ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯 作:あぬびすびすこ
非公式にチーム<ファースト>とのレースを終え、事後報告して代理にしこたま怒られてからしばらくして。
「いやー、満足したぜ! もう引退だな!」
「はえーよ! まだクラシック級っしょ! チームリーダーがすぐやめようとすんな!」
ゴールドシップが満面の笑みで引退表明するのをジョーダンが止める。
記憶にないけど既視感があるやり取りだ。
先日出走した菊花賞で、前代未聞の上り坂でスパートというタブーを犯しつつぶっちぎって勝利した。
ミスターシービー以来誰もやらなかった無茶苦茶なロングスパートでの1着で、ゴールドシップという名を日本中に轟かせた……ので、満足して引退をほのめかしているというわけ。
「細けーことはいいだろ! おら、今日はジョーダンをエサにジンベイザメ釣るんだ! いくぜ!」
「それ聞いていくわけねー!」
激走した後ということで、ゴールドシップはオフの日だ。
丁度いいからチーム全体でお休みにしたので、いつも通り誘拐してきたジョーダンと共にお出かけすることになっている。
門から外に出ようとしたところ、誰かがものすごい勢いで走ってきた。
あれは、ビターグラッセ?
「一本釣りじゃーい!」
「うわっ! ゴールドシップ! 今はちょっと放してほしい!」
「放せっつって放すヤツはいねー! このままインドネシア旅行に連れてくからな!」
何故か走ってきた彼女を捕まえて担ぎ上げている。
どうしたのだろうかと思っていると、門の方から見知った顔が2人。
代理とライスだ。すっごい珍しい組み合わせだな。
「ライスじゃねーか。はっ、まさかお前……!」
「うそじゃん……ライス先輩、チームを……っ」
「ち、違うよ! ライス、何もして……!」
「理子理事長代理のリリリと遊びに行くってんだな! なんだおめー、水臭いじゃねーか! オラ、ライスも行くぜ!」
「え、え~~~~~!?」
「なあ! 下ろしてくれないか!」
ライスもいっしょに担いだゴールドシップがそのままズンズン進んでいってしまった。
残されたのは困った表情の樫本代理とドン引きだわとつぶやくジョーダン。
「……どゆこと?」
眉尻を下げたジョーダンが俺を見る。
これはね、代理も連れて遊びに行かなきゃいけないということだよ。
「私もですか?」
そうです。多分ですけどさっき何かに誘われたり外出の話してませんでした?
「ええ、まあ。ビターグラッセが牧場の割引券を渡そうとしていました。断ったのですが、近くにいたライスシャワーに預けて走り去ってしまって」
「なーる。だからなんかビックリした声聞こえたんだ」
ウマ娘は耳がいい。
俺は気づかなかったが、ちょっと問答があったことは聞こえていたようだ。
だからゴールドシップも捕まえていったんだろう。
「つまり……牧場に行くのですか? 私も、あなたたちも」
「そういうことっしょ。あ、そうだ。あたし代理のことゼンゼン知らないけどいつものノリでいいん? 無理くても変えれんけど」
「むりく……?」
首を傾げている樫本代理。
流石にパリピ語は履修していないらしい。
今の喋りかたでもいいですかってジョーダンは言ってますよ。
「ええ。礼節さえあるのなら」
「……トレーナー、れーせつってナニ?」
困った様子のジョーダンと、それを聞いて眉尻を下げておでこを叩く代理。
「……勉強の管理を先にするべきか」
ぽつりとつぶやく代理を見て、苦笑いするしかなかった。
車を出してやってきたのは近くにある牧場だ。
しっかり整備されていて、周りの景色がとても見やすい。
空気も澄んでいるしいい場所だなぁ。
「いいところですね! 樫本トレーナー!」
「ええ、本当に。いい休息が取れそうです」
ビターグラッセはなんだかんだ樫本代理を牧場に連れ出せて満足している様子。
車の中で少し文句は言われたが、着くころにはありがとうと何度かお礼を言われた。
「ライス、こっちを見てるヤツがいるだろ。あいつは刺客だ、アタシらを狙ってやがるぜ!」
「えぇっ! ど、どうしよう……」
「狙ってるわけないっしょ、動物なんだし……うわ、あぶねー! なにすんだコイツ!」
ゴールドシップたちは既に牧場の動物を見ていた。
こちらを見ていたアルパカに思いきりツバを吐かれてとびはねている。
あれって敵対行動らしいけど何を見て敵だと思ったのだろうか……ウマ耳?
「な、なんでしょう。変わった生き物ですね」
「行ってみましょう!」
ビターグラッセもみんなのところに駆けていく。
わいわい盛り上がっているのを見ながら、俺と代理も追う。
不安そうな様子だが、もしやあの有名な動物をご存じなかったりするのだろうか。
「バカにしていますか? 知っています。アルカパでしょう」
アルパカです。
「こ、こほんっ。少し噛んだだけです」
ちょっとだけ顔を赤くして咳払いをする。
以前から思っていたが、代理はトレーナーやウマ娘以外の知識が乏しい。
映画の話をしても、ウマ娘たちの教育に使えればと娯楽要素のあるものは見ていない様子だったし。
「理子ちゃん代理知ってるか? アルパカは機嫌がいい時は跳びはねるんだぜ」
「なるほど……ああ、あの子がそうなんですね」
先ほどジョーダンにツバを吐いたアルパカはすたこらと逃げてしまったが、1匹機嫌よくぴょんぴょん跳ねながら近づいてきた。
耳も尻尾もピンと立って、すんすん匂いを嗅いでいる。可愛らしいね。
「マジかわ! トレーナー撮って! ゴルシもライス先輩もほら! アルパカウェーイ!」
「こ、こうかな……うぇ、ウェーイ」
「ウェーイ! ビターグラッセもこいよ! ポンポンポンポン!」
「なんだこれ! ハハ、おもしろいな!」
仲良くピースするみんなを撮影する。
いい笑顔だが……ほんの少しだけライスがぎこちない。
うーん、まだ気にしているのかなぁ。撮り終えた後、思わず自分のおでこに触れる。
そこには小さな絆創膏が貼ってあった。
その後も牧場を練り歩き、ふれあいコーナーがあったので牛とたわむれることに。
「そ、そんなに触って大丈夫なんですか……!?」
「噛んだりしませんよ! トレーナーも触れてみては?」
「そ、そうですね……日頃の感謝もあります。この子たちのミルクは、ウマ娘にとって素晴らしい栄養を――」
「ブモオォォオオ~」
「ひっ……!」
本当に慣れていないというか知識が無いようで、かなりビクビクしながら触れ合っている。
こんな一面もあるんだなぁとビターグラッセはニコニコしながら樫本代理を眺めていて、有意義な時間になっているようだ。
しばらく撫でたりしていると、牧場の方からの好意で乳しぼり体験をさせてもらえることに。
「よく見とけよ? こうやって根本の方からだな」
ゴールドシップが専門職さながらに乳しぼりしていて、周りから困惑の視線を浴びる。
牧場の人たちもあまりに手慣れすぎて教えることがないらしく苦笑いだ。
それぞれ教わった通りに、時折補助を受けながら体験する。珍しい体験だからか、代理を含めて楽しそうだ。
ところが、思いもよらない事件が起きた!
「よいしょ、よいしょ……」
「モォオオ~」
「わぁっ! ……あ、あぁ! ミルクが……っ」
ライスがしぼっている時に牛が身震いした。慌てたライスはバランスを崩して尻もちをついてしまう。
その時脚がミルクの入ったバケツに当たってしまい、こぼれてしまったのだ。
バケツはみんなでしぼったもので、ライスが最後の体験者だった。
「ありゃ、運が悪かったねぇお嬢ちゃん」
「うう……やっぱりライスはダメな子なんだ……! みんなに迷惑かけちゃう……っ!」
牧場の人がフォローしてくれるが、ライスは目に涙をたっぷり溜めて今にも泣き出しそうになっている。
小さくなって俯くライスの頭をポンと叩き、視線を合わせる。
――別に迷惑かけていいんだぞ?
「え?」
「そうだぜライス。おもしろきゃなんだっていいだろ! 迷惑かけまくれ!」
「いや言いすぎだし。でも、考えすぎじゃん先輩。ゴルシなんかよっぽど迷惑っしょ」
「あぁん? アタシのことバカにしてんのか?」
オラついてジョーダンとやり合っているのは置いといて。
ちょっと失敗したぐらいなら迷惑とも思ってないよ。それに、トレーナーはウマ娘に迷惑かけられないと。
「……そうですね。迷惑をかけられて一人前。昔そう言われたこともあります」
樫本代理も穏やかに笑う。
ライスが戸惑う中、ビターグラッセが近づき手を差し出す。
「ほら、立とう! 今はダメでも次に挽回すればいい!」
「みんな……う、うん! ありがとう!」
手を取って立ち上がり、涙を拭くライス。
目元は赤いが、自然な笑顔を見せてくれる。少しだけ立ち直れたようだ。
「うっし! なら牧場のおっちゃん! もっかい乳しぼりやらせてくれよな! あとチーズも作りてー!」
「ハッハッハ! いいぞ! この前の菊花賞でいいモン見せてもらったからねぇ! 大サービスだ!」
「よっしゃー! ライスのおかげだな! 幸運が舞い込んできたぜ!」
「そ、そうかな……えへへ、嬉しいな!」
からからと楽しそうに笑うゴールドシップにつられて、みんなも笑顔になる。
もう一回がんばるぞ! おー! と拳を突き出した。
みんなでしぼったミルクとチーズは格別の味で、とても楽しい休息になった。
後日牧場体験に行ったことを伝えたら、チームメンバーからずるいずるいと詰められるライスなのであった。
代理と2回目のおでかけ兼ライス復活イベントでした
ビターグラッセは元々敵対心が少ないので軟化しておりますね!