ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯 作:あぬびすびすこ
ファイッ
「バクシンしてたな、バクシンオー!」
「はい! バクシン的勝利でした! これもトレーナーさんたちのおかげですね!」
1着となったバクシンオーと先輩がお互いを称え合う。
短距離はしっかり作戦が決まって勝った形になった。とはいえ、ラッキーも重なっていただろう。
チーム<ファースト>の3人はかなり緊張していた。代理のために負けられない、という気持ちが表にもでてしまっている状態。
そんな状態で走れば、想定外のことが起きてしまうと平常心を保てない。緊張の糸が切れてしまう。
俺たちは意図せずそこを突いた形だ。まあ、バクシンオーに控えさせたりビコーに策略を行使してもらったりと色々手を尽くしてたんだけど。
本当に悔しそうにしているジュエルネフライトたちを慰めているビターグラッセや、発破をかけているリトルココンを見る。
先ほどよりみんなの顔つきが良く、そして緊張というより闘志を燃やしているのか目に炎が見えるようだ。
……次戦以降は、短距離戦のような勝ち方は難しいだろうな。
『短距離はチーム<STAY GOLD>の勝利となりました! 次戦はどちらが勝利するでしょうか!』
『強い勝ち方をしましたからね。チーム<ファースト>は流れを取られているので少し厳しいでしょう』
「よく言うわね。チームの雰囲気、ちゃんと見てるのかしら」
ヒットマンの先輩が顔に手を当てて息を吐く。
1勝して有利になってはいるが、空気感や雰囲気はチーム<ファースト>に傾いているように見える。
流れはこちらにある。それは外から見た感想だ。実際に走るウマ娘たちは、絶対の勝利をという覚悟を肌で感じているだろう。
ゴールドシップでメンタルが鍛えられているから、ちょっとやそっとじゃ掛からないだろうが……中々どうして、わからない。
『続いて第2回戦! 中距離芝2,000m! 出走ウマ娘の入場です!』
出走準備が終わり、ウマ娘たちがターフへ入ってくる。
先に来たのはチーム<ファースト>だ。
『チーム<ファースト>から、ビターグラッセ! ショートスリーパー! タヴァティムサ!』
「……こりゃあ、すげぇな」
フクキタルを担当している開運グッズを持つ先輩が引きつった笑みを浮かべた。
それもそのはず。ビターグラッセからなにやら闘志のようなオーラが見えるのだ。こう、白いもやのようなものがシュインシュインいっている。
有マ記念でダイサンゲンがメジロマックイーンに勝った時にも同じようなものが見えたと先輩が言っていたが……これのことか!
『チーム<STAY GOLD>から、マチカネフクキタル! トーセンジョーダン! メイショウドトウ!』
「こっちはこっちでやる気満々だね」
続いてこちらのチームがやってきた。
ジョーダン担当の先輩が言う通り、フクキタルもジョーダンも絶対に勝つと顔に書いてある。ドトウだけ不安そうにしているが。
今回中距離は芝2,000m。そして内と外にあるコースの中で、内回りを走る。
スタート直後の上り坂や、コーナー終わりからの直線が外回りコースに比べて短いため、瞬発力勝負になりにくい。
タフなレースになりやすいのはジョーダンやドトウにとっては有利だろうが……ビターグラッセはとんでもない根性を持つ。
どんな展開になるのだろうか……思わず拳を握ってしまうのだった。
◆ ◆ ◆
「では、事前の作戦通りに!」
「りょ!」
「わかりましたぁ~」
チーム<STAY GOLD>はいつも通り楽しそうに話し、ゲートへ入っていく。
それを遠目で見ていたビターグラッセは、うんと頷いてメンバーと目を合わせる。
「私たちはここまでやってきた。全力でレースにぶつけよう! ド根性ッ!」
「うん!」
「おー!」
チーム<ファースト>も気合をいれてゲートイン。
各ウマ娘がゲートに入り、体勢を整えた。
『各ウマ娘、ゲートイン完了しました』
――ガタンッ
『スタートしました! 各ウマ娘揃ったスタートです!』
出遅れなく綺麗なスタート。
下り坂から始まるこのレースは、全員が滑らかに前へと出ていく。
直後、上り坂があるためペース自体は速くなりにくく、コーナーまで距離があるためポジション争いは激しくなりにくい。
ここでするりと前へ出ていったのは、チーム外の逃げウマ娘フォシューズ。
序盤で加速することでハナを主張していくつもりのようだ。
フォシューズが先頭に出てペースを作ろうかというところで、するりと上り坂を駆け上がり2番手へと浮上したのはメイショウドトウ。
今回は先行して走るつもりのようで、しっかりとフォシューズを捉えながら内へと寄っていく。
それを見たビターグラッセとタヴァティムサは上り坂を超えてから追従。1バ身差をつけながら3、4番手を取りにいった。
残る後方の差しウマ娘たち3人はそこまでポジションを取りにいかず、流れを見てゆっくりと隊列へ入る。
『第1コーナーに入りまして順位を見ていきましょう。先頭は5番フォシューズ、2バ身後ろに7番メイショウドトウ。1バ身離れて3番ビターグラッセ、すぐ後ろ4番タヴァティムサ、並んで2番ランツクネヒト。そこから少し離れて1番トーセンジョーダン、12番マチカネフクキタル、9番ショートスリーパー、1バ身離れて6番イッツコーリング。最後方には8番サンガリアス、11番グリンタンニ、10番デザートベイビーとなっています』
フォシューズはコーナーを回りながら、チラリチラリと何度も後ろを確認する。
メイショウドトウから発されるプレッシャーが気になっているのだ。それのせいで、自分が思っているより早いペースになっていた。
最も、プレッシャーをかけている理由が速いペースにすることなので、掛かるのは当然ともいえる。
レース場での経験はピカ一。伊達にGⅠレースで覇王と争っていない。
ややハイペースなまま向こう正面にたどり着き、なおもフォシューズにプレッシャーをかけ続けていく。
後ろで見ていたタヴァティムサは随分仕掛けてるなと困った表情。テンポアップは得意ではあるが、あの調子だとスタミナキープできるかどうか。
彼女の前を走るビターグラッセは直線に入って呼吸を整え、スタミナをしっかり回復させつつじりじりとメイショウドトウに近づいていく。ビターグラッセもタヴァティムサも、テンポアップが得意なのだ。
『向こう正面を終えて第3コーナーへ。じりじりとですがビターグラッセとタヴァティムサが上がってきました!』
『つられて中団のウマ娘もペースアップし始めましたね。マチカネフクキタルだけ少し遅れているようです』
第3コーナーに入り、少しずつペースが上がっていく。このハイペースに対応して、脚をじっくり使っていくレースへシフトしているのだ。
それに対応せず、自分のペースを守っているのがマチカネフクキタルのみ。トーセンジョーダンとショートスリーパーはビターグラッセたちに釣られてゆっくり上がっていった。
トーセンジョーダンとしては得意なレースの状態なので激アツっしょ! と思っているが。
緩いコーナーを進んでいき、第4コーナーへ差し掛かろうというところで。
メイショウドトウが動いた!
「はああぁぁぁあああーーーーっ!!!」
『第4コーナーでメイショウドトウ仕掛けた! グングン前へ出て1番手へ!』
『彼女の黄金パターンですね! テイエムオペラオーともこうやって戦ってきました!』
自らの勝ちパターンでのスパート。
前方には誰もおらず、後方のビターグラッセたちはまだ2バ身差以上。非常に有利な状態だ。
そのまま一気に駆け抜け、最終直線へと向かっていく。
スパートを見たビターグラッセは、一泊置いて同じくスパートをかけていく。
チーム<ファースト>がアオハル杯で培った
「根性ッ! ド根性だぁーーーッ!!!」
「やあぁあーーーっ!」
『ビターグラッセとタヴァティムサも仕掛けていった! 併走しながら加速していくぞ!』
前方のウマ娘たちがスパートをかけたのならば、後方にいるウマ娘たちも同じく。
トーセンジョーダンは好機と見て中団から抜け出し差しきりに行くため駆け出す。
それと同時にショートスリーパーも外から差しに行くため、トーセンジョーダンの外側にポジションを取りつつ上がっていった。
『最終コーナー回って最後の直線へ! さあここの直線、誰が抜け出すのか! 先頭はメイショウドトウだが後続も来ているぞ!』
先頭で走ってきたのはメイショウドトウ。観客たちは彼女が突っ込んでくるのを大歓声と共に待ち構える。
しかしここに来て凄まじい加速を見せながら一気にビターグラッセが突っ込んでくる。コーナーで加速し、抜け出す準備を整えていたのだ。
『メイショウドトウ粘る! しかしビターグラッセが外から一気に追い上げてくる! その差は1バ身!』
「はああぁぁあああ!!!」
「だあぁぁぁあああーーーッ!!!」
メイショウドトウの長所であり武器、スタミナと根性でビターグラッセの猛追から粘る。
ビターグラッセもまた凄まじい根性の持ち主。粘るメイショウドトウにじりじりと距離を詰めていく。
しかし、差は詰めるが横の距離は開けている。これがビターグラッセの対策だった。勝負根性が凄まじいメイショウドトウに対して、その力を発揮させないための走り。
奇しくも覇王と名将を打ち破った、今では同じチームである勇者の対策と同じである。
そんなデッドヒートをしている2人に待ったをかけるのは共に駆け込んできたタヴァティムサ……ではなく。
「うああぁーーっ!」
『タヴァティムサは苦しい! タヴァティムサを追い抜いてきたのはトーセンジョーダン! 流石のスピード! 一気に3番手へ! ビターグラッセに追いつくか!?』
トーセンジョーダンだ。流石のレースレコード保持者と言わんばかりのスピードで一気に差を詰めていく。
ハイペースであるにもかかわらず絶対にペースを落とすことなく根性で走り抜ける彼女の走りに、さらに歓声が上がっていく。
『残り300mを切った! メイショウドトウまだ粘っているが、その差は半バ身差にまでなっているぞ!』
あと少しで抜かされてしまう! そのまま一気に行け!
そんな声が聞こえてくる中、バ群の中から突然伏兵が飛んできた。
「たああぁぁあああーーーッ!!!!」
『フクキタルだ! マチカネフクキタルがやってきた! フクキタルやってきた! とんでもない末脚っ! 一瞬で追い抜かしていきます! ショートスリーパーも追いかけるが差が離れていく!』
ここまで脚を溜めに溜めていたマチカネフクキタルが直線で末脚を爆発させる。
バ群に埋もれていたはずが、最短距離で一気に4番手まで上がってきた。
残り200m。上り坂に差し掛かったところで、ビターグラッセはメイショウドトウと並んだ。
物理的には離れているが、その差はほぼ無いと言っていいだろう。
だが、この後に続く上り坂はチーム<STAY GOLD>の十八番といってもいい得意な部分。
ここで勝ち抜くためにビターグラッセが編み出した解決策が、こうだ。
「ド・根・性ッ!!!!」
『ビターグラッセが上り坂でさらに加速っ! メイショウドトウも加速するが少しずつ離れていく! トーセンジョーダンが代わって2番手に上がるがビターグラッセとの距離が縮まらない!』
根性。根性はすべてを解決する。
とはいえ、直線での加速は樫本理子トレーナーから教わっていた走りの集大成。
それを平地ではなく上り坂で出す。それは厳しいトレーニングと、持ち前の根性が為した走りだった。
メイショウドトウは根性はあるがあと少しスピードが足りない。トーセンジョーダンはスピードはあるがパワーが足りない。
勝負根性のある2人が勝てなかったのであれば、最後はスピード――切れ味だ。
「いきますよ~~~!!!」
『マチカネフクキタルが追い上げる! 残り100m! 一気に差が詰まっていくが追いつけるか!?』
凄まじい切れ味の末脚を見せながら坂を駆けあがっていくマチカネフクキタル。
とんでもない追い上げでメイショウドトウ、トーセンジョーダンを追い抜かし、最後はビターグラッセだ。
「負けるかああーーーッ!!!」
「はあああ~~~っ!!!」
一気に上がっていくマチカネフクキタルだが、残り数十mを粘ってまだ伸びていくビターグラッセ。
凄まじい混戦の中、一気にゴールまで駆け抜ける!
『マチカネフクキタルが追い抜くか! ビターグラッセが粘るか!? どっちが来る! フクキタル! ビターグラッセ! フクキタル! ビターグラッセ! どっちだ! どっちだぁーッ! わずかにビターグラッセ体勢有利か!』
なだれ込むように2人がゴールし、直後トーセンジョーダンとメイショウドトウがゴール。一拍置いてタヴァティムサとショートスリーパーもゴールした。
「はぁ、はぁ……! ど、どっちだ?」
「はぁ、ふぅ~!」
大きく息を切らし、膝に手を当てて汗を拭うビターグラッセ。
隣で同じように呼吸を整えているマチカネフクキタル。
互いに健闘を称えながら掲示板を見た。
『……判定が出ました! アタマ差! アタマ差でビターグラッセの勝利です!』
「よっし! よし!」
「いぎゃあああ~~! 渾身の走りがぁ~~!」
嬉しそうにガッツポーズをしながらチーム<ファースト>のメンバーへ駆けていくビターグラッセ。
貴重な一勝であり、トレーニングの成果を十全に発揮できたレース。満足度の高いものだったことから、みんなで大いに喜んでいた。
救いは~……と目をグルグルさせるメイショウドトウと、とんでもない悲鳴を上げるマチカネフクキタル。
キャラの濃すぎる2人を見て、悔しいのになんも言えね~と思うトーセンジョーダンなのであった。
<STAY GOLD>作戦
・ドトウが先行してハイペースにする
・ドトウとジョーダンが根性でビターグラッセを競り落とす
・後ろからフクキタルを急襲させる
<ファースト>作戦
・できればハイペースにする
・ドトウとジョーダンには絶対に並ばないようにする
・フクキタルはどうしようもないから気合で先にゴールする
ド根性勝負のビターグラッセの走りがうまく決まったレースでしたね