ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯   作:あぬびすびすこ

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 自主トレは慎重に


29、自主性

 毎年恒例、トレセン学園のファン感謝祭。

 その準備で誰もが大忙しだ。

 

 特に今年は年末にアオハル杯本戦があるということで、いつも以上に注目度が高い。

 非公式とは言え名だたるウマ娘たちがチームを組んでレースをするわけだし、ファンからすると夢の祭典。

 参加している俺たちよりも、ファンの方が盛り上がっている節があるよね、うん。

 

「エアグルーヴさん! この機材はどこに持っていけばいいですか!」

「野外ステージに持っていけ。お前は手伝ってやれ、ここの管理は私がやる」

「はい! じゃあいくよ、せーの!」

 

 エアグルーヴが指揮を執り、着々と進んでいく。

 流石の人望だなあと思っていると、彼女がじろりと睨んできた。

 

「おい、何をしている。自分の役割を全うしろ」

 

 怒られてしまった。

 何故俺がここにいるのかというと、エアグルーヴと一緒に指揮を執るためだ。

 

 主に芦毛のクセウマ娘のだけど。

 

「いやー、あっちぃな! トレーナー、汗」

 

 タオルでゴールドシップの汗を拭く。

 

「ほい、メス」

「手術か! たわけども!」

 

 手を差し出してくる姿を見て我慢できなかったのかエアグルーヴが怒りだした。

 メスはいらないが汗をかいてるのは本当だし……。

 

「そうだぞ! そもそもエアグルーヴがやれって言ったんじゃねーか!」

「こんなことお前以外できないからな。ふざけていないで早く終わらせろ」

 

 彼女の指示で行われているのは溶接作業だ。ゴールドシップも専用のマスクをかぶっている。

 何やら機材がアクシデントでぽっきり折れてしまったので、そこの補修をしてほしいということらしい。

 トレセン学園というアスリート育成学校の生徒に溶接やらせるってどういうことなんだろうか……そして何故ゴールドシップは資格をもっているのだろうか。

 

 ぶーたれながらも溶接に戻り、バチバチジジジと音が鳴る。

 しばらくその光景を眺めていると、規則正しく歩く人影が。

 

「やあ、順調かい」

「会長。ええ、もう少しで終わりそうです」

 

 シンボリルドルフが様子を見にきた。

 生徒会長として忙しく動いているが、いつもと変わらず元気そうだ。

 

「それはなによりだ。ゴールドシップはどうだい。専門的でわからないが、難しいことを頼んでいるだろう?」

「慣れりゃあそうでもねーぞ。もう終わったしな」

 

 マスクを外して機材を確認しているので、俺たちも見てみる。

 うん……綺麗になってるな。

 

「ほう、ここまで直るものなのか」

「うん。いい仕事をしてくれた。助かるよ」

「ゴルシちゃんにかかりゃあこんなもんだぜ!」

 

 楽しそうに笑うゴールドシップに、ルドルフはうんうんと頷く。

 そしてエアグルーヴから一言。

 

「では次の仕事を与える」

「まだ働かせんのかよ!? ゴルシちゃん保護法違反だろ!」

「貴様以外みんな働いているんだ。つべこべ言わずさっさと働け」

 

 がっくりと肩を落とす彼女に思わず苦笑してしまう。ルドルフも眉尻を下げて笑っている。

 前々からそうだと思っていたが、きちんと説教してくるエアグルーヴには弱いみたいだ。

 

「つーかもう昼だろ。飯食いにいこーぜ」

「おい待て、そうやってまた勝手に……」

 

 時間を確認すると、確かにもうお昼ご飯の時間だ。

 それを理由に逃げ出すのではとエアグルーヴは思っているみたいだけど。

 

「うん。いい時間だし休憩にしようじゃないか。私もお腹がすいたよ」

「会長……! はぁ、仕方がない」

 

 ルドルフからの援護射撃により休憩になった。

 早速行くぜ! とゴールドシップが張り切っている。

 

「今日はなに食うかな。タイ料理でも食うか!」

 

 何故タイ料理?

 

「大量のタイ料理……ふふっ」

「会長も食べるのですか? タイ料理」

 

 だじゃれを呟いて笑うルドルフに何も気づかないエアグルーヴ。

 この2人も最初に会った時から変わらんなぁと思うのだった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 感謝祭がもうすぐに迫っているある日。

 事務作業が長引いて日が落ちてしまい、早く帰ろうと小走りしていると。

 

「―――」

「―――――」

 

 何やら話し声が聞こえてきた。

 こんな遅い時間に一体誰が。気になって向かうと、ウマ娘たちがぞろぞろと学園外へ出ていくのを見つけた。

 結構な人数だ。パッと見ても10人以上いる。

 

 うーん……少し心配だな。

 ちょっと残業しますと心の中でたづなさんに謝り、後をついていった。

 

 

 

 

 

「次! よーい、ドン!」

「たあああっ!」

「でやあああ!」

 

 何をするのだろうかと思っていると、河川敷でトレーニングをし始めた。

 大人数で自主トレ……と思っていたら、みんな見覚えのある顔だ。

 リトルココン、ビターグラッセ。それにデュオジャヌイヤ、ドミツィアーナなどもいる。

 

 ここにいるのは全員、チーム<ファースト>のウマ娘だ……!

 

「く、流石にキツイ……!」

「樫本トレーナーのためだ! 根性! ド根性!」

「頑張る! だあああーーっ!」

 

 毎日限界ギリギリのトレーニングをやっているのに、それと同等にハードな自主トレ。

 確実にオーバーワークだ! 誰かがケガしても不思議じゃない。

 

 しかし、樫本代理の指示に従っていたというのに、突然どうしたんだろう。

 この前の練習試合とゴールドシップがふっかけたことで掛かってしまった、ということか……?

 

「はぁ、はぁ……! む、無理……!」

「弱音吐くなよっ。あと1本……いや、2本はいけるっしょ!」

「次は完璧に勝つんだ……! ぐぐ、うわああー!」

 

 脚も上がらず、息も絶え絶え。眠そうに目を擦っている。

 誰かが諦めそうになると、声をかけていっしょに乗り越えようとする姿は、チーム<STAY GOLD>でも見た光景だ。

 

「………!」

 

 息をのむのが聞こえた。

 思わず振り返ると、そこに立っていたのは樫本代理だ。

 

「………」

 

 自主トレに励む彼女たちを見て、代理は今にも泣きそうな表情をしていた。

 喜んでいるわけではなく、それは悔し気で――。

 

 思わず声をかけてしまった。

 ――止めなくていいんですか?

 

「………」

 

 少しだけ視線を向けて、すぐに逸らしてしまう。

 素直な人だから、ここまで気持ちを抑える姿がとても痛々しい。

 

 沈んだ様子の代理はその場から動かず、2人で黙ってチーム<ファースト>の自主トレを見守ることに。

 

「ラスト1本!」

「はあああああ!!」

「ド根性~~~ッ!」

 

 リトルココンとビターグラッセが全力で走りきって、今日の自主トレが終わったようだ。

 誰もが辛そうで、今にも倒れそうだ。それでも表情は良く、もっと走りたいという気持ちに溢れている。

 

「どうして……」

 

 ぽつりと、悲しげにつぶやく。

 練習試合が悔しかったんだと思いますと話すと、腕を組み俯く。

 

「そんなもの、気にする必要はないのに……」

 

 肩を落として沈んだまま、樫本代理はその場を去っていった。

 なんというか……根深い何かがありそうだな。

 今度たづなさんに協力してもらっていっぱい吐き出させるとしよう。

 

 それはそれとして。

 フラフラしながら帰ろうとするチーム<ファースト>のみんなのところへ向かう。

 

「うわ」

「ああ……こんばんは!」

 

 バツの悪そうな顔で俺を見る。

 ビターグラッセ以外全然歓迎していないのがよーくわかる。

 

 とりあえずみんなボロボロみたいだから寮まで送ってあげるよと話すと、不思議そうな顔をされた。

 

「嬉しい、ですケド……」

「いいんですか?」

 

 オーバーワークでケガしそうだし、ふらついて車にぶつかりそうだしさ。

 そう話すと、困った様子で目を泳がせる。

 

「ねえ、何が目的? アンタに得することなんてないじゃん」

 

 リトルココンが俺を睨みながらそう言ってくる。

 対抗しているチームだからと意識してくれているのは大変ありがたいんだけども。

 俺はトレーナーだ。トレーナーがウマ娘を気にするのは当然だろう。

 

「………」

「なあみんな。ここは甘えよう。こんなところでケガしたら元も子もない」

 

 ビターグラッセの言葉にみんなが頷いてくれた。

 じゃあ待っててくれ! と早速走って車を取りに行く。

 

 車を持ってきてみんなを乗せ、ドリンクを渡して水分補給をさせつつ往復する。

 何度か往復して、リトルココンとビターグラッセを乗せて最後になった。

 

 寮まで運転している間、リトルココンはドリンクを飲みながらムスッとしていた。

 

「すまない。リトルココンのことは気にしないでくれ。感謝はしているんだ」

「うっさい」

 

 相変わらずで思わず笑ってしまう。

 みんな自主トレするのはいいけど、樫本代理に心配かけないようにするんだぞと声をかける。

 

「別に、関係ないっしょ」

「ああ、うん。気をつけるよ」

 

 リトルココンはそっぽを向いてしまうし、ビターグラッセは苦笑いをするばかり。

 ウマ娘は頑固なところがあるからなぁ。大きな問題にならないといいけど。

 沈んだ様子の代理を思い出しながらそう想うのだった。




 アプリで代理がすぐに言えなかったのって相当ショックだったんだろうなーと思います。
 だって叱るのに4,5か月かかってますから(イベントの関係上)

 トレーナーって大変ですよねぇ……
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