ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯 作:あぬびすびすこ
「ねえ、ちょっといい?」
ゴザ走りをしているメンバーを観察していると声をかけられた。
誰だろうかと視線を向けるとそこにいたのはリトルココンとビターグラッセ。
彼女たちから話しかけてくるとはかなりレアだ。日中はチーム内で全て完結してるし、食事管理もされてるから学園のカフェでもそんなに見ないからな。
あっちに、と呼ばれたのでついていく。
人気のないところに来ると、改めてリトルココンが口を開いた。
「樫本トレーナーとどんな関係なわけ?」
そう言われて首を傾げる。
別に、理事長代理とトレーナーの関係だけど……。
「そうじゃなくて……っ」
「樫本トレーナーと仲がいいだろう? チームでも話題になっているんだ!」
ああ、そういうことか。
確かに自分のチームを担当するトレーナーと仲がいい異性というのは気になるのかもしれない。
それにチームとしては管理主義と自由主義で対立してるわけだし。
でも樫本代理ってウマ娘のことを常に考えているいい人だからなぁ。
管理がどうって言われてるけど、実際チーム<ファースト>のウマ娘は着実に成績が上がっている。トゥインクル・シリーズでも重賞をとったりして、現在進行形で活躍中だ。
しっかり強くさせて、ケガもさせないように見ているだけだからね。普通に話せばいい人だから、自然と仲良くなりそうなものだけど。
「お、目の付け所がいい! 樫本トレーナーは私たちをしっかり見てくれているんだ。おかげでとても強くなれている!」
「そっちの楽にやってるのとは違うから」
「すまない。彼女のひどい物言いは気にしないでくれ」
リトルココンの毒舌にビターグラッセは困ったように笑う。
2人とも仲がいいんだなぁ。
少し話がそれたが、樫本代理との関係は普通だ。
現状で言えば、トレーナー同士って感じかな。
「でもご飯食べに行ったんでしょ。しかもそっちのメンバーもいっしょに」
ツンと冷めた視線を向けてくる。
ゲームセンター帰りのことだろうか。まあトレーナー間で噂が出回るぐらいだから、ウマ娘も知っているか。
あれはまあ諸事情あってご馳走してもらったんだよと話すが、どうも納得がいかないようでリトルココンは不審げにじっとり見てくる。
困ったなと思って視線を泳がせる。
「そっちのヘンな雰囲気をうちのチームに伝播されたくない。樫本トレーナーにヘンなこと言わないで」
リトルココンの発言にうんうんとみんな頷く。
俺と代理が色々話して、強くなれている今の環境を崩さないでほしいってことか。
あと信頼しているトレーナーにヘンなのがくっついてほしくないというのもあるかもだけど。
「ヘンだなんだナンジャモンジャ!」
なにやら聞こえたと思ったら上からウマ娘が降ってきた。
十中八九芦毛の美少女だ。
「よう! 宣戦布告か? それとも線香花火で数珠を作る会でもやってんのか?」
「ゴールドシップ!」
突然現れたのは毎度おなじみゴールドシップだった。いや、知ってたけどね。
どうせついてきてるんだろうなと思ってたし。
「おめーらよー、理子ピン代理のことよく知っとけよな。あんま知らねーだろ」
「は? あんたらより知ってるっしょ」
「きなこ棒よく食ってるの知ってっか?」
初耳だったらしく、みんなへぇーと驚いている。
リトルココンは悔しそうにグッと唇を噛んでるけど。
「それにゲーセン行ってたりとか、話聞くまで知らなかったろ」
「………」
「ま、なんでもいいけど。気にいってんならもっとオラついとけよな。つまんねーことでビビってるとつまんねーことになるぜ!」
ゴールドシップの言葉に少し考えさせられたのか、リトルココンは視線を下に向ける。
ビターグラッセはそれには同感! と頷いているが。
「……ベツに、アンタに言われなくてもわかってる」
「素直になれねーオトシゴロってやつか? リトルココンちゃんよー」
「は? ウザ。ムカつく」
尋常じゃない勢いで罵倒を浴びせられたゴールドシップだが、機嫌がよさそうにニヤニヤしている。
代理とゲームセンターで会った時と同じ目だ……遊び相手を見つけたという目だッ!
「ハハ! おもしれーやつだな!」
「ウザいんだけど! 肩組むな!」
「リトルココンにあれだけ言われても絡みにいくなんて! すごいな君は」
強引に絡みついているゴールドシップに感心しているビターグラッセ。
反応がいい相手を気に入るからなぁ、ゴールドシップは。
肩を組まれて怒り散らすリトルココンを見て、ビターグラッセと2人で苦笑いをするのであった。
◆ ◆ ◆
夏合宿も終わり、バスに荷物を積んで出発するのを待っている。
この2ヶ月間でかなりレベルアップした。
特にゴールドシップは既にシニア級と言ってもいい実力になっているはず。
アオハル杯と宝塚記念を目標にするから日本ダービー不参加にすると宣言してものすごい非難を浴びたが、宝塚記念で黙らせた。菊花賞で強い勝ち方をすれば、完璧に認めてもらえるだろう。
やる気がないのにダービーへ出走させても勝てるわけないからね。
「おうトレーナー! これを見てくれ!」
元気よく話しかけてきたゴールドシップは手の平を見せてきた。
どれ?
「これだろ!」
そう言って手をつき出してくる。
いやどれだよ!
「5ってやってんだろ!」
「なんとぉ~!? トレーナーさんのお顔に紅葉が~!」
何故か理不尽にビンタされてフクキタルがびっくりしている。
ああ、数字の5ってことね。
「おう! これ何かわかるか?」
「うそでしょ……このまま話を続けるの?」
頬を擦りながら考える。様子を見ていたスズカが困惑しているが、いつものことなので気にしない。
うーん、幅広すぎてわからない。2択にしてくれない?
「いいぜ。合宿中にみつけたセミの抜け殻かライスが食った飯の量だな」
「ら、ライスそんなにいっぱい食べてないよ!?」
いや、ライスはいっぱい食べてるよ。
今日も朝ごはんに大盛りオムライス食べてたし。
「それは言わないで~~~!」
「なんでライスさんはそこまで食べているのに細いのでしょう……」
ライスが顔を覆って叫んでいるのを見て、近くにいたマックイーンが遠い目をしている。
彼女はなんというか、太りやすい体質らしい。カフェでもなんでも必死に減量するのをよく見かけるからな。
しかし5か……抜け殻とライスのご飯の量ね。50kgとかそういうことなのかな。
だけどどうせ2択の中に答えはないので適当に答えよう。これは面白い回答が正解のパターンだ。
マックイーンが減量中にお菓子を食べた数だ!
「どういうことですの!」
「正解!」
「どういうことですの!?」
混沌とした状況で盛り上がる俺たち。
そろそろ時間だとみんなをバスの中に誘導する。
座席が埋まったのを見て人数をチェック、リストのメンバーがいるのを確認。
「こちらは全員います」
「こっちもいるぜ」
「私も大丈夫よ」
バスを降りると樫本代理と先輩たちが確認を終えていた。
俺のほうも大丈夫です。
「今年も無事に終わったわね」
「ああ。ケガもなく、いい合宿だったぜ」
「同感です。ウマ娘たちもスキルアップしたことでしょう」
後は帰るだけということで、ホッと息を吐く。
いつもより負荷のかかるトレーニングが多いということで、トレーナーも管理が大変なのだ。
だからこそウマ娘たちのレベルも格段に上がるわけだが。
「しかし今年は盛り上がったな。お前さんのおかげかな?」
ニヤリと癖毛の先輩が視線を向けてくる。
多分ゴザ走りのことを言っているのだろう。
まあ、思ったよりも成功したので嬉しいですねと口にする。
「最初はふざけているのかと思ったわよ。やらせてみたらいい体幹トレーニングだったけれどね」
「ええ。採用しようかと考えたのですが、私のチームには合っていないようでした」
「代理さんのチームにゃあ、砕けたトレーニングは合わないだろうな」
思わずみんなで苦笑する。
それぞれ管理派が2人、自由派が2人でトレーニング内容も全く違うトレーナーたちだけど、雑談や意見交換は普通にしている。
こういう風景がウマ娘たちにとっては不思議に感じるのかなぁ。
リトルココンたちに呼ばれた時のことを思い出し、苦笑する代理を見るのだった。
樫本代理が見ているように、ウマ娘も代理を見ているのだ!
信頼しているからこそ、ヘンなのに影響されてほしくないんですね