ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯   作:あぬびすびすこ

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 1話目で開催して2話目で廃止の危機になるらしい


2,アオハル杯廃止!?

「そんなのトレセン学園じゃありまセーン!」

「そうだそうだー!」

「わたしたちの青春はどうなるのー!?」

 

 理事長代理が着任した翌日、体育館で生徒たちによる大ブーイングが起きていた。

 俺たちトレーナーも困惑していて、この状況をどうすればいいのかわからない状態だ。

 

 こうなった理由はもちろんこの方。

 理事長代理こと樫本理子の発言である。

 

「皆さん初めまして、昨日着任した樫本です」

「秋川理事長に代わってしばらくの間、理事長代理を務めることになりました。よろしくお願いします」

 

 先ほどまで歓迎を兼ねた代理の着任報告の場であった体育館。

 俺たちもパチパチと拍手をしてようこそといった雰囲気だったのだが。

 

「さて、私がこの学園に訪れて感じたこと。それは――どうしようもない『緩さ』」

 

 おや?

 何やら怪しい空気間になったと思い始める。

 ステージ脇にいるたづなさんの表情も心配そうだ。

 

「体重管理の不徹底、睡眠時間のズレ、そしてトレーニング前のウマ娘を遊びに捕まえる不真面目さ」

 

 先輩たちが一斉に俺のほうを見てきた。近くにいるウマ娘も俺を横目で見てくる始末。

 俺のせいじゃない! 俺のせいじゃないからね! 本当に違うからね!

 

「そこで、私はここに徹底管理主義をベースとした育成方針『管理教育プログラム』を掲げます」

 

 ここにいるみんなが一斉にざわつき始めた。

 管理教育……? トレーニングを管理するの?

 不安そうに周囲の生徒たちと話し出す。

 

「まずはトレーニング内容から食事、ゆくゆくは私生活に至るまで、徹底管理し――」

「これによりさらなる才能の向上と、ケガのリスクの低下を目指します」

 

 先輩たちはふぅん? と考えこむ仕草を見せる。

 つまり、トレセン学園を卒業するまで、自由な時間やプライベートな時間は全く存在しないということだ。

 ケガのリスクは確かに低下するだろうし、体重管理も間違えることはない。

 ただ、これではなんというか……もう少し手心をというか……。

 

「ねぇねぇ、ライスちゃん、どういうこと?」

「えっとね、その……」

 

 目の前にいる2人のウマ娘、ハルウララとライスシャワーがうんうん唸っている。

 ハルウララはみんなのアイドルウマ娘としてトゥインクル・シリーズを賑わせていて、ライスシャワーは最強のステイヤーの一角として数えられたすごいウマ娘だ。

 仲がいいらしく、よく2人で話したりごはんを食べるところを見かける。

 

 そんなライスシャワーが助けを求めるようにこちらを見てきた。うまく説明できないらしい。

 寝る前にアイスは食べちゃダメってことだよと教えると、ハルウララがバッと顔を上げてもの凄い驚き出す。

 

「ええーーー!? なんで!?」

「ごはんの量が決まってるからかな……」

 

 やいのやいのと騒がしさが増してきた。

 そして、とどめの一言。

 

「先日復活したチーム対抗戦のアオハル杯。こちらも近日廃止します」

 

 これには一部の生徒からワッツ!? どうして!? と声が上がる。

 樫本代理が言うには、感受性の高い思春期の時期にチーム戦をやると情動的な行動が起きやすいため、ケガのリスクが上がるからということらしい。

 ああ、まあ、うん。確かにそれはその通りだ。良くも悪くも、学生のみんなは感情で動きやすいからなぁ。

 

「勝ちたいという想い。悪意など一つもなく頑張っています。だからこそ――チームの『暴走』が起きてしまう」

 

 少し複雑そうな表情をして、樫本代理は俯く。

 しかしすぐに顔を上げ、真剣なまなざしでウマ娘たちを見た。

 

「そういったことのないよう、チーム制度を廃止し、徹底管理をするのです」

 

 ――以上。そう言って、樫本代理は有無を言わさず壇上を降りていった。

 

 明るい雰囲気で始まったはずの集会は混乱と動揺を残し――

 樫本代理による徹底管理主義体制が始まらんとしていた……!

 

「へへっ、おもしれーことになってきたぜ!」

 

 そして芦毛の美少女による暗躍(?)も始まろうとしていたのだッ!

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 はてさてどうしたものかと考えている内にメイクデビューを迎えてしまった。

 ゴールドシップとはいつもと変わらず山で虫を捕まえたり海で鯛を釣ったりしていたわけだが。

 トレーニングというトレーニングはあまりせず、フォームを整えることだけやってきたので先輩たちからは大丈夫なのかと心配されている。

 

 が、正直ゴールドシップが負ける要素は皆無だと思っていた。

 そして結果。

 

『ゴールドシップ先頭! 先行からそのまま抜け出し、ぐんぐん伸びていきます! そのまま先頭でゴールイン! すばらしい走りでしたゴールドシップ! 今後が楽しみなウマ娘です!』

 

 先行抜け出しで快勝。一緒に走ったウマ娘や先輩たちはあんぐりと口を開けていた。

 170cmという恵まれた肉体に、日々の活動で培われた体幹。そして周囲をしっかり見渡せる観察力の高さ。

 それらをしっかりと使えれば負けることはないのだ。少なくともジュニア級では最強だと思っている。

 

 ウィナーズサークルで1着のポーズをとるゴールドシップとハイタッチして、メイクデビューで勝利を飾ったのだった。

 

 ただ、問題は外ではなく中。

 メイクデビューを終えて帰ってきた学園は、不安と疑念に包まれていた。

 何故なら管理教育プログラムが始まるまであと3日なのだ……!

 

「オッス、アタシゴルシ! なに見てんだ?」

「あ、ゴルシちゃん!」

「ゴールドシップさん……」

 

 カフェテリアで不安そうに何かを見ていたハルウララとライスシャワーを発見し、ゴールドシップが近寄っていく。

 俺もなんだろうかと覗き込むと、プログラムの内容が記載されたリーフレットが。

 

「へぇ、食ったのを書いて提出すんだな」

「うん、そうだよ。それで、食べすぎちゃったり栄養不足だったりすると、とっても苦い……栄養満点のドリンクを飲まなきゃいけないんだって……」

 

 ペナルティドリンクと書いてあるのがそれのようだ。

 

「ええ~~~っ!? 苦いの飲めないよーー!」

 

 ハルウララは頭をぶんぶん振りながら唸っている。

 アメとムチならいいが、アメはなくムチだけあるようだ。さすがは徹底管理。

 

「ハイ!」

「見ましたか、みなさん!」

 

 俺たちがリーフレットを見ていたら、後ろからタイキシャトルとマチカネフクキタルがやってきた。

 タイキシャトルは現在最強のマイラーとして活躍中だ。海外GⅠも獲っていて、もはや日本だけにとどまらない。

 マチカネフクキタルは夏の上がりウマ娘として有名で、菊花賞での劇的な勝利は見ていて感動ものだった。

 

 ここにいるゴールドシップ以外の4人は既にトゥインクル・シリーズに出走している先輩だ。

 ハルウララ以外は、あまりレースには出ていないみたいだが。

 

「見てください、ここ! 全教科で毎日小テストがあるんですよぉ~!?」

 

 マチカネフクキタルの指さすところを見ると、確かにそう書いてある。

 赤点をとったら、週末に補習授業か。妥当だけど毎日かぁ……。

 

「ハッ! そうです! 気が滅入ったなら、とっておきのパワースポットへリフレッシュに行けばいいのです!」

「でもよー、申告しねーとダメって書いてあるぞ」

 

 ウグッとフクキタルは体を震わせ、がっくりと肩を落とした。

 

「やっぱりおかしいデス!」

 

 タイキシャトルがムッとして怒り出した。

 キュウクツでアンハッピーな学園はおかしいと、フリーダムでハッピーなトレセン学園が好きなのだと。

 彼女の発言に、そうだそうだと周囲のウマ娘たちも声を上げる。

 

「うっし! なら行こーぜ」

 

 ゴールドシップがリーフレットをべしっとテーブルに投げ捨て、楽しそうに腕を組む。

 確かにそれが一番速いし効果的かな。

 

「どこに行くんです? 地方の学園に亡命ですか?」

「ら、ライスはみんなと一緒にいたいな……」

 

 何故か話が飛躍している。

 いや、抗議したいなら行く場所は決まってるじゃないか。

 

「そうデス! 樫本代理にジカダンパンしまショウ!」

「ま、そーゆーことだ。手っ取り早いだろ!」

 

 行くぜー! オー!

 盛り上がったところで、みんなで理事長室へ行くことになった。ゴールドシップがどこからともなく大漁旗を取り出して先頭を歩いている。

 うーん……樫本代理、胃に穴が開かなきゃいいけどな。

 

 

 

 

 

「オラァ! ホタルイカ漁だぜ!」

「……………………なんでしょう、貴方たちは」

 

 理事長室の扉を蹴破って入っていくゴールドシップ。

 たっぷりと時間を使って頭の中を整理した樫本代理は、落ち着いてそう話しかけた。

 す、すごい……! ゴールドシップ相手に表情を変えていない!

 

「トレーナーさん、感動するところじゃないですよ~!」

「ゴルシちゃんすごいねー! 扉をバーンってあけちゃった!」

 

 樫本代理はチラッとこちらを見るが、大漁旗を持つゴールドシップと隣に立って怒りの表情のタイキシャトルに視線を向け直した。

 

「管理プログラム、ハンタイ!」

「はぁ……いいですか。施行は既に決定しています」

 

 有無を言わせないきっぱりとした口調で、タイキシャトルの申し出を拒否してきた。

 しかし、ここで引き下がる程度ならばタイキシャトルは怒っていない。

 

「でもでも! ワタシ、フレンズが悲しい学園なんていやデス!」

「ら、ライスも、みんなが悲しんでいるのは見たくない、です!」

 

 ライスシャワーも頑張って主張する。

 全員を見てため息を吐き、そして俺の方を見た。

 

「毎日毎日しつこい生徒たちです。しかしトレーナーが来るのは珍しい……」

 

 樫本代理の視線は鋭く、俺に突き刺さる。

 タイキシャトルたちも心配そうに見つめてきた。

 よく考えたら、俺個人の考えは言ってなかったな。

 

 ――反対に決まってるでしょう。

 

「………」

「へへっ」

 

 樫本理事は眉をひそめ、ゴールドシップは俺を見てニヤっと笑う。

 ゴールドシップの破天荒さと、その個性が存分に出ているむちゃくちゃな走りを俺は知っている。メイクデビューでは何故か大人しく走ってたけど。

 こんなに楽しい走りをするのに、管理などされて普通に走られたらたまったもんじゃない。

 俺はゴールドシップの走りが好きだから彼女を担当しているんだ。管理されたウマ娘が好きなわけじゃないからな。

 

「感情で物事を左右する。それが暴走に繋がると説明したはずですが」

「つまんねーこと言ってねーで見ろよこれ」

 

 ゴールドシップがどこからともなくアタッシュケースを取り出し、樫本代理のデスクに置く。

 いつも思うけどどこにしまってあるんだろうか。

 樫本代理が不審なものを見る目でゴールドシップとアタッシュケースを見て、ケースを開ける。

 中にはぎっしりと紙が詰まっていた。これは……。

 

「……嘆願書、ですか」

「おう。そっちがアタシらに話聞かすなら、こっちの話も聞いてもらわねーとな」

 

 フェアじゃねーだろ? そう話すと、少し考える仕草をして、わかりましたと頷いた。

 

「納得を得られずに徹底管理をしても効果は見込めませんからね」

「オウ! わかってくれマシタ!」

「やりましたね、トレーナーさん!」

 

 タイキシャトルとマチカネフクキタルは喜び、他2人もやったね! とガッツポーズだ。

 ただ、俺とゴールドシップは樫本代理を見る。あんなことを言う人だ、これで終わるはずもない。

 

「ならば――納得させればいい。私と生徒のみなさんで賭けをしましょう」

 

 樫本代理の『賭け』。

 これにより、トレセン学園はまたも震撼することになるのだった。




 この小説ではトゥインクル・シリーズでのレースについてほぼ描写しません。
 それを込みにすると話が薄くなっちゃいますからね。

 トゥインクル・シリーズでの内容については前前々作をチェックだ!
 →https://syosetu.org/novel/255533/
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