ゴールドシップとの3年間 in アオハル杯 作:あぬびすびすこ
「中山の直線は短かったぜ……」
そうだな……。
ゴールドシップと中庭のベンチに座りながら空を見上げる。
みんなとチームトレーニングをしたりゴールドシップに連れられて大海原を渡ったりしていたらすぐに年末になってしまった。
黄昏ているのはトゥインクル・シリーズで出走登録をしていたレース、ホープフルステークスに参加したからだ。
『中山の直線は短いぞ』というフレーズはよく聞く実況だし、実際そうだとわかっていたが本当に短かった。
思わず2人で思い出してしまうぐらいには。
「おや? ゴールドシップさんとトレーナーさんじゃないですか」
「なんで黄昏てるの……?」
「知ってるかおめーら。ナカヤマはモツ煮が好きなんだぜ」
揃って首を傾げる2人。
今のナカヤマは中山ではなくナカヤマフェスタの話だろう。
なかやまが渋滞を起こしすぎている。
「なかやま……? あ、この前のホープフルステークスのことですね!」
「ジュニア級GⅠの……なにかあったんですか?」
いやね、中山レース場の直線は短かったなと思って。
ゴールドシップと目を合わせ、持っていた暖かいお茶を1口飲む。
「確か1着だったわよね?」
「そうですよ~! なんでアンニュイな雰囲気なんですか!」
「あん? 寒いから打ち上げられたオットセイみてーにボケッとしてんだよ!」
「動かないともっと寒いと思うんだけど……」
ホープフルステークス自体は1着だった。
正直ジュニア級では負ける気がしないぐらいの強さを誇っているからな。
既に体がバッチリできあがっているし、スズカやフクキタルのようなGⅠウマ娘たちと一緒にトレーニングも行っている。
アオハル杯のおかげで先輩トレーナーたちのノウハウを少しずつもらえているおかげで技術力も身につけているからな。
ジュニア級のウマ娘を育成する上で有用なのではと感じるところがあるレースだった。
「ところでトレーナーさん! もうそろそろ最初のプレシーズン戦が始まりますよ!」
フクキタルにそう言われてはっとする。
アオハル杯のプレシーズン戦は6月末と12月末。
ついにその第1回目のチーム対抗戦が始まろうとしているのだ!
「私たちは今のところ30位みたいですね。エアグルーヴに聞いたら低いなって言われました」
俺たちのチーム<STAY GOLD>は30位からのスタートだ。
何故低いのかというと、申請が遅かったから査定が間に合わずチーム評価が低くなってしまったということらしい。
たづなさんと樫本理事からは現段階で総合力は上位のチームだと言われている。
ここから順位をあげてくださいと話されたので、しっかりと対抗戦を勝ち上がっていきたいところだ。
「どのチームと対戦することになるんでしょう?」
「決まってんだろ! アタシは許せねーやつがいるんだ!」
そういってゴールドシップはビシッと遠くを指さした。
視線を向けた先にいたのは、こちらを見て驚いているマックイーンとテイオー。
「裏切り者はマグロ漁船に連れてくって昔から決まってるからな!」
「どういうことですの!」
いつもの理不尽に対して遠くからお怒りの声が聞こえてきた。
マックイーンとテイオー率いるチーム<ガンバルゾ>との対戦を所望しているようだ。彼女たちは確か24位とかだった気がする。
こちらとしても初戦としては丁度いい順位の相手だしいいんじゃないかと思う。
「テイオーとマックイーン……」
「スズカさんは同じチームでしたよね?」
スズカが少し上を向いて何かを考えるような仕草をする。
フクキタルが言うように、3人は癖毛の先輩が担当しているウマ娘だ。
全員大スターのチームなのに好き勝手チームを作らせているのは相変わらずだなぁって感じ。
「ターゲットは決まったな! じゃ、アタシは狙撃の場所探してくるわ」
軽い挨拶をしてスタスタとどこかへ行ってしまった。
狙撃するんですか!? とフクキタルは驚いているが、まあいつものことだからな。
チームとしてどう走るようにすればいいか、困惑する2人を前に考えこむのだった。
◆ ◆ ◆
アオハル杯用に与えられた部室へみんなを集めて作戦会議を行う。
まず決めるのは誰がどの距離に出るのかだ。
「ワタシは短距離デスネ!」
「私はマイルかしら」
「中距離は私ですね~!」
「ら、ライスは長距離がいいな」
「ダートはわたしにまかせて!」
ホワイトボードに書き込まれたものを見てそれぞれが声を上げる。
タイキが短距離、スズカはマイル、フクキタルは中距離、ライスは長距離、ウララはダートだ。
ゴールドシップとデジタルだけは名前を書かずに残してある。理由は適正だ。
デジタルはマイルと中距離を得意とするうえ、ダートも走ることができるオールラウンダー。
ゴールドシップは走りの関係上長距離が得意なように見えるが、実際は中距離向けの体つき……と、本人から言われている。
つまり、2人をどこに入れるかが今回のポイントだ。
といっても、ゴールドシップは決まっているんだけど。
「アタシは長距離にいくぜ!」
マックイーンと走るために長距離で走ることを宣言する。
ケガ前で戦ったら確実に負けていたと思うが、今は屈腱炎から回復してリハビリ中。体を元の状態に戻す作業をしているところだ。
それならばきっといい勝負になるはず。まあそもそもマックイーンに勝利しているステイヤーがチームに入るわけなんだけど。
「が、頑張ろうね、ゴールドシップさん!」
「おう! きっちり走らねーとゴルシちゃんが追い抜いちまうからな」
「うん、ライス、走るよ!」
やる気をにじませるライスとゴールドシップ。
真に受けすぎるからライス相手だとすごい手加減して話すんだよなぁゴールドシップ。
リーダーというか面倒見がいいというか。
「でゅふふ……ゴルシさんの気遣いてぇてぇッッ」
さて、一番の問題はデジタルだ。
マイル、中距離、ダート。どれに出てもらうか。
……チラッとウララを見る。フンスフンスと鼻息荒くやる気を見せている。
うーん、どうしようかな。
ゴールドシップと目を合わせると、頭の後ろに両手を当てて薄く笑う。
「ま、いいんじゃーねか?」
そうだよなー、言うなら今だもんなぁ。
みんなが不思議そうにする中、俺はウララの前で膝をついて目線を合わせる。
「どうしたの、トレーナー?」
不思議そうに俺を見つめてくる桜色の眼。
よし、俺は今からかなりひどいことを言うぞ。そして後で先輩に怒られておこう。
――ハッキリ言うぞ。ウララはとっても足が遅い。
俺がそう言うと、場の空気が凍った。
ウララはきょとんとした表情で俺を見ている。
――ダートで走るのがウララだけだと勝てないんだ。
「トレーナーさん! あんまりですよ~!」
「そ、そうですよ! ウマ娘ちゃんを悪く言うならこのデジタル、容赦しません!」
フクキタルやデジタルが声を荒げるが、ゴールドシップがじっと見て黙らせる。
俺は改めてウララを見ると、少し悲しそうにしていた。
――ウララはさ。みんなで楽しく走るのと自分が勝つの、どっちがいい?
そう聞くと、両手を頭にあててうーんうーんと俯いて考える。
悩んでいるウララが答えるまで、俺は喋らずにずっと待つ。
「えっとね、えっとね。わたし、みんなといっしょに走りたい」
「それでね、みんなで勝ちたいんだ」
自信がなさそうに答えた。
みんなで楽しく走って、みんなで勝ちたい。どっちもがいいと、そういうことだろう。
――ウララはチームで、みんなで勝てばウララは1着じゃなくてもいい?
「うーんと、えーっと」
また頭を抱えてしまうが、ウララは顔を上げてハッキリと言った。
「わかんない」
思わず全員ずっこけてしまった。
えへへ、と笑い、そして答える。
「でもね、みんなで走って、それで1着だったら、もっと嬉しいな!」
ニッコリ笑って答えるウララ。
がんばって考えて、自分も勝てればいいなと思ってくれたようだ。
前は楽しく走りたいってだけ言ってたらしいから、先輩はものすごい頑張って心を育てたんだろうなと感動してしまう。
――じゃあ、俺はウララが1着をとれるようにたくさん教えるからな!
「うん! わたし、がんばるからね! みんなで走れば、負ける気がしないもん!」
ぎゅっと拳を握るウララ。
みんなもうん! と力強く頷いた。
本当はデジタルをダートに入れようかと思ったけど、スズカと一緒にマイルへ行ってもらう。
デジタルも頼んだぞ。
「あたしはお弁当の隅にある添え物のような存在として頑張りますので!」
フンスと気合を入れて脇役になろうとするデジタル。
一応、君は物凄い強いマイラーなんだけどなぁ。
「今度のレースは盛り上がりそうだな! 熱く燃えたがってきたぜ!」
よっしゃー! と机に脚を乗せて燃え上がるゴールドシップ。
みんなもがんばるぞー! おー! と拳を上げて闘志を燃やした。
プレシーズン戦の初戦、いいレースが見れそうだ!
ゴールドシップ以外はおおよそストーリークリア後のイメージなので、ウララは勝ちたいなって気持ちをきちんともってます
トレーナーはそんなこと知らないけど、ウララに勝ってほしいから真面目に確認したのでした