ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯 作:あぬびすびすこ
「ふむ、なるほど」
樫本代理がノートを見て頷く。
先日の水上ゴザ走りがチーム外のウマ娘にも好評で、誰が完走できるか挑戦するというレクリエーションになったのだ。
もちろん俺たちの休憩中に使ってもらったけどね。だってほら、真面目にトレーニングとしてやっているから。
思いのほか話題になったため、樫本理事も様子を見にきたと話している。
彼女が見ているのはゴザ走りをやった後にそれぞれの適正距離を走ったタイムと走りの評価を記録したノート。
2週間ほどゴザ走りを中心に行ったトレーニングの結果がそこに現れていた。
「全員タイムがよくなっていますね。1Fごとのスピードが全体的に向上しています」
ゴザ走りの効果でみんな脚の回転が速くなった。
結果として1歩ごとに使う踏み込みの力が明らかに強くなったおかげで、スピードの持続力がよくなったのだ。
あとは考えてなかった効果だけど、地面を踏んでからその反発を上手に使えるようになったらしい。
ゴザを踏んだ時の反発を最大限活かすために使っていた走り方がいい影響になっている……みたいなことをブルボンとフラッシュが言っていた。
「筋力や脚の回転数以外にも、走法の向上にも効果があるのですね」
そうみたいですと頷く。
樫本代理は顎に手を当てて少し考え、ポツリと一言。
「……採用するか」
「それはちょっとどうなんでしょうか樫本トレーナー!」
樫本代理の元にビターグラッセが走りこんできた。どうやら今までの話を聞いていたらしい。
元気いっぱいで真っすぐな彼女には珍しく困ったような表情だ。目が泳いでいる。
後ろの方に見えるチーム<ファースト>のウマ娘たちも腕を組んで忙しなく耳を動かしていた。
「しかし、実際に数字として効果が出ています。士気向上にもつながっているようですから」
「確かに面白いと思いますが、ウチのチームに採用というのはっ。なあトレーナー! そう思うだろう?」
トレーニングを考えた相手にそれを言うのは流石と言わざるを得ない。
とはいえビターグラッセの言う通り、水上ゴザ走りはチーム<ファースト>のトレーニングには適さない気がする。
代理がしっかり見て負荷をかけることで成長してるわけだし。レクリエーションを兼ねるようなものだとあまり身が入らないだろう。
「……確かにそうですね。海に落ちた後に戻ってくるロスもある。それに、別のトレーニングで代替できそうです」
1つ頷き、俺にノートを返してくる代理。
ビターグラッセはほっと息を吐く。その後ろの方で様子を見ていた<ファースト>のウマ娘たちもグッとガッツポーズだ。
やっぱり肌に合わないトレーニングなのだろうなぁ。
「トレーナー、そろそろ昼飯の時間になるぞー」
「うわっ! すごい高いな!」
ゴールドシップが竹ウマに乗って現れた。
遠目にはチームのみんながえっさほいさと竹ウマで走り回る姿が。
「これは……竹ウマですか」
「ゴルシちゃん特製だぜ! 理子ぴんもやってみるか?」
「理子ぴ……?」
樫本代理への呼び方に困惑しているビターグラッセ。
<STAY GOLD>と<ファースト>は敵同士みたいなイメージがあるからね。
ゴールドシップがこう話して代理が普通に受け入れてる状況は意味が分からないだろう。
「いえ、遠慮しておきます……ただでさえ暑いですからね」
汗をハンカチで拭い、トントンとおでこを叩く。
夏場にその黒いスーツは暑いだろうに、よく着ていられるなと感心する。
少し対策をしてもいいと思いますけどいかかでしょう。
「ええ、そう思ってはいるのですが……」
「だったらよー、近くで買いに行けばいいんじゃねーか?」
砂埃も立てずに竹ウマから降りたゴールドシップがどこからともなく携帯を取り出した。
竹ウマから手を放して倒れかけるので、すかさず支える。
「ほれ、呉服店。浴衣とか以外にも色々あるからよ。おめーらで着せ替えパーティしてこいよな!」
「いいな、それ! 樫本トレーナー、オフの日は是非行きましょう!」
「いえ、それなら私1人でも」
「行きましょう。明日はオフの予定ですから」
「リトルココンまで……」
いつのまにか樫本代理を服屋に連れていく話になっている。
どこからともなくリトルココンも現れて加勢しているし、<ファースト>のメンバーたちもキラキラした目で近づいてきた。みんな樫本代理好きなんだなぁ。
みんなの気分転換にはいいんじゃないですか? そう言うと、少し考えてふぅと息を吐いた。
「わかりました。私も暑さには困っていましたから」
わぁ! と喜ぶチームメンバーたち。
徹底管理のもとトレーニングしているわけだが、こういった学生らしい部分もやっぱりあるよね。
後日、涼し気な半袖のシャツで指導する樫本代理の姿が見られるのだった。
◆ ◆ ◆
夏合宿も折り返しの8月。
ゴザ走りと竹ウマによって体幹と筋力をしっかり鍛えた我々チーム<STAY GOLD>は次なるトレーニングに勤しんでいた。
「ここです! へぶぶっ!」
「防衛ミッションに成功」
フクキタルがブルボンの体にぶつかってゴロゴロ転がっていく。
今現在、みんなで手をつないで輪になっているのだ。
その輪の中央にはビニールボール。
これは何をしているのかというと、手を伸ばしてつないだみんながぐるぐる回る。
そして外にいる1人が、輪の中にあるボールを取りに行き、それを阻止すべく回っているメンバーは回転を速くしたり逆回転にしたりしてガードするというものだ。かごめかごめに近い。
これまたレクリエーションのようなものだが、左右のステップワークとや判断力が身につく……と思ってやっている。
ゴザ走りや竹ウマで海をいっぱい使ったし、今回は砂浜を使ってみようという考えだな。
「うぐぐ、やはりみなさん反応がいいですね」
「でもでも、フクキタルが一番ボールゲットしてマス!」
「そうだよ! フクちゃん強いよ~! わたし1回しかとれてないもん!」
「そ、そうですか~? 照れますね~」
「うん、フクキタルさん上手だよ。ライス、何回もくぐられちゃう」
「腰以下を意識しましょう、ライスさん。下半身全体でブロックするのが効果的です」
とりあえず6人1組でやってもらっているが、コレが中々盛り上がる。
しっかり下半身を意識してくれてるから効果も期待できるだろう。
しかし、思っているよりもフクキタルが得意なようだ。勝率7割強。
バ群の中からぶち抜いて差す走りをしているだけはある。
それにウララもダメかなと思っていたが、1回成功するという快挙。
着実に成長しているようで、様子を見に来ていた先輩のウララトレーナーが思わず泣き出すほどだった。
「おれぇい!」
「ナカヤマさん、フェイントです!」
「クク、それもフェイントなんだろ……?」
「こっちこっちー! ファル子の横があいてるよ☆」
「ファル子さんと手をつなぐとか問題なのでは!? スズカさんにも挟まれてる! ああ、触れ合うとか耐えられないッッッ!」
「うそでしょ……走りながら気絶してる……」
ゴールドシップたちのグループもかなり盛り上がっている。
フラッシュやナカヤマ、スマートファルコン、そしてスズカとデジタル。
一緒にいることの少ない6人組だが、相性は悪くないのか楽しそうだ。
「相変わらずスゲーことやってんね。あ、ウマトックあげたんだけどいい?」
携帯を片手にジョーダンがやってきた。
夏合宿でのトレーニング風景をちょこちょこ撮ってはSNSに公開しているらしい。
反応はかなりいいようだ。ゴールドシップがウマチューブで上げているトレーニング動画も伸びがすごいから需要があるんだろうな。
「お、ジョーダンじゃねーか。また焼きそば食いにきたのか? 激辛食ったのにこりねーやつだな」
「ちげーよ! ヘンなトレーニングばっかしてっから撮りに来たんだし!」
「ヘン……まあ、ヘンだろうなァ」
「そうですね。奇抜です」
ものすごい言われようだ!
「まあおもしろそーだしやってみよっかな。トレーナー動画撮っててよ、後で上げるから」
「じゃあボール取りな。アタシはブロックに参加させてもらうぜ!」
「私が抜けるわ。デジタルさん、次は気絶しないようにね」
スズカOUTでゴールドシップIN。
がんばりますと言ったデジタルの手をゴールドシップが握った途端に痙攣していたが大丈夫なのだろうか。
もうデジタルの気絶とか反応にツッコむのはスズカしかいないから放置されてしまうぞ。
「レディ、ゴー!」
「はっや!? さっきとスピードが違うじゃねーか!」
「いけんだろ! オラァ! かかってこいよ!」
「おぉ~!? すごい速さですね~!」
超回転のメリーゴーランドにジョーダンが怒り散らす。
フクキタルたちも反応するレベルでスピードが速い。砂埃も凄いし。
「くぅー……ここっ!」
これは無理だろうなと思っていたら、意を決したジョーダンが突撃していった。え、何故?
案の定回ってきたゴールドシップに吹き飛ばされてゴロゴロ砂浜を転がっていく。無茶するなぁ!
「やっぱ無理じゃん!」
「無理に決まってんだろ。何してんだ?」
「おめーがいけるって言ったんだろ!」
漫才かな?
動画を撮っている画面を見ながら、仲がいいんだなぁと思うのだった。
樫本代理って絶対暑いですよね夏場。
体力ないのによくあの格好でいられるなぁと思いますねぇ。