基本的にはなんでも人並み以上にできると自負しているのですが……」
頭に手を当ててやれやれと振る。
まさかスマートビューティといった感じの彼女にこんな弱点があったとは。
しかも先ほどの動きを見ると相当な致命傷になり得るレベルだと思うんだけど……。
俺の視線を感じたのか、少し悲しそうに俯く代理。
「マラソン大会では最下位、ボールは獲れた試しがなく、跳び箱で追試を受けたことも」
「他の教科がオール5なのに対し体育は2。今も外出後は即睡魔が襲ってきます」
弱すぎる……!
聞けば聞くほどあまりにも運動不足というかなんというか。
こう言ったら失礼かもしれないが、もしや代理は思っている以上にぽんこつなのでは……?
「おめー、ぽんこつすぎるだろ」
言ってしまった。
「ぽん……まあ、ええ。身体能力はそうだと自覚しています」
認めちゃった……!
「とはいえ、ウマ娘を教育する上で基礎的な能力は不可欠です。現にダンスの指導を頼まれましたから」
ああー。ゴールドシップと2人で何故こうなっているのかを納得する。
ウマ娘にとって重要なのはレース。そして、勝利後に行われるウィニングライブだ。
走って、歌って踊って。これがトゥインクル・シリーズというか、今行われている競技の全て。
レース以外のダンス等も指導してほしいと言われるのも普通だろう。俺はゴールドシップに言われた時ないけど。
「しかし、私はダンスができません」
「だろーな」
「ええ。そしてスクールに通う時間もありません」
スクールに通ってもダンスができるようになるのだろうか。俺とゴールドシップは訝しんだ。
「そこで――これです」
代理が堂々とした佇まいで指さした先にあるのは、0コンボ、FAILEDと表示されているダンスゲームの筐体。
「空き時間を利用して、この機械を使ってダンスの練習をしていたというわけです」
「ハハハ! おもしれーやつだな!」
真剣な表情でそう話す代理を見てゴールドシップが手を叩いて笑う。
前の映画の話をした時も思ったけど、感覚のズレをものすごい感じるというかなんというか。
かわいい人だなぁ、この人。たづなさんとは違う魅力がある。
「ふぅ……。これが案外難しく……どうしたものかと」
おでこをとんとんと手で叩き、困った様子で画面を見ている。
なんでもできる彼女が困っているというのは珍しい。何か手助けしてあげよう。
ゴールドシップに視線を向けると、楽しそうに頷いた。
「参考書籍を買い足すか……しかし本棚の圧迫が……」
「理子ちゃん代理よー、このぐれーで諦めんなよ!」
「りこちゃ……」
突然名前で呼ばれて混乱している樫本代理にゴールドシップが畳みかけていく。
「頑張れ頑張れできるできる! 自分で自分を管理すんだよ! フレーフレー、RI・KO・CHAN!」
「あの……どういうことでしょうか」
急にブンブン体を振り回して応援し始めたゴールドシップに困惑している。
――誰しも最初はできないものですし、何度もチャレンジしましょうってことですよ。
俺がそう話すと、代理は少し考えて1つ頷いた。
「……そうですね。努力なしでは何も手に入りません」
スッと目を細めてやる気を出した代理は上着を脱いで筐体に立ち、100円を入れて曲を選ぶ。
「弱音は後……今は、精進あるのみ!」
「おっしゃー! がんばれ☆ がんばれ☆」
いつのまにかうちわを両手に持って応援している。
『☆理子ちゃん☆』『ガンバレ!』と書いてあるが……どこで用意したんだそれ。
曲が流れだし、樫本代理が踊り始める。
やはり動きはドタドタしているしタイミングのズレも激しい。
「両足のとこは直前にジャンプだ! そこはジャンプの時に右足あげりゃあ勝手に踏めるぜ!」
「そうか、こういうことか……!」
ゴールドシップのアドバイスを聞いてなんとか体を動かしていく。
すると、少しだけタイミングが合うようになる。1、2コンボぐらいだが着実にステップを踏めているぞ!
――ダンスは笑顔です! 楽しくいきましょう!
「笑え笑えー! 笑う門にはマチカネフクキタルだぜ!」
「笑って、楽しく……、ふっ、はっ」
口角を少し上げて脚を動かす。
ドタドタしていた足さばきが少しずつ良くなり、辛うじてステップと呼べるような動きになっていく。
何度も挑戦する代理を俺とゴールドシップが後ろで応援する。
そして数時間後。
「ハイハイハイハイ!」
「ふんにゃかはんにゃか!」
「ステップワンツー☆」
「うー! ファル子~~~ッ!!!」
「どうしてこうなったの……?」
ギャラリーが増えていたッ!
同じように遊びに出かけていたスズカとフクキタルがたまたまゲームセンターに立ち寄って合流し、河川敷ライブ終わりのスマートファルコンが話を聞きつけて一緒にダンスゲームを開始。
どこからともなく現れたデジタルがファル子のコーレスをするというよくわからない事態になっていた。
あまりの盛り上がりに一般のお客さんたちも集まっている。スマートファルコンに視線が向いているのが救いだろうか。
「理子ちゃん代理ィー! そこで飛翔してマグロ一本釣りのポーズだ!」
「1、2、3……ステップ……っ」
謎の応援から繰り出される普通のステップ。
タンタタンと綺麗な足音を鳴らして最後の1つを踏んで終了。
結果は……14コンボ、EランクだがCLEAR!
「よし………っ!」
「めでてぇー! めでてぇぞーー! やりゃあできんじゃねーか!」
「おめでとうございます理事長代理さん!」
ぐっとガッツポーズした代理にみんなが称賛の拍手を送る。
ようやく後ろのギャラリーに気づいたのか、バッと振り向いて目を泳がせた。
「………」
眉尻を下げて困ったように俺を見てくるため、ちょっと外に出ましょうと扉を指さす。
未だに踊っているスマートファルコンとよだれを垂らしてコーレスするデジタルを置いてそそくさとゲームセンターを出た。
「ふぅ……驚きました。あんなに人がいたとは。あの機械はそれほど人気だったのですね」
「うそでしょ……わかってないの?」
「ファル子さんの影響が多大にありそうですからね~」
代理の言葉にスズカが困惑している。
そうだよな、なんかズレてるんだよなこの人。
「しかし、諦めずにできてよかった。だいぶ成長しましたからね」
少し微笑んで髪を揺らす代理。
こうして見るとクールなキャリアウーマンなんだけどなぁ。
「……励ましの言葉、ありがとうございました。少し早いですが、1つご馳走させてください……ウマ娘のみなさんは、食事管理ができているなら、ですが」
「お! じゃああそこ行こうぜ! 先に行ってるからよ!」
ゴールドシップがそう宣言すると走っていってしまった。
全員ぽかんと走り去った先をみているので、じゃあ行きますかと俺も後に続く。
「え、どこかわかるんですか?」
フクキタルが首を傾げている。他の2人も不思議そうにしていた。
まあ、いつもゴールドシップと行くラーメン屋かその向かいにある和食店かどちらかだろう。
今日は多分和食店だと思うけど。
「……よくわかりますね」
樫本代理が感心したように頷く。
長い付き合いですからねと話すと、考えこむように顎に手を当てた。
表情は少し切なそうだ。昔何かあったんだろうか。
「和食いいですね~。揚げ出し豆腐が吉でしたのでそれを食べたいところです!」
「お昼に食べたでしょう? 2回食べても変わらないと思うけど」
「いいんですよ~! 食べただけ福が届くのです!」
やいのやいのと盛り上がりながらゴールドシップの待つ和食店へと向かう。
代理にご馳走してもらい、俺はみんなの分をご馳走したので結果お金はマイナスになったけど、楽しい休日を過ごしたのだった。
樫本代理とお出かけできるようになった!
※ゴールドシップもついてきます