「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ 作:カフェイン中毒
ガンプラ、と聞くと日本人のだいたいが大なり小なりピン、と来るだろう。例えば「ああ、ロボットのプラモデルでしょ?」とか「ガンダムのおもちゃね」とかだ。はたまた「それはホビーとしてかそれともRX78-2のプラモデルの事か?」なんて言う人もいるかもしれない。まあ巨大企業財団B社が製造しているプラモデルの事だと言えばだいたいあってることと思う。そう、ガンダムだ。今もなお新作アニメが作成され、最近では連邦に反省を促すアレがミーム的な意味でムーブメントを引き起こしたあれだ。
まあそんなことはどうでもいい。重要なことじゃない。いま、自分に与えられた部屋の中、木製の多機能な勉強机の上でなかなかハイスペックっぽいデスクトップパソコンを前にして絶望に打ちひしがれ、頭を抱えながらとある事象を前にして茫然自失としている俺にはすごくどうでもいい話だ。
「なぜ…なんで…どうして…この世界には…マクロスがないんだ…」
漏れ出すように口の端から怨嗟の声を吐き出しながら、俺ことサオトメ・アルトは目の前にある現実という名の絶望に打ちひしがれていた。
閑話休題、改めて状況を整理しよう。俺の名はサオトメ・アルト、意識を取り戻して3時間弱、肉体年齢は現在小学5年生、精神年齢は■■才の立派?な転生者だ。そう、転生者。こことは違う日本で、きちんと立派に生きていた記憶のあるいい年の大人だった。唐突に意識が切れたと思ったら謎空間に紙ぺら一枚でかくかくしかじかと事務的に転生するから(意訳)と書かれた手紙というか書類を読んで中身を理解した瞬間にこれだ。ちなみに調べものをした時間が1時間、他2時間は状況を整理するために利用していた。冷静じゃなかったともいう。落ち着いてすぐすることが好きなコンテンツがあるかどうかを調べることなあたり俺は動揺してるようだ。うん、落ち着かねば。
で、読んだ書類の内容を思い出す限り、俺は死んだこと。たまたま目についたから君に決めただけだということ、この世界は「ガンダム」と名の付く作品の中のどれかということ。あんまりこっちの勝手で振り回すのもアレなので手先めっちゃ器用にしてあげるよ!後は自由に人生エンジョイ!(超意訳)である。適当か!適当っぽいな!くそう、ガンダムの中のどれかってことはあれでしょ?戦争あるんでしょ!?いやだ死にたくない!一応死んでるらしいとは言え死にたくなぁい!!!となったのが1時間前、そして目の前にあるパソコン、つけてみれば日本語、浮かび上がる疑問。
恐る恐るロックのかかってないパソコンを操作してインターネッツで検索をかけてみる。そうするとここは日本で、特に戦争もなく、ガンダムが大人気で、ガンプラが社会現象を起こしてて、ガンプラで戦う?という遊びがやばいレベルで浸透しているというのがわかった。プ、プラモデルが動くんですか?そういえばそんなガンダムアニメがあったような…たしかガンダムビルドファイターズ…だったような…?名前だけしか知らないけど。よ、ようはガンダムの中でも戦争がない世界の話だった…気がする。確証はないけど。でも、調べる限り戦争のせの字もないし、安全っちゃ安全…か?
これを40分くらいで調べ終えて、検索するたびあまりにもガンプラだのガンダムだのが出てくるもんでイラッとした俺は社会人になってからも唯一追いかけてきたコンテンツであるマクロスシリーズ…、超時空要塞マクロスをはじめとしているガンダムとはまた違ったロボットアニメ作品群が存在するかを調べてみたのだ。なかったらなかったで俺の精神がやばいし。で、調べてみた結果、マクロスのマの字どころか存在も何もなくなってました、と
なんでだよおおおおおおおおおおおお!!!ガンダム作品だからガンダムが人気なのはわかるよ!そうだよ!そんなん作品として当たり前だよなあ!?でもさ、でもさあ!版権的に存在しえないからとはいえほかのロボアニメが細々と存在している中ガンダムに次ぐ人気(個人の感想です)を誇るマクロスだけがハブられてるのは納得いかねえよ!いいじゃんあったって!なんでないんだよ!俺の精神は崩壊寸前だよ!
「うぅ…板野サーカスが見たい…マクロスのライブシーンを無限リピートしたい…フロンティアを一気見したい…できない…くそう!」
正直今転生した事実を認識した時よりもダメージを受けているかもしれない。既に椅子から転げ落ち床でゴロンゴロンと転がって悲しみを表現する。壁にゴツンと頭をぶつけて上にある本をしまってあるらしいラックからどさどさと本が落下して俺に降り注ぐ。余計悶絶した俺がいったん冷静になって顔の上にある雑誌をどけて起き上がる。その時、思わず手に持った雑誌をしげしげと見つめる。ガンプラを前面に押し出したホビー雑誌だった。怒りが再燃した俺はそれをスパァン!と床にたたきつけ、たところでピンときてもう一度その雑誌を拾い上げる。タイトルは「これで君も上級ガンプラビルダー!フルスクラッチの手引き!」そっか、そうだよ。まだ希望はあるじゃないか!
「ないなら…作ればいいんだ。フルスクラッチで、マクロスを…バルキリーを」
「アルト!やかましいわよ!」
「ご、ごめんなさいいいい!!!」
あんまりにもやかましくいろいろやってたためかこの体のお母さんがやってきてめっちゃ怒られた。余談だけどぶつけた頭は見事なたんこぶになりましたとさ。
そんなことがあってから1週間、この世界にある程度順応、と言っても右見ても左見ても、ついでに上見ても、おまけに下見てもガンダムがいっぱいなこと以外前の世界と変わらないので慣れるというのも変な話だけど。それで、俺はこの一週間、小学校に通って居眠りをしつつ家ではちょっとした実験を繰り返していた。具体的には器用にされたらしい体の性能を確認したのである。で、結論なんだけど・・・器用というひとくくりで表していいのかわかんないくらいの器用さだった。手がイメージ通りに動くんだ。普通じゃね?と思うかもしれないけど、例えばイメージでリンゴの絵を描きたいとする。実際に手を動かすと必ずどこかでイメージからずれるハズだ。頭に浮かんだものと実際に書いたものって全然違うでしょ?それがこの体にはない。それはもうとんでもなく精巧かつイメージ通りの絵が書きあがる。それも超高速で。
正直これは大変助かる。プラモデルを作る以上器用なのに越したことはない。しかもそれがパーツから自作するものならなおさら。そして学校の休みである今日、お母さんから軍資金をもらった俺は早速だけど材料を買いに近くにある模型店の「イオリ模型店」に向かうことにした。
「いらっしゃいませ~」
女性の店主さん?なのかわかんないけど店員さんの挨拶に軽く会釈を返して積みあがってるガンプラには目もくれずにお目当ての商品を探す。あったあった。プラ板に代表されるフルスクラッチ用の材料の数々!工具はお父さんのものを借りれるようにお願いしてみたらお古をくれるって言ってた。お父さん昔から模型が大好きらしくてガンプラを中心にいろいろ組み立てるみたいだし、何とかなるなる!いや、何とかしなければならない。俺はこの世界で動くバルキリーをどうしても見たいんだから。
「これと、これと、これ。塗装は後回しかなあ…。コトブキ屋さんがポリキャップとか武器系のパーツ出してくれててよかったあ…ミキシングすればガンポッドになるな。あとは白のプラ板を」
「ねえ、君。そんなにプラ板ばっかりもってどうするの?」
「うわっびっくりした」
「あ、ごめんなさい」
真後ろからいきなり話しかけられたためびっくりした俺があわあわと商品を落としそうになりながら振り返ると俺と同じくらいの年齢の少年が不思議そうに俺とプラ板を見ていた。まーそうだよね、キットを無視して材料ばっか見てるもん。不思議だろうなあ。
「改めてごめんね?僕はイオリ・セイっていうんだ。お母さんが呼んでたから降りてきたんだけど、君が何してるか気になって…」
「え、あ、うん。俺はサオトメ・アルト。実は、フルスクラッチってやつに挑戦してみたくてさ。材料かき集めてたんだ」
「フルスクラッチ!?すごいじゃないか!ガンプラ歴は長いの!?」
「いや、ガンプラ歴は全く」
「え?それでフルスクラッチってなんで…?まずはキットからするのが普通だと思うよ?」
「あー、作りたい機体がガンダムとは全く関係ないし、キットが出てるようなものでもないから」
「そうなんだ…?」
心底不思議そうに俺を見るイオリくん。そりゃそうか、一週間しかこの世界にいないけど、プラモデルといえばガンダム、ロボットと言えばガンダム。それ以外は車とか戦闘機が細々と見たいな感じだからガンダムと全く関係ないものを作ろうとする俺は異端そのものだろうな。
「イオリくんは、ガンダム好きなの?」
「うん!ファーストから始まって全部見てるんだ!いつか、僕もお父さんみたいに自分の機体でガンプラバトルをする!それが今の目標、かな」
「そうなんだ。俺と一緒だね」
「一緒?」
「俺も、自分でフルスクラッチした機体を動かしたいっていうのが今の目標。だから、イオリくんと一緒、かな?今後も来ると思うから仲良くしてくれると嬉しいよ」
「う、うん!僕も仲良くしてくれると嬉しいな」
思いがけず友達が増えることになった。イオリくんとは小学校は違うみたいだけど、この模型店は品揃えいいししばらくお世話になることだろう。今日はこのプラ板とその他もろもろを買ってお暇しようかな。というか正直うずうずしてる。早く帰って設計図を書いて加工を始めてしまいたい。前世で穴が開くほど設定資料集を読み込んだかいがあった。変形プロセスからデザインから何から何まで俺の頭に焼き付いているし、そのイメージがあれば正確な設計図をこの体は描くことができる。実際に前世で組み立てたプラモデルや超合金シリーズも遊びまくったのでイメージに不備はない、はず。
そのあとイオリくんとは多少、ガンダムの話をして会計をして家に帰った。というかイオリくんガンダムの知識すごいな!?俺全然ついていけなかったよ。でも話し上手だね。説明も上手だし、話してて全然飽きなかった。帰り際にイオリくんのお母さんらしき店員さんから「セイのこと、よろしくね」と言われたのでとりあえず頷いておいた。彼とは正直、仲良くしたい。それよりも!設計図からだ!やるぞおおおおお!!!!
「で、できた…!完璧だ!苦節半年…長かった!」
もうすぐ夏が終わる、という頃に俺の努力の結晶は完成した。正直に言おう、フルスクラッチ舐めてた。いくら俺が器用でも、どうしようもないことがいくつもあったのだ。イメージ通りに手が動いても、イメージが追い付かないと容易く失敗する。バルキリーにはガンダムと違って曲線が多用されている。例えば機首とかがそうだ。フルスクラッチってことはその曲線も完璧に再現しないといけなかった。プラ板に熱を加えて曲げる、この作業を何百回と繰り返す。何百枚と板を犠牲にしながら。変形に必要な機構の自作や、模倣。しかも強度やバランスの計算までしないといけなかった。正直何度もガンプラのキットからパーツを抜き取って妥協しようかと考えた。けど、この程度で音を上げるようじゃ俺の望む物は作れないと、そう考えてなんとか踏みとどまり、パーツの自作を続けた。
それを繰り返していくうち、足ができ、手ができ、胴体ができ、機首ができ、武装ができ…毎日毎日コツコツと、俺のお小遣いとついでにお父さんの小遣いをすべてぶち込んでようやく、目の前の二つの機体が出来上がったのだ。
塗装も何もなく、真っ白だけど。そこには二つの可変戦闘機があった。シュッとしたスタイリッシュな戦闘機とずんぐりむっくりとした大き目の機体だ。それぞれ名前はVF-1「バルキリー」とVB-6「ケーニッヒ・モンスター」だ。バルキリーの方はマクロスという作品の象徴の一つだ。この可変戦闘機が、すべての始まりと言っていい。だから最初に作るのは、この機体がいいと思った。もちろん後発の機体に比べれば性能は低い。だけどマクロスのファンとして、この機体は一番に作るべきだと、そう思ったのだ。そしてもう一つ、可変爆撃機、ケーニッヒ・モンスターの方は完全なる趣味だ。というかこの機体、ほかのバルキリーと違って曲線が緩やかで練習にもってこいだった。機構は複雑だけどそれがまた燃えた。あとロマンがあってめっちゃ好き、というかレールキャノンが収納されてるときは推進装置になるってめっちゃすごくない?考えた人天才だよ。大口径主砲はロマンだし、しょうがないね。シャトルとも呼ばれるこの武骨なデザインもいいと思う。
「イオリ模型店へいこう。GPベースがあったし」
GPベース。プラフスキー粒子とかいう不思議な粒子でガンプラを動かせるようになるマシンだ。別にガンプラである必要はなく、プラスチックであるならいいらしい。だから、元はプラ板の塊であるこのバルキリーたちもGPベースの中なら動かせるはず。それにセイのやつにも完成の報告をしたい。ガンプラの作成技術においてあいつは俺の師匠のようなもんだ。キットではなくフルスクラッチとかいうあたおかな始め方をした俺と仲良くしてくれるいいやつだし、真っ先に完成報告をしたい。そうと決まれば善は急げ!
俺は完成したバルキリーとモンスターを梱包材を詰めたケースに入れて、バッグをひっかけ、母さんに挨拶だけして家を飛び出すのだった。
次回は早いうちに書きたいと思います。