ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯   作:あぬびすびすこ

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 第1回戦、短距離
 ファイッ


41、アオハル杯決勝 第1回戦

『ついにやってきましたアオハル杯決勝戦! チームランク1位のチーム<ファースト>対チームランク2位のチーム<STAY GOLD>の戦いになります!』

 

 うわあああーーーーッ!!!!

 実況を聞いて大歓声が上がる。

 ウマ娘たち特有の耳をもっていない俺たちでさえ痛いと思うぐらいの大きさだ。

 非公式とは言え、実際のところは重賞制覇しているウマ娘たちの決戦。注目度はGⅠレース並に高い。

 

『第1回戦は短距離! 1,200mをスプリンターが駆け抜けます! これより選手入場です!』

 

 拍手や歓声が上がるとともに、地下バ道からウマ娘たちが歩いてくる。

 

『チーム<ファースト>からジュエルネフライト! アジサイゲッコウ! デュオベルテ!』

『チーム<STAY GOLD>からタイキシャトル! サクラバクシンオー! ビコーペガサス!』

 

 真剣な面持ちで歩いてくるチーム<ファースト>のメンバーたち。

 それとは対照的に、自信満々で楽しそうに手を振っている我らがチーム<STAY GOLD>。

 どちらがいいとは言えないが、それぞれにしっかりとファンがついている。

 

「今日は一番短い距離だ。デュオベルデ、頑張ってくれよ!」

「バクシンオー! 今日もバクシンしてくれーっ!」

 

 レースに関しては誰もが真剣ではあるが、愛嬌のあるタイキやバクシンオーが好きなファンもいれば、いつでも真剣そうに見えるブルボンが好きなファンもいる。

 努力して素晴らしい実力を手に入れたのだ。たくさん応援されてほしい。

 

「タイキのチームレース、どうなるのかしらね」

「バクシンオーが突っ込んでいくだけだよ」

「いえいえビコーがいきますよ!」

 

 それぞれのトレーナーたちが自分の担当ウマ娘を気にしている。

 気にしているというか……勝つのはウチの娘ですよと言っているような感じだけど。

 みんなスプリント路線を代表しているからなぁ。なんでこんな豪華メンバーになったんだろうか……思わず首を傾げてしまうのであった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 各メンバーが話し合い、レースプランを確認し終える。

 楽しそうに笑みを見せながら、チーム<STAY GOLD>のメンバーが先にゲートイン。

 その後、チーム<ファースト>と実力者のウマ娘たちがゲートへ入っていく。

 

『ジュエルネフライトが嫌がりつつゲートイン完了。各ウマ娘、準備が整いました』

 

 ――ガタンッ

 

『スタートしました! ジュエルネフライト出遅れたか! その他は綺麗なスタートです!』

 

 ゲート難であるジュエルネフライトは、他のウマ娘から一拍置いてのスタートとなった。

 グッと悔しそうに唇を噛む。ゲートが苦手なのは仕方がない、別の持ち味を活かさないと。ゴール前で見ていた<STAY GOLD>のトレーナーもうんうんと頷いていた。他のトレーナーから白い目で見られていたが気にしていない様子だ。

 

「さあ、バクシンしていきますよーッ!!!」

『先頭に躍り出たのは5番サクラバクシンオー! 最強スプリンターがハナを主張します!』

 

 好スタートを切った他の面々だが、まず先頭に躍り出たのはサクラバクシンオー。

 同じ逃げウマ娘のデュオベルテとジュエルネフライトはそれを見て一気に前に出る。

 

『2番デュオベルテ、7番ジュエルネフライトが同じく前へ! サクラバクシンオーに並んでいきます!』

『サクラバクシンオーは逃してしまうとそのまま一気に抜けられてしまいますからね。ここでマークしておくのは重要なことですよ』

『先行集団は1番タイキシャトル、並んで3番ディアレストギフト、すぐ後ろ8番パンパシフィックと9番ソワソワ、4番ブリーズシャトル。1バ身離れて12番ビコーペガサス、並んで11番カイコウイチバン、後ろ10番アジサイゲッコウ。最後方に6番ビヨンドレブリミ』

 

 スプリンターきっての怪物を好きにさせてはいけない。2人はそんな覚悟を持ってサクラバクシンオーに並ぶ。

 コーナー手前、サクラバクシンオーに追いついたところで一気に変化が起きる。

 

『コーナーに入りまして、おっとサクラバクシンオー後ろに下がった! アクシデントか!?』

『表情は変わっていませんね。ペースを落としたようです』

 

 ハナをとって逃げの体制をとろうとしていたサクラバクシンオーだったが、何故かするりと後ろへ。

 そのままタイキシャトルと1バ身差のところまで下がりつつコーナーを回っていく。

 

 何をしているんだとデュオベルテとジュエルネフライトは後方を気にしながら走っている。

 すわ故障かと思うぐらい簡単に先頭を渡され、2人とも困惑しているのだ。

 

「ねぇ、ちょっと。どういうわけ?」

 

 眼鏡のトレーナーが<STAY GOLD>のトレーナーを詰める。

 横目でチラッと見るが、件のトレーナーはどこ吹く風だ。

 

 これで1対3になったなと、彼は呟く。

 それを聞いて、サクラバクシンオーのトレーナーは神妙に頷いた。

 

「なるほど、巧い。いや、本当に巧いぞ」

「どういうことです?」

 

 うんうんと強く納得する彼に対してビコーペガサスのトレーナーは首を傾げる。

 後輩の質問を聞いて、レースプランの巧妙さに興奮しながらも、最終コーナーに差し掛かろうとするバ群を指さした。

 

「先頭の2人。デュオベルテとジュエルネフライトはかなり苦しくなるぞ」

「え?」

「短距離1,200mは本当に忙しいレースなんだ。1ハロンだって無駄にできない。最初から最後まで、ウマ娘が出せる全力を出していくんだからな」

 

 そこまで聞いて、眼鏡のトレーナーは理解したのか、1つ頷き眼鏡の位置を直す。

 

「サクラバクシンオーが先頭から突然後退する。そのわずかな動きに気を取られて、流れが切れてしまったというわけね。しかも、内枠の有利まで捨てて」

「そういうこと。それを最初から最後までバクシンするバクシンオーにさせたからこそ効果があったんだ。いやぁ、本当に巧いな……どう指示したんだ? レース中に下がらせるなんて中々できないぞ」

 

 バクシンオーのトレーナーはワクワクを隠せない様子で<STAY GOLD>のトレーナーに話しかける。

 そんな彼に苦笑しながら、さらりと答えた。

 ――コーナーで思いきり脚を溜めよう。そう言っただけですよ。

 

 彼がそう話したところで、バ群は最終コーナーから直線に入ろうとしていた。

 阪神芝1,200m内回り。このコースはコーナーが極めて長く、それでいてずっと下り坂だ。

 最初から最後まで勢いがついたまま逃げ切ってしまうことも多く、逃げ先行が有利とされている。

 

 ジュエルネフライトは、このままの勢いでと今まで以上に脚へと力を入れる。右回りが得意な彼女は、コーナーから直線へ綺麗に入っていく。

 そのすぐ外で走るデュオベルテも同じく、一気に上がって行こうとコーナーでしっかり加速していた。

 

「だあああああああ!!!!」

「はああぁぁああーーー!!!」

 

 直線前から攻めに転じる2人。

 しかし、その後ろで機を窺っている他のウマ娘が黙っていない。

 

「勝利に向かって! バクシーーーーンッ!!!!」

 

 サクラバクシンオーがバクシンと言いながら驀進してくる!

 直後、1バ身後ろにいたタイキシャトルがグッと体勢を低くした。

 

「ここからホントウの――」

 

 グッと体全体に力が入る。

 そして、縮んだバネが跳ね飛んでいくように。

 

「――真剣勝負デス!」

 

 ドンッ!

 銃弾を発射したかのような爆発的加速で一気にスパートをかける!

 

『最終コーナー回って最後の直線へ! 先頭はジュエルネフライト! すぐ隣にデュオベルテ! しかし後ろから一気に追い上げてくるのはサクラバクシンオー! タイキシャトルもすごい勢いだ!』

 

 最後の直線に入り、全員一気にスパートをかける。

 ここにきて、順位を上げていたアジサイゲッコウが一気に動いた。

 

「うわあああぁぁッ!!!」

『アジサイゲッコウが直線で一気に上がっていく! 驚異的な末脚!』

 

 阪神の直線で下り坂を利用しながらグングン上がっていく。

 しかし、それに合わせてグンとスパートをかけるウマ娘もいた。

 

「抜け駆けは許さないぞ!」

「くっ!」

『ビコーペガサスも来た! アジサイゲッコウと並んで一気に上がってきた!』

 

 自分が抜かそうとしたウマ娘が同じスピードで加速していく。

 闘争心がかき立てられ、負けるものかとお互いにペースが上がる。自然なことだし、最後の直線で併走するのは有利に働く。

 阪神レース場でなければ、だが。

 

『さあ、仁川の舞台はここから坂がある! このまま逃げ切れるか!』

 

 一気に追い上げてきたサクラバクシンオーとタイキシャトルから必死に逃げるジュエルネフライトとデュオベルテ。

 周りを確認する。残り200m。差は1.5バ身程。いける!

 併走して互いに根性を見せながら最後の上り坂に踏み入ったところで。

 

「ぐ、うぅ!」

「くはぁあっ!」

 

 一気に脚が上がらなくなる。

 阪神レース場が舞台だと知ってから何度も練習してきたはずなのに!

 彼女たちはグッと歯を噛みしめながら必死に駆け上がっていくものの、やはりペースダウンは否めない。

 

 それもそのはず。サクラバクシンオーに追いつくために無理をしたこと。

 後退した彼女を気にして走っていたこと。

 最後の直線で追い上げてくる<STAY GOLD>の2人から必死に逃げたこと。

 その3つが重なり、疲労となって一気に体へのしかかってきたのだ。負担は周りが思う以上に大きい。

 

「バクシィーーンッ!!!」

「ハアァァアアアアーー!」

 

 そんな中、上り坂は下り坂だと言わんばかりに加速しながらサクラバクシンオーとタイキシャトルが突っ込んでいく。

 後輩であるゴールドシップから学んだ上り坂の妙技。あまねく上り坂を平地と勘違いしてしまうほどに走りやすくするのだ。

 

「まだだっ!」

「いっくぞー!」

 

 ジュエルネフライトたちが抜かされそうになったところで、アジサイゲッコウとビコーペガサスも追いつく。

 そして上り坂へ踏み出し、一歩二歩。

 

「っ!」

 

 流石に最後の上り坂、脚が上がらない!

 すぐ隣のビコーペガサスを見る。かなり余裕そうに駆け上がっていく。

 アジサイゲッコウは驚愕した。何故自分はここまで疲弊しているのか、何故ビコーペガサスは余裕なのか。

 それは直線の併走により、切れる末脚を早めに使わされたこと。そして、ビコーペガサスもまた、上り坂を平地に感じるよう改造されたからだ。

 

『ジュエルネフライト苦しい! デュオベルテもペースが落ちた! サクラバクシンオーとタイキシャトルが並んで一気に追い抜かす! まだまだ伸びていく! ビコーペガサスも4番手まで来た! 抜かして3番手! アジサイゲッコウも伸びないか! そのままもつれるようにゴールイン! 勝ったのはチーム<STAY GOLD>です! 1着はサクラバクシンオー! 2着は写真判定です!』

 

 どうしても勝ちたいと相手を警戒しすぎたせいか、脚を使いすぎてしまった3人。

 それを尻目にデッドヒートを繰り広げたサクラバクシンオー、タイキシャトル、ビコーペガサスが1着から3着まで独占。

 見事に作戦を完遂して1勝したのであった。




 気合が入りすぎているチーム<ファースト>に対し、するりと流すようにして勝利をもぎとった形になりました。
 なお走った本人たちは作戦がどうこうとか分かっていなかった様子。
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