ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯 作:あぬびすびすこ
今年もよろしくおねがいします!
今日も今日とてトレーニングだ。が、夏合宿は強度の高いトレーニングができる貴重な期間のため、チームメンバーの集まりは悪い。
しかも去年とは違い、みんなトゥインクル・シリーズでも成績を伸ばしているからさらなるスキルアップだと自分のトレーナーとじっくりトレーニングをしているのだ。
全員でのトレーニングは中々難しいが、集まってくれたみんなで細々とやっていくぞ。
「まずはアップのランニングです! バクシンバクシーン!!!」
「バクシーン!」
「バクシーン☆」
「ふふ、バクシーン!」
「ゴルシンゴルシン!」
バクシンオーが先頭でアップのランニングだ。
ジョーダンとゴールドシップ、シチーとファルコンが続く。
それぞれあんまり交友関係がなさそうな面子だが、和気あいあいと走っている。
このバクシンランニングはそこそこ有名らしく、普段はメジロパーマーやダイタクヘリオスもいっしょに走っている。
そしてランニングの後半はパーマーが先頭になり、バクシンオーが息も絶え絶えというのがよく見る流れだ。
みんなのランニングを観察しながら、今日もトレーニングの準備を始める。
ひもを砂浜にながーく敷いていく。大体50mぐらいだろうか。
ウマ娘と違って普通の人間。3本敷いた時点で気温もあってか汗だくだ。今すぐ海へと突撃したい。
「ゴルシンシーン! うっし、終わりだな!」
「はー、あっつ! マジ暑すぎっしょ!」
「ファル子もとけちゃいそう……」
ゴールドシップとジョーダン、ファルコンが先に戻ってきた。中長距離を得意とする2人にダートで異次元の強さを誇るスマートファルコン。
息切れもせずアップを走り切っている。流石だなぁ。
「はぁ、ふぅ、あっつ……」
「ば、バク、シーン……ッ」
シチーはそこそこ息切れしているが、スプリンターのバクシンオーは完全に疲弊している。
もしや距離適性じゃなく、単純にペースを間違えていただけか?
「うわ、トレーナーも汗だくじゃん。つか何コレ? ひも?」
「ボールもあるよ! でも何するのかな?」
みんなが不思議そうにしている。
とりあえず実際にやってみてやり方を教えよう。ゴールドシップ。
「へいらっしゃい!」
来店の掛け声とともに近寄るゴールドシップ。
彼女と隣り合って立ち、ボールをお互いの肩で挟む。ズレて落ちないのを確認したら、ゴー!
「ゴルゴルゴーゴーゴー!」
どちらもボールを押し合いながら、紐の間を走って行く。
感覚的にはラグビーやアメリカンフットボールのタックルのような体勢。その間にボールがあるような感じだ。
50m走り切ったところでくるりと回転。また押し合いながら戻ってくる。
「あ、帰ってきた」
「トレーナーさんもバクシンしてますね!!」
「すっごい汗だけど。ほら、飲んで」
ボールを落とさず戻ってきた俺はへたり込みながらシチーからの差し入れドリンクをがぶがぶ飲む。
一息ついてから、今しがた見せたボール挟みダッシュトレーニングを始める。
「行きますよ、ファルコンさん!」
「よーし、頑張ろ~♪」
バクシンオーとファルコンがボールを挟みながら走り始めた、が。
「ちょわっ!?」
「あれっ!?」
5歩目ぐらいでボールが弾けて吹き飛んでいった。
慌てて拾いに行ってもう一度挑戦するが、また数歩走るとバヨンと零れ落ちてしまう。
なんとか慎重に走るように頑張るが、そうすると今度は右に左にヨレ始める。
「マジ? ちょけてるわけじゃないっしょ?」
「思ってるよりムズい……?」
「二人三脚できねーとぶっ飛んじまうからな」
そう、これはお互いの力加減とかペースとかを合わせないとボールがまろびでるし、左右にヨレてしまう。
2人で息を合わせつつ走らなければならないのだ。思っているより難しかったりする。
「難易度は高いですがバクシン的なトレーニングですね!」
「これ難しいよ~!」
時間をかけて戻ってきた2人。ボールと肩が砂まみれだ。
続いてジョーダンとシチー。最初から慎重に走りだす。
「シチー、おけマル?」
「ん、大丈夫」
仲がいい分ある程度大丈夫とわかると、2人はペースを上げてグングン進んでいく。
「ほーん。中々やるじゃねーか、あいつら」
「すごーい! 通じ合ってるんだね♪」
結構いいぞ、とみんなで褒めていると、折り返し地点でこちらに振り向いた瞬間2人同時に倒れ込んだ。
「あー!」
「あぶなっ!」
すぐに起き上がり飛んでいったボールを拾い上げる。
回転する時に力加減がうまくいかなかったんだろう。正直ウマ娘が転ぶと心臓が止まりそうになるから頑張ってほしい。
戻ってくるときもうまく落とさないように走ってきたものの、2人とも転がってしまったせいか不満そうにしている。
「マジムズい! ゴルシどーやったん?」
「んなもん簡単だろ。カツオの一本釣りみてーな気持ちで行くんだよ!」
「わかんねーよ!」
独特な表現方法すぎて何も伝わらない。
要は勢いをつけて一気に踏み込むことで逆に釣り合わせるということを言いたいんだろうけどね。
「つまりバクシンすればいいということですねッ! 行きますよ、ファルコンさん!!!」
「どういうことー? あれ、バクシンオーさーん?」
押されると弱いファルコンがバクシンオーに振り回されている。
難しくはあるが、体のバランスという感覚的な部分を鍛えられる……と、思っているトレーニングだ。
なんとか頑張ってほしいと思いながら見守るのであった。
◆ ◆ ◆
夏合宿も後半。
今日は終日オフの日ということで、ゴールドシップと共にバナナボートを楽しんでいた。
「このゴルシちゃんマリン号で世界中の海を制覇してやるぜ!」
バナナボートをサーフィンのように立ちながら乗るゴールドシップ。
俺はそれをジェットスキーでけん引している。遠泳用にとっておいた船舶免許がこんなところで役に立つとは。
「わー! すっごーい! 見て見てキングちゃん! ゴルシちゃんが滑ってるよー!」
「合宿中なのに何をしているのかしら……相変わらず自由ね」
遠くでウララが手を振っているので振り返す。隣にいるのはキングヘイローか。
同室だと聞いていたし、よく話題に出るから面識はないがよく知っている。
他にもスペシャルウィークやグラスワンダーなどなど黄金世代がずらりと揃っていた。豪華だなぁ。
その後もぐるりと他チームのトレーニング風景やら何やらを見て楽しみながらジェットスキーを貸してくれた施設に戻る。
とりあえずシャワーを浴びようと合宿所へ戻っていると、意外な人物がアイスを食べていた。
「あん? 理子ちゃん代理じゃねーか」
「こんにちは。相変わらずですね」
樫本代理だ。周りにチーム<ファースト>のメンバーはいないらしい。
トレーニングを見てないのだろうかと不思議に思っていると、口に含んでいたアイスを飲み込んでこちらを見た。
「チームはオフの日にしました。合宿所でのトレーニングはかなりハードです。オフの日を作らないとオーバーワークになりがちですから」
これは俺も同意だ。夏合宿は砂浜で行うトレーニングが多いから、負担が強くかかる。
疲労が抜けきれない状態で走らせるとどこかを痛めたり、最悪ケガに繋がるだろう。
「でもよー。さっきリトルココンもビターグラッセも砂浜ダッシュしてたぜ?」
どこからともなく取り出したアイスを食べながらそう話すゴールドシップ。
俺にも手渡してくるので受け取って一口。うん、甘い。
「ええ。最近は自主トレを鑑みてオフの時間を多くしているんです。しかし、そのオフを自主トレに使っている状況で……」
どうしたら……と額に手を当てて首を振る代理。
あの後もきちんとコミュニケーションをとれていないようだ。
これは由々しき事態だぞ。後々かなり大きな問題に発展してしまいそうな気がする。
何かあったら力を貸しますから。そう話すと、元気なくお願いしますと頭を下げられる。
かなり弱っているなぁ……。ゴールドシップと思わず顔を見合わせてしまうのだった。
――大きな問題がすぐに起きるとは、この時誰も思わなかった。
順調な<STAY GOLD>と不穏な<ファースト>
そして事件は起きた……!