ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯   作:あぬびすびすこ

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 不器用 of 不器用


38、すれちがい

 樫本代理とチーム<ファースト>の間でいざこざがあってから数日後。

 チームメンバーとミーティングを行った帰りに、練習場でウマ娘たちが走っているのを見かけた。

 

「はああぁーーー!」

「根性ッ! ド根性ッ!!」

 

 走っているのはリトルココンとビターグラッセ。他にもジュエルネフライトやドミツィアーナらもいる。

 チーム<ファースト>が使用しているようだ。

 

 折り合いはついたのかなぁと思っていると、樫本代理がものすごい沈んだ様子でこちらへと歩いてきた。

 背は丸まり肩も落ち、今にも泣きそうな表情をしている。なんだろう、幽霊にでも憑かれたのだろうかと思うぐらいの沈み方だ。

 思わず代理……? と声をかけると、ゆっくりと顔を上げた。

 

「……貴方ですか」

 

 俺を確認すると姿勢を正す。が、表情は沈んだままだ。

 これはなんというか、相当なことが起きているぞ……!

 

「笑ってください……私は、またやってしまった……! トレーナー失格です……っ」

 

 俯きながら震える代理。拳を握ると、手にある紙が潰れてくしゃりと音がする。

 一体何が書かれているんだろうか……気にはなるが、このままではまずい。

 とりあえず代理が落ち着けるところまで案内することにした。

 

 

 

 

 

「だから連れ込んできたのか。トレーナーがついにライバルを潰しちまったのかと思ったぜ」

「お兄さまはそんなことしないよっ」

 

 一番近かったチームの部室へと連れてくると、ゴールドシップやライスシャワーなどリーダーたちと出くわした。まだ帰っていなかったらしく、部室の前でバッタリと遭遇したのだ。

 泣いてる代理を俺がエスコートしているという異様な状況だったのでみんなビックリしていたが、先日の出来事もあってか慌てて慰めながらみんなで中に入った……というのが今の状況。

 

「しかし、ボイコットですか~……」

「ボイコットってかなしいことなのー? おいしそうなのになー」

 

 代理が持っていた紙。

 それには『次のアオハル杯まで全員チームトレーニングを休みます。』と書いてある。

 チーム<ファースト>が代理にあてた、ボイコットの手紙だった。

 

 これがトレーニングをしませんというサボりであれば、注意で済む。

 しかし、みんなもっと速くなりたいという意志のもと行われたものであるなら、これを止めることは極めて難しい。

 先日話した限界を超えるという提案が、まさかこんなことになるとは……。

 

「あー……樫本代理」

「……なんでしょう、ゴールドシップ」

「悪いな。アタシのせいだ」

 

 バツが悪そうに頭をかき、眉尻を下げて謝るゴールドシップ。

 俺も責任がありますと隣で頭を下げる。

 

「何を……どういうことですか?」

「この前、代理さんが怒ってるのを見て……」

 

 ライスがそう話すと、代理はああ、と声を漏らして額に手を当てる。

 聞いていたんですか。そう話す声にいつもの強さはない。

 盗み聞きになってしまって、申し訳ありませんと再び謝る。

 

「そん時に色々話してよ。それのせいかもしれねー」

「……いえ。話を聞いて今に至るのなら、それは私の管理不足です。指導した通りにできていないのですから」

 

 俺とゴールドシップが自分たちが悪かったと話しても、代理は自責の念に囚われている。

 どうしたものかとみんなで悩んでいると、バンと力強くテーブルが叩かれる音がした。

 

「ノー! みんな悪くありまセン!」

 

 タイキが拳をブンブン振って声を上げる。

 

「速くなりたいのはみんな同じデス! チーム<ファースト>のみんなは速くなりたいデス! 樫本代理も応えてマス!」

「ですが……」

「チームでのトレーニングで速くなれたってみんな言ってマシタ! チームは代理を信じてマス! 代理もみんなを信じてくだサイ!」

 

 眉を吊り上げて、必死に語り掛けている。

 代理とチーム<ファースト>の中は良好で、チームメンバーは代理に絶対的な信頼をおいている。

 しかし、その絆というか信頼というか、そういうものを代理が受け付けられない……そんな感じだ。

 過去のトラウマが、信頼を受け取ることを拒否しているんだろうな。

 

「………」

 

 タイキからの話を聞いても、困ったように眉尻を下げて腕を組んでいる。

 信じ切れないのか、心が動けなくなってしまうのか。代理はその後話すことなく、寮へと戻る時間が来て解散となった。

 

 これ以上は、俺たちにできることはないような気がする。代理を変えることができるのは、きっと――。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 ボイコットを宣言した後、チーム<ファースト>のトレーニングはさらにハードなものとなっていた。

 樫本代理が行ってきたトレーニングを独自に研究し、それらを行う。

 そして全てのトレーニングが終わってからはそれぞれが自主トレを始める。

 周りから見ても明らかにオーバーワーク。いつかケガするだろうという状況だ。

 

 樫本代理やチーム<ファースト>に批判的だった先輩たちやウマ娘でさえ、どうにか危なくないようにしてやれないかと話し合うぐらい鬼気迫っている。

 実際この前、先輩から相談を受けた。

 

「オペさんが出た重賞にファーストの子がでてたんやけど大丈夫なんかな。入着しとったけど、脚とかキツそうやった」

 

 先輩はなんとかならへんかなとうんうん唸っていた。

 年間無敗の覇王と一緒だった先輩から見ても、中々問題がある状況のようだ。

 流石にこれでは代理もチーム<ファースト>のメンバーもつぶれてしまう。

 

「トレーナーさん。最近代理もかなり気が滅入ってます……何かいい案はないでしょうか?」

 

 ついにはたづなさんにも相談されてしまったため、秋川理事長のところへ相談に行くことに。

 

「懸念ッ! 確かに今の状況は危険だっ! しかし! 彼女たちにトレーナーがいる以上、我々が手を出すことはできないのだッ!」

「だが! 私は信じているッ! チーム<ファースト>が困難を乗り越える事っ! そして樫本理子が立ち上がることをッ!」

 

 眉尻を下げた理事長は、どうにもできないことに困りながらも、自分たちで何とかすることを信じていた。

 ならば、なんとか彼女たちがアオハル杯本戦までケガなく走れるようにできることをしよう。

 

 と、いうわけで。

 

「あの、何故……いえ、助かりますが……」

 

 代理を連れて、チーム<ファースト>のメンバーのために買い物をすることにした。

 何故連れてきたかというと、トレーニング中の栄養補給食品だったりドリンクだったり。何を買っているのか知らないからだ。

 最初に話した時は渋られたが、たづなさんにも協力してもらいなんとか外出している。

 袋が重いのか、少しヨロヨロしている。その袋ってそんなに重くないはずなんだけどなぁ……。

 

「随分暗くなっちまったな……お、見てみろ。あれがゴルゴル星の隣の上の左下にある星が超新星爆発した時の光だぜ」

 

 ゴールドシップもいっしょに。手には俺以上の大荷物。やはりウマ娘は力強い。

 彼女は気づいたらついてきたのだ。いつも通りだから俺は気にしていない。

 遅い時間なわけだが、どうせ外出許可書を出しているだろうし俺も連絡を入れてあるから問題はないけど。

 

「超新星爆発……それは周りの星も危ないのでは?」

「あん? ゴルシちゃんの星はそんなやわじゃねーぞ! 天然ゴム製だからな、何が当たっても弾いちまうんだ!」

 

 大地が全てゴムでできている星なんか見たくないわ。

 そんな話をしながら学園へ戻っていると、見知った顔のウマ娘が2人。

 

「―――」

「――……。――――」

「あ? ココンとグラッセじゃねーか?」

 

 リトルココン。そしてビターグラッセの2人だ。

 こんな時間に何を、と思っていたら、荷物がぽんぽん飛んできた。

 それをキャッチすると、楽しそうに笑みを浮かべたゴールドシップが2人のところへ突っ込んでいく!

 

「遅くに何を……」

 

 ここはゴールドシップに任せて一旦帰りましょうと促す。

 あの笑顔で走って行ったということは、悪い何かがあるわけじゃないだろうし。

 大荷物でゆらゆらしている俺を見た代理は、ええ……と少し戸惑った様子で付いてくる。

 

 ぽつぽつと、最近のみんなの様子や、ケガはしていないなどの話をする。

 代理は話を聞くたびに沈痛な面持ちではあるが、安心して息を吐く。やはり心配なようだ。

 

「自分たちの選手生命もあるのに、私のためと言って……そんなもの、ただ危険があるだけなのに……」

 

 はぁ、とため息。頭を抱えながら帰り、学園の玄関にたどり着いた。

 

「こんばんは! すっごい荷物!」

「トレーナーさんどうもー! 持ちますかー?」

「……ども。だいじょぶ?」

 

 大丈夫だよ、気をつけて帰ってね。

 自主トレ帰りで外から戻ってくるウマ娘たちに応答しながらえっちらおっちら歩いていく。

 何故か神妙な面持ちで代理が見てくるので、どうしましたかと聞いてみる。

 

「いえ……随分色々なウマ娘とコミュニケーションをとっていますね」

 

 ゴールドシップが色々やっているから、顔が広いだけですよ。

 そう話すと、横から荷物をひったくられた。

 

「学園のスーパーアイドルゴルシちゃんだぜ! 趣味はザリガニ釣り」

 

 本人が戻ってきた。おかえり。

 

「おう、ただいま。ほれ代理。ココンたちからだぜ」

「リトルココンたちから……?」

 

 箱を手渡された代理は、不思議そうに首を傾げる。

 俺とゴールドシップを見て、困惑しながらも開けてみると、中には宝石のようにキレイなケーキが入っていた。

 

「理子ちゃん代理に迷惑かけてるからってよ。わがままだけど受け取ってほしいみたいだぜ?」

「………」

 

 ケーキを見ながら押し黙ってしまう代理。

 なんというか……お互い不器用なんだなぁ。

 類は友を呼ぶというが、まさしくソレなんだろう。

 

「本当に、仕方のない子たちだ」

 

 そう言ってため息を吐いた代理は、泣きそうな顔で笑みを浮かべるのであった。

 

 ――後日。『美味しかったです』と一言聞いたのをリトルココンたちに話してみたところ。

 少し申し訳なさそうにしながら、ぎこちない笑顔を見せてくれたのであった。




 想いあうのにすれ違うというのは、なんともじれったいですね

 くそっ…じれってーな!
 俺ちょっと(ry
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