ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯 作:あぬびすびすこ
俺は今、カラオケ店に来ている。
「~~~」
「ヘイヘイッ!」
「どうしてこんなヤツらと……!」
一緒にいるのは樫本代理、ゴールドシップ、そして巻きこまれたリトルココンだ。
なぜこんな状況になっているのか。それはリトルココンが発端だった。
彼女はトレーナー室で歌の指導を受けていた。
安定した歌声ではあるものの、感情があまりこもっていないと代理は指摘していたのである。
そこにたまたま通りかかったのが俺とゴールドシップ。
「だったら見せてやるぜ! ゴルシちゃんの564ある関節技をな! 行くぜッ!」
いつも通り意味の分からないことを言いながらリトルココンを担いで逃走。
樫本代理と共に追いかけると、たどり着いた先がカラオケ店だったわけだ。
手本を見せりゃあいいだろと言うゴールドシップが代理にマイクを渡して歌わせているというのが今の状況だ。
リトルココンはかなり嫌そうにしつつも真面目に歌う代理を見て勉強している。
この状況で本気を出して頑張れるのはもう、凄いよ。鋼の意志すぎると思う。
「……ふぅ。いかがでしたか?」
「とてもよかったです、樫本トレーナー」
樫本代理の歌は素晴らしいものだった。
安定しているし、感情の入れ方もうまい。正しく『お手本』という感じだ。
「中々うまいじゃねーか! だけどまだ声の伸びが甘いな。アタシが手本を見せてやる!」
「は? ……フン」
曲を入れてマイクを取ったゴールドシップ。
リトルココンは物凄い嫌そうに顔を歪めているが、代理が大真面目に聞く姿勢をとっているのを見て渋々腰を落ち着ける。
「~~~♪」
「……なるほど」
「………」
自分の持ち歌をハキハキと、しかし可愛さを出しながらダンスも交えて歌って踊る。
流石と言うべきか、本当にうまい。声の伸びも感情の入り方も完璧だ。これを動きながら表情も意識してできるというのは本当にプロフェッショナル。
ゴールドシップが幅広い層から人気な理由がよくわかるな。
「ふぃー! どうよ!」
「素晴らしいですね。1つの完成形と言っていい」
「見る目があんじゃねーか、樫本理子理事長代理! リリリリリン!」
手放しに褒められて、電話の受信音を叫びながら喜ぶゴールドシップ。
そしてむっとして黙っているリトルココンを見て、ニヤニヤしながら近寄る。
「YO! YO! リトルココンちゃんよー! これがお歌だぜ! ほら、おめーもサタデーナイトフィーバーすんだよ!」
「ウザっ。はぁ……」
嫌がりながらも練習ということで、本当に渋々歌を入れてマイクを持つ。
「~~~!」
リトルココンの歌は安定して上手だ。
しかし、代理が言っていたように感情表現が乏しい。
これはヘタというより、気持ちを出すのがあまり得意じゃないような、そんな感じがする歌声だと思う。
ブルボンの歌がそんな感じだったからなぁ。もうそういうキャラだと受け入れられてるけど。
「ふぅ。どうでしょうか、樫本トレーナー」
「安定した歌声です。感情の入れ方も改善しましたね」
「はい。トレーナーの歌を参考にしました。でも、まだまだですけど」
視線を下に向け、考えるように俯くリトルココン。
こればかりは気持ちの問題だし、何度も練習して慣れるしかないのだろう。
厳しいトレーニングも音を上げずに努力できるウマ娘だ。きっと改善していけるはず。
「別に……言われなくても、やるし」
俺に言われて、プイッとそっぽを向く。
嫌がられているなぁと頬をかいていると、ゴールドシップが彼女の隣にどっかり座る。
「は、何」
「そうと決まりゃあ耐久カラオケじゃーい! オラァ、歌うぜ!」
曲を入れて、リトルココンと肩を組んで歌い始めるゴールドシップ。
ビキッと額に青筋を立てながら、なんとか爆発しないようにして歌い始める。
いやはや、いつか本気で怒られそうだなぁとその時は思っていた。
そして、その時はすぐにやってきた――!
◆ ◆ ◆
「トレーナーさ~~~ぁんっ!!! ゴールドシップさ~~~ん! 助けて下さ~~い!」
「あ? フクじゃねーか。カジキマグロみてーに突っ込んできたな」
数日後。
早めに準備をするために練習場に向かっていたところ、フクキタルが突撃してきた。
本気で焦っている表情だ。
どうしたのか聞いてみると、息を切らしながら練習場のほうを指さす。
「チーム<ファースト>との野良レースがはじっまちゃいましたよぉ~~~!!」
「あん?」
何やらよくわからないが穏やかじゃないことは確かだ。
ゴールドシップ!
「よっしゃ! ゴルゴル特急便出動!」
ゴールドシップに担がれて、練習場まで一気に進む。
道すがらフクキタルに事情を聞くと、なんというか、勘違いから始まったことのようだ。
ライスが日なたに置いてあったチーム<ファースト>のドリンクを日かげに避けてあげようとしたら、間違って
それをすぐに謝ったところ、リトルココンからわざとやったんじゃないかと言われ。
そんなことしないと怒ったタイキたちと丸々全部こぼすのはありえないからと憤るリトルココンたち。
ヒートアップした結果、レースで決着をつけようという話になったようだ。
そこまではいいが、ビターグラッセが負けたチームは今後一生グラウンド使用禁止というぶったまげる条件を出してきたらしい。
熱くなっているみんながやってやろうじゃないかとなり、今に至る。
なんというか……。
「ライスだな。相変わらずだぜ」
本当にそう。
気をつかっているのに何故か失敗して気をつかわれてしまう不運。
ライスらしいなぁという騒動だ。
しかし問題なのはライスがわざとやったと勘違いされていること。
この際勝ち負けはどうでもいい。そんなことをするウマ娘だと思われていることが一番の問題だ。
「うっし、着いたぞ」
ゴールドシップに降ろされて練習場を確認する。
フクキタルの言う通り既に始まっているようだ。現在はダート戦らしい。
半分ほど走っているが、既に勝敗は明らか。ウララが10バ身以上離されている。
というかウララと対戦相手だけ? 1vs1の勝負なのか?
「早い時間に自主練しようと思って来ていたメンバーしかいないんです~! 各部門のリーダーたちだけなんですよ~!」
よく見るとこちらのチームで応援しているのはタイキ、ライス、ブルボンの3人のみ。
チーム<ファースト>たちは全員揃っているが、こちらに合わせての勝負をしているみたいだ。
みんなに近づいていくと、焦った様子でライスが走ってくる。タイキとブルボンも後に続いてきた。
「トレーナーさん! ごめんなさい、ライスが悪いの……っ!」
「ノー! ライスは悪くありまセン!」
泣きだしそうなライスの頭をポンポン叩く。
一応事情は聞いているけど、今はどうなっているんだ?
「チーム<ファースト>から1勝でもすれば勝ちでいいと提示されています。現在中距離部門とダート部門で敗北中」
なるほど、どうやらフクキタルは負けてすぐに俺を探しにきたらしい。
うーん、レースさせてわだかまりが解けるなら別に構わないけど、今回はどうなってもややこしいことになりそうだなぁ。
「へぇ。勝てないと思ってトレーナーを呼んだわけ」
「トレーナー! レースをやらせてもらってるぜ!」
俺に気づいたのかリトルココンとビターグラッセがやってきた。他のメンバーも気づいてこちらに来る。
申し訳ないことをしたと話すと、腕を組んで不快だと眉間にしわを寄せて睨む。
「確かにうちらは恨まれっこチームだよ。だけどさぁ、あんまりじゃない? 別にあんたらの邪魔してるわけじゃないっしょ」
他の<ファースト>のメンバーも頷き、不快感を示している。
ライスは目に涙をためて俯き、今にも泣きだしてしまいそうだ。
……レースをやらせても止めても解決にはならないよなぁ。
よし、まずはライスが不運であることを認めてもらうことにしよう。
「なにしてんの?」
急に膝をついた俺を見て、リトルココンがまた眉を顰めた。
これは日本で古来より伝わりし最大限の謝罪である。
正座して、手を地につけ、額を叩きつける!
「ワッツ!?」
「トレーナーさん!?」
「は……っ!?」
「ゴルシのトレーナー!?」
大変迷惑をかけた。申し訳ない。
リトルココンたちに誠心誠意謝罪しながら、ライスについて話す。
ライスは本当に本当に運が悪いんだ。
頑張って頑張って走って勝ったのに何度も
やっとヒーローとして認められたら大けがをして。全然走れなくなってしまって。
今回の件も、ただライスが気をつかっただけなんだ。悪気はなかったし、わざとじゃないんだ。
だからどうか、ライスを許してあげてほしい。頑張っているみんなをジャマするような娘じゃないんだ。
「わ、わかった! わかったから!」
「頭を上げてくれ! こっちも熱くなっていたんだ!」
慌てて駆け寄ってきたビターグラッセに体を起こされる。
ライスも駆け寄り、俺のおでこについた砂を拭いてくれる。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ライスが悪いのっ! 間違ってこぼしちゃったから!」
「はぁ……わざとじゃないのは、わかった」
リトルココンが眉尻を下げ、頭に手をやって首を振る。
困らせちゃってごめんなと言うと、もういいからとため息を吐く。
他の<ファースト>のメンバーたちもかなり困っているようで、みんなオロオロしていた。
とりあえずドリンクの件は代理に話して何かしら補填するよと話して立ち上がる。
「んで? レースはどーすんだ?」
ゴールドシップがニヤニヤしながら聞いてくる。
それはもちろん、そのままやってもらおう。
「え~!? やるんですか~!?」
「お、いいね! このままじゃ不完全燃焼だったからな!」
フクキタルは驚いて叫ぶが、ビターグラッセはやる気十分だ。
こちらにとっても<ファースト>にとっても、この野良レースは自分たちの実力をレースで見るいい機会だろうからな。
代理にはうまく言っておくから、トレーニングの成果を見ようじゃないか。みんなも記録を取るといいよ。
「……わかった。今回は乗ってあげる」
「そんじゃあレース再開だな! 次はマイルだろ? 行ってこい機動ウマ娘ブルボン!」
「了解。ミホノブルボン、始動」
「こっちはデュオジャヌイヤだ! よろしく頼む!」
「ああ! 行くぞ!」
マイルのリーダー2人がターフへ向かい、みんなが応援する。
なんとかなったなぁと息を吐くと、からからと笑い声が。
「土下座するとはな。やりすぎじゃねーか?」
ウマ娘のために動くのがトレーナーだし、こんなもんだろ。
素直な娘たちばっかりだからな。これで納得してくれれば万歳だ。
「そうだな。ただ、トレーナーの頭は安くねー。あんまり下げるなよな!」
優しい笑みでそう話すゴールドシップ。
俺の担当が大人しくしてればもっと下げずにすむんだけどなぁと言うと、下げなきゃいいだろ! と笑いながら背中を叩かれた。
その後、野良レースは俺公認の模擬レースとなり、どちらのチームのウマ娘も賑わったのであった。
……1人を除いて。
チームのモチベーションが下がっていない感じで書いていたので、負ける要素が見いだせなかった結果こうなりました。
そもそもね、みんなと親交がありますからね。話せばわかるとおもうのです。