ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯   作:あぬびすびすこ

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 ファイッ


34、プレシーズン最終戦

 夏場の北海道は暑い。北の大地に足を運んで最初に思った感想だ。

 そしてそれ以上に、札幌レース場は日本一とんでもなくアツい場所となっていた!

 

『マルゼンスキーが1人旅! やはり格が違うのか!? 4バ身ほど差を開いて最終コーナーを回ってくる!』

「行けぇー! マルゼンスキー!」

「キングー! 負けんなぁー! 根性見せろー!」

「タイキシャトル頑張ってェー!」

 

 6位のオグリキャップらターフクイーンズ。

 4位のスペシャルウィークらジ・エイペックス。

 14位とランクを落としたユメガ・ヒロガリングス。

 そして現在10位の我らがチーム<STAY GOLD>。

 

 どのチームもGⅠウマ娘が数多く所属し、かつ一世代の優駿として君臨している娘ばかりだ。

 その上つい先日宝塚記念を2連覇したゴールドシップや、芝2,000のレコード覇者トーセンジョーダンなど、新進気鋭のウマ娘たちも参加している。

 こんなの今見ないでいつ見るんだ! と大盛り上がりの状況で、札幌レース場は人でパンパンになっていた。

 

『マルゼンスキーが逃げる逃げる! しかしタイキシャトルが猛追! サクラバクシンオーがその後ろから来ている! キングヘイローとビコーペガサスも一気に上がってきた!』

 

 1戦目の短距離レースは終わりを迎えようとしている。

 流石はスーパーカー。スペックが高すぎて逃げになってしまうと言われるのがわかる走りだ。

 札幌レース場の芝1,200は直線が短い。作戦が通じるかどうか……頼むぞバクシンオー!

 

「今デース!」

「バクシンバクシィーーーン!!!」

『残り100mでサクラバクシンオーが抜け出た! 一瞬で差を詰める! もう差はない! 並んだ! 並んだ!』

 

 タイキシャトルの背後に隠れてスリップストリームを使い、脚を最大限溜める。

 そして最後に開放! 一気に爆発させて最後の最後に差しに行く作戦だ。

 スローペースになった時はビコーペガサスが抜群の差し脚で攻める作戦だったが、今回の主役はバクシンオーになった。

 

『そのまま並んでゴールイン! どちらが勝ったのかわかりません! 写真判定になります! 3着はタイキシャトル! 4着はキングヘイローです!』

「あのマルゼンスキーに並んでゴールか……! すごいな、バクシンオー」

 

 先輩が感無量とばかりに拳を握る。

 それもそうだろう。もはや誰が勝てるのかというレベルの強さを誇る最強のウマ娘だ。

 チーム戦とはいえ勝ち負けできている。これはすごい偉業なわけだな。

 

 さあ、結果はどうだ!

 

『結果が出ました! 掲示板をご覧ください!』

 

 掲示板に出たのは……4と……7!?

 

『なんということでしょうか! 同着! 同着です! マルゼンスキーとサクラバクシンオーが同着勝利となります!』

「あら! 同着なんて面白いわね!」

「ちょわっ!? 同着ですか!? しかしこれもまた勝利ですね! トレーナーさん! バクシンして勝ちましたよ!」

「おお、おぉ……!」

 

 笑顔で手を振るバクシンオーを見て、先輩が涙を流して崩れ落ちた。

 スプリンターとしてマルゼンスキーと同着。最高のレースだろうな。

 

「オウ! 凄いデス、バクシンオー!」

「流石は先輩だぞ!」

 

 タイキとビコーも喜びながらバクシンオーに突撃していく。

 こんなレースがあと4回……心臓が持つだろうか。

 先輩を起こしながら、ターフを眺めるのであった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

『続いて第2レース、中距離芝2,000mになります。出走メンバーを見ていきましょう』

 

 実況解説の声が響く中、それぞれのチームが作戦の確認や軽い柔軟を行っていく。

 今回も勝ったるでと気合を入れるタマモクロス、2人しかいないため入念に確認をするスペシャルウィーク、今回こそ勝利したいエアグルーヴ、ヒシアマゾン。

 

 そんな気持ちの入っている3チームがいる中で、チーム<STAY GOLD>はいつも通りのほほんとしていた。

 

「今日は勝ちましょう! 勝ったらカニをご馳走してくれるとトレーナーさんが言ってました!」

「マジ!? 激ヤバじゃん! バイブス上がるんですけど!」

「うっし! じゃんけんで負けたやつだけ海で素潜りな!」

「いやなんでやねん! カニ関係あらへんやないか!」

 

 あまりのボケ具合に我慢できなかったのか、タマモクロスがツッコんでいた。

 エアグルーヴも頭を抱えてため息を吐く。どうしてこうも緊張感がないんだと呟き、ヒシアマゾンが苦笑いで肩を叩く。

 

 そんなやりとりがありながら、続々とゲートインしていく。

 ジ・エイペックスのみ2人で他は3人。計11人のレースとなった。

 観客は静まり、ゲートが空くのを今か今かと待ち構える。

 

 夢のようなレース、王道のクラシックディスタンス。

 誰が走り抜けるのか。誰もがその走りを期待して息をのむ。拳を握って目を見張る。

 

『各ウマ娘、ゲートイン完了しました』

 

 ――ガタンッ

 

『スタートしました! アオハル杯プレシーズン最終戦中距離部門! どのウマ娘がハナを主張するのでしょうか!』

 

 全員で遅れることなくスタート。

 ここで誰が先頭に出るのかが、このレースで重要なポイントとなる。

 

 というのも、今回のレースには逃げウマ娘がいない。

 脚質を問わず走れるタマモクロスも逃げはしないし、ヒシアマゾンもできて先行。

 先行で走ることのできる誰かが前に出なければならない。そしてそれはスタートからコーナー前までの2ハロンで決めなければならない。

 

「ハナをもらう!」

『前に出たのは4番セブンスクイーン! ロングスパートが自慢のウマ娘です!』

 

 ターフクイーンズのセブンスクイーンが前に出る。これは作戦通りのようで、タマモクロスはそれを見て後方へ。アンバーシュシュも少し下がる。

 

「そうやすやすと!」

『2番手は5番エアグルーヴです! ペースを作らせまいと並んでいきます!』

 

 エアグルーヴたちユメガ・ヒロガリングスは、自分たちの作戦を通さなければ勝つのは厳しい。チームレベルの問題だ。

 ターフクイーンズのいいようにさせないという気迫がエアグルーヴにはある。彼女にペースメイクの役割を任せて、ヒシアマゾンは後方へ下がる。

 

『セブンスクイーン、エアグルーヴが第1コーナーに差し掛かります。その1バ身後ろには7番フリルドパイン。2バ身離れた中団には9番トーセンジョーダン、隣に11番マチカネフクキタル。すぐ後ろに3番スペシャルウィークと並んで10番プニプニ。最後方には1番アンバーシュシュ、2番タマモクロス、並んで8番ヒシアマゾン。その後ろに6番ゴールドシップとなっています』

 

 隊列が作りあがったところでコーナーへと入っていく。

 セブンスクイーンとエアグルーヴは、互いに競り合いつつペースを作る。

 

 互いに自分たちが走りたいタイムがあるわけで、そのペースにしたいから前に出ている。

 しかし、いくらここまで勝ち上がってきたチームとはいえ逃げウマ娘ではない。

 慣れない走りにやや苦戦しつつ、セブンスクイーンはエアグルーヴのプレッシャーに耐えていた。

 

 エアグルーヴも逃げは未経験とはいえ、とんでもない大逃げウマ娘が身近にいるために、参考にはならないが理解は多分にある。

 アメリカにいる異次元のウマ娘への対策をセブンスクイーンにぶつけながら、エアグルーヴは丁寧にペースを作り出す。

 

『第2コーナーを回って向こう正面へ。先頭は変わらずセブンスクイーン。エアグルーヴはそのすぐ後ろを位置取りました。後方との差は1、2バ身程でしょうか』

 

 バックストレッチに入り、ある程度のペースを幾人かが掴む。

 遅い。タマモクロスはそれを感じた。隣で走るヒシアマゾンは、気にした様子もない。

 つまり、作戦通りということだろう。

 

「小賢しいマネするやないか!」

 

 ユメガ・ヒロガリングスの作戦。それはターフクイーンズ、チーム<STAY GOLD>の両エースが追込だからこそのものだ。

 スローペースにすることで、残したスタミナを使い前残りにする。つまり、脚を余らせる戦法だ。

 逃げウマ娘もいないのに器用やなと感心するが、このままではタマモクロスも、仲間のアンバーシュシュも持ち味を一切活かせない。

 セブンスクイーンは何してんねん! 思わず歯を噛みしめる。

 

 前で走っているスペシャルウィークも、このスローペースをどう打開するか考えている。

 が、しかし。目の前で走っているトーセンジョーダンが平然としていて全く動きそうもないために、自分たちも中々動けない。マチカネフクキタルはトーセンジョーダンと同じチームなのに困った顔をしているが。

 どうしたら……。隣に並ぶプニプニと目を合わせてうぅ……と唸る。

 

『1,000m通過地点は60.7! スローペースです! これはエアグルーヴたちユメガ・ヒロガリングスが有利でしょうか!』

『エアグルーヴたちの作戦が決まりましたね! 前残りの可能性が大ですよ!』

 

 これはエアグルーヴの作戦が一枚上手だったか。

 観客たちも実況解説も、走っているウマ娘も思っていた。

 

 が、しかし。

 

「面白くなってきたぜ!」

 

 忘れてはいけないのはウマ娘界きってのトリックスター。

 遅いとみるや否や、半分走ったところでズガン! とターフを踏み抜き、外からグングン加速し始めた。

 

『ゴールドシップ上がってきた! ゴールドシップ上がってきた! 向こう正面で上がってきましたゴールドシップ!』

「何だって!?」

「やるやないか!」

 

 外から抜かれたヒシアマゾンは驚き、タマモクロスは楽しそうに笑みを浮かべる。

 ゴールドシップが動き出したということは、ここから大きく展開するということだ。

 ターフクイーンズとジ・エイペックスにとっては僥倖。ユメガ・ヒロガリングスにとっては最悪の展開だろう。

 

 グングン加速して中団を追い抜き、第3コーナー時点で3番手のフリルドパインに並んだ。

 

「よぉ!」

「ひぃっ!?」

『ゴールドシップ第3コーナーで先頭集団に追いつきました! ここでフリルドパインに並んでいく!』

 

 隣で強烈なプレッシャーと爆音を響かせながら、ゴールドシップが現れる。

 ギラリと光る視線を浴びせられ、牙を幻視してしまうほどに獰猛な笑みを見せて、舌なめずりを1つ。

 フリルドパインは悲鳴を上げ、思わずペースが上がってしまう。

 

「な、ぐっ! おぉ!」

「パイン! くっ!」

 

 プレッシャーによる暴走によって後ろからつつかれ、ペースが強制的に上がっていく。

 それに困るのはエアグルーヴだ。せっかくスローペースでスタミナを残していたのに! コーナーでペースが上がってしまうと、どうしても膨らんでスタミナを吐き出してしまう。

 マチカネフクキタルの末脚、スペシャルウィークの差し脚、タマモクロスの稲妻の突撃。

 それらをすべて許してしまうのだ。対策が全て、水泡に帰す。

 

 ゴールドシップが作戦を破壊したことで、後方にいたタマモクロスやヒシアマゾン、トーセンジョーダンが4コーナー手前から一気に上がっていく。

 特にスペシャルウィークは展開を生んでくれてありがとうございます! と深く感謝していた。

 差し2人の体制であるため、どうしても展開の変化がしにくいという問題があった。それが解決したのだから。かといって、負けてあげるわけではないが。

 

『一気にペースが上がっていき、最終コーナーを抜けて直線に入る! 坂も何もないこの札幌レース場! 直線も短いが、後ろの娘たちは間に合うか!?』

「はぁああ――っ!」

 

 小回りで直線が短く、それでいてパワーを必要とする芝の札幌レース場。

 エアグルーヴは最終コーナーが終わる直前からスパートをかけ、一気に抜け出す。

 彼女は札幌レース場にて開催される重賞レース、札幌記念を2連覇している。このレース場の巧者なのだ。

 だからこそ、作戦を完遂させれば勝率は高かったはず。ゴールドシップが滅茶苦茶にしなければ……!

 

 といっても、作戦が壊されるのは想定内。

 直線に入れば勝ち方を知るレース場。エアグルーヴは自信をもって、一気にゴールまで駆けていく。

 

『エアグルーヴが抜け出して先頭! 後続も追いすがる! ギューッとバ群が詰まっています!』

 

 ゴールドシップのおかげもあって、差しウマ娘たちは一気に追い上げる。

 エアグルーヴは最終コーナーを抜け出すまで2バ身差のリードだったが、既に1バ身以下。

 直線に入る瞬間、射程圏内に入れられていた。

 

「やあぁぁあ――!」

「こっからが見せ場や!」

「行かせるかっての!」

「一気に行くよ!」

 

 外からスペシャルウィークとタマモクロスが爆発するかのように飛び出ていき、最後の直線で勝負を決めに行く。

 トーセンジョーダンも気合で追いかけるが、末脚勝負では一段劣る。しかし、パワーが必要な芝。なんとか縋りついていく。

 ヒシアマゾンも一気に追い上げるが、前半のスローが効いているのか他のウマ娘が元気だ。なかなか差しきりに行けない。

 

『エアグルーヴ逃げ切れるか! セブンスクイーンは苦しい! ゴールドシップが前に出る! その後ろからはスペシャルウィーク! タマモクロス! トーセンジョーダンも来たか!? ヒシアマゾンも負けていない!』

 

 残り1ハロン。後続が一気に殺到する。

 エアグルーヴ逃げ切りか、ゴールドシップやタマモクロス、スペシャルウィークが追い抜くか。

 バ群がまとまって一気に前に出たところで。

 後方でじっと待っていたウマ娘が、ニンマリ笑顔を見せた。

 

「来ます!」

 

 キラリと目を光らせる。

 

「来てます!」

 

 バ群の中に光る道を見い出す。

 

「来させます!」

 

 ――マチカネフクキタルは末脚を爆発させた!

 

『マチカネフクキタルが驚異的な末脚! バ群から飛びだしてきた! 真っすぐ突っ込んでくる!』

「え!?」

「そんな!」

 

 バ群が存在しないかのように、一切のロスなく真っすぐ突撃していく。

 切れ味抜群の差し脚をもつウマ娘が、不利を受けずに最後の直線を走れたのであれば。

 結果は確実だろう。

 

『マチカネフクキタルだ! とんでもない末脚っ! これは差せるか!? 差すかっ!』

「フクさん行っちゃってぇー!」

「ぶっ差せ! フク!」

「いきますよぉ~~~!!!!」

 

 風切り音と共にトーセンジョーダン、ゴールドシップたちの横を駆け抜け、スペシャルウィークもタマモクロスも追い抜きエアグルーヴの元へ。

 

「なんや!?」

「フクキタルさん!?」

 

 大歓声と共に追い抜かれた2人は驚きを隠せない。それもそのはず。直線の段階で、エアグルーヴと後方の差は7バ身ほどあった。

 それをわずか1ハロンで。しかもみんなスパート中にだ。

 何が起きたのか、一瞬頭が回らなくなってしまう。

 

『エアグルーヴに並ぶか!? 並ばない! 並ばない!』

 

 エアグルーヴも追い抜き、そのまま先頭に躍り出た。

 残りはわずか数十m。あと何歩もない。

 タマモクロスとスペシャルウィークもエアグルーヴを差して前に出たが、既に追い抜ける距離もなく。

 

『マチカネフクキタルが先頭でゴールイン! 一瞬で差しきりましたマチカネフクキタル! 札幌レース場にも福が来ました!』

「やりましたよぉお~~~!」

 

 走り切ったフクキタルは満面の笑みで観客席に手を振る。

 あまりにも劇的な勝利に見ていたファンが大きな歓声で讃えていた。

 

「くっ……」

「あかんかった……!」

「うぅ……!」

 

 一瞬で差されたエアグルーヴは悔し気だ。

 あの展開からどうなればこうなるんだと肩を落とす。

 

「フクさんマジすげーって! 何あの脚! ぱねぇ!」

「死んだフリすんのうめーなフク。女優になれんじゃねーか?」

「ふっふっふ~! 今日から私のことをマチカネハリウッドと呼んでください!」

 

 死んだフリ。そう聞いて、みんなハッとした。

 ゴールドシップが動いて気になったのもそうだし、トーセンジョーダンが後方で動じなかったのも気になった。

 しかしマチカネフクキタルだけは何も気にならなかった。それはスローペースに困っていたし、ゴールドシップたちが動いたのに動かなかったから。

 

 マークを外されていたのだ。マチカネフクキタルの末脚は脅威だとわかっていたのに、それを見えないようにしていたのだ!

 

「またしてもか……」

 

 顔に手を当て、はぁとため息を吐く。

 作戦とはいえ勝負もできなかったよとヒシアマゾンも隣で嘆く。

 

 そもそも中距離でリーダーをやっているマチカネフクキタルをマークしない時点で問題だったのだ。

 共に走ったウマ娘たちは反省すると共に、チーム<STAY GOLD>のレース作りの巧さに脅威を覚えるのであった。




 ゴールドシップに注目させてジョーダンでアシスト。
 最後にフクキタルが溜めに溜めた脚でぶち抜く作戦でした。
 なお直線が短いので割とギリギリのプランだった様子。
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