ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯   作:あぬびすびすこ

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 BNWとの勝負!


14、プレシーズン第2回戦

 今日は天気も晴れ、バ場も良好。

 絶好のレース日和だ。

 俺とゴールドシップは観客席からバ場の状態を気分よくチェックしていた。

 

「仁川とにかわって似てね? にかわはフカヒレみてーだしよ。つまりここは日本海だな!」

 

 うんうんと頷く俺たち。周囲のファンはどよめいている。

 何故こんなにもウキウキなのかというと、先日行われた宝塚記念でゴールドシップが勝利したからだ。

 クラシック級のウマ娘が、シニア級に宝塚記念で勝利というのはもう前代未聞。歴史的快挙と言っていい。

 

 勝てると思っていたが、あんなにも強い勝ち方になるとは。

 阪神が大得意ということも判明したし、レースもすごく面白かった。

 ゴールドシップにとって非常に有意義なものとなったわけだ。

 

 そして本日のアオハル杯第2回プレシーズン戦も、先日同様阪神レース場。

 ゴールドシップは間隔を空けずに連続出走となってしまったが、体の調子もよくやる気もあるので出走することにしたのだ。

 この後夏合宿を経て菊花賞まで長いからね。ここで勝って気持ちよくつなげたいところ。

 

「ここにいたのか……レース前に余裕じゃないか」

「レース開始20分前です。パドックに向かう時間になりましたので、移動しましょう」

 

 腕を組んで仁王立ちしていたところ、ナカヤマとフラッシュが呼びに来た。

 そろそろ時間のようだ。よし、ケガなく楽しく勝とうじゃないか。

 

「チームメンバーですが、ゴールドシップさんと走る貴重な機会です。よろしくお願いします」

「へへっ、今日もおもしれーことになりそうだな!」

「アタシも混ぜろ……と言いたいが、今回は中距離だからな」

 

 全員が好戦的に笑い合う。

 ライバルとして認める相手と仲間として走る。

 これもまたアオハル杯のいいところだなぁと思うのだった。

 

 

 

 

 

『やってまいりましたアオハル杯プレシーズン戦! 第1レース、1,200mからスタートです! 現在14位のチーム<猛ダッシュ>と17位の一万バリキ、そして22位のチーム<STAY GOLD>が出走します!』

 

 対戦相手は<猛ダッシュ>と一万バリキ。どちらも順調に勝ち進んでいるチームだ。

 最初のレースは短距離から。タイキ1人だけの出走だが、果たして。

 

『阪神1,200mは下り坂! 最後の上り坂まで勢いがつきます! 先頭で抜け出すのは誰か! タイキシャトルだ! タイキシャトルが抜け出した! リボンフーガ追いかけるが差が広がっていく! タイキシャトルが先頭を走ってゴールイン! 流石の強さです!』

「アイムウィナー!」

「つ、強い~!」

 

 タイキが余裕の勝利だった。

 やはり短距離マイルだと尋常ではない強さを誇っている。

 海外GⅠとれるパワーをもった娘だったなぁと改めて思った。

 

『最終コーナー回って直線に入った! サイレンススズカ先頭! そこを差しにいくのはウイニングチケット! ナカヤマフェスタ! マチカネフクキタルもバ群の中から突っこんでくる! シャープアトラクトはまだ後方だ! ナーイリズムも上がっていくが追いつけない! サイレンススズカ独走のままゴールイン! 異次元の逃亡者、その名は未だ健在です!』

「ふぅ……気持ちよかったです」

「ごべんよぉおーーー! 負けたぁぁぁああああーーーー!!!!」

「チッ……追いつかなんだ」

「げぼぼ! 速すぎですよ~!」

 

 中距離はスズカがいつも通りのペースを作って完勝。

 他のチームに逃げウマ娘がいなかったこともあり、スズカを止められなかったのだ。

 そして差しにいけずに3バ身差でゴールイン。うーん……強い。

 

 さて、長距離は3戦目だ。

 一足先にゴールドシップたちの出番となる。

 

「ふぅ~、やっぱりせんべいには緑茶だよな」

「ゴールドシップさん、時間です。行きましょう」

「す、すごい……ゴールドシップさんに物怖じしないんだね」

 

 フラッシュがくつろぐゴールドシップにズバッと発言する。

 キッチリカッチリしている娘だから相性悪いと思ってたけど、そうでもないらしい。

 ライスはそんなフラッシュの振る舞いに衝撃を受けていた。ゴールドシップに色々言うのは俺ぐらいしかいないからな。ウマ娘では貴重だろう。

 

「うっし、行くか! あ、トレーナーせんべいをお茶に浸しといてくれよな。ぬれせんべい食いてーからよ」

「それだとふやけちゃうだけだと思うな……!」

「学園近くに半生せんべいというものがあります。それを帰りに買いましょう」

 

 仲良く和気あいあいとターフへ向かうゴールドシップたち。

 今から競争するとは思えない雰囲気だが、これでいざ走るとバチバチにやり合うのだからわからないものだ。

 今日も今日とて楽しみにしていよう。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

『第3回戦は3,000m! 阪神大賞典と同じ条件になります。果たしてどのウマ娘が勝利するのでしょうか』

『現在チーム<STAY GOLD>が2連勝中! <猛ダッシュ>と一万バリキはここで勝って巻き返したいところですね』

 

 実況解説がレース前に盛り上げていく中、出走者はチームごとに分かれて最後のすり合わせを行っている。

 ゴールドシップたちも同じように集まっているが、作戦の確認等は一切していない。

 

「今日の『まろやか羅刹ご飯』で完成すんのかな、アルティメットまろやかおでん」

「結構時間かかってるもんね、あのおでん」

「あの作成工程はとても非効率です。しかし続きが気になってしまうのもわかりますが」

 

 テレビ番組の話で盛り上がっていた!

 手足を動かしてストレッチをしているものの、内容はレースのことですらない。

 真面目にやっているのかと視線を向けられるも、特に気にする様子なく。

 

 なんともいえない雰囲気の中、ゲートインの時間になった。

 誰もが気合を入れ、会場も静まる。

 熱気だけがターフ中を包み込む。

 

『各ウマ娘、ゲートイン完了しました』

 

 ――ガタンッ

 

『スタートしました! 9番ゴールドシップが少し遅れたか! それ以外は綺麗なスタートです!』

 

 いつも通りスタートで出遅れる最外枠のゴールドシップ。

 他は好スタートをきって前へ前へと走っていく。

 特にここで勝ち切りたいチーム<猛ダッシュ>は張り切って先陣を切る。

 

『2番チーム<猛ダッシュ>のイマジンサクセス絶好の滑り出し! ハナを主張して一気に前へと出ていきます! その後ろに4番ビワハヤヒデ、5番ジュエルルベライトと同チームで先頭集団を形成!』

 

 チーム<猛ダッシュ>の作戦は理知的なビワハヤヒデらしいものだった。

 逃げのペースを作り出し、その逃げを邪魔されないように自分たちが逃げているイマジンサクセスの後方につく。

 なるほど巧い戦術だ。最内枠を引いていたエイシンフラッシュはそれを見てすぐさまペースを落とし、中団へ下がる。

 

 ライスシャワーはビワハヤヒデの後方にピタリとつけたが、かなり困っていた。

 ビワハヤヒデをマークするのはいいが、もう1人のジュエルルベライトが野放しになってしまう。

 彼女はただ1人を徹底マークし、スタミナと根性ですり潰すヒットマン。2人以上になってしまうと、狙撃精度は格段に落ちる。

 

 スタートの段階でこの状況を作り上げたビワハヤヒデは、盤石だなと内心思っていた。

 さらに言えば、彼女自身は阪神レース場が得意なのだ。

 瞬発力に欠け、代わりに長くいい脚を伸び伸びと使う走りが持ち味。阪神レース場に合った脚質と言える。

 

 ライスシャワーも脚質的には同じなのだが、彼女が得意なのは京都レース場。阪神はそうではない。

 エイシンフラッシュは末脚で勝負するタイプのため、脚質が合っているわけではない。

 

 相性も含めて決まったと、チーム<猛ダッシュ>は思った。

 しかし残念なことが1つある。

 

 それは、阪神レース場が得意だと判明してしまったウマ娘が1人いて。

 そのウマ娘は作戦を全て粉砕するトリックスターだということだ。

 今はまだ刃を見せず……いや見せてはいるが、誰にも見えていない。

 だって彼女はみんなの背後にいるのだから。

 

『第3コーナーから第4コーナーを回っていきます。全員いい位置をとりましたチーム<猛ダッシュ>。先頭から2番イマジンサクセス。1バ身離れて4番ビワハヤヒデ、隣に5番ジュエルルベライト。すぐ後ろに3番ライスシャワーがいます。2バ身離れて8番ヤムヤムパルフェ、後ろに1番エイシンフラッシュ。すぐ横7番ショーマンズアクト、6番デュオエキュ。そして最後方に9番ゴールドシップです』

 

 先頭をとってしまえば後はもう流れに身を任せるだけ。

 3人でペースをしっかり管理し、ややスローペースで走っていく。

 チーム<猛ダッシュは>危なげなく第4コーナーを回り、1度目のホームストレッチへと入る。

 

 観客たちの歓声を浴びながら、悠々と走っていく。

 見ている側からもこのレースは勝ったな。もらった。そんな声が聞こえてくる。

 

 ――ある1人の声が響いたらこの状況が一変するなど、誰が思っただろうか。

 先頭のイマジンサクセスがゴール板を抜けて第1コーナーに差し掛かろうとしたところで、ゴール前にいた1人が大きな声を上げた。

 

 ――ゴールドシップ! プランGだ! 派手にかましてやれッ!

 

 トレーナーからの最後方で、何故かコースの中央を走るゴールドシップへの激励。

 耳をスッと彼に向けると、彼女はニィっと笑い舌なめずりをした。

 ぞくりとしてしまう、何かが起こってしまうという予感がする表情。

 

 そして、第1コーナーから事件は起きた。

 

『第1コーナー第2コーナーに入っていきます。依然として先頭はイマジンサクセス……おっとここでゴールドシップがゆっくりと進出を開始! 最後方からデュオエキュ、ショーマンズアクトを追い抜いていきます!』

 

 後方で脚を溜めていた2人はギョッとした。

 まだ半分も距離があるのに、ここから前に出るのか!?

 そして追い抜いていった時とギラギラとした笑顔。思わずヒィっと声が漏れ、体がヨレる。

 ――あれは狩る側の、獰猛な肉食獣の顔だ。2人は後にそう語った。

 

「先に行くぜ!」

「はいっ」

 

 第2コーナー終わりにエイシンフラッシュと並び、一声かけてさらに前へと駆けていく。

 向こう正面に入ってからも、ゴールドシップの躍進は止まらない。

 

『向こう正面に入りました! ゴールドシップの追い上げは止まらない! ヤムヤムパルフェを抜かし、ライスシャワーにも並ばない! ジュエルルベライトの横につけています! いや、さらに前へ行こうとしているのか!?』

 

 ゴールドシップとライスシャワーはチラッと視線を合わせ、ニィッと笑ってゴールドシップがさらに進出。

 ジュエルルベライトの横につけると、ドン! ドン! と力強すぎる強烈な足音でプレッシャーを出しながら煽り始めた。

 

 ビワハヤヒデは予想していなかった、考えすらしなかったこの展開に歯噛みする。

 横に並ばれているジュエルルベライトはプレッシャーの強さに腰が引けていたし、ビワハヤヒデ自身も冷汗をかく。

 クラシック級でこんなにも強い圧を感じるとは……! 戦慄していたものの、今までの経験で心身に影響なく走り続けていた。

 

 しかし、この状況で一番プレッシャーを受けていたのはイマジンサクセスだ。

 後方から爆音が迫ってきて、それがわずか1バ身後ろにきている。

 振り向いて確認すれば、そこにはギラギラした目で歯をむき出しにした芦毛の肉食獣。

 怖いっ! 思わず小さな悲鳴を上げて視線を前に戻す。

 

 ゴールドシップが起こした混乱はバ群全体に影響が出ていた。

 後方2人はプレッシャーで体がヨレた。そして何故かそのロスを今すぐ取り戻そうとペースを上げ始める。

 それを見たヤムヤムパルフェも流れに身を任せて加速し、先行している集団に合流。

 足音が一気に近づき、すぐ近くでは爆音。

 焦りに焦ったイマジンサクセスが取った行動は――加速。

 

「なっ、サクセス!」

 

 ビワハヤヒデは思わず声を出してしまうが、後方の圧で集団全体が押し上げられているため自分もペースが速まり始める。

 後方でマークしているライスシャワーはビワハヤヒデが下がるのを許さず、ついてくついてくしてこれ以上の変化を許さない。

 これがまだ第3コーナーに差し掛かろうという時の状態だ。

 第1コーナーから第3コーナーの間だけで、ゴールドシップはこのレースを支配してみせた。

 なんという策士、そして破天荒な作戦だとビワハヤヒデは悔し気に唇をかんだ。

 

『第3コーナーに入りまして、一気に集団が加速していきました! ゴールドシップの追い上げに呼応してイマジンサクセスが逃げ! ビワハヤヒデ、ライスシャワーもゴールドシップと共に前に詰めていきます!』

 

 突如ハイペースとなったこのレース。後はスタミナとパワー、根性の勝負だ。作戦どうこうというレースではなくなった。

 阪神レース場の内回りにある下り坂を駆け、勢いをつけながら最後の直線での戦いに備えていく。

 

『第4コーナー回って直線に入った! 仁川はここから坂がある! このハイペースの中スタミナはもつのか!』

 

 最終直線に入ったところで、まず最初にイマジンサクセスが一気にバテた。

 突然のペースアップは逃げウマ娘にとって致命的。そのままズルズル下がっていく。

 そこで前に出ていくのはビワハヤヒデとゴールドシップ、後方にいたライスシャワーだ。

 ビワハヤヒデがコーナーで外に膨らみゴールドシップを追いやって距離を稼がせ、なんとか先頭に躍り出ていた。

 

『先頭はビワハヤヒデ! しかし外にはゴールドシップ! すぐ後ろにはライスシャワー! ジュエルルベライト苦しいか! ヤムヤムパルフェが追い抜いていく!』

 

 全員最後の上り坂を前にヘロヘロだ。しかし、気合と下り坂を利用した勢いで必死に走っていく。

 ビワハヤヒデはゴールドシップとライスシャワーに差を詰めさせず、半バ身差をつけて先頭でひた走る。

 

『残り200m! 坂を上り終えればゴールだ! ビワハヤヒデ譲らない! ゴールドシップ前に出られない! ライスシャワーも1バ身!』

 

 あと少し! ビワハヤヒデは最後の上り坂を踏みしめ、一気に駆け上がっていく。

 根性はあってもスタミナは限界だ。必死に走るが脚は上がらず腕も重い。肺も苦しい。しかし、そんなもの!

 最後の力を振り絞って坂を駆けあがっている中、ふと右側で何かが見えた。

 不意に視線を向けると、そこで目にしたのは――閃光。

 

『内から! 内からエイシンフラッシュだ! エイシンフラッシュ驚異的な末脚! 一気に駆け抜けてゴールイン! エイシンフラッシュが内側からまとめて差しきりました! 閃光の切れ味は伊達じゃなぁい!』

『2着はビワハヤヒデ! 3着はおそらくライスシャワーでしょうか!』

 

 ビワハヤヒデはゴール後にゆっくり脚の回転を落とし、呆然とした。

 そして、ハッとエイシンフラッシュの姿を見る。

 彼女は肩で息をしてはいるが、ビワハヤヒデやイマジンサクセスたちのように満身創痍の疲弊ではない。

 

 そこで気づいた。

 

「……やられたな」

 

 相手の作戦を決められて負けたことを悟り、ふぅと息を吐いた。

 ゴールドシップとライスシャワーがプレッシャーをかけてハイペースを強要。

 全員がバテたところで、しっかり脚を溜めていたエイシンフラッシュが末脚を解放する。

 やろうとしていたことは自分たちと同じだったのだ。まんまとやられてしまった、とビワハヤヒデは空を見上げる。

 

「またライスに負けちまったなー。ゴルシちゃんウルトラショックだぜ」

「え、ど、どうしよう……」

「勝者は誇るべきです、ライスさん」

 

 和気あいあいと楽し気に話すチーム<STAY GOLD>。

 すばらしいチームワークだった。3人を称えるために、ビワハヤヒデは声をかけに行くのであった。

 

 

 

 その後、ゴールドシップの走りがその場のノリだったということが判明してビワハヤヒデが頭を抱えるのはまた別の話。




 ライス:ビワハヤヒデをマーク
 フラッシュ:できれば内から差す
 ゴールドシップ:ノリと勢いでかます

 事前の作戦通りに走った結果がこれだよ!
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