ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯 作:あぬびすびすこ
夏合宿を終えたある日。
いつものようにトレーニングを終えて、トレーナー室へぱかプチを片付けに行っていた時のことだ。
「私が気づかないとでも思いましたか……! ずいぶんと舐められたものですね」
チーム<ファースト>のメンバーが、樫本代理に叱られている場面に遭遇した。
怒っているというか、焦っているというか……みんな俯いて顔を下げてしまっているが、代理の目は悲しそうだ。
「違う! アタシたちは、ただ……」
リトルココンが焦ったように顔を上げるが、すぐにまた耳をヘタらせて俯く。
「練習試合で、チーム<STAY GOLD>に比べて成長出来てなかったから……」
「そんなことを気にする必要はありません!」
みんな悔し気に眉を顰めているが、代理はその悩みを”そんなこと”と両断した。
それを聞いたメンバーは皆バッと顔を上げる。
「でも! アナタはアタシたちのために、1人1人のプログラムを丁寧に組んでくれてます!」
「そうです! 足りていないのは私たちだった。だから、成長しなければならないと思ったんです」
リトルココンとビターグラッセの強い主張に、周りのみんなも頷いている。
チーム<ファースト>はもっと速くなりたいという意志のもと、団結して自主トレに励んでいた。
しかしそれは管理外のことだし、代理が最もやられたくないことだ。
「なぜ、そんな余計なことを……!」
「貴方たちは私の言う通りに走ればいい! これは、貴方たちのために言っているんです!」
傲慢。その2文字が似合う、そんなセリフ。
しかし、代理のことを知っていれば、それが本当にウマ娘たちのことを想って出た言葉だとすぐにわかる。
元々コミュニケーションが不得意だ。感情的になり、それがより顕著に出ているらしい。
強く叱られたチーム<ファースト>のみんなは耳も尻尾もペタンと垂れて俯く。
そんなメンバーの姿を見て、代理も眉尻を下げ、とても悲しそうに俯き腕を組む。
「……少し感情的になりすぎました。今日はここで解散とします」
クールダウンして水分補給を怠らないように。最後にそう話して、代理は去っていった。
「ごめんみんな……アタシのせいだ……」
泣きそうな顔をして俯くリトルココン。
これは大変なことになってしまったな……思わず頭をかいていると、タイキがチーム<ファースト>のメンバーへとツッコんでいった!
「ヘイ、ワッツ! 代理はおかしいデス!」
タイキの登場にみんな驚いている。
俺や他のメンバーもやってくると、リトルココンは俺を睨み、ビターグラッセは思わず苦笑いだ。
「みなさんは悪くありまセン! 成長したい気持ち、当たり前の気持ちデス!」
「そうだよー! わたしだっていっぱい速くなりたいって思うもん!」
タイキとウララは代理の言い方にムッとしているようだ。不満です! と顔に書いてある。
「樫本代理さんは、みんなを大切に想ってないのかな……」
ライスが困ったようにポツリとつぶやくが、それは違うとリトルココンは首を振る。
「樫本トレーナーはアタシたちのことをちゃんと考えてる。大切にしてくれてる」
「食事の管理も、トレーニングメニューも。我々の体を一心に想ってのことだったぞ」
リトルココンとビターグラッセの話に、他のメンバーたちもそうだそうだと同調して頷く。
代理がみんなのことを想って活動してきたことは伝わっていたようだ。やっぱりいいトレーナーなんだな。
思っているのと違う反応に、タイキたちは首を傾げる。
外から見ると、明らかに代理が絶対王政を布いているように見えるからなぁ。
「はて、それではどうしてあんなに強引なんでしょう? ゴールドシップさんもビックリの頑固さですよ」
「フク、おめー後で地獄のメリーゴーランドに連れていってやっからな」
いぎゃあ~~! と叫ぶフクキタルは置いておく。
代理が何故管理主義を推し進めているのか。みんなそれを知らないが故に、すれ違っている。
うぅん……これは根深いなぁ。
「トレーナー。知ってんだろ? 教えてやらねーのか?」
ゴールドシップが俺の顔を覗き込んでくる。
全く、相変わらず何でもお見通しだな。
「まあな!」
「ちょっと、何知ってんの? 教えてよ」
リトルココンがずいっと距離を詰めてくる。
しかしこのことについて話すのは、代理のパーソナルな部分に踏みこみすぎだ。
俺の口から言うのは、はばかられるんだが……。
「言って! 話してよ! アタシらには樫本トレーナーが必要なんだ!」
「私からも頼む。お願いだ。聞かせてくれないか」
腕を掴まれてブンブン振られる。ビターグラッセも頭を下げ、他のメンバーもぎゅっと手を握って俺を見つめてきた。
いでで……しかしこれは……いでででで! 腕がもげる!
「許諾ッ! 私が許そうっ!」
この声は! 痛みに耐えて振り向くと、そこにいたのは秋川理事長だ。
扇子には許可ッ! と書いてある。
「オウ! 理事長!」
「秋川理事長じゃねーか。ピスピース!」
突然の登場にゴールドシップ以外がとても驚く。
ゴールドシップはいつも通りだしピースで挨拶している。失礼だからやめなさい。
それで、許可するというのは一体。
「うむ! チーム<ファースト>と彼女は一蓮托生ッ! ウマ娘たちが想いを伝えたなら、彼女の想いを聞く権利もあるはずだっ!」
グッと拳を握る理事長。
確かに、そうかもしれない。気持ちをぶつけ合っているなら、相互理解が必要だから。
改めてみんなの顔を見る。リトルココンもビターグラッセも、誰もが必死だ。
不安そうで、うつむきがちで。だけど何かを変えたいと思いがこもった目をしている。
理事長を見ると、うむ! と力強く頷いた。
あまりよくないことだが、これでチーム<ファースト>のみんなが納得できるのなら……うん。
よし、話そう。そして俺は代理の過去を話し出す。
トレセン学園にて、トゥインクル・シリーズでも活躍するウマ娘を担当していたこと。
そんな中アオハル杯が開催され、チームに所属してレースに励んでいたこと。
担当していたウマ娘以外のメンバーは実力が一段劣り、リーダーとしてチームのために無理をしすぎて、レース中に故障してしまったこと。
そのウマ娘はケガの後レースができなくなってしまい、学園も中退しなければいけなくなったこと。
この出来事がトラウマとなって、もっともっと自分で管理していればこんなことにはならなかったと。
ウマ娘の意志を尊重させてしまうと、あまりにも危険すぎると。
ずっと後悔していた彼女は、管理をすることでケガや故障を無くす。そんな思想になっていった。
感情の暴走を抑え、放任を無くす。ウマ娘を想うが故にいきついた代理の考えが、徹底管理主義なのだ。
全て話し終えると、俺と理事長、ゴールドシップ以外のみんなが驚いて目を丸くしている。
あまりにも壮絶。そして悲哀。
想像していなかった代理の過去に、みんな言葉を失ってしまっていた。
「樫本トレーナー、そんなことが……」
「でも! アタシらは樫本トレーナーのおかげで強くなれた! 速くなれたんだ!」
リトルココンは声を振り絞ってそう叫ぶ。
そう、代理は色々な思惑があっただろうが、チーム<ファースト>をアオハル杯のチームランク1位を常に取り続ける強豪に育て上げている。
彼女の手腕は一流だ。
「うむ! 彼女はウマ娘たちに必要不可欠ッ! だからこそ、私は模索しているっ! 彼女が目を覚ます方法をっ!」
理事長がそう話すと、みんなが俯いてしまう。
何とかしてあげたい。代理を助けたい。そんな思いが伝わってくる表情だ。
「べつにどーにかするのは簡単だろ」
「は?」
「なにっ?」
ゴールドシップの発言にみんなが驚いている。
そんな簡単なことなのかと目がまんまるになっているが、俺もまあそうだなと頷く。
「驚愕ッ! なにか策があるなら教えてほしいっ!」
理事長にも詰め寄られた。先ほどのリトルココンを思い出して少し身を引いてしまう。
ちょっとショックを受けていそうな理事長だったが、改めて俺とゴールドシップを見た。
その方策に期待されているゴールドシップが口を開く。
「理子ちゃん代理はマイナスばっか考えて氷点下じゃねーか。なら溶かしてやりゃあいい」
「溶かす……?」
「ぶっこわせばいいだろ。ケガするだの放任はあぶねーだの言ってる鉄みてーな頭ごとよ!」
つまり、樫本代理が決めつけている限界を超えればいいということだ。
代理はアオハル杯本戦までに成長して出せるタイムを決めていると聞いた。
ならば、そのタイムを全員上回れば。決められた可能性を壊してしまえば。代理の凍りついてしまった時間を溶かせるんじゃないか。
そう話すと、したり顔でゴールドシップは頷いた。
「………」
リトルココンやビターグラッセは何かを考えるような仕草をして、みんなで目を合わせていく。
チーム<ファースト>のメンバーの目は燃えていて。
何かがいい方向に変わることができるかもしれない。そんな可能性の炎が見えるのだった。
自主トレ発覚してからこのイベントが起きるまでがあまりにも長すぎませんか代理!