ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯 作:あぬびすびすこ
「なあ、大丈夫なのか?」
アオハル杯のチーム練習を見にきた癖毛の先輩から突然そう言われた。
何のことかと思っていると、一緒に来ていたメガネの先輩にも心配そうに見られている。
え、どういうこと?
「いや、この前樫本代理と一緒に出かけてただろ」
どうやら先日のゲームセンターでの話らしい。
あれだけ騒げば噂になるか。
そうですけどと肯定すると、うーんと腕を組んで唸る。
「談合してんじゃねーかって言われてるぜ、お前さん」
談合?
首を傾げると、はぁとメガネの先輩がため息を吐いた。
「最初、代理に強く反対したのはあなただけだった。徹底管理を倒すためにチームを作っていたのもね」
「そんなヤツが一緒にゲーセンで遊んでるとくりゃあな。代理と協力してると思われてるってわけだ」
ああー、と納得する。
確かに徹底管理を謳う理事長代理に反発した自由主義の新人トレーナーが、その後一緒に出かけてるなんて怪しすぎるもんな。
実際はご飯食べながらお互い負けませんよと宣戦布告してたんだけど。
「俺たちはそんなこと思っちゃいない。トレーニングだって真面目にやってるのはわかるしな」
「ええ。見た目はふざけているように見えるけど……」
先輩たちと一緒に練習場でトレーニングしているみんなを見る。
「シュッシュッシュッ!」
「くッ、なんだこのフザケたトレーニング!」
「ゴーゴー!」
紐で繋がれた3人のウマ娘を縦並びにして走らせていた。
要は電車ごっこだな、うん。保育園とかでよく見る遊びだ。
ただしスピードはウマ娘基準だから、本物の電車もかくやと言わんばかりの速さで走っている。
3人1組でレースしているが、一番速いのはゴールドシップ、ナカヤマ、タイキのチーム。
比較的落ち着いているナカヤマが苦労しているようだがなんとか合わせてくれている。
ウララとライス、デジタルのチームは思いのほか速く、ゴールドシップたちを追いかけていてびっくりだ。
ウララが足を引っ張るかと思ったけどむしろその元気さで2人をけん引しているからわからないものだな。
「前後にウマ娘をつけて、一定間隔を持たせて同じスピードで走らせることで道中のペース管理を覚える……理には適ってるのよね」
「ああ。競争させることでペースアップするし、速すぎても遅すぎても紐があるからすぐにわかる。いいトレーニングだよ」
見た目の悪さを除けばな。飴を舐めながら先輩は苦笑する。
色々考えて作ったトレーニングを評価してくれるのは嬉しいね。
見た目が悪いことについては正直俺も理解している。が、腹は背に代えられないのだ。
こういうトレーニングじゃないとゴールドシップは真面目にやらないからね!
しばらくしてみんなゴールしたので休憩タイムを取り、先輩たちはトレーニングのフィードバックをしている。
「どうだ、スズカ」
「ちょっとだけ走りにくいです……前を走っても後ろにいるのがわかりますから」
「そういうトレーニングだからな。スズカには合わないか……何か別の役割を与えるってのはどうだい、お前さん」
スズカはやはり後ろに相手がいると気になってしまうらしい。
そもそも走りが自分のペースでぶっちぎる大逃げだからな。一定のペースで走らなきゃいけないトレーニングは苦手だろう。先行や差しを得意とするウマ娘が得意なトレーニングだろうし。
ペースが緩まないようにペースメイカーとして先頭を走ってもらうことにしよう。全員電車だとだらっとするだろうから。
「タイキはどう?」
「ワンダフォー! 楽しいデス! もうちょっとスピーディでもいいデスネ」
「距離適性か……提案してみましょう。どうかしら?」
タイキは少し遅いと感じるようだ。そこはマイラーと中長距離のメンバーで差があるところだな。
ウララとスマートファルコンをつけて走ってもらえば丁度いいかも。
全員ダート適正があるしな。
改めてチーム分けを行い走ってもらう。
ブラッシュアップしたおかげで先ほどよりもみんな走りやすそうだ。
スズカもある程度抑えて後方を気にしてくれているからペースも緩まない。
うんうん、いい調子だ。繋がれて走る光景は変わらずシュールだけど。
「相変わらず奇抜なトレーニングですね」
「……樫本代理」
トレーニングを見ていた俺たちに話しかけてきたのは樫本代理だ。
後ろにはリトルココンやビターグラッセなど、チーム<ファースト>のメンバーたちがいる。
……代理、なんか動きがロボットみたいになってない?
「ああ、これですか。気にしないでください。先日の運動で筋肉痛があるだけです」
そう言ってギギギと動きにくそうにしながらおでこをとんとん叩く。
この前のダンスゲームが相当キているらしい。そりゃあ、運動できない人があれだけやればねぇ。
「なにアレ。変なの」
「あれで速くなんのかな?」
リトルココンとビターグラッセがぽつりと呟く。
他のウマ娘たちもうんうんと頷いた。
正しい評価だ。俺も先輩たちもうんと頷く。
「あと30分で練習場交代の時間です。準備運動を始めたいので外側を使わせていただきます」
今走っているから気をつけてくださいねと言うと、ええと頷いて<ファースト>のメンバーが練習場へ入っていく。
「まずは準備運動を。20分後にランニング5周を行い、その後トレーニングを始めます。では、始め」
統率された動きで準備運動を始めるチーム<ファースト>。しっかりと管理されているのがわかる。
ただ、代理はきちんと全員の動きや体調を確認するために忙しなく視線を動かしていた。
「……驚いたな。このトレーニングを見て何も言ってこないとは」
先輩が飴を落としそうになりながら代理を見ている。
メガネの先輩も同じようで驚いた表情をしていた。
前に話し合いをしてから認めてもらっているからね、こういうトレーニング。そう話すと、感心したように頷く。
「へぇ。お前さんから聞いてはいたが、思っている以上に度量のある人らしいな」
「そうね。しっかり観察しているし、ウマ娘を大事に考えているのは変わらないってことかしら」
細かく指示をしていく樫本代理。
向上心のある人だし、ウマ娘のことをしっかり考えている。もっとよい印象になってくれればと思ってしまうのだった。
「お疲れ! 閉廷! 判決は有罪! きゅうり生かじりの刑!」
「いびゃあ~~!? 口の中に入れないでくださいよ~!」
こちらのトレーニングが終わって引き上げだ。
荷物を練習場から回収していると、ゴールドシップがきゅうりをフクキタルの口に突っ込んでいた。
ゼリーとかジュースならいいけどきゅうりを運動するところに持ってくるんじゃないよ。
「今から始まるみたいです」
「どんなトレーニングしてるんだろう……」
フラッシュとライスが練習場を眺めている。
そういえば、なんだかんだ言ってチーム<ファースト>の練習風景は見たことがない。
少し見せてもらおう。樫本代理に声をかけてみる。
「トレーニングを見たい? 構いませんが、貴方の参考になるかどうか……」
俺の顔を見ていいけど……みたいな反応をされた。
難しくてわからないではなく、奇抜なトレーニングに落とし込めるのかという疑問だろう。
うん、俺も参考になるかはわからん。
とりあえず許可はもらえたので、練習場外にあるベンチに腰掛けて眺める。
メガネの先輩がやっているような、かなりガチガチのハードトレーニングのようだ。
「はっはっはっ……!」
「ラスト200m! 顔を下げない! 地面は蹴る!」
「っだああああぁぁぁ!」
リトルココンに檄を飛ばし、それに応えて最後の末脚を見せる。
おお、凄いスピードだ。3,000mを走ったのに二枚腰の加速でグンと伸びた。
ステイヤーとしての評価が元から高かったけど、さらに成長しているみたいだ。
「おー、やるじゃねーかあいつ」
「一緒に走ったら抜かされちゃうかも……」
「クク……それでいいんだ、ライス。ヒリつく勝負だからイイんだ……」
今の走りを見て沈んでしまうライスだが、ナカヤマはニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。
ゴールドシップも似たようなものだ。それを見たライスは少し考え、うんと頷く。
「みんながいるもんね……よーし、が、がんばるぞっ」
ぎゅっと拳を握ってやる気を見せる。
ちょこちょこメンタルが危うい場面を目撃するが、ゴールドシップたちがフォローしているからか最近はかなり前向きだ。
チームとしての良いところが出ていて何より。こういう友情が見れるから、自由な校風でいてほしいと思うんだよなぁ。
「はぁ~~! 励まされて頑張ろうと小さなお手手を握るライスさんッ! なんという尊み! どうしよう、あたしここで爆発しちゃう!」
後方でデジタルがぶるぶる震えながら今のやり取りを見ていた。今にも爆発しそうなほどの振動だ……!
自由な校風だとこういう娘もいるものなんだなぁと思うのであった。
お前……反対したんじゃなかったんか?(同期その他トレーナー)
なおいつも通りのトレーニング風景が見られてこいつは談合しないだろとすぐに噂がなくなったとか