ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯 作:あぬびすびすこ
決勝前日。
俺とゴールドシップはトレセン学園にある教室の1つで記者会見をしていた。
言わずもがな、アオハル杯についてのインタビューだ。
「では、早速ですが質疑応答をしていきたいと思います」
司会がそう話すと、記者たちは一斉に手を上げる。
1人を差し、立ち上がって所属の名前を言ってから質問が始まるいつもの流れだ。
「今回アオハル杯が復活して最初の決勝戦となりました。プレシーズン初戦から参加しているゴールドシップさんですが、ここまで来てどのようなお気持ちでしょうか。また、これまでのアオハル杯で一番印象に残ったことがあればお聞かせください」
「イカで鰹釣ったみてーな感じだな!」
記者の長い質問を一撃で回答するゴールドシップ。
答えになっているのか大分怪しいが。
「……というと?」
流石にゴールドシップの破天荒が認知されているのか、困惑しながらも聞き返してくる。
しかし今のでわからないともう何も理解できないと思うけど。
「あん? 鰹釣ったときねーのか? イカつけて投げたら思いきり撥ね上げんだよ。オキアミでもいいぜ!」
「いやその……」
困った様子で俺を見てくる。
気分がいいということです。そう回答すると、あ、ハイ……と目を泳がせて着席した。
ゴールドシップに対してまともなインタビューになると思ってはいけない。トレーナーが言うことじゃないが。
「で、では続いてどなたかいますでしょうか」
最初の勢いはどこへやら。一気に手の上がる数が減ってしまった。
ゴールドシップの記者会見やインタビューは毎回こうなる。そして最後には俺へ質問が集中するわけだ。
次の質問は、先ほどの記者の反省をふまえてかとても簡素だった。
「アオハル杯とトゥインクル・シリーズの両立は大変のように思えますがいかかでしょうか」
かなりいいところを突いた質問だ。
アオハル杯がなくなった理由が正しくそれだからな。
「ま、なんとかなんだろ」
あまりにも適当な回答! 記者ははぇ? とぽかんと口を開けている。
そして俺を見た。助けてくれと。苦笑しながら、やり方次第でどうにでもなりますと話す。
「やり方次第とは?」
以前アオハル杯が始まったときと今の状況や環境は別のものであることが要因だ。
例えばトゥインクル・シリーズのレースもGⅠが増えたり時期がズレたりと色々変わっている。
そして体を休める施設も豊富だし、体のケアに関しての資料も増えた。
レースの組み方やトレーニング、休みのプランを考えれば問題はないです。3年彼女と走ってきた結論です。
「なるほど……ゴールドシップさん自身が、その証明なんですね」
「ゴルシちゃんはスーパーウマ娘だからな! 問題ねーぜ」
記者たちは回答が満足だったのか、メモしたり頷いたりしている。
そして関心が明らかに俺の方に移ったのを感じるね、うん。
「あの、すみません。今の質問で聞きたいことが……」
次の質疑に移る前に手を上げた記者が。
構わないですと頷くと、質問し始めた。
「ありがとうございます。あ、ゴールドシップさん、トレーナーさん。有マ記念おめでとうございます」
「おう! おもしろかったろ!」
ゴールドシップはつい先日有マ記念で勝利したばかりだ。
華麗なレースぶりに思わずよし! とガッツポーズをしてしまったぐらい。
「それでですね。ゴールドシップさんはトゥインクル・シリーズの成績だと無敗です。すばらしい成績だと思うのですが、アオハル杯では1度も1着をとれていません。これはやはり、トゥインクル・シリーズでの疲労があると思うのです。直前に宝塚記念、有マ記念に出走していますから」
ずいぶんと痛いところを突いてきた。そしてよく調べている。
ゴールドシップと一緒にうんうんと頷く。
「アオハル杯は非公式レースです。とはいえ、やはり負けは気になってしまいます。レース間隔を短くしてでも、アオハル杯に参加することのメリットがあるのでしょうか?」
話し終えた記者に向かって、ゴールドシップがツカツカと歩いていく。
周りがどよめいている中、記者に何かを差し出した。
「おめーにこれやるぜ。いが栗」
「は、あ、え? うわ、痛っ」
いが栗を手に置かれて、刺す痛みにポンポンと宙に投げてしまう。
カラカラと笑いながら戻ってきたゴールドシップは、ニヤリと笑いながら回答した。
「おもしれーからやんだぜ! トゥインクル・シリーズとはちげーんだ、アオハル杯はよ!」
「いてて。えっと、どういう?」
「イワシは1匹じゃ踊れねーんだ。そういうことだな」
記者や司会の頭の上に?マークが出ているのが見える見える。
個人戦とチーム戦では走りも楽しさも違うということですと話すと、!マークが見えた。納得してくれたようだ。
「なるほど……。あの、記者としてはダメだと思うのですが、やはり一ファンとしては、ゴールドシップさんが勝っているところを見てみたいんです。疲労を承知で走るのは、その……」
「つーかよぉ、アタシは負けてねーだろ。チーム戦で勝ってんだからな」
ゴールドシップはやや不機嫌そうに腕を組む。
「ま、おめーの言いたいこともわかるけどよ」
「ええ、はい」
「だから目ん玉出るぐらいよーく見とけよな、決勝」
自信満々に、笑顔でガッツポーズをする。
「チーム戦がおもしれーってのを見せてやるぜ! 見てろよ、青春の光ィーーーッ!」
ゴールドシップはそう言って入り口の扉を蹴破り走り去ってしまった。タマモクロスがいたらどこいくねーん! と思いきり突っ込んでいたことだろう。
全員があっけにとられる中、まあそういうことですと頭をかくのであった。
◆ ◆ ◆
アオハル杯決勝当日。
チーム全員でレース場に行こうということで、学園からバスに乗っていく。
みんな今日は勝つぞと気合が入っていて、調子は絶好調だ。
「ヴァアアアアアァァァ……」
「な、なんでゾンビになってるのだ!?」
「本物のゾンビだー!」
ゴールドシップを除いて。
数日前に有馬記念を走ったばかりのため疲労でゾンビになってしまっていた。
血色の悪いマスクをして後ろの座席にいるウインディに襲いかかるフリをして遊んでいるが、そこそこ本気で怖がっている。ビコーは目を輝かせてるけど。
動きだけ見ると完全に映画に出てくるそれだからな。
「うわっ、キモくね?」
「動きがマジっぽいの、ホントゴールドシップって感じ」
「ヴァア……へっ」
「おい! アタシ見て鼻で笑うなっ!」
相変わらずジョーダンと仲良しなようでギャーギャーと姦しい。
こんな緊張感のない雰囲気で大丈夫なのかと思われるだろう。
でも今までアオハル杯を見てきて、本番で最ものびのび走っているのはどこかと言われたら、間違いなくうちのチームだと言える。
それはこうやっていい雰囲気をチーム内で作っていることもそうだし、普段のトレーニングで楽しく走ることを教え込んでいるからだ。
ゴールドシップから教わった『自由である』ことを俺なりにトレーナーの仕事として活かした結果だな、うん。
ゾンビのマスクをしながらジョーダンへと突撃していくゴールドシップを見ながらそう思うのだった。
決勝が行われる今回の舞台は、阪神レース場だ。
中山と阪神のどちらを使うのか抽選となり、結果こちらになった。チームとしてはゴールドシップが大得意なレース場なので願ったり叶ったり。
チーム<ファースト>のメンバーに阪神が得意だと思われるウマ娘がいないのも追い風ではある。苦手な娘もいないんだけどね。
みんなでバスから降りると、丁度もう1台のバスからウマ娘たちが降りてきた。
「………」
「やあ、おはよう!」
チーム<ファースト>のメンバーたちだ。樫本代理の姿はない。
……きっとどこかにはいるんだろうけど。
「ピスピース! なんだ、おめーらもバスで来たのか」
「樫本トレーナーが手配してくれていてね……たくさん迷惑をかけてしまっているよ」
ビターグラッセが苦笑いして頭をかく。
他のメンバーも少し困った様子だ。
「それも今日で終わる……絶対勝つから」
「ライスたちも、負けないっ!」
リトルココンとライスがバチバチと火花を散らす。
特にライスはなんか体からオーラみたいなのが見える。すごい気合いだ。
こうしてアオハル杯決勝が始まるのだった――!
次回から5連続でレースします。
順番はお楽しみに!