「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ   作:カフェイン中毒

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その場では完璧だと思っても後から後悔することもある

 『カルロス・カイザー!強い!!圧倒的な強さをもって今!第六回ガンプラバトル世界選手権の頂点に上り詰めました!表彰式に移ります!』

 

 わあわあと歓声が鳴り響く。長かったようであっという間だった世界選手権もこれにて閉幕だ。優勝者はタツヤさんに引導を渡したカイザーさん。え?残ってたモラトリアムはどうしたって?特になんもなかったよ。ツムギと部屋でフルスクラッチ談議したり、ヒマリのクァドランを調整したり。ヒマリのアカペラでマクロス曲作ってみたりな。ちなみにツムギのご両親と会った。なんか、お父さんの方にえらい凄まれたんだけど、お母さんが意識を刈り取ったあとあらあらうふふと微笑ましいものを見るような目をして仲良くしてあげてねって言われた。なんか面白そうなおもちゃを見つけたみたいな視線も交じってる気がする。あ!イギリス式のお礼のことを訂正するように言うの忘れてた!お父さんのインパクト強すぎて…

 

 「すごかったな。やったからわかるけど15体同時操作って神業なんてレベルじゃないぞ…俺もまだまだだな」

 

 「私からしたら二人とも凄いんだけどね~」

 

 「…アルトも、すごい。私、同時操作やったことない」

 

 「やったらいけるんじゃねーのツムギは」

 

 というわけで今は帰りの新幹線の中、ツムギのご両親は別の席でイチャコラしてる。タツヤさんはPPSEの方に呼び出されてしまったので俺とヒマリだけで。別れ際これでもかとお礼を言って頭を下げてきた。ほんとこの2週間は短かったようで長かった。いろいろ濃厚すぎて俺の中で一生消えない思い出になるだろう。俺も猶更やる気が燃え上がった。来年世界選手権どうしよっかな~出れればいいな~。でも飛べれば満足だしまた観戦でもいいかも。そういえばセイのやつは世界選手権挑戦するのだろうか?

 

 「そういえば、アルトくんって中学校どうするの?普通に公立?それとも聖鳳学園?私は聖鳳に行くんだけど」

 

 「んー、どうしようかねえ。聖鳳でもいいんだけど私立だしなあ。でも学校のやつら結構公立のほう行くって」

 

 「私は、一緒に中学校行けたらなって思うんだけど…今まで一緒だったし」

 

 「…私も、聖鳳。アルトと一緒に中学校、行きたい」

 

 「ツムギはともかくヒマリは目覚ましが無くなるからな」

 

 「あーっ!言っちゃいけないこと言ったね!?アルトくんの意地悪!」

 

 俺の言葉に反応して両手をぶんぶん振り回して怒るヒマリをどうどうと落ち着かせながら俺は自分の将来がどうなるか考えるのであった。

 

 

 

 

 「ふーん、いいなーアルトは。世界選手権であんだけ目立っちゃってさ」

 

 「おーいやめろよセイ。今ご近所で噂になってんだからさ。肩身が狭いんだよ、あっちこっちでひそひそと」

 

 「じゃあでなきゃよかったじゃん。僕の気持ちわかる?いきなり親友が世界選手権実況番組に大画面で映った時の」

 

 「わっかんねーよ。あの時はこう、気分が高揚してだな」

 

 「スズカゼさんを巻き込んで?」

 

 「そうだけど!原因は俺だけど!」

 

 「父さんにアルトが可変機乗りだって隠してたのにそれでバレちゃったよ。隠しておいた方がいいだろうなーっていう僕の気遣い返して?」

 

 今俺はイオリ模型と繋がってるセイの家の彼の部屋でゲームをしながらだべっている。こいつが不機嫌なのは親父さんが予定を切り上げて早めに仕事に戻っていってしまったから。もっと長く一緒にいられると思ってたのを急な仕事が入ったということで早々に旅立っていってしまったお父さんへのいらだちをねちねちと俺にぶつけているのである。全くこいつは…

 

 「行かないでって言えばよかったじゃねーか」

 

 「…言えるわけないじゃん。小学6年生にもなって」

 

 「素直じゃねーなー」

 

 「アルトには言われたくないよ!」

 

 「おっ?俺はいつでも素直だぞ?」

 

 「そうだろうねこの飛行機バカ!」

 

 「そーだぜガンプラバカ。まあ土産話でも聞いてくれよ」

 

 デッドボールを投げ合う俺たち。画面の中でビームを撃ち合いながら俺たちは仲がいいからできるくだらない口喧嘩を延々と続けるのだった。あ、そうだ。実は選手権で会った学校のクラスメイトが実はとんでもねーヅダ使いでな…

 

 「え?何それ滅茶苦茶気になる!?あ、待って即死コン反対!」

 

 「隙を見せたな!ちなみにその内ここに連れてくるつもりだからよろしくぅ!」

 

 「それは御贔屓にどうもおおおお!!!?」

 

 画面の中では、俺のムラサメがセイのストライクを一方的にボコっていた。世界選手権の土産話を展開しながら俺はやっぱ男の親友と話すのは気が楽だわと勝手なことを思うのだった。そういえばセイのやつは聖鳳学園へ行くんだっけ。俺もそっちにしようかなあ。

 

 

 さて、今はこんなのんびりセイのやつとゲームなんてしてるが帰ってきた直後はマジで大変だった。まず駅、降りた瞬間にざわつく構内、何事かわからない俺とヒマリ、ついでにツムギ。ざわざわともしかしてとかそういう声が聞こえて、次の瞬間向けられるのはカメラ&カメラ。訳も分からず写真を撮られまくって、ヒマリとツムギをかばいつつ、ツムギのご両親の車に乗せてもらって帰ってきたのである。

 

 これはとんでもねえことになったぞと今さらながら自分のやってしまったことの大きさを認識した俺はとりあえず先にヒマリをと思い、ツムギとそのご両親にお礼を言った後別れて判決を待つ犯罪者のごとくヒマリの家に行った。ヒマリの両親にあった瞬間膝を折って土下座を敢行しようとした俺だったのだがむしろご両親は滅茶苦茶に褒めてくれた。

 

 なんで?と宇宙猫になった俺だがどうもヒマリは発表会とかで歌ったり演奏したりするとき緊張してしまって本来の実力を出せないでいたのだそうだ。え?待って俺何回か見に行ったけど普通に優秀賞とかとってなかった?俺の幼馴染凄いな…で、なぜかあの「愛・おぼえていますか」を披露したときはそうじゃなかったというのだ。俺の音楽に対する教養が低いので細かいことはわからないんだけど、ヒマリの本来の力を引き出して、大勢の前で歌えたことは素晴らしい経験になったはずだから、謝られるどころかこちらが感謝したいぐらいだと。

 

 いやでも不用意に公の場に彼女を引きずり出したことは俺の責任だし…って言ったらやりたいって言ったのはヒマリだろう?と完全に見抜かれてたので俺は白旗を上げたのである。ちなみにヒマリは思い当たる節があったのか話が進むたびにどんどん顔を赤くして最終的には自分の部屋に逃げ込んでしまった。ちなみに曲の出どころが俺というのもなぜか割れていた、鼻歌なんですよ~と誤魔化したらアルト君も音楽やらない?ヒマリも喜ぶよ?と熱烈プレゼンされた。ヒマリが話を聞いてたのか部屋から顔を半分だけ出して期待の目をしていたので断れなかった。俺が歌っても需要はないと思うんだけど…

 

 で、最後に俺自身の話。よくよく考えれば俺って世界選手権という文字通り世界中が注目してるイベントで明らかにガンプラとは異質なプラモデルを使って場をしっちゃかめっちゃかにした頭のおかしい小学生ってことになるんだよな?危険人物じゃん、俺。暫くバルキリー作成に注力して模型店に行くの控えようかな?バルキリー作成だけは何があってもやめないけど。だって俺のライフワークだし、目標だし。正直自分が今どんな扱いをされているかわかんない。怖すぎてエゴサもできねえや。まあ、街の人たちはそこまで突っ込んでこないからまだ大丈夫だけど。

 

 「あー、最近考えること多すぎだわー」

 

 「僕をのけ者にしたバチが当たったんだよ」

 

 「おい、行かねえっつったのお前じゃねえか。そら理不尽だぜ親友」

 

 「ほんとにね。あんなことがあったならついて行けばよかったよ!一人だけ満足そうな顔しちゃってさ!」

 

 装備を換装したソードストライクが俺のムラサメを両断し、HPがゼロになる。さっきから妙に不機嫌そうな顔をしているセイ、さてはこいつホントに寂しがってるな?はー、親友ってのも楽じゃないね。しょうがねえ、ここはひとつアルト様が一肌脱いでしんぜよう。

 

 「んだよセイ、妙に機嫌悪いじゃねーの。俺に不満でもあるのか?」

 

 「…だって、ずるいじゃないか」

 

 「ずるいだぁ?」

 

 画面に目を向けたまま、唇を尖らせたセイがそう漏らした。ずるい、ねえ。それが俺が世界選手権に行ったことかそれとも、自分のプラモで大きな注目を浴びたことか…どっちだ?俺的にはおそらく後者、だと思うんだけどな。

 

 「ガンプラ歴は僕の方が上だった。だけど今アルトは僕よりはるか先にいる。ビルダーとしても、ファイターとしても。羨ましいよ、完璧に操縦出来て、自分のプラモを作れるだなんてさ。僕なんか、まともにバトルもできやしないのに」

 

 「だからずるいってか?あのなあ…」

 

 「分かってるさ、くだらない嫉妬だって。でも仕方ないじゃないか、一番仲のいい友達が、僕だけおいてどんどん先に行くんだから」

 

 「仕方ない、ねえ。じゃあ俺も言ってやろう。お前が羨ましいってな」

 

 俺の言葉をふざけてると受け取ったらしいセイが勢いよくこっちを向いて口を開こうとしたので手を当てて妨害してやる。むぐぐ、とくぐもった声をあげる我が親友に俺の本心をくれてやろうじゃないか。

 

 「俺はお前が羨ましい。毎日組み上げたガンプラを欠かすことなく丹念に磨いて大事にできるのが羨ましい。ガンプラを大事にしないやつに真正面から説教できるのが羨ましい。何も知らなかった俺に根気強くいろいろ教えてくれたその優しさが羨ましい。最初からフルスクラッチなんてバカなことをする俺の事を笑わなかったのはお前だけだぜ?言っとくけどな?俺のビルダーとしての目標は最初から今までお前だけだ。今になっても俺はお前の事を超えたとはとても思えねーよ」

 

 はっきり言えば俺は結構丁寧にバルキリーの手入れはしている。けど、認識としては飛びに行けばどっか壊れるってもんだから、直すのが前提。こいつみたいに壊れることすら拒否するくらいにガンプラに愛を注いではいないだろう。それに肝が据わってて、面倒事にも真正面から向き合う。俺みたいに躱そうとかなあなあで済ませたりもしない。そして、どんな荒唐無稽な目標でも真剣に取り合ってくれる。俺にとっちゃ羨ましいことこの上ないぜ。そして、言うまでもないビルダーとしての腕前。店に飾ってあるガンプラを見ればわかる。一体一体どれほどの熱意をもち、時間をかけ、丁寧に作りこんでいったのか。

 

 俺のビルダーとしての師匠は間違いなくセイだ。こいつがいなかったら俺はバルキリーを再現できなかったし、空を飛ぶ楽しさを知ることもなかった。こいつは恩人なのだ、一生かかっても返しきれない恩を俺はこいつにもらってる。

 

 「もちっと胸張れよ親友。お互いにくだらない嫉妬し合ってんだ、お前がそれじゃあ嫉妬のし甲斐がないぜ?それともなんだ、お前のガンプラは俺のバルキリーに劣るのか?」

 

 「…いーや!そんなことないね!僕のガンプラは、君の飛行機よりもかっこいいさ!負けてない!」

 

 「言ってくれるじゃねーか。おら、新作あるんだろ?見せろよ親友」

 

 「今回は自信作だよ!まだ途中だけど、これさ!名付けて、ビルドストライクガンダム!…の設計図、だけど」

 

 「ほー、ほうほう。また絵上手くなったな」

 

 俺の煽りを聞いてようやくいつもの調子に戻ったセイがスケッチブックに書いたオリジナルの改造を加えたと思しきストライクガンダムの設計図を見せてくれる。相変わらず絵が上手い、肩の大型スラスターが特徴的だな。ストライクってことはストライカーパックも作るんだろうか?まだ何もないけど想像が膨らんでわくわくしてくるな!ところでセイ、俺も新しいバルキリーの設計図書いたんだけど見てくれね?あとさー、戦闘機っていったらそれを収める戦艦とか、必要じゃない?え?興味ある?んじゃちょっとお耳を拝借っと…

 

 

 

 

 「アルト、ちょっと話があるんだけどいいか?」

 

 「え、父さん?うん、大丈夫だけど」

 

 セイとのちょっとした言い争いを終えて家に帰り、いつも通り3Dプリンターを動かしてパーツを作り、手作業でミサイルを制作していた俺の部屋にやってきたのは父さんだ。俺が世界選手権で目立ってしまったことを全く気にせず「楽しかったか?」の一言で済ませた豪胆な俺の父親が何の用だろう?いや、親子なんだからたわいもない会話をするのは当たり前なんだけど。ちなみに母さんは「ヒマリちゃん美人さんになったわね~。アルト、何かあったら守ってあげるのよ」って言ってた。そんな当たり前の事今更言われてもなあ… 

 

 「なあアルト、お前の機体…キットとして発売してみる気はないか?」

 

 「キットとしてって、バルキリーを?いきなりどうしたのさ?」

 

 「ああ、知ってると思うけど父さんヤジマ商事っていう会社で企画開発部の部長をしてるんだ、そこでアルトの事が話題になってな。ああ、アルトが父さんの子供だっていうのはまだバレてないから大丈夫だぞ」

 

 「それは知ってるけど…バルキリーを売るってのはどういうこと?」

 

 「それはな、アルトが一気に注目されてるからさ。当然、父さんの会社以外にもアルトが欲しいっていう会社が沢山あるんだ。だけど、父さんはアルトに自由にプラモデルを楽しんでほしい。商業だとか売れるキットだとかを気にせずに好きなものを作っていてほしいんだ」

 

 「それは、嬉しいけど…だけど別に全部断っちゃえばいいんじゃ?」

 

 「勿論それでもかまわない。けど父さんはアルトがいろんな人たちからのいざこざに巻き込まれてほしくないんだ。だから、父さんの力でアルトを最大限守るには、ヤジマ商事付きの専属ビルダーっていう肩書が一番いいと思う。今なら、父さんの力で柵を極限まで抑えられる。基本的に何もしないですむはずだ。バルキリーのキット化も、いずれという話で今すぐじゃない」

 

 真剣な顔で俺の肩に手を置いて諭す父さん。多分、隠してるだけで相当必死になって俺のために動いてくれたんだろう。申し訳なくなる、好き勝手やった結果、親友を凹ませて親に多大な迷惑をかけているなんて。情けない。断るのが筋かもしれない、けど本気で俺の事を案じてくれる父さんの手を振り払う気にはなれなかった。だから、俺はその手を掴むことにした。

 

 「うん、分かった。なるよ、会社付きのビルダー。父さん、ありがとう」

 

 「…きっと色々嫌なことがあるかもしれない。だけど、父さんと母さんはいつまでもアルトの味方だからな。お前の大事なプラモを、商業の波に乗せることになるのは、ごめんな?」

 

 そんなこと、どうだっていい。もしも俺のバルキリーが必要で、それで面倒事が収まるっていうのなら持っていけばいいよ。確かに俺はマクロスが大好きで、バルキリーを愛しているけれど、家族や友達と天秤にかけてそっちを選ぶほど落ちぶれてはいないつもりだ。俺は申し訳なさそうな顔をする父さんに、思いっきり抱き着いてお礼を言うのだった。




 今話、ちょっとシリアス風味ですがやっぱりこういうこともないとおかしいと思ったので書きました。自分は戦えないのに当たり前のように主人公に高速戦闘を見せつけられるセイ君って多分ストレスたまると思うんですよね…

 あとバルキリーが商業の波に乗るかもという話でした。有名選手の後ろ盾&大商社パゥワーで無敵ですね!次からはいつもの調子に戻したいです。
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