ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯   作:あぬびすびすこ

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 面白くなってきたぜッ!


48、不沈艦、抜錨!

『メジロパーマーとダイタクヘリオスが第3コーナーに入りました! 久々勝利、メジロパーマーがいくか! チーム<ファースト>が悲願の優勝を果たすのか! それともグランプリ連覇のゴールドシップか!』

 

 ついに仕掛けどころがやってきた。

 メジロパーマーは後方に意識を向けながら爆逃げを続けていた。そしてコーナーに入ったところで、ほんの少しだけ脚を緩める。

 それ故に、口を開けて笑いながら突っ走るダイタクヘリオスがバイブスぶち上げのまま前に出てしまう。

 

「ふっ!」

『リトルココンが仕掛けた! 持ち前の驚異的なスタミナでロングスパートだ!』

 

 メジロパーマーがコーナーに差しかかったところで、最初に仕掛けたのはリトルココンだった。

 ダイタクヘリオスが前に出たのを確認して進出したのだ。

 

 爆逃げコンビはどうしてもダイタクヘリオスがスタミナで一歩……いや二歩三歩劣る。

 というか何故マイラーの彼女が中距離に出てきているんだとリトルココンは思っていたが。

 ともあれ、爆逃げで張り合う時にスタミナを考えるのはメジロパーマーで、ダイタクヘリオスは関係ないとばかりに突っ走る。マイラーなのに。

 だからこそ、ダイタクヘリオスが直線前で先頭に行くときは、メジロパーマーが脚を溜めたい時なのだと推測していた。

 

 同じようにスタミナで思いきりすり潰す走りをするからこその考え。ならば、追いつくための狙い目はそこだ。

 リトルココンは自分の考えと心中する覚悟で思いきりスパートをかけていく。

 

「すぅー、ふぅーっ! よし!」

『メジロパーマーとダイタクヘリオスはまだまだ爆逃げ! ここにきて後続との差が詰まりません!』

 

 リトルココンの推測は半分当たっていて、半分間違っていた。

 脚を溜めたいのは事実。しかしそれ以外に、リトルココンとゴールドシップというスタミナお化けを釣り出す作戦でもある。

 今回の決勝でスタミナ勝負をかけるウマ娘が多すぎるのだ。その場合だと、長く脚を溜めておける差し追込が有利になってしまう。

 

 ならば逃げと同じようにスタミナを使わせる。

 そのために、コーナーで脚を溜める動きをすることで速めにスパートをかけさせることで、距離を詰める動きを誘発させよう。

 トレーナーと考えた渾身の作戦だった。それにリトルココンは引っかかったのだ。

 誤算があるとすれば、この程度ではリトルココンのスタミナが切れないということだが。

 

『リトルココンが順位を上げていきます! 現在先行集団の中ほど、6、7番手まで来ています!』

『このロングスパートでも最後まで走り切ってしまうでしょうね。脚を使い切るにはいいタイミングだったかもしれません』

 

 緩いコーナーのため、負荷も少なく順調に上がっていくリトルココン。

 先頭の2人が第4コーナーに入るところで、ゴールドシップやビターグラッセが圏内に入った。

 

 まだ動かないのかと思いながら一度息を入れようとダヴァティムサの隣でペースを落とすと、ドォン! という爆発音が。

 何事かと思って音がした前を向くと、ギラリと目を光らせたゴールドシップが爆音を鳴らしてスパートをかけ始めた。

 

『ゴールドシップが行きました! ついに動き出した黄金の不沈艦!』

「ココはアタシの場所だぜ!」

 

 一気にグン! と前に出ていくゴールドシップ。

 ビターグラッセは足音を聞いて、ブロックするため体を外に出そうとする。

 

「なんだぁ?」

「うわっ!」

 

 しかし想定以上に大外から進出していたため、併走しに行くような形になってしまう。

 何故こんなに外に? ビターグラッセは不思議に思ったが、ゴールドシップの歯をむき出しにした笑みを見てぶるりと震える。

 読まれていた……! 視野の広さに思わず慄く。

 

 だがビターグラッセとてブロックするためだけに外へと出たわけではない。

 自分も同じようにスパートをかけていくために動き出したのだ。

 

「勝負だ! ゴールドシップ!」

「いいぜ! ついて来いよな!」

 

 目を合わせた2人は互いを利用し合い、闘争心をむき出しにしてグングン加速していく。

 急激に足音が近づいてくることに気づいた爆逃げコンビは、ついに来た! と思わず笑みを浮かべる。

 

「ここからだよね!」

 

 メジロパーマーは最終コーナーを曲がりつつ、まだまだ私の時間だと楽しそうに逃げていく。

 しかし相棒は楽しそうに笑いながらもズルズルと落ちていく。

 距離適性。ダイタクヘリオスは中距離も走れるが本質的にはマイラーなのだ。ここが彼女の限界だった。

 

「パーーーマーーーーーッ! 勝っちゃえーーーー!!!」

 

 苦しそうにしながら、コーナーで耐えきれずに大外へと振られていくダイタクヘリオス。ズッ友と一緒にレースで走りたかったから、中距離で頑張ってきたのだ。

 メジロパーマーは彼女の声を聞いて、ズッ友のためにも! とさらに奮起する。ここからが、メジロパーマーの真骨頂なのだから。

 

『ダイタクヘリオスが下がっていきます! よくここまで走りました!』

「最高だぜヘリオス! でもゴルシちゃんが勝っちまうからな!」

「次はマイルでも勝負しよう!」

「はっ! はっ! ゴルシも、グラッセも、がんばれーーっ!」

 

 落ちていくヘリオスに声をかけながら、ゴールドシップとビターグラッセは一気に抜かしていく。

 後続のウマ娘たちもヘリオスに声をかけたり、目を合わせたりして健闘を讃えながら最後の直線へと駆けていった。

 

『最終コーナーを抜けて最後の直線へ! 仁川の舞台はここから坂がある! ハイペースで進んだこのレース! この坂を上り切るのは誰か!』

 

 メジロパーマーがついにコーナーを抜けて最終直線へ。

 上り坂が鬼門ではあるが、スタミナと根性で一気に駆け抜けようと、最後の力を振り絞って爆逃げしていく。

 後続との差は3バ身程。セイフティーリードとは言えないが、それでもかなり距離を稼げている。

 

「はああぁーーーッ!」

「面白くなってきたぜッ!」

「行くっしょ!」

 

 しかし後方から凄まじい勢いで加速してくるビターグラッセとゴールドシップ。そして2人の後方から仕掛けたリトルココン。

 注目株の3人が一気にメジロパーマーへと殺到する。

 

『メジロパーマー粘っている! しかし後続のビターグラッセとゴールドシップが一気に差を詰めているぞ! リトルココンも後ろから来ている!』

「アタシもいますよっ!」

「……!」

 

 続いてしっかり脚を溜めていたナイスネイチャがコーナーからの下り坂を利用して一気に前へと出ていく。コーナーでの加速はお手の物で、状況判断などの技術力もピカ一。最短ルートで真っすぐ進んでいく。

 ハッピーミークもじっくり溜めた脚を爆発させる。ゲートコーナー直線全てにおいて優秀な彼女、下り坂からの展開もまたお手本のように走る。

 2人にとっての勝負は、スタミナが切れた後の上り坂。前を走る4人よりも溜めてある脚で一気に抜き去るのだ。

 

『メジロパーマー逃げ切れるか! ついに上り坂! ここを駆け上がれば栄光までもう少し!』

 

 残り200m。パーマーは残り2バ身まで詰められながらも、ついに上り坂に到達した。

 足を踏み入れると、一気に体が重くなる。脚も腕も、まともに動きやしない。

 最初からずっと爆逃げしてきたのだ、脚以外の負荷も尋常ではない。しかしここでヘロヘロにならないのがメジロパーマー。

 

「はああああぁぁーーー!!」

 

 腕も脚も前に出ないなら頭でも胸でもなんでもいいから前に出す! 全部だめならウマソウルもだ!

 根性で延々と続くような坂を駆け上がる。まさしくメジロパーマーの走りだった。

 

 ビターグラッセとリトルココンは、メジロパーマーの走りに感心していた。

 凄まじい勝負根性だと。伊達ではないと。

 しかし自分たちも負けていない。ビターグラッセとリトルココンは、ここから一気にと腰を落とす。

 そして思いきり踏みこみ、一陣の風となって一気に駆け上がっていく。

 

『ビターグラッセとリトルココン! 一気に上がっていきます! 凄まじい末脚ッ!』

 

 メジロパーマーとの差はグングン詰まっていく。

 一気に抜かしてやる! 持ち前の根性とスタミナで駆け上がり、勝負を決めに行こうと思っていたところで。

 

 ――ゴールドシップ! ぶちぬけーーーーッ!!!

 

 ゴール前から大声が聞こえてくる。

 そして、後ろから笑い声と――爆発音。

 

『ゴールドシップきた! ゴールドシップ来たッ! 上り坂で一気に加速する! すごい速さだ!』

「なっ!?」

「ッ!」

 

 外からゴールドシップが飛んできて、一瞬で抜かされる。

 自分たちが止まっているのではないか。そんなレベルのスピードだ。

 思わず目を見開いてその背中を見てしまう。

 

 アオハル杯の時も、模擬レースの時も。

 こいつはこんな速さなんてなかった!

 共に走った経験から、末脚ではなくスタミナで潰しながら走ると思っていたのだ。

 

 それはまた半分正解で半分間違い。

 ゴールドシップは確かにロングスパートでスタミナ勝負に差せたうえでそのまま押し切る走りをすることが多いし、実際そういう走り方だ。

 しかし後半の末脚もある。しかもかなりのスピードだ。

 

 確かにアオハル杯では後半伸びていない。全部のレースがそうだ。

 しかしそれには明確な理由があった。

 

 ――フラストレーション不足。

 

 何を意味の分からないことを誰もが思うだろう。

 しかしゴールドシップにとって、レースで走りたいと思うその気持ちが一番大切なのだ。

 疲労がたまっているというのもあるが、そんなものゴールドシップが実践している超回復湯けむり温泉湯治で8割は回復できる。

 自分が勝ちに行かないのは作戦で他のウマ娘をメインにということもあったし、チーム戦がおもしろいからということもあった。

 

 だが、結局のところ。

 ゴールドシップが走らなかったのは()()()()()()()()のだ。

 

 フラストレーションというものはすぐに溜まるものではない。トレーナーはゴールドシップと無人島に行ったり山を駆けまわったり子供たちと遊んだりと、様々なことをしてゴールドシップの気持ちを整えてきた。

 それがアオハル杯の前、宝塚記念や有馬記念に向いていたということである。

 

 準決勝から1ヶ月という長い期間を経て、フラストレーションを溜めに溜めている状態だ。

 上り坂で体勢を低くして、一歩ごとに爆音を奏でながら何度でも加速していく、正しく不沈艦。

 これがゴールドシップなのだと。見ている全員に思いきり叩きつけてくるのが破天荒ウマ娘なのだ。

 

 気持ちを整えること。面白いレース展開にすること。

 ゴールドシップを本気にさせるために、トレーナーが行っていたことだ。

 そしてそれが全て合致した時。

 

 誰にも止められない超弩級戦艦となる!

 

「おっしゃああーーーッ!!」

『ゴールドシップが一気に追い抜かす! メジロパーマー粘るが並ばれた! 並ばない! ゴールドシップが抜け出した! ハッピーミーク伸びないか! ナイスネイチャ伸びているが追いつかない!』

 

 先ほどまで必死にメジロパーマーを追いかけていたのが嘘のように、たった1人飛び抜けていく。

 あのハイペースで走っていたというのに、ここからさらに伸びるのか! ビターグラッセもリトルココンも想定以上の走りを見せられて思わず悔し気に息をもらす。

 

「はああぁーー!!」

「根性ッ!」

『リトルココンとビターグラッセも上がってきた! メジロパーマーを抜かして残り100m! 届くか! 届くか!』

 

 負けん気と根性で坂を上り切り、メジロパーマーを追い抜いてゴールドシップに肉薄する。

 しかし抜け出したゴールドシップは楽し気に笑うと、さらにグン! と加速した。

 

「オラァーーッ!!!」

『ゴールドシップがさらに伸びる! とんでもないウマ娘だ! ゴールドシップが伸びる! ゴールドシップが伸びる! 強ォーーいッ!!!』

 

 一気に抜け出したゴールドシップはリトルココンたちが上り坂から体勢を整る前にそのままゴールイン。

 中距離部門で最も強いウマ娘に輝いた。

 

『ゴ・ル・シ! ゴ・ル・シ!』

「イエーイ! ピスピース!」

 

 ゴルシコールが起きる中、ビターグラッセは息を整えていた。

 楽しそうにピースしながら走り回るゴールドシップを見て、思わずため息を1つ。

 

「あれだけ、ハイペースで走ってたのに……すごいな……ッ!」

「ふぅー! あれがゴールドシップなんだよ」

 

 汗を拭いながら肩を叩くメジロパーマー。

 すごいスタミナとパワーだよねと話す彼女も、そこまで息が切れていない。

 リトルココンはこの人も大概だなと思った。

 

「くうぅ……あー! 悔しい! 悔しい!」

 

 ビターグラッセは一息つくと、頭を抱えて叫び出す。

 明らかに強い勝ち方を目の前でされて相当悔しかったのだろう。

 ファンサービスをしているゴールドシップのところに駆け寄っていった。

 

「ゴールドシップ!」

「あん?」

「いい走りだった! おめでとう! でも次は負けないからな!」

 

 そう言ってそのまま走り去ってしまった。

 忙しいやつだなとゴールドシップが背中を見ていると、リトルココンも歩いてくる。

 

「ココンじゃねーか。どうだ、面白かっただろ!」

「負けたのに面白くないだろ……まあでも、いいレースだった」

 

 腕を組み、少し不満そうにする彼女だが、ゴールドシップはニコニコしている。

 

「ま、アタシはおめーらと走れて楽しかった! またアツいレースしようぜ!」

「次は負けないから。アオハル杯でも、個人でも」

 

 互いに再戦を誓って頷き合う。

 すると、リトルココンが少しだけ恥ずかしそうに俯く。

 

「ゴールドシップ」

「ん?」

「優勝、おめでと」

「……へへっ、おう!」

 

 拳を突き出すゴールドシップに、笑みを浮かべて拳を当てるリトルココン。

 URAファイナルズ中距離部門は、ゴールドシップの優勝で幕を閉じたのだった。




×疲れ
○気持ち

 疲れとかケガの心配はあるものの、一番は走るためのフラストレーションが足りないので勝ちにはいかなかったのでした。
 プレシーズン1戦目ぐらいはちゃんと走ってましたが、ジュニア級ではレースが年2回ぐらいでしたからね……。

 本日は完結まで連続投稿しますの
 次話は18:00予定
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