ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯 作:あぬびすびすこ
ファイッ
『ウ・ラ・ラ! ウ・ラ・ラ!』
「すっごーい! みんなありがとー!」
ウララコールが響きわたり、大喜びのウララが両手を振っている。
もうほとんどの人が大号泣だ。負け続けても決して諦めず走り続けた道筋をみんなが知っていたから。
かくいう俺も涙がボロボロと。
ああ、本当に良かった。ウララがチームに来てくれて。
「ありがとう……本当にありがとうっ!」
ウララを担当している先輩が顔をくしゃくしゃにして何度も何度も俺の手を握る。
こちらこそお礼を言わなければならない!
先輩がいたからこそ、ウララは諦めずにここまで走ってこれたんだから!
俺たちはただ、2人の仲間に入れてもらっただけなのだ。
「おっしゃー! ウララ! 胴上げじゃーい!」
「わわ! すごい高いね! わーい! ありがとー!」
嬉しがっていたゴールドシップがたまらずターフへ飛びだし、ウララを肩車する。
そしてそのまま観客席を走っていく。
胴上げではないが、盛り上がっているからいいか。
アオハル杯、完! みたいな空気になっているが、現在2勝2敗のイーブンだ。
最後の5回戦、長距離レースが待っている。
「やったね、ウララちゃん」
ライスが目に涙をためて、嬉しそうにつぶやく。
そして、涙を拭って真剣な表情になる。
「次はライスの番だ」
決意を新たにしたライスは、拳を握り締めるのだった。
『盛り上がりを見せましたアオハル杯決勝もこれで最終戦! 第5回戦は長距離レース! 芝3,000mで全ての決着がつきます!』
盛り上がりも落ち着き、ついに最終戦が始まる。
長距離レース、芝3,000m。阪神大賞典と同じだ。というかそれ以外に阪神でその距離を走ることがない。
ゴールドシップにとって非常に都合のいいレース環境だ。しかも今は全ての流れがこちらにある。
頼んだぞ、みんな。
『選手入場です! チーム<STAY GOLD>からゴールドシップ! ライスシャワー! テイエムオペラオー!』
「ピスピース!」
楽しそうにピースしながら走りこんでくるゴールドシップと、いつも通り輝かしい笑顔で手を振るオペラオー。
そして、そんな2人の間で楽しそうに小さく手を振るライスシャワー。
うん……雰囲気はヨシ!
『続きまして、チーム<ファースト>からリトルココン! ミニベロニカ! クレセントエース!』
澄ました様子で歩いてくるリトルココンと、真剣な面持ちのミニベロニカ、クレセントエース。
エースのビターグラッセとリトルココンが率いる中長距離メンバーは走りの巧さやレースの多様性に富んでいる。
これはエースの2人の走りが巧いからだろう。
楽しそうな空気感のある3人と、絶対に勝つというピリッとした空気を出す3人。
やはり対照的だ。だがそれがいい。
「………」
先ほどのダートレースで思うところがあったのか、樫本代理は真剣な表情でリトルココンたちを見ている。
それは今までの寂しそうな眼ではなく。
何かを期待するような、そんな目の色をしていた。
◆ ◆ ◆
「絶対勝つよ。ここで負けらんない」
「うん。全力で!」
「今までの全部をここで出そう!」
チーム<ファースト>の3人は力強く頷く。
この一戦で全てが終わる。ここに樫本トレーナーから教わった3年間を! そう意気込んでいた。
「もち食いてーな。終わったらイチゴ大福買いに行こうぜ」
「いいね! ボクは紅白饅頭でも買おうかな」
「2人とも、もちは……?」
対してほんわかな雰囲気を出しているチーム<STAY GOLD>。
チーム外で参加しているウマ娘たちは、最後なのにやる気あるのかと思わず呆れた視線を向けてしまう。
「………」
ライスシャワーがそんな視線に気づいた。
ゆっくりと目を向けると。
「ヒィッ!?」
「うっ!」
あまりにも切れ味の鋭い刃が突き刺さったかのようなプレッシャー。
先ほどまでの雰囲気から一転。ライスシャワーからゴウ、と炎が広がっていく。
これが漆黒のステイヤー……! 思わず体が固まる。
「ヘイ!」
「あう!」
ずびしとどつかれ、ライスシャワーの雰囲気が霧散する。
「まだはえーだろ。ゲート入ってからマジになれよな」
「う、うん。そうだね。あの、ごめんなさいっ」
「う、ううん! 大丈夫!」
ゴールドシップにたしなめられ、慌てて謝罪した。
刺されたウマ娘たちは慌てて胸を抑えながら首をブンブン振る。
レース前から大混乱だ。冷汗をかいてそそくさとゲートインしていく。
「……ふぅん」
そんなライスシャワーを、リトルココンは眺めていた。
全員がゲートイン完了。
最終戦、このレースで全てが決まる――!
『各ウマ娘、ゲートインが完了しました。まもなく出走です』
――ガタンッ
『スタートしました! ゴールドシップ出遅れたか! それ以外は綺麗なスタートです!』
相も変わらず出遅れるゴールドシップをよそに、他のウマ娘たちは綺麗な滑り出し。
まずは逃げウマ娘の加速が始まる。今回いる逃げウマ娘は3人。
うち1人はチーム<ファースト>のメンバーだ。
『先頭に出ていくのは4番クレセントエース! 2番フリルドオレンジと9番アイゼンテンツァーも続く!』
流石の実力と言うべきか、クレセントエースが先に前へと進出。
自分がコントロールするのだと言わんばかりにハナを主張した。
逃げを見ながらするりと内側へ入っていくのは先行のウマ娘たち。
阪神の長距離はとにかくスタミナを切らさないようにしなければならない。内回り2回目の第3コーナーから始まる長く緩いカーブでペースアップしていくためである。
ただでさえパワーが必要なレース場だ、できるだけいいポジションをとっておきたいわけだ。
テイエムオペラオーは慣れた様子でアイゼンテンツァーの後ろにつく。
内側で走りやすいポジションを難なく確保。流石は覇王である。
そんな覇王についていこうと他のウマ娘も殺到。1つのバ群が作られる。
集団の後ろ入るのはリトルココンだ。差しウマ娘の基本、しっかり脚を溜めることを念頭にポジションを取る。
しかし、1つ誤算があった。
「………」
「……っ」
先行の脚質であるライスシャワーが、ビッタリとリトルココンの背後につく。
まさしく徹底マーク。短剣で突き刺すような凄まじいプレッシャーを、リトルココンただ1人に向けてひた走る。
なんだ、こいつ。以前と全く違う様子のライスシャワーに、動揺してしまう。
そんな異様な雰囲気の中、最後方を走るゴールドシップとそれをマークするミニベロニカ。
最初に放っていた威圧感はどこへ行ったのか、鼻歌でも歌いそうな機嫌のよさで走っていた。
ピクニックじゃないんだぞ! ミニベロニカは思ってしまうが、時折見せる真剣な目がさらなる動揺を生む。
なんなんだこいつら。リトルココンとミニベロニカの想いは一致していた。
『第3コーナー入りまして順位を振り返りましょう。先頭は4番クレセントエース、すぐ後ろ9番アイゼンテンツァー、2番フリルドオレンジはここにいます。2バ身離れて5番テイエムオペラオー、並んで11番オリノコリエンテ、後ろ10番アバブリニ、7番ギガントグレンデル。1バ身離れて後方集団8番リトルココン、すぐ後ろに6番ライスシャワー、少し離れて3番ドカドカ。最後に最後方1番ゴールドシップと12番ミニベロニカです』
バ群が整いコーナーを回っていく。
ここからのレースは次の第3コーナー、つまり一周するまで動きがないことが多い。
後半は息を入れるタイミングもなく仕掛けどころに来てしまうため、それまでにしっかりとスタミナを確保するためだ。
一気にペースダウンしてゆるやかに進み、第4コーナーを向けて1度目のホームストレッチへ。
先ほどのハルウララの興奮がまだ残っているのか、いつも以上に歓声が上がる。
「クレセントエース負けんなー!」
「ライスシャワーやっちまえー!」
「リトルココーン! がんばってー!」
それぞれが自分たちのヒーローを応援する。
歓声を聞いてウマ娘がかかりやすくなってしまうのは、きっと応援が力になるからだ。
なんとか気持ちを抑えながら上り坂を駆け上がり、第1コーナーへと差し掛かっていく。
余談ではあるが、阪神芝3,000mのコースは第2コーナーの入りぐらいが1,500mの通過地点だ。
クレセントエースも第1コーナーに入ったところで、半分まできたと一息つく。
そう、
――ゴールドシップーッ! ぶちかませーッ!
「おっしぇええーーーいッ!!!」
「うわっ!?」
『ゴールドシップが動き出しました! 第1コーナーから進出するようです! 早すぎないか大丈夫か!』
自分のトレーナーが叫んだと同時に、ゴールドシップが動き出す。不沈艦の進撃だ!
踏み込みの爆音と共に駆け出し、グングン進んでいく。封じ込めをしていたミニベロニカはあまりの圧に思わず下がってしまう。
するりと大外へ抜けたゴールドシップは、気持ちよさそうにどんどん前へ。表情は本当に楽しそうで、レース場中央にあるスクリーンにはギラギラと輝く笑顔が映し出されている。
これには担当トレーナーも思わずにっこり。他のトレーナーは引きつった笑みをしているが。
第2コーナーに差し掛かり、ゴールドシップは後方集団と合流。
ドカドカを大いにビビらせると、ライスシャワーの隣にくる。
「―――!」
「――」
言葉はない。
ゴールドシップがニィッと笑いかけると、ライスシャワーも少しだけ笑みを見せ、こくりと頷いた。
そのまま並ばず進んでいき、リトルココンを追い抜いていく。
「へっ」
「ッ!」
チラッと顔を見て、意にも介さずグングン進む。
プライドが傷つけられたのか、リトルココンは思いきり睨みつける。
しかし流石にチームのエース。コーナリングに集中することで意識を戻し、しっかりと息を入れる。
おもしれーやつだなと思いながらも、先行している集団に追いつき、向こう正面に入った。
『向こう正面に入りました! ゴールドシップがどんどん前に出ています! アバブリニとギガントグレンデルも少しずつ前へ!』
ゴールドシップの進撃に驚き恐怖したウマ娘たちが意志に反して前進。
ここにきて精神力や技術力の差が如実に現れ始める。長距離レースとは、ウマ娘のスキルとトレーナーの作戦が本当に重要なのだ。
向こう正面で突き進んでいくゴールドシップはオリノコリエンテも追い抜かし、テイエムオペラオーと並ぶ。
「ゴルシちゃん劇場開幕すっぞ!」
「主演はボクだろうね!」
2人でニッと笑い合うと、そのままいっしょに前方の逃げウマ娘のところへ進出していった。
『テイエムオペラオーも動いた! ゴールドシップとテイエムオペラオー! 向こう正面から仕掛けていったぞ!』
観客たちはうわあーー! と歓声を上げる。
黄金の不沈艦と覇王。恐怖のタッグが同時にグングン進む光景は心が熱くなるものがあった。
夢の共演だと、ここからやっちまうのかと。観客たちは声を上げながら2人の仕掛けに沸き上がる。
「いぃ!?」
「うそでしょー!?」
「なっ!」
逃げを選択していたアイゼンテンツァー、フリルドオレンジ、そしてクレセントエース。
まさか第3コーナーに入る前から仕掛けてくるとは思わず、どう対処するのが正解かと目を泳がせる。
「……ふぅ!」
一足先に落ち着いたクレセントエースは、第3コーナーに入ったところでかなり大幅にブレーキをかけた。後ろの逃げウマ娘2人をゴールドシップたちの壁として使うためだ。
急なペースダウンでアイゼンテンツァーたちも驚くが、不沈艦も覇王も何も気にせず流れるように大外へ出てコーナーに入っていく。その程度は妨害ですらない。
後方では。
ライスシャワーは向こう正面の直線で一旦クールダウンをしていた。スタミナを少しでも回復させるためだ。
そして第3コーナーに入ったところで、リトルココンが動き出す。
「ふっ!」
じりじりとペースを上げて進んでいく。
持ち前の驚異的な肺活量を最大限利用していく走りだ。
第3コーナーからスパートというのは早仕掛けではあるが、そもそも向こう正面で仕掛けたウマ娘が2人いるのでこれでも速いと思えなくなっている。
「はあっ!」
リトルココンが動き出すのならライスシャワーもまた動き出す。
刺客とまで言わしめた徹底マークは尋常ではない。
ビッタリと同じ速度で上がっていく彼女に、リトルココンはかなり辟易していた。
『リトルココンが上がってきました! 同時にライスシャワーもぴったりマークして上がってくる! 淀の刺客に狙われているぞ!』
『向こう正面ではゴールドシップとテイエムオペラオー、第3コーナーでライスシャワーと、チーム<STAY GOLD>は全員早仕掛けですね』
確かにそうだと誰もが思った。
しかしトレーナー本人は自信満々な表情で走ってくるゴールドシップたちを見守っている。
「……作戦通りなのよね?」
――もちろん。
ニッと笑うその顔は、ゴールドシップとそっくりだ。
後方でのやり合いが起きている間、コーナーを回りながらバケモノ2人に追いかけられてひぃひぃ言っているクレセントエース。
一方すぐ後ろの2人は下り坂をゆったり下りていた。
ゴールドシップが大得意な下り坂でのスタミナ回復。下校のスペシャリストだぜ! と楽しそうに走る。
テイエムオペラオーも教わった通りに息を合わせてゆるやかに下りていく。まだまだ2人とも余裕綽々といったところだ。
クレセントエースが必死になってペースを上げ、ついに最終直線へと入る。
残り350m。これで決着がつく。
『ついに最終コーナーを抜けて直線です! 先頭はクレセントエースですが後方にはゴールドシップとテイエムオペラオーがいるぞ! 逃げ切れるのか!』
「行くぜ!」
「ああ!」
直線に入ったところでドン! と一気に加速していく。
下り坂が続いているとはいえそんな理不尽な。見ている方もクレセントエースも同時に思ってしまう。
「負けるかっての……っ!」
「負けないっ!」
『ここでリトルココンとライスシャワーも一気に上がってきた! ミニベロニカも猛然と追い上げてくる!』
しかしその後ろからグングン上がってきていたリトルココンとライスシャワー。
そして邪魔されないように静かに上がってきていたミニベロニカが末脚を爆発させて一気に迫る。ゴールドシップを封じ込めない時は、追込一気で勝負することになっていたのだ。
「おらああぁぁーーー!」
「はぁぁあああああ!」
『クレセントエース逃げるがゴールドシップが並んだ! テイエムオペラオーも並ぶ! 抜かすか! 抜かすか!?』
クレセントエースを捉え、不沈艦と覇王は彼女に並ぶ。
必死な形相で逃げていくが、スパート必至のコーナーで休むという暴挙を起こした2人は余裕をもってスパートをかけている。
じりじりと、じりじりと距離が離れていく。
クレセントエースがピンチに陥る中、リトルココンは四方八方に圧力をかけ、その後一気に加速する。
ビターグラッセ同様、樫本トレーナーから教わった直線での加速。一陣の風となってグングン前進していく。
下り坂も含めたその加速力は凄まじいもので、既にゴールドシップたちと1バ身程まで詰めていた。
「はああああぁぁ!!!!」
『リトルココンが差しに行く! 一気に距離が詰まっているぞ! 残り1バ身! 半バ身!』
自分が今出せる全力。スタミナにものを言わせる強引なスパートで全員を差しきりに行こうとしていた。
クレセントエースはついに来た! と喜びながらも必死に走る。が、ついに少しずつ差がつきだす。
そんな中、たった1人。リトルココン以上の覚悟で下り坂を走るウマ娘がいた。
「やあぁぁぁああああああ!!!!」
『ライスシャワーが前にでた! ついに黒い刺客が動いた! 差したリトルココンを差しに行く!』
ライスシャワーだ。
彼女にとって坂はただの坂ではない。
淀に愛され、淀で勝ち、淀で復活した青い薔薇。
そこには4mもの高低差がある急坂があり、ライスシャワーは幾度もその坂で勝利をもぎ取っていった。
そこで身につけた彼女の武器、直滑降。決死の覚悟で、転べば命すら危ういレベルの加速で下り坂を進んでいく。
リトルココンはついに自分の後ろから出てきた彼女の走りに驚愕する。
これはダメだと。危険だというシグナルが濃厚に出るほどの危うい走り。しかしだからこそ凄まじい速さを見せていた。
『リトルココンが先頭に出るか!? ゴールドシップまだ耐える! しかし外からライスシャワーが来た! ライスシャワーが来た!』
「っ! なめんな!」
『しかしリトルココンさらに伸びる! ライスシャワー抜かせない! ゴールドシップは苦しいか! テイエムオペラオーも粘っているが伸びてこない! ミニベロニカはまだ後方!』
ここでゴールドシップが少し下がる。
それを見たリトルココンは高揚した。アタシのことを舐めるからだ!
そう思った瞬間、近くまで来たゴールドシップとテイエムオペラオーはニヤリと笑った。
「おめーの相手はアタシじゃねーぜ」
「主役がもう1人いるのを忘れてはいけないよ」
は? とリトルココンが意識をそちらに割いたその時。
逆サイドからゴウと炎が舞う。
『ライスシャワー抜け出した! ライスシャワーが抜け出した! 一気に前に出た!』
左目から蒼い炎が見えるかの如き鬼気迫る走り。
数瞬意識が別の方に向いた、リトルココンが見せた隙で見事に差した。
こいつら! 思わずギリッと歯を噛みしめる。
残りはあと200mもない。直後はライスシャワーが、ゴールドシップが大得意な上り坂。これで終わりか。
しかし、ここで声が聞こえてきた。
「リトルココン!」
ハッとして、耳を動かす。
「リトルココン! 走りなさい! あなたなら勝てます!」
少しだけ視線を向けると。
トレーナーが。樫本代理が身を乗り出していた。
瞬間、ゴウと自分の中に炎が生まれた。
「ああぁぁぁあああああ!!!!」
『リトルココンがさらに追い上げた! ライスシャワーに並ぶ! 2人のデッドヒート! どちらが勝つのか!』
上り坂を全力で駆け上がる。
リトルココンは限界の先、アオハル杯で手に入れた体力をすべて振り絞る。
ライスシャワーとの差を詰め、そして徐々にだが前に出ていく。坂でチーム<STAY GOLD>を……! トレーナーたちは驚きを隠せない。
ライスシャワーは思った。脚が重い、肺が苦しい、腕も振れない。
でも、まだ走れる、まだ動く。
なら、諦める理由なんてどこにもない!
ウララちゃんが、一度だって諦めないで走ったウマ娘がそれを証明できたのだから!
「やああぁぁあああーーっ!!!!」
『リトルココンわずかに前に出たか!? しかしライスシャワーがさらに伸びていく! 互いに坂を駆けあがる! 残りわずか! どちらが先にゴールするのか!?』
火事場のバ鹿力。全てを出し尽くした後の限界の先で到達できる、命を燃やして力を出し尽くすその走り。
ライスシャワーもリトルココンも、共に限界を超えて競い合っていた。
『ライスシャワー! リトルココン! ライスシャワー! リトルココン! どっちだ! どっちだ!?』
「ライスー! 勝てー!」
「リトルココーン! 頑張れー! 勝てー!」
誰もが2人を応援した。
抜いて、抜かして、抜いて、抜かして。
『どっちだ! どっちだ! どっちだ!? 大接戦のゴール!』
もつれるようにしてゴールイン。
2人は少しだけ先まで走ると、そのまま倒れ込みそうになってしまう。
「よっと」
「はい」
すかさず走りこんできたゴールドシップとテイエムオペラオーがそれを支える。
「はぁ、あ、ありがとう……はあっ、はあっ……!」
「はぁ……はぁ……っ! なに、急に……っ」
こんな状態でも悪態をつく彼女に思わず苦笑いだ。
「ま、もともとおめーらはぶっ倒れるぐらい走るだろうと思ってたからな」
「うん。ゴルシさんのトレーナーくんから2人以外を無茶苦茶にしてやれって言われていてね」
リトルココンとライスシャワー。
2人の舞台を作り出して走らせることが、今回の作戦だったようだ。
何をふざけたことを……! と聞いていたクレセントエースたちは文句を言いそうになっていたが、テイエムオペラオーが少し困った様子で笑う。
「3対3で戦うより、ライスさんとリトルココンくんで戦った方が勝率が高いと言われてね」
「つまんねーこと言うよなー。ま、確かにおめーと走ると骨折すっからな」
つまり、骨が折れるということだ。
クレセントエースとミニベロニカは思わず<STAY GOLD>のトレーナーを見る。
ライスシャワーを心配そうに見ているが、写真判定の現在、負けていると全く思っていない表情だ。
「……変なトレーナー」
「チーム戦だからね。ボクがスタァになっても構わないけど……今回ばかりはライスさんが主役だからね」
リトルココンくんと戦うのは、彼女がふさわしい。
そう話すと、ライスシャワーはえへへと笑い、リトルココンはそっぽを向いた。
『写真判定の結果が出ました! 掲示板をご覧ください!』
実況の声が聞こえ、全員の視線が掲示板を向く。
『1着は6番! ライスシャワー! 2着はリトルココン! チーム<STAY GOLD>の勝利です!』
一瞬の静寂。
そして、爆発する歓声。
「わ、あ……」
自分の勝利が確定したことがまだ夢見心地らしく、ライスシャワーはぼんやりと掲示板を見つめていた。
「へへっ、勝ったな!」
「ボクたちの勝利だ! 素晴らしいよ、ライスさん!」
「わ、わわ! あ、え、えへへ! ありがとうっ、みんなのおかげで走れたよ!」
ゴールドシップとテイエムオペラオーに称賛されてもみくちゃにされるが、ライスシャワーは嬉しそうだ。
対照的に、リトルココンはふぅ、と息を吐く。
「負けた」
顔を上げて空を見る。
敗北はこんなにも悔しかったのかと。思わずぎゅっと拳を握り締めてしまう。
しかし、別の感情もあった。
はしゃいでいるライスシャワーを見て、走っている時の彼女を思い出す。
結局、努力しているのは一緒だし、誰かのために走っているのも一緒だ。
なんとなく清々しくて。
もみくちゃにされている彼女を見て、思わず笑ってしまうのだった。
<STAY GOLD>
・ライス以外を荒らしまわる
・ライスはリトルココンをマーク
・ライスが覚悟を決めれば負けねーだろ! そうだね! えぇ~!?
<ファースト>
・リトルココンがエース
・それぞれが自分の有利になるように走る
・ミニベロニカだけゴールドシップを封じ込め作戦
ライスに全てを賭けた作戦
誰かのためなら、ライスは全力で走れるのです