ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯   作:あぬびすびすこ

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 マイル戦
 ファイッ


43、アオハル杯決勝 第3回戦

「くあ~! 惜しいっ!」

 

 悔しそうに腕を振る先輩。

 フクキタルが差しきれそうで差しきれなかった。とんでもない勝負根性だ。

 ビターグラッセの直線での加速がとんでもない。上り坂でよくもまああそこまで加速できるな。

 ゴールドシップ以外で見たことなかったぞ、上り坂での加速なんて。

 

「ものにしたんですね、ビターグラッセ」

 

 ふと聞き覚えのある声が聞こえて振り向くと、そこにいたのは樫本代理だ。

 

「代理やん! おつかれさまです」

「ええ、お疲れ様です」

 

 みんな頭を下げて挨拶すると、少し困った様子で挨拶してくれた。

 自分のチームが暴走してるのに歓迎されているから、なんとなく居心地が……というところだろうか。

 場所を開けると、代理は少し戸惑いながらも俺の横までくる。

 

「ものにした、とは?」

「まるで一陣の風のように、直線で加速する走り……チーム<ファースト>で教えてきた技術でしたが、ビターグラッセは最大限発揮できたようです」

 

 やったぞ! とガッツポーズをしながら去っていくビターグラッセを、代理は寂しそうに、しかし嬉しそうな表情で見つめる。

 ……少しではあるが、気持ちが変わってきているのかもしれないな。

 

『これで互いに1勝1敗! 第3回戦はマイル部門! 芝1,600mです!』

 

 イーブンとなった状態で3戦目。

 次のレースはマイルだ。

 

「出番だな」

「ええ」

 

 サングラスをかけた先輩とヒットマンの先輩が静かに入場を見守っている。

 雰囲気が怖すぎて周りにいる観客が困惑していて、思わずみんなで苦笑いだ。サングラスの先輩は見た目がごついし、ヒットマンの先輩はちょっと目がキリっとしすぎてるからね。

 

 地下バ道からウマ娘たちが入ってくる。

 歓声と共に現れたのは、我らがチーム<STAY GOLD>の精鋭たちだ。

 

『チーム<STAY GOLD>からミホノブルボン! アグネスデジタル! ゴールドシチー!』

 

 サイボーグ、勇者、そして百年に一人の美少女。

 超アンバランスな風評の3人だが、全員実力派だ。

 相変わらず無表情なブルボン、とろけた表情のデジタル、そして1人気合の入ったシチー。

 うん、キャラもバラバラだな!

 

『チーム<ファースト>からデュオジャヌイヤ! タイドアンドフロウ! アゲインストゲイル!』

 

 こちらもまた実力派の3人。

 特にデュオジャヌイヤのマイラーとは思えないスタミナで押していく走りは素晴らしいものがある。

 タイドアンドフロウとアゲインストゲイルも重賞をとって結果を残しているし、今後のマイル路線でさらなる活躍が期待されている3人だ。

 

「阪神のマイルか……ブルボンは1度経験しているが、ジュニア級のことだ。有利に働くかどうか」

「シチーも阪神JFを勝利していますが、ボクも有利になるとは。やはりジュニア級とシニア級では訳が違う」

 

 先輩たちが言うように、経験だけで言えばGⅠレースを勝利しているブルボンとシチーが有利だろう。

 しかしジュニア級での勝利とシニア級での勝利では訳が違う。シニア級から本格化――ウマ娘としてより強くなる時期――に到達したウマ娘は昔の情報なんてあてにならない。

 

 作戦はしっかり立てた。やる気も十分。

 全力で楽しく走ってくれ……そう願って見守るのであった。

 

 

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「つまり、バレてるってこと?」

「そう推測します。チーム<ファースト>は優秀なチームです」

 

 ゲート前。ブルボンは手を前に出すいつものサイボーグポーズでそう答える。

 彼女が言っていること、それはこちらの作戦がおおよそバレているだろうということだ。

 シチーは何で、と困った表情だが、デジタルはそうですよねと頷いている。

 

「あたしたちは自分が得意な走りで全力を出してますし、走りの研究をされたらバレちゃいますよね」

 

 デジタルの言うことはもっともだった。

 チーム<STAY GOLD>は、基本能力を鍛え上げたうえで、一番強い走りをすることで気持ちよく勝つという方針だ。

 王道邪道関係なく。競うなッ、持ち味を活かせッ! トレーナーとゴールドシップはよくそう言っている。

 

 しかしそれ故に、どう走るのかは予測しやすい。

 ドトウに並ばずに走ったことや、ジョーダンに先行して並ばせないこと、フクキタルの差しに関しては明らかに根性でどうにかした感は否めないが。

 ともあれ、個別に対策を立てられているだろう事実は否めない。

 

「どうにかするしかないっしょ」

「はい、どうにかしましょう」

「なんとかなりますよ!」

 

 否めないはずだが結論は為せばなる、だ。これ以上ない脳筋根性である。

 しかし為せばなるを実現させたブルボンやデジタルがいるため、本当になんとかしかねない。

 

 全員がやる気満々の状態でゲートインし、準備が整った。

 スッと体勢を低くしてスタートまで待機する。

 

『各ウマ娘、ゲートイン完了しました。まもなく出走です』

 

 ――ガタンッ

 

『スタートしました! 好スタートを決めたのは3番ミホノブルボン! 誰よりも先駆けて快調に飛ばしていきます!』

 

 ゲートが開いたと同時に一瞬で飛びだしたのはミホノブルボン。

 今はチームにいない逃げ切りシスターズことサイレンススズカから教わったゲート内での集中力、コンセントレーション。研ぎ澄まされた感覚をもって、誰よりも速くスタートする。

 やはりスタートでハナを取るのはこのウマ娘を置いて他にいないと言わんばかりの滑り出しで、一気に先頭へと踊り出た。

 

 しかしチーム<ファースト>は許さない。

 ミホノブルボンにハイペースでラップを刻まれるのは困るのだ。

 

「いかせない!」

『5番デュオジャヌイヤがミホノブルボンに追従! 並んでいきました!』

 

 練習試合で敗北した苦い思い出を闘志に変えて、デュオジャヌイヤは加速していく。

 ミホノブルボンはチラリと様子を窺うが、特段気にもせずまた正面を向く。

 サイボーグと言われるだけある機械的な対応だ。本人はそう思っていないが。

 思わず怒りで顔が赤くなりそうになるが、そういうウマ娘なのだとデュオジャヌイヤは強く息を吐いて冷静さを保つ。

 

 アグネスデジタルとゴールドシチーはその好走を見ながら後ろに控える。

 ハイペースになるのであれば、しっかりと脚を溜めなければならない。特に阪神レース場なら大事なことだ。

 

 阪神の芝1,600mは外回りのコースを使う。

 よって内回りとは違い、コーナーまでの猶予が非常に長い。スタートしてから400m以上直線なのだ。

 ポジション争いが激しくないため、緩やかに進んでいく。それが外回りコースの基本イメージ。

 

 が、しかし。

 

「でやあぁーっ!」

「っ!」

『デュオジャヌイヤがミホノブルボンを抜いて先頭へ! これは大逃げか!?』

 

 抜かされて思わず目を見開くミホノブルボン。

 それもそうだろう。菊花賞以外では先頭を譲らないほど最初からハイペースでラップを刻むのが彼女の走りだ。

 しかしコーナー手前でデュオジャヌイヤは一気に加速してミホノブルボンの前に出る。そして距離を取ったところで内に入り、コーナーへ進入していく。

 

『コーナーに入りまして、えー、かなり変化のあるレースになりましたが、順位を確認していきましょう。先頭は5番デュオジャヌイヤ、1バ身離れて3番ミホノブルボン。そこから3バ身程離れて12番ヴィオラリズム、8番リトルトラットリア、10番コンテストライバル。1バ身離れて1番ゴールドシチー、その後ろ9番タイドアンドフロウ、並んで11番アグネスデジタル、少し離れて2番ワークフェイスフル、4番デュオシパルー、7番シャウトマイネーム。最後方に6番アゲインストゲイルです』

 

 先頭をひた走るデュオジャヌイヤ。脚質は先行だが、逃げができないわけでもない。

 コーナーでしっかり息を整えつつ、後ろを警戒しながらカーブを回る。

 

 ミホノブルボンは先頭を取られたことは気にしていない。しかし、ラップタイムが微妙に乱れているのを感じていた。

 それは先頭を取られたことで、障害となっているデュオジャヌイヤにぶつからないようセーブしなければならないからだ。

 接触や危険な走行になってしまえば失格となる。故に、強く出られていないのだ。

 

 少し膨らんで抜かそうとコーナーで外に出て見ればブロックされ、内に戻るとまた戻ってくる。

 ――困りました。聡明なるサイボーグ頭脳によってはじき出した答えだ。

 ゴール前で見ていたサングラスのトレーナーは、思わず拳を握り締めてしまう。巧い走りだと感心するが、それはミホノブルボンが困っていることに繋がるのだから。

 

 後方で見ていたゴールドシチーとアグネスデジタルも、ミホノブルボンが困っているのに気付いていた。

 しかし、あまりにも位置が後ろだし、前方へ出てもプレッシャーをかけようが意味がないだろう。

 

「……コーナーで不利を確認。これよりプランBへ移行します」

 

 最終コーナーに差し掛かったところで、ミホノブルボンは予定を変更した。

 体勢を低くし、グン! と一気に加速してコーナーを回っていく。その美しく無駄のないコーナリングは曲線のソムリエのよう。

 

『ミホノブルボンが仕掛けました! デュオジャヌイヤとの差を詰めていきます!』

『逃げの早仕掛けですか! ラップ走を得意とする彼女としては珍しい走りですね!』

 

 凄まじい勢いで突き進んでくるサイボーグに、デュオジャヌイヤは困惑した。

 ペースを乱してやろうと前に出たはいいが、まさかこのタイミングで仕掛けるなんて! 逃げウマ娘なのに!

 流石に最終直線前でブロックするなどの消耗は避け、内に寄ってミホノブルボンを前に行かせる。

 

 そのまま完璧なコーナリングで回っていき、先頭を奪い取り最終直線へ。

 ここにきてミホノブルボンはいつもの光景を取り戻し、デュオジャヌイヤとの差は2バ身となった。サングラスのトレーナーは思わずガッツポーズ。

 

『最終コーナーを抜けて直線へ! 誰が抜け出すのでしょうか! 先頭は追い抜いてきたミホノブルボン! デュオジャヌイヤとの差が開いています!』

 

 プランB――先頭を奪われたら意地でも奪い返す作戦――により先頭を取り返したミホノブルボン。

 スタミナを余計に消費してしまったが、まだまだ余裕だ。

 しかしそれ以上に余裕があるのは差し追込軍団。最終直線に入ったところで、一気に進出していく。

 

「はああぁーーっ!」

「だあああああああ!!!!」

『中団から伸びてきたのはゴールドシチー! タイアンドフロウも差し切り体勢に入り順位を上げているぞ! しかしデュオジャヌイヤも負けていない! まだ大丈夫だと粘ってミホノブルボンに追従! 後続との差はまだある!』

 

 根性全振りの美少女ゴールドシチーが残り2ハロンで一気に攻める。

 コーナー終わりから下り坂になるため、一気に加速することができるのだ。

 並外れた根性をもつ彼女ならば、たとえ早めに動いてスタミナが切れようが何しようが失速せずに走り切る。そういうウマ娘なのだ。

 

 それを見越してタイアンドフロウも追いかける。

 彼女はゴールドシチーのような意志の強さはなく、むしろあきらめ癖があるぐらいだ。

 だがその気持ちの弱さがゴールドシチーのような根性あるウマ娘の粘りを弱くさせる。自分の短所は長所だと、樫本トレーナーが教えてくれたのだ。

 タイアンドフロウは意志薄弱という意志を持って駆けていく。自分の走りを見せるため、チームのみんなで勝つために。

 

 そしてここで最後方にいたアゲインストゲイルも動き出す。

 

「だりゃぁぁぁああーーっ!!!」

『後ろからゲイル! アゲインストゲイル! 力強い走りで一気に直線を駆け抜けます!』

 

 得な能力も何もない彼女だが、身体能力はチーム内でもかなり上だ。

 安定して脚を使い、スタミナと根性で最高速を維持し続けるのが最大の特徴。

 下り坂を利用してスピードを出し、最後の最後でごぼう抜きしようと画策していた。

 

 が、しかし。

 同じ事を考え、かつそれより変態的な動きをしているウマ娘がいた。

 

「いきますともッ!」

『大外からアグネスデジタル! アグネスデジタルだ! 誰もいない大外から一気に突っこんできている! なんという切れ味でしょう!』

 

 アグネスデジタルだ。

 アゲインストゲイル以上のスピードで下り坂を駆け下りていく。

 直滑降。同じトレーナーのもとで走るライスが得意な走りだ。きちんと継承して使いこなしており、ヒットマンはうんと大きく頷く。

 

「来た!」

「うえっ!?」

 

 だが、彼女それを合図にアゲインストゲイルも大外へ。徹底してマークするようだ。

 アグネスデジタルは驚くが、気にせず差しきりに行こうとひた走る。

 

 全員が一気に仕掛けた。あとは能力がフルに活かせるかどうかだ。

 

「残り1ハロン、行きますっ」

「負けるかぁーっ!!!」

 

 先頭を走るミホノブルボンが先駆けて上り坂へと到達する。いつも通りの上り坂。気にすることもなくグングン上っていく。

 続いて飛び込んできたデュオジャヌイヤは、加速を用いてミホノブルボン以上の速度で駆け上がる。短距離レースかと言わしめる速さだ。

 ここにきて差を詰めていき、一気にミホノブルボンと並んだ。

 

「何っ?」

 

 思わずサングラスのトレーナーは声を上げる。

 そしてすぐにグッと唇を噛む。

 

 先頭を取られたせいでリズムが狂ったのだろう。

 ミホノブルボンの得意なラップ走は、1度崩れてしまうと狂った時間を止めることはできない。類まれな精神力でラップを刻んできた彼女だが、今回のレースで2ハロンほど奪われたわずかなラップが走りに異常をきたしていた。

 プランBは正解だ。しかしその後に同じようなラップ走を使うのは不正解だった。チーム<STAY GOLD>のトレーナーは自分の失態に気づき、拳を握り締める。

 

 ズレたリズムは突然戻ることはない。

 ミホノブルボンは驚きながらも脚の回転を速めていくが、デュオジャヌイヤを抜くことができずにいた。

 そんな中、後方から差しウマ娘たちが一気に殺到する――!

 

『ゴールドシチーが坂を上る! タイアンドフロウは苦しいか! アグネスデジタルも大外から急襲しているぞ! アゲインストゲイルも伸びてくる!』

 

 ゴールドシチーも坂を駆けあがっていくが、タイアンドフロウが垂れていき、併走相手と闘争心をわずかに失いスピードがほんの少しだけ失速する。

 わずかな部分で勝ち負けが決まる状況だ。必死に粘るが、前との差が中々詰まらない。

 

 そこにアグネスデジタルが一気に急襲する。誰にも邪魔されないだろう外から全員を差しきりにパワー全開で突っ込んでいった。

 しかしアゲインストゲイルもそれはわかっている。グングンと粘り強くいい脚でアグネスデジタルを見ながら進み、決して逃さない。大外であっても、マークは外さない。

 執拗なプレッシャーをかけられたデジタルは、坂を駆けあがっているのに引きずられているような感覚になっていた。これがライスさんの徹底マークですかぁ~!? と内心嬉し恥ずかし困り顔。

 マイナスのダメージはないが集中を欠いた。そんな走りで勝てるほどチーム<ファースト>は甘くはない。

 

「あああああぁぁーーーっ!!!!」

「はあぁーーっ!!」

『デュオジャヌイヤが抜け出したか! ミホノブルボン追いすがる! しかし差が詰まらない! ゴールドシチーも伸びない! アグネスデジタル大外から差しきるか!? 差すか!? デュオジャヌイヤ先頭でゴールイン! これはデュオジャヌイヤの勝利でしょう! 2着はミホノブルボン! 3着に入ったのはアグネスデジタルです!』

 

 大歓声の中、根性で一気に駆け抜けたデュオジャヌイヤが先頭でゴール。

 見事に各ウマ娘を対策されてしまい、力を発揮できなかった。

 

「敗北です……トレーニング不足ですね」

「はああぁ~~~! あたしとしたことが、レース中に気を取られてぇ~~!!!」

「くっ、勝てなかった……!」

 

 不甲斐ない走りをしてしまったと、ミホノブルボンたちは頭を抱える。

 同じくトレーナー陣も頭を抱えた。今回ばかりは作戦で負けた、完敗だったと。

 

「ふぅ……おめでとうございます。いい走りでした」

「……え、あ、ハイ。ありがとう、ございます」

 

 薄く笑うミホノブルボンに褒められ、デュオジャヌイヤは思わずビシッと固まってしまう。

 対戦相手ではあるが、ミホノブルボンやアグネスデジタルらはトレセン学園でも有名な優駿たちだ。

 彼女たちに勝った事実を思い出し、トレーナーは間違っていなかったんだと実感する。

 

 デュオジャヌイヤは大声でやったああああ!!! と叫んだ。

 両手を上げる彼女に向けて、観客たちは祝福の声を上げるのだった。




<STAY GOLD>
・ブルボンラップ走
・シチーは直線入ってすぐスパート
・デジタルは周りを見つつ大外一気

<ファースト>
・絶対にブルボンを先頭にさせない
・シチーは追いかけてもいいが並ばない
・デジタルが外に出たら徹底的にマークする

 マイルは強者の走りを絶対にさせない作戦でした
 力で勝てなさそうなら、展開でごまかせ!

 決勝ってこのぐらいえ? って感じでさらっと負けますよねぇ
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