ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯   作:あぬびすびすこ

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 第2戦目、ファイ!


27、練習試合

 チーム<ファースト>との練習試合当日。

 練習場では俺が預かっているウマ娘たちのトレーナーや、話を聞きつけたウマ娘。

 そして何故かいつもいる月刊トゥインクルの記者である乙名史さんがいた。隣では少し困った様子で笑うたづなさんも。

 

「思ったよりでけーレースになりそうじゃねーか!」

「ライス、ちゃんと走れるかな……」

「はーっはっはっは! 大丈夫さ! 誰も眠ってはならない、いや眠らせやしない! 光り輝く時、夜明けとともに輝くのはボクたちだ!」

「そうですよライスさん! この学級委員長にお任せをッ!! 共にバクシンしましょう!! バクシンバクシーンッ!!!」

 

 いつも通りオペラ調で輝きながらポーズを決めるオペラオーと、ライスを思いきり励ますバクシンオー。かなりの声量だ。

 彼女たちがいるだけでみんな前向きになれる。うるさいけど。

 いやもう本当にありがたい! 俺とゴールドシップは何かあれば常に動くけど、オペラオーとバクシンオーは事前に士気を高めたままでいてくれるからな! うるさいけど!

 

「ねぇねぇトレーナー! わたし、負ける気がしないんだ! 今日こそ1着とっちゃうからね!」

「そうか。よし、じゃあウララが先頭で走るのを見せてくれ」

 

 先輩たちと話して気持ちを引き締めているウマ娘もいる。

 ウララは本当に成長してきて、もしかしたら1発あるんじゃ……と思うぐらいの走りをするときも。

 俺も先輩も、すごく期待しているのだ。

 

 うんうんと頷く俺の周りには誰もいない。

 何故かというと。

 

「いい指導をしてるわね。みんなやる気も十分、体のバランスもいい。ところでお兄さま? 聞きたいことがあるのだけど」

 

 ヒットマンに狙われているから……!

 ライスからお姉さまにお兄さまができたって話をしたと聞いた。

 その時先輩はニコニコして嬉しそうだったと言っていたが、それは本当に嬉しさからくる笑顔だったのかいライスや。

 

 まあ別に変なことしているわけじゃないからね、先輩から凄まれてもあんまり気にしていない。

 こんなことで気にしてたらゴールドシップの担当なんてやってられないっすよ!

 

「……ふふ、本当に気持ちが強いわね。あーあ、ライスのお姉さまは私だけだって思ってたんだけど」

 

 俺はお兄さまだから違うじゃないですか。

 

「そういうことじゃないでしょう? まったく、もう」

「お前さん、こいつ相手にとぼけるとか正気か……?」

 

 ギロリと睨まれて、癖毛の先輩がおー怖い怖いとへらへら笑う。

 先輩も大概だと思うけどなぁ。

 

 みんなで盛り上がっている中、冷ややかな視線を感じた。

 見ると、リトルココンがじっとこちらを睨んでいる。

 

「……そんなにはしゃいでさ。それで勝てりゃ世話ないけどね」

 

 相変わらずの毒舌だ。隣にいるビターグラッセは不思議そうに見ている。

 

「なあリトルココン。あのチームにだけやたらと厳しくないか? 何かあったのか?」

 

 確かにそれは俺も気になる。

 うんうんと頷く俺と、いつのまにかビターグラッセの隣で同じように頷くゴールドシップ。

 

「…………ムカつくんだよ、ああいうの。気持ちばっか盛り上がってさ」

 

 ゴールドシップを思いきり睨みつけながら話すリトルココン。

 

「アンタらがヘラヘラ無駄話してる間にもこっちは必死にトレーニングしてきたんだ」

「……負けてたまるかっつーの」

 

 どうやら和気あいあいとトレーニングしているのを好まないタイプで、自分はストイックにやってきた。

 きっと指導というか方針が自分と合わなすぎて気に食わないんだろうな。

 あるよね、そういうの。俺とゴールドシップは同じように頷く。

 

「ゴールドシップ、君が頷いてもいいのか?」

「ま、そんなもんだろ。アタシだって管理されんのヤだしよ」

 

 ゴールドシップの言葉にチーム<ファースト>のメンバーがムッとする。

 しかし、彼女は続けてこう話した。

 

「そもそも代理の方針がおめーらに合ってんだろ? ならそれでいいじゃねーか。チーム第7ゴルゴル星のアタシらは好き勝手やっからよ!」

 

 餞別にやるぜと言ってつやつやのリンゴを2人に渡して帰ってくる。

 リトルココンは何か言いたげだったが、不満そうにむにむに口を動かして去っていった。

 

「相変わらずですね……」

 

 そんな様子を見て眉尻を下げている樫本代理。

 ゴールドシップの自由さを言っているのか、リトルココンの敵視を言っているのか。

 あるいは両方なんだろうか。

 

「代理、お疲れ様です」

「お疲れ様っす。俺はまだアオハル杯やと新人やからあの子のことようわからんけど、気ィ強いんやなあ」

「ええ。感情を出すのが苦手で、どうしても強い言葉になってしまうんです」

 

 ウマ娘側は結構バチバチしているが、トレーナー陣はそうでもない。

 樫本代理について俺が色々話しているからか、先輩たちもかなりフレンドリーだ。

 少し驚いているが、代理も普通に話をしている。

 

 チームでアップしているのを眺めながら準備を待っていると、ぬっと現れた先輩が1人。

 

「樫本代理」

「はい。あなたは、ミホノブルボンの」

「ああ」

 

 超強面の先輩。マスターことミホノブルボンのトレーナーだ。

 理論的には樫本代理と同じことをしているトレーナーでもある。

 

「あんたとは1度話してみたいと思っていたんだ。指導法は俺と似ているからな」

「そうですね。私も話をしてみたいと思っていました」

 

 精神力で距離適性の壁を破壊した先輩と、徹底管理の下ケガなく強い育成をしている代理。

 どちらもしっかりウマ娘の限界を見極めてハードトレーニングをさせる指導だ。似た部分があるのだろう。

 

 でも話が長くなりそうだからね、練習試合が終わってからにしましょうね。

 

「む、そうか」

「準備も終わったようです。では。後ほど」

 

 レースに向けて1つ2つ話をするため、みんなのところに赴く。

 

「……あなた、本当に良くも悪くも空気を読まないわね」

 

 メガネの先輩に呆れられてしまった。

 何が? と首を傾げると、ため息を吐かれることに。解せぬ。

 

 

 

 

 

 練習試合が始まり、短距離からスタートした!

 まずはタイキとバクシンオーのレース。

 

「バクシーーーーンッ!!!」

「ゴーゴー!」

「は、速っ」

 

 バクシンオーが開幕から全力疾走で先頭を取って逃げ、タイキが後ろについてペースメイク。

 ハイペースのまま進んでいき、レースを完全に掌握した2人が一気に走り切って1、2着をとった。

 

「イエス! アイムウィナー!」

「ぐぬぬ! 個人では負けてしまいましたが、チーム的にはバクシン的勝利です! はっはっはっは!」

 

 流石はスプリント覇者と最強のマイラー。短距離ではもう生ける伝説といっていい能力だ。

 しかしジュエルネフライトが出遅れても半バ身差で3着。出遅れてなければあるいは……といったレースではあったのでギリギリでもある。

 

 続いてダート。

 ウララをリーダーとして、ファルコンとウインディが出走する。

 

「いっくよー☆」

「ウインディちゃんにつづくのだーーー!」

「うらら~~!」

 

 地方を駆け回ったその脚で快速の逃げをうち、先行でウインディが荒らしまわる。

 そんなバタバタのバ群でじっと脚を溜めるウララという、らしいレースとなった。

 最終直線に入って4バ身のリードをつけたファルコンの圧勝かと思いきや、抜け出してきたドミツィアーナが差して1着。すごい末脚だった。スタミナの使い方が巧い。

 

「負けちゃったー……」

「ぐぬぬぬぬ!」

「ねぇねぇ見てた!? もうちょっとで勝てたよねー!」

 

 ファルコンはクビ差2着、ウインディは4着。ウララは6着と最下位。

 しかし、なんとウララが5着のフェニキアディールと半バ身差! レベルの高いレースで遅れることなく走り切ったのだ!

 他2人の走りもよかったから、かなりいい仕上がりだ。ウララを担当してる先輩なんて大号泣だし。

 

 3戦目は中距離。

 相手はかなり抜けているウマ娘、ビターグラッセがリーダー。

 こちらはフクキタル、ジョーダン、ドトウだ。

 

「やれるッ! できるッ! ド根性~ッ!」

「今日の運勢は中吉ですが! 行きますよ~~~!」

「やってやるし!」

「が、がんばりますぅ~~~!」

 

 先行3差し3というレースで、スローペースになりながらも一団となって駆けていく。

 最終直線でビターグラッセが一気に抜け出し、それを追いかける形に。

 コーナーから直線にかけてグングンと加速したビターグラッセを差しきれず、そのまま逃げ切られた。

 

「よし! いいレースだった!」

「お、惜しい! しかし学びのあるレースでした!」

「悔しい~! でも、次は勝てるっしょ!」

「うぅ~……いいところがありませんでしたぁ……」

 

 フクキタルは3着。ジョーダンは展開が向かずに5着。

 ドトウはいいところがないと言っているが半バ身差で2着だ。流石の実力。

 内容は完敗だったが、フクキタルには課題はしっかり見えたようだ。次のレースに活かそう。

 

 さて、後がない4戦目。マイルだ。

 ブルボンとデジタルの2人なわけだが。

 

「トレーナーさん、マスター、ライスさん。見ていてください。ミホノブルボン、出ます」

「メカメカしい雰囲気から為されるアツい友情! レースへの情熱! はぁ、はぁ……! こんなのを間近で見てもいいんですかぁ~~!?」

 

 相変わらずのハイペースなラップ走法と、相変わらずのデジタル。

 なんだかなぁと思われるかもしれないが、レース自体は相当なレベルだ。ハイペースで走ってスタミナを持たせるスプリンターと、気を抜けばとんでもない速度で差してくる勇者。

 前も後ろも気にしなければならず、焦ったのかそのままスタミナを切らせてブルボンが逃げ切り。デジタルはブルボンのご尊顔を見なければと差し込んでハナ差2着。

 

「ミッションコンプリート。勝利しました」

「いやぁ~~いい走りでした! 他のウマ娘ちゃんも勝つために手を尽くしていましたし! 勝利に向かって頑張るウマ娘ちゃんッ! 素晴らしい! でしょうトレーナーッ!」

 

 完璧に勝利したブルボンとデジタルはそれぞれ自分のトレーナーに向かっていった。

 性格が大幅に違うものの、レースでその違いがうまいことハマっている。先輩たちと目を合わせ、グッと互いにサムズアップ。

 

 さて、最終戦。長距離部門だ。

 2勝2敗となったわけだが、中々に鬼門だろう。

 相手のリーダーはリトルココン。スタミナ自慢な上、レースプランニングも巧いし末脚もある。

 しかしそれはライスも同じだ。しっかりと走ってもらいたい。

 

「負けるかっつーの……!」

「ああ! 共に征こうじゃないか! 東方に遠征した征服王のように!」

「ゴルシちゃんは雷神の子だぜ! 城でもなんでもぶっこわしてやる!」

 

 みんながみんな気合を入れて始まった長距離レース。しかし、出走前にライスはかなり気負っていた。

 

「ライスが頑張らなきゃ……」

 

 ここで勝たなければ負けてしまうと不安そうに俯く彼女に、タイキやフクキタルらリーダーたちが近づく。

 

「ライスちゃーん! 見て見て! すごいよ! ぞうさんみたいな雲!」

 

 ウララがライスの隣に立ち、空を指さす。

 思わず顔を上げた彼女は、ぱっと表情が変わった。

 

「わぁ、ほんとだぁ……大きいね!」

「おっきーねぇ!」

「ヘイ! ライス!」

 

 ニコニコしているライスに、タイキも声をかける。

 

「勝ったらハッピー! 負けてもドンウォーリー!」

「そうですよ~! これは練習試合です! 本戦で勝てばバッチグーですよ!」

 

 タイキとフクキタルがニコニコ笑いながらそう話す。

 

「ライスさん」

「ブルボンさん……」

 

 ライスの前に立ったブルボンが、フッと笑みを浮かべた。

 

「走りましょう、ライスさん。自由に、楽しく走る。そのためにこのチームがあるはずですから」

「楽しく、走る……」

 

 ポツリとつぶやき、俺とゴールドシップを見る。

 俺はうんと頷き、ゴールドシップは笑ってライスを担いだ。

 

「わぁっ!」

「ごちゃごちゃ言ってねーで思いきり走るぞ! ライスが走らねーとつまんねーんだからな!」

 

 わっせわっせと連れていかれたライス。みんな笑顔で彼女を送り出す。

 準備が整ってゲートに入った時には、その表情は真剣で、しかし楽しそうなものだった。

 

 レースが始まると、ライスはリトルココンの後ろについて徹底マークする。

 1,000m、2,000mと走っても、ずぅっとリトルココンに食らいつく。

 

「はぁ、はぁ、くそっ! いつまでついてくるんだ……!」

「はぁ、はぁ……! ま、負けない……!」

 

 リトルココンもライスシャワーもロングスパートをかけて上がってきている。

 ぴったり後ろにつかれているリトルココンはかなり苦しそうだ。

 先頭を行く2人の後方で脚を溜めているオペラオーとゴールドシップは、ミニベロニカとクレセントエースにプレッシャーをかけながら機会を待っている。

 

「アタシだって! 負けても笑ってるみたいなチームになんか、負けないから……!」

 

 最終直線に入り、リトルココンはさらに加速!

 一気に抜け出した!

 

「3,000m走ってるのにまだ加速するんですか~!?」

「救いはないんですかぁ~……?」

 

 凄まじいスタミナだ!

 そのまま少しずつライスが離されていく!

 

「ライスちゃーん! がんばれーーーっ!」

「ライス! ゴーゴー!」

「ライスさ~ん!」

「ライスさん!」

 

 ――ライスーッ! がんばれぇーー!

 

「っ! やあああっ!」

 

 声援を聞いたのか、ライスのスピードが上がり、リトルココンに追いついた!

 そのまま横並びになって一気に上がっていく。

 2人とも底力を見せて、凄まじい勢いのままゴールへともつれ込んだ!

 

 判定は!?

 ゴール前で写真を撮っていた先輩を見る。

 難しい顔をしながら、一言。

 

「わからん」

 

 思わずずっこけそうになった。

 

「いや、ほんまにわからん。ハナ差もないんや。同着に見えるけどな」

 

 みんなで集まってデータを見る。

 むむむ……た、確かに。

 

「……でも、リトルココンが体勢有利ね」

 

 ヒットマンの先輩がそう話す。

 確かに、ゴールした瞬間の体勢はリトルココンが有利だ。

 厳密にやっていないから判別が難しいが……。

 

「今回はリトルココンの勝利! そういうことでいいな」

 

 トレーナー陣はみんな頷く。

 練習試合だし、こればかりはもめても仕方がない。技術的にリトルココンが巧かったということだろう。

 

「はぁ……はぁ……り、リトルココンさん!」

「はぁ、はぁ……な、なに」

 

 ライスがリトルココンに強いまなざしを向ける。

 

「ライスたちは……! 楽しいだけのチームじゃ、ないです! みんなで一緒に、がんばるぞってなるチームなんです!」

「………」

 

 ライスのその言葉に、考えこむように俯くリトルココン。

 

「そうだぜリトルココンちゃんよー!」

「うわっ」

 

 ライスの後ろからヌッと出てくるゴールドシップ。

 先ほどは2人の勢いについていかずにそのまま6着だった。というかやる気なさそうだったな。

 

「言ったろ? おめーらはおめーらで合ってんだ。アタシらはアタシらで気に入ってんだよ。それにイイも悪いもねーってことだぜ」

「………」

「それによー。ライス、強かったろ?」

「………!」

 

 ぷいっと腕を組んでそっぽを向いてしまった。

 

「いろんなやり方があるってこった! アツいレースだったぜ! 次は2年後! アオハル杯で!」

「長いな!」

 

 思わずビターグラッセが反応してしまっている。

 それに感化されたのか、チーム<ファースト>でも笑いが起こる。

 

 こうしてチーム<ファースト>との練習試合は2勝3敗で終わったのであった。

 1人だけ俯くリトルココンを残して。




 アプリ版同様2勝3敗でした
 オペラオーとゴールドシップは少し気をつかって全力を出しつつも2人を応援していました
 チーム<ファースト>の2人もしかり

 だって2人だけ雰囲気がちょっと違うんだもの
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