ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯 作:あぬびすびすこ
ファイッ!
プレシーズン第3戦。東京レース場。
2連勝した勢いそのままに勝ち切りたいところではあるが、今回は強敵が相手だ。簡単には勝てないだろう。
ユメガ・ヒロガリングスというゴールドシップも心配するそのネーミングとは裏腹に、実力派のメンバーがそろっている。
マイルにはティアラ路線からダービーに出走して勝利という快挙を為したウオッカにスプリンターズステークスでバクシンオーに勝利したニシノフラワー。
中距離には女帝ことエアグルーヴに女傑ヒシアマゾン。
長距離にはミスパーフェクトことダイワスカーレット。
ミーティングでも説明したが驚異的なメンバーばかり。
だがしかし、こちらもみんなGⅠ勝利ウマ娘だらけのオールスターチームだ。負けていられない!
「さみーときはドラミングだぜ! ウホ! ウホホ!」
「うほー!」
「バクシン的なドラムですね!」
ゴールドシップとウララが楽しそうに胸を叩いて騒ぎ出す。
今年はサンタの代わりにゴリラが来てくれたようだ。嬉しくない。
「ハズいからやめろ!」
「うう……恥ずかしいよ」
お怒りのジョーダンと小さくなって顔を手で覆うライス。
いつも通りの姦しさだなぁと他人事のように思いながらレース場へと入った。
今回は中距離、マイル、ダート、短距離、長距離の順番でレースが行われる。
チームリーダー対決が一番最初にくる形になったわけだな。
「あの問題児どもに負けられん。勝つぞ」
「おっしゃー! 今日も1着で勝ってやるぜ!」
「張り切りすぎて掛からないでよね。全勝するんだから!」
あちらのチームは気合が入っているようで、エアグルーヴの声掛けで盛り上がっている。
「後でそば食いにいこーぜ」
「イカゲソのそばデスネ! ワタシも食べたいデス!」
「今からメシの相談か……クク、余裕だなァこのチームは」
対して我らのチームはいつも通りというか、良くも悪くもぽわんとしている。
新規で入ったジョーダンは雰囲気の緩さに唖然としていた。ウインディは雰囲気にのまれてかみつく相手を探しているし、バクシンオーはマイペースに笑っていて、なんともまあ覇気を感じられない。
「ねぇちょっとゴルトレ。こんなんでいいの? ヤバいんじゃね?」
あまりの緩さに心配し始めた。
レースの時は一気に雰囲気が変わるし、メリハリあるから問題ないよと話すとふーんと頷いて納得した。ちょろいッ。
「あん? なんだジョーダン、今更ビビってんのかー?」
「は? ビビるわけねーし!」
毎度見る光景が目の前に。
エアグルーヴたちに呆れた視線を向けられながら、どうどうと2人を止めるのだった。
◆ ◆ ◆
東京レース場、中距離2,000m。
GⅠレース天皇賞秋と同条件での出走となった。
出走するチームの中で、チーム<STAY GOLD>とユメガ・ヒロガリングスは共に天皇賞秋を制したウマ娘がいる。レース場にいるファンは、名勝負に期待して歓声を上げていた。
応援の声を聞きながら、それぞれのチームはゲート前で最後の確認をしている。自分たちの作戦、ペース、仕掛け時。1つミスをすれば、勝利から遠ざかってしまうため、誰もが慎重に話し合う。
「ゴルシそれ何持ってんの?」
「いが栗」
「立派なカスターニエですね」
芦毛の奇行子たちを除いてはッ。
ゴールドシップたちだけは雰囲気が全く違う。本当に今からレースをするのかと思ってしまうぐらいだ。
周りからも困惑の視線を向けられているが、気にもせず3人でいが栗を眺めている。
なんともいえない空気間の中、チーム<STAY GOLD>もゲートイン。
先ほどまでの緩い雰囲気から一変。狙いを定めている肉食動物のような静けさで構えるゴールドシップとフラッシュ。
周りはその落差に驚いていた。ジョーダンも含めて。
『各ウマ娘、ゲートイン完了しました』
――ガタンッ
『スタートしました! 出遅れのない綺麗なスタートです!』
ゲートが開き、一斉にスタートする。
ゴールドシップたちの雰囲気で集中力を削がれたものの、出遅れはないスタートとなった。
逆を言えば、好スタートは誰もできなかったということ。まずは<STAY GOLD>の作戦勝ちだ。
『逃げウマ娘がいないレースになりましたが誰が抜け出すのか! ハナを切るのは……ご、ゴールドシップ!?』
「何っ!?」
「ウソだろう!?」
エアグルーヴとヒシアマゾンが驚く中、ゴールドシップは気持ちよさそうに前へ前へと駆けていく。
大外枠にいたフラッシュもそれに追従。2人で並びながら先頭をとってしまった。
『なんという波乱の展開! 先頭はチーム<STAY GOLD>のゴールドシップとエイシンフラッシュ! 追込と差しが特徴のウマ娘たちが逃げを選択しました! しかもこれは、大逃げです!』
「いくぜフラッシュ!」
「はい!」
最初からスパートだと言わんばかりに第2コーナー付近の下り坂を利用してグングン加速していく。
あまりの衝撃で何も動けずにいた他のチーム。ゴールドシップたちがコーナーを曲がっていくのをただ見ているだけだったが、自分たちもコーナーに差し掛かったところで慌てて立て直し始める。
『先頭は4番ゴールドシップ、12番エイシンフラッシュ! 4バ身ほど離れて1番エアグルーヴ、3番カルテットアコード。後ろに2番シャドウストーカー、9番フリルドパイン。1バ身離れて中団から6番トーセンジョーダン、並んで11番ブレイブリーコウ。後ろ7番イッツコーリング、10番オクシデントフォー。最後方に5番ヒシアマゾン、8番テューダーガーデンです!』
今回は4チームでの戦いとなり、より通常のレースに近い状況になっているため作戦を通すのが難しくなった。
現状奇策によりチーム<STAY GOLD>が作戦勝ちで優勢……に見えているが、脚質が合っていない走りをしているためこれが有利なのかはわからない。
ユメガ・ヒロガリングスはエアグルーヴが立て直して落ち着かせたため問題なく普段の走りをしている。
シャドウストーカー所属のホットランニング、ブレイブリーコウがリーダーのカケヌケルは動揺が抜けきっていないのか脚色が悪い。
『コーナーを回って向こう正面へ! ゴールドシップとエイシンフラッシュはどこまでいくのでしょうか! 大きく大きく差をつけています! 不沈艦のエンジンが全開です!』
ツインターボじゃねーか!
レース通のファンは思わずそう叫んだ。そして誰もが頷く。
最初からエンジン全開で走り、ヘロヘロになりながらゴールする稀代の個性派。
個性派なのは同じにしても、追込で走るウマ娘がこんなことして大丈夫なのかとどよめきと期待の声が上がっていた。
「ペースは57.3~57.7。想定通りですっ」
「スズカ見てるかーッ!」
向こう正面を駆け抜け、第3コーナーに入ったところで1,000mを通過。
フラッシュは事前の作戦通りのペースで走れているだろうかと思いながらチラッと後ろを確認する。
後ろのエアグルーヴと、大きく大きく差をつけていることに驚きと若干の高揚を感じながらコーナーへ差し掛かった。
『1,000m通過タイムは57.4! かなりのハイペースです! 大逃げしているゴールドシップたちに追いつこうと後ろのウマ娘たちも動き出しています!』
サイレンススズカを思い出す脅威のハイペース。
それをしているのが淀の上り坂でスパートをかけ、スタミナですりつぶしながらケロッとした顔で舌ペロをしていた白いヤツ。
まず、サイレンススズカと何度も戦ったエアグルーヴがハッとしてペースを上げる。
先行集団でペースを作っていたエアグルーヴが進んだなら、後ろのウマ娘も自然と上がってしまう。
ゆっくり、じりじり。スタミナが削ぎ落とされるのを自覚しながらゴールドシップたちを追いかけていく。
見てしまったのだ。サイレンススズカの幻を。
それが<STAY GOLD>の作戦だとわかっていても、追いかけなければ勝てないと。誰もが思ってしまった。
――相手はサイレンススズカではないのに。
『さあ、大欅を抜けて最終コーナーへ! 先頭はゴールドシップ! エイシンフラッシュはその後ろにいます!』
「お願い、しますっ!」
「任しとけ!」
フラッシュは流石に限界が来たのか一気にペースダウン。体力を何とか持たせようと思いきりブレーキをかけた。
一方スタミナがまだまだ余っているゴールドシップは余裕そうに走っている。コーナーでしっかり脚を溜めたようで、スピードの衰えはない。
『流石にエイシンフラッシュは限界か! 第4コーナーでエアグルーヴに捕まった! しかしゴールドシップはただ1人、猛然と抜け出しています! これは圧勝か!?』
直線に入って未だ7、8バ身離してゴールドシップが逃げている。525mあるとはいえ、その差は莫大。
エアグルーヴたちは直線に入り、わずかに溜めていた脚を使って必死に追いかける。
そんな中、悠々と走っていたゴールドシップは耳を動かして脚音を確認する。
しばらく後ろの様子を気にしたところで上り坂。
いつものように駆け上がると思いきや。
『坂を上るっ! ゴールドシップが一気に減速した! 脚質が合っていない走りは流石に響いたか!?』
ゴールドシップは一気にペースダウンした。
急激な減速。スタミナ切れ。差しきれるッ。
誰もが彼女の背中に勝利を見た。
「はああぁぁぁああああーーーっ!」
「だああーーーッ!!!」
『エアグルーヴが一気に上がってきた! ヒシアマゾンも凄まじい末脚だ! 他のウマ娘たちも上がっていくが中々前に出れない!』
このチャンスを逃さんとばかりにエアグルーヴとヒシアマゾンは溜めた脚を解放。
一気に坂を駆けあがり、ゴールドシップとの差は4バ身。垂れてきたウマ娘を抜かすにはなんてことのない差だった。
しかし、ここでもう1人。ヒシアマゾンと並んでじりじり前に出ていた伏兵が現れた。
『ゴールドシップに届くか!? エアグルーヴ、ヒシアマゾン! トーセンジョーダンもじりじり上がっている! ヒシアマゾンと共に来ているぞ!』
ジョーダンだ。
誰もが警戒していた、現レコード保持者。最高の仕上がりのスピードを持つSS+級のウマ娘。
エアグルーヴとヒシアマゾンは来たか、と強者の追い込みに苦し気だが笑みを浮かべる。
3人横並びでグングン前に出ていき、残り200m。
減速していたゴールドシップの横を通り過ぎようとしたその時。
――ジョーダンッ! 突っ込めェーーーッ!
「勝ってこいよな!」
チームトレーナーの応援、ゴールドシップからの不敵な笑み。
それらを受けたジョーダンは、持ち前の粘り強さと根性で、ジリジリ前に進出していく。
「負けね~~~ッ!」
「ぐ、くっ!」
「うおぉっ!」
ジョーダンが前に出ていく中、エアグルーヴとヒシアマゾンは伸びを欠いた。
それどころか、少しずつズルズルと下がってゴールドシップに近づいていく。
「ま、さか……!」
エアグルーヴは何かに気づき、振り向く。
すると、ゴールドシップが満面の笑みで、余裕そうに走っていた。
――極めて単純なことだった。
ゴールドシップとフラッシュによるかく乱。それに乗じて息を潜めていたジョーダンが差しにいく。
そんなわかりやすく見えていた罠だ。しかし、そこに飛び込んでしまった。サイレンススズカを幻視してしまったから。
東京レース場、左回り、芝2,000m、大逃げ、ハイペース。あるものすべてを使ったフルコースのトラップ。
なんてヤツだ……! エアグルーヴは歯噛みした。
追いつけない……! ヒシアマゾンは顎が上がる。
『トーセンジョーダンが抜け出した! エアグルーヴもヒシアマゾンも前に出れない! これは決まったか! トーセンジョーダンまた決めるか!? 抜け出してそのままゴールインッ! 天皇賞秋に引き続き、またまた勝利しましたトーセンジョーダン! チーム<STAY GOLD>、これで3連勝です! 2着はエアグルーヴ、3着はヒシアマゾン!』
1着で駆け抜けたジョーダンは肩で息をしながら掲示板を見て、よっしゃ~! とガッツポーズ。観客はそれを見て沸き立つ。
「ふぃ~、よう、お疲れ! おめーも中々アツい走りだったじゃねーか!」
「ふぅ……お疲れさまでした、ゴールドシップさん。やりましたね、ジョーダンさん」
遅れてやってきたゴールドシップとフラッシュが声をかける。
少し息を切らせているフラッシュに比べて、非常に余裕そうなゴールドシップ。
相変わらずのスタミナだ。
「はぁ、ふぅ……負けたよ」
「お、エアグルーヴ。お疲れさん、いが栗食うか?」
「いらん。はぁ……いやらしい作戦だったな。スズカの真似などして」
エアグルーヴが眉尻を下げて頬に手を当てる。
サイレンススズカと親しく、かつライバルだったエアグルーヴだからこそ効いた作戦。
してやられたと深く反省していた。
「へへっ、海外行ったスズカにおもしれーもん見せてやろうと思ってな!」
「大胆な作戦でしたが成功して良かったです。私は第4コーナーで疲れてしまいました」
「全く……ゴールドシップ、お前は余裕だったんだろう? わざと減速して脚を使わせたな」
「おう! 小癪だっただろ!」
「自分で言うな!」
ハハハと笑うゴールドシップを見て、本当に厄介な相手だなと思うのだった。
その後、最初のレースでとんでもない奇策を成功させたせいか露骨に警戒されたが、他は普通に走る作戦だったため逆に警戒しすぎて脚を使わない事態が発生。
変な感じになったが、5戦5勝にて完全勝利!
プレシーズン第3戦は絶好調で終えたのだった。
スズカばりの大逃げを見せて思いきりハイペースにした上希望を見せて脚を使わせたところで唯一脚を溜めていたジョーダンが差しきる頭脳プレイ。
なお道中は脳筋とする。
フラッシュはゴールドシップの隣で正確なラップで走る役割でした。
疲れもあってすぐにリタイアになってしまいましたが重要な存在でしたね!