ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯 作:あぬびすびすこ
力を示せっ
URAファイナルズとは。
秋川理事長が新設した『全てのウマ娘が輝ける』レース。
全ての距離、全てのレース場が舞台となり、各部門ごとにファン投票によって選ばれたウマ娘たちが競い合うトーナメントだ。
もちろんゴールドシップは選ばれている。
15戦10勝のすごい成績だし。5敗したのはアオハル杯のみで、公式戦は無敗だからな。
それに一応チーム戦を考えるとアオハル杯も全勝だ。レース内容も華々しいものが多いからファンが凄く多い。
というわけで、URAファイナルズの中距離部門の優勝候補筆頭として名を連ねているのだ。
「いやぁ、サブマリン投法の槍投げで国士無双をアガっちまうとはな……」
相変わらずの発言をしているが、これはURAファイナルズの予選と準決勝でナカヤマやらフラッシュやらトウカイテイオーやらメジロマックイーンやら。
強敵相手に細い勝ち筋を通して大勝利を飾ったことを思い出しているのだろう。
何故感傷的になっているかというと、今日が決勝当日だからだ。
勝負服を身にまとったゴールドシップは、遠い目をして光差す地下バ道の出口を眺めている。
「相変わらずヘンなやつ」
「あん?」
話しかけられて振り向くと、リトルココンとビターグラッセ、そして樫本トレーナーの姿が。
あと理事長とたづなさんもいる! 自分が設立したレースの決勝戦を見にきたのだろうな。
「はーっはっはっは! よくぞここまで来たな、トレーナー! ゴールドシップ!」
「アタシはゴールドシップ様だぜ? おもしれーことやってんならどっからでも来てやるぜ!」
「うむ! いい面構えだ! 上々ッ!」
ビシッと扇子を突き出され、ニッコリ笑う理事長。
たづなさんも楽しそうに笑っている。
ほんわかした雰囲気の中、樫本トレーナーがすっと前に出た。
「ゴールドシップ、そしてトレーナー。貴方たちにはお世話になりました」
別に何もしてないですよ。
隣のゴールドシップも何の話だとすっとぼけた顔をしている。
「ふふ、ええ。そういうことにしましょうか」
「感謝はしてるけどレースは別……今日はうちのチーム勝つから」
「そうだね! この前はありがとう! 感謝はレースに勝つことで示そう!」
真剣な表情で不敵な笑みを見せるリトルココンとビターグラッセ。
強敵が2人……決勝もすごいレースになりそうだ。
「ああでも、リトルココン。今日は個人戦なんだけど」
「……うるさいな。ちょっと間違えただけだ」
「なんだーココンちゃんよぉ~? ずいぶん仲良しこよしじゃねーか!」
「うわ、うざ」
レース前にじゃれ合い始める3人。
うんうん、やっぱりウマ娘は楽しい気持ちがあるまま走ってもらわないとな。
「貴方たちのおかげで随分成長しました。私も、あの子たちも」
「だからこそ、今日は勝たせてもらいますよ」
樫本トレーナーからの宣戦布告。
もちろん、受けて立ちますとも!
俺はニッと笑って答えるのだった。
◆ ◆ ◆
『晴れわたる空のもと行われる、阪神レース場! 芝2,200、URAファイナルズ決勝! 18人のウマ娘たちが挑みます!』
ファンファーレが鳴り響き、実況解説からレースの紹介が始まる。
グルグルと肩を回したり、気持ちを落ち着けたり、脚を動かして最後のアップをしたり。
それぞれのウマ娘たちが最後のレースのために準備を整えていた。
『さあ注目のウマ娘を紹介していきましょう。まずは3番人気、4枠7番リトルココン』
『長距離を得意とするウマ娘ですね。すばらしいスタミナを持っています。パワーも必要な阪神レース場での適性は大いにありますよ』
リトルココンは深呼吸をして気持ちを整えていた。
長距離を得意とする彼女が中距離で走っている理由はただひとつ。
ゴールドシップに借りを返すためだ。樫本トレーナーのこと、自分たちのチームのこと。
助けてもらった感謝をこめて、レースで勝つ。お礼参りである。
『2番人気は2枠4番、ビターグラッセです』
『非常に力強い走りをするウマ娘ですよ。その加速力や、バ群にのまれた時にそこから押しあがってくる精神力は目を見張るものがあります。今日も走りに期待ですね』
ビターグラッセは腕や脚のストレッチを入念に行い、レースに備える。
リトルココンとは違い、彼女はゴールドシップと走りたいからというわけでもない。
単純に得意な距離だからだ。中距離に出るという話を聞いたときは首を傾げてしまったが、そういうことならと一緒に頑張ってきた。
今日は個人戦。リトルココンにも負けないぞとビターグラッセは気合をいれている。
『1番人気はこのウマ娘を置いて他にいません! 1枠1番! ゴールドシップ!』
『今を時めく破天荒ウマ娘ですね! キャラクター、実力共に1番だというファンも多いのではないでしょうか。得意なコースですからね、本日も派手な走りに期待しましょう』
ゴールドシップはキョロキョロと周りを見回していた。
というのも、目当てのウマ娘が一緒に走るからである。
「お、いたいた」
「………?」
ピスピースしながら近づくと、不思議そうにしながらもピースを返してくるノリのいいウマ娘。
ぽやんとした顔をして、ウマ娘で非常に珍しい真っ白な髪。
「よう、ミーク。今日はフランスパンじゃねーの?」
「……勝負服、だから」
ハッピーミークである。
ゴールドシップのトレーナーの同期である桐生院葵という名家のお嬢さんが担当しているウマ娘。
アオハル杯は参加していなかったが、同期だからか接点も多く、時折併走トレーニングをしたり遊びに行ったりと交流がある。
URAファイナルズ決勝まできて初めての対戦となるため、面白いし新鮮だということで彼女を探していたのだ。
因みにフランスパンとはハッピーミークが愛用しているシューズのこと。見た目がフランスパンに見えるらしい。
「やっほー、ミーク。ゴールドシップ」
「や、2人とも」
「おひさしウェーイ!」
「あ、ネイチャ。それと爆逃げ」
ナイスネイチャとメジロパーマーが声をかけてきた。
GⅠレースを何故勝ったことがないんだというレベルで実力のあるナイスネイチャと爆逃げで有名なメジロパーマーだ。
後ろにいるのは爆逃げ仲間のダイタクヘリオス。
「今日はよろしくお願いしまーす。ま、いいレースにしようよ」
「おう! 血沸き肉躍る! すなわち酒池肉林の宴を見せてやるぜ!」
「はは、随分過激だね」
そんな話をしている彼女たちを見ているウマ娘たちがいた。
呆れるリトルココンと苦笑するビターグラッセ。そして。
「今日は負けない」
「ココンとグラッセだけじゃないからね!」
タヴァティムサとミニベロニカだ。
チーム<ファースト>からなんと4人も中距離部門決勝にたどり着いている。
単純に強いのもあるが、それ以上に強運。4人とも被らなかったのだから。
それぞれみんなで盛り上がっている中、ゲートインの時間になる。
ゴールドシップがいると常に姦しい。ただ、多くのウマ娘が好意的に見ているが。
彼女のおかげで緊張が取れて自分の力を出せるからだ。レース中は圧が強すぎて困るけどとは多くのウマ娘たちの弁。
各々がゲートインし完了。ついに出走となる。
グッと腰を落とし、スタートダッシュの体勢へ。
『各ウマ娘、ゲートイン完了。まもなくスタートです』
――ガタンッ
『スタートしました! 全員快調な滑り出し! まずは6番ダイタクヘリオスと12番メジロパーマーが前に出る! 1番ゴールドシップはするするっと後ろへ下がっていきます!』
好スタートを切ったダイタクヘリオスとメジロパーマーは、いつも通り爆逃げ体勢へ。
グングン前に出ていく彼女たちに観客たちは声を上げる。
爆逃げは爽快なのだ。本気で勝つために、ハナを譲らない全力全開の逃げ。ウェイウェイランドを開園させていざ爆逃げ!
一方ゴールドシップはメジロパーマーたちの先駆けを見て流れるように最後方へ。
いつものかと誰も気にせず隊列を作っていく。ハッピーミークとビターグラッセは先行集団の先頭へ。タヴァティムサはその後ろを陣取る。
ナイスネイチャとリトルココンはバ群後方で差しの構えだ。最後方でゴールドシップの少し前をミニベロニカが陣取る形。
『メジロパーマーが先頭を取りましてそのまま進んでいきます。ここで順位を――』
――ゴールドシップ!
実況解説はバ群が整ったと思い順位を説明しようとする。
しかしゴールドシップが耳をピクリと動かし、ニィっと笑って最後方から一気に駆け抜けていく!
『ゴールドシップが後ろから前に出ていきます! 早すぎるぞ!? まだ第1コーナー前です!』
「は!?」
「え、なになに!? どゆこと!?」
最内枠で最後方に移動したと思ったら大外からグングン伸びていく。
意味の分からない動きで進出してきたゴールドシップにリトルココンとナイスネイチャは混乱する。ミニベロニカに関しては驚いてリアクションすら取れない。
周囲の動揺へ意にも介さずどんどん進んでいくゴールドシップ。メジロパーマーが第1コーナーに差し掛かるところで、ハッピーミークとビターグラッセの横についた。
「……すごい」
「相変わらずだな!」
『えー、一気に順位が変わりましたが、振り返っていきましょう。第1コーナー入りましてまず先頭は12番メジロパーマー、隣に6番ダイタクヘリオス。2バ身離して4番ビターグラッセ、並んで14番ハッピーミークと1番ゴールドシップ。後ろに2番ダヴァティムサ、並んで9番リードサスペンス、すぐ後ろに13番ランツクネヒト。1バ身程離れて7番リトルココン、8番ナイスネイチャ、少し離れて16番フリルドバナナ、17番ジュエルルビー、後ろ5番ナーイリズム苦しい形。そして18番スノーフロスト、3番フルートリズム、10番タウンハングアウト。最後方に11番ミニベロニカと15番ラピッドビルダーです』
先行差しが多く、逃げウマ娘は爆逃げ2人。
この場合ペースメイカーは先行集団の先頭、つまりビターグラッセが担う。
メジロパーマーたちの爆逃げは凄まじいもので、潰れると思って放置すると逃げ切られる。
しかし、付いていくとペースが速すぎてこれまた潰れてしまう。
何が正解なのかわからないし、結果がどう出るかもわからない。
ならばどうするか。
「根性でいくぞ!」
自分の走りをするだけだ。
ビターグラッセは樫本トレーナーからの指導をもとに、どれだけのスピードで走れば最速で走れるかを計算。
それに合わせてペースを変更し、ドンドン脚を回転させていく。
阪神の序盤で速いペースにするのは危険ではあるが、スタミナとパワーを持たせる自信がある。ビターグラッセは後ろを少しだけ確認してひた走る。
『さあ向こう正面に入った! 爆逃げのメジロパーマーとダイタクヘリオスは思ったより離せていません!』
『ビターグラッセのペースが速いのでしょう! しかしこれは全員がバテるかもしれませんよ』
爆逃げコンビとビターグラッセたちの差は3バ身から4バ身ほど。
以前メジロパーマーが勝利した宝塚記念ではもっとタイトなバ群だったが、それでも中々引き離せなかった。
これはもうスタミナ勝負だと覚悟を決め、相棒の太陽と共に第3コーナーまで一気に駆け抜けていく。
全員がどこで仕掛けるのかを考えながら走る中、向こう正面を過ぎていく。
第3コーナー。阪神レース場はここからが肝。
最初に動き出すのは誰なのか。
走っているウマ娘たちも、見ている観客も。
誰もが気を張り詰めながら、勝負所へと駆けていくのだった。
阪神とゴールドシップ……来るぞ遊マ!