「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ 作:カフェイン中毒
「アルト、今日父さんとヤジマ商事に来てもらえないか?」
「ん、大丈夫だけど。もしかしてキット化の話!?じゃあとっておきを持っていかないとー」
「ああ、アルトの一押しでいいんだぞ。それと、社長からお話もあるようだ」
「しゃ、社長さんから…?」
年が明け、冬休みも終わりに差し掛かろうとする朝に父さんからヤジマ商事に同行してくれないかという話があった。流石に俺と全く同じものを出しても面白みがないだろうということで、VF-1ともう一つ出してない新作を持っていこうと考えた俺は嬉々としてケースにバルキリーを詰め込んで父さんが運転する車の助手席に乗ってシートベルトを締め、わくわくしながらヤジマ商事に向かうのだった。いやー、まさかバルキリーをこの世界に広めることが可能になろうとは!この前バトルしたバルキリーに一瞬だけとはいえ対抗してきたマゼラトップの人とかに使っていただきたい。俺が数の暴力ミサイルをしたのにもかかわらずあの主砲とマニューバのみで30秒持ったのヤバくない?バトル後無言で固く握手したよ。また会えたらいいなー。
「うひゃー、でっかー。父さんここで部長やってるの凄いね」
「父さんは凄くないさ。部下がすごいんだよ、父さんは仕事振ってただけだからね」
「そうなの…?」
「そうさ。さ、いこうか」
本当だろうか?最近学校での出来事をあれこれ話してみたら(チクリとも言う。かっこ悪いけど流石に我慢できなかった。ゆるして)笑顔で怒った父さんが学校に電話をしたんだけど次の日からピタッと嫌がらせその他諸々が無くなったのだ。絶対父さんがなんかしたんだと思うんだけど怖くて何も聞いてない。先生からも若干遠巻きにされる始末。日和見主義の校長先生は顔青くしてたけど、絶対きょうは、もといお話をしたんだろうなあ。それとその関係で進学先が公立ではなく私立の聖鳳学園になりました。公立よりもまだ安心だって、わーい。ヒマリやツムギ、それにセイにタツヤさんもいるし俺は大歓迎だぞいっと。
父さんがIDカードをかざして本社の中に入り、受付さんが慌てて頭を下げている。というか周りの人たちの目が何というか尊敬の目だ。もしかしてワイのパッパややっぱりすごい人なのでは?父さんに並び立って歩く俺に奇異の視線を向けることなく笑顔で挨拶してくれる社員さんたち、なんか申し訳ない。というか俺ガッチガチに緊張してる。今世でも前世でもこんな大企業来た事ねーべや?やべーよ手汗出てきそう。
なんかえらい豪華なエレベーターに乗って高層階に行き、きょろきょろと落ち着かない俺をひと撫でした父さんと一緒に「第4会議室」と書かれた扉を開けると…アラッ!?なんかスーツ着たナイスミドルたちが今まさに葬式とでも言わんばかりの顔でゲンドウポーズをとって佇んでいた。えーっと、なにこれ?父さんも困惑してるし、一番偉そうな上座の人は胃痛に顔をしかめてるような顔してるし。
「失礼します、息子を連れてきたのですけど…何かありましたか?」
「ああ、ありがとうゲンヤ君。なに、PPSEの対応にちょっとな…君がアルト君かい?」
「は、はい。サオトメ・アルトです!」
「そう固くならないでくれ。君はまだ子供なんだ、小難しい話なんて投げ捨てて君が作ったプラモデルを思いっきり自慢してくれればいいよ」
なんだこの上司陣の優しさは。もしかしてここがうわさに聞いたホワイト企業か?そういえば残業で遅くなった父さんあんまり見ないな…まあそんなことはいいとして、俺はバルキリーを取り出して、机に中央に置く、素の状態のVF-1と本邦初公開VF-11「サンダーボルト」だ。VF-1の汎用性を継ぐマクロスプラス時代の主力だ。もちろんVF-1の次世代は他にもたくさんあるがバルキリーを初めて動かす場合の汎用性を考えたら何かに特化した機体よりもこのVF-11のようにトータルバランスに優れているものがいいだろう。もし次があったらゲテモノ出してもいいかも。デストロイドとか、それこそVF-22とか。
ファイター状態のものを感嘆の息を吐いて見つめる偉い人たち、基準はデザインと売れるか売れないかかな?ちなみにもちろんVF-11も完全変形するよ!当たり前だよなあ?あ、一応設計図持ってきたけどいるかしら?というか俺のバルキリーが穴が開くくらい見つめられてるのなんか恥ずかしいな。どうなんだろ?評価的に。売れると信じたいし、これダメだったら後ろ盾消えるんじゃね?
「こっちの機体、初めてみるけど…」
「あ、はい。動画で見慣れてるやつよりも新しいのがバンって出たらインパクトあるだろうなーって思いまして。あ、どっちも変形します。こんな感じで」
ファイターからガウォーク、バトロイドへ変形させていくと偉い人たちの目が完全に商売人の目になって空電卓をたたいてる感じがしてる。もしかしてこれ結構好感触では?あれそれこれどれかくかくしかじかと構造やらなんやらを説明し終えると、おそらく一番偉いであろう上座の社長さんが立ち上がって俺の傍に来て目線を合わせてくれた。
「ありがとう。君は素晴らしいビルダーなんだな。君の熱意は確かに私たちに届いた。このプラモデルは絶対に商品化する。ゲンヤ君、このプロジェクトは君に任すことにする。息子君の頑張りを無駄にしないように努力したまえ」
「謹んで拝命します」
「全く、この子に比べてPPSEの連中ときたら…アルト君、一つ確認してもいいかな」
「えっはい」
「君は初めてここに来たとき、このプラモデルはガンプラではないと言ったそうだね?今でもそれに変わりはないかな?」
「はい。バルキリーはどのガンダムの世界とも符合しないように作りました。こいつは、ガンダムの世界の機械じゃありません」
「そうか。君にとっては最悪の知らせになるが…先ほどPPSEとの話し合いがあってね。君はこのままバルキリーに乗り続ける限り世界選手権に出場することはできないんだ」
世界選手権に、出れない?俺が?いや、今の言い方を聞く限り俺自身を狙い撃ちにしたようなものではなかった。原因はこいつ、バルキリーか。ガンプラじゃないといったのが裏目に出たか?
「『ガンダムのプラモデルではないものの大会出場は「ガンプラ」バトル選手権の本意ではない』…これがPPSEの方針のようだ。今までこんなルールなぞ作らなかったくせに…全く、うちが製作者を囲い込んだと知ったら権利の譲渡なぞ求めてきたうえにこの始末だ。おそらく君がPPSEに入っていたらそのバルキリーも「ガンプラ」扱いされていただろう」
社長さんが何か言っているが、今俺はちょっとキャパを超えているせいでうまく頭に入らない。想像はしていた。異端のものを使っていればいつか排斥されるんじゃないかとは思っていたが、それがまさかこんな早くに来るとは。正直言おう、俺は世界選手権に出るつもりでいた。セイや、タツヤさん、カイザーさんといった世界の強豪たちとあの大舞台で飛ぶつもりでいたんだ。けど、それがかなわない、だいぶショックだ。ええい、落ち着け俺。
「…そうなんですか」
「正直伝えるかどうかは迷った。君らが来る直前まで話し合っていたからね。けど、出場直前になって知るより今知っておいた方が対策が立てられるだろう。その機体を捨ててガンプラを選ぶのもよし、世界選手権を諦めるのもよし、どちらにしてもヤジマ商事は君を全力でサポートする」
その言葉を聞いた後、色々話していた気がするけど思考の海から戻った時には既に車の中だった。無言の空間の中、下手な慰めを言わない父さんの優しさが、今は嬉しかった。
「ダメかぁ…世界選手権…」
その日の夜、俺はベッドの中で一人そう呟いた。電気を落として真っ暗闇の中、今日あったことを反復する。嬉しいことと、とんでもないショックが同時に来ていろいろごちゃ混ぜだ。バルキリーを捨ててガンプラに乗り換えるか、それとも世界選手権を諦めるか…答えはもう決まっていた。
「捨てられるわけないんだよなあ、今更」
もちろんガンプラを改造してバルキリーっぽくするのもありだろう。だけど、それはガンダムのプラモデルだ。どこまで行ってもバルキリーじゃない。フルスクラッチまでして作った俺の愛機たちに対する裏切りに思えて、乗り換えるなんて選択肢は頭から毛頭なかった。それに、GPベースで動かなくなったわけじゃない。飛ぶ機会なんていくらでも作れるさ。大会で競り合えないのは残念だけど、PPSE社の言い分にも一理ある。あくまで「ガンプラ」世界選手権、プラモデル世界選手権じゃないのだ。それが方便だとしても、覆すことのできない強力なルールだった。
「ごめんなあ…みんな…」
熱くなった目頭から、何かが零れ落ちた。誰もいなくてよかった。こんな姿、親友にも、幼馴染にも、友達にも、見せられないや。
「というわけでスマン!世界選手権出れなくなった!あっはっは!」
「軽くない!?そんなテンションで話すことじゃないよアルト!」
「しょーがねーだろセイ!ダメなもんはダメっていう話だ!現地でお前らを応援するさ!」
「…アルトくん」
「…アルト、大丈夫?」
3日ほどかけて気持ちの整理をつけた俺は報告も兼ねてイオリ模型に集まったセイとヒマリ、ツムギに事の次第を報告した。セイは元気よく突っ込んでくれているが、完全に俺に気を使って空元気に合わせてくれてる感じだ。ヒマリとツムギはもはやお通夜だな。いや申し訳ない。でも報告しないわけにはいかないからさー、許してくれよ。
「正直言えば死ぬほどつらいが、ルールはルールだ。今更ガンプラに乗り換える気はないし、そもそもセイは俺がガンプラ使うと弱いの知ってるだろ」
「まあ、そうだね。最初からあんなのに乗ってればそりゃ普通の操縦できなくなるよ」
そう、俺はガンプラを使うのがすこぶる下手くそだ。どうしてもバルキリーと同じ加速や追従性、運動性能を求めるし、咄嗟の場合は変形させようとしちまう。バルキリーに特化しすぎて普通のガンプラだと並程度なのが俺だ、可変機ならいけるかと思ったがあんまり変わらなかったしな。メインスラスターが足じゃねえっていうのがどうも俺の操縦にはまらない要素らしい。仮にセイと組んで選手権に出ようと思っても俺じゃ足を引っ張る。器用さでカバーできることじゃなくて、もはやセンスとかそういう問題。座りが悪いというか、違和感がぬぐえない。この違和感がバトルにおいて致命傷になってるのだ俺の場合は。
そんなわざわざセイが大切に作ったガンプラを壊しに行く趣味は毛頭ないので俺の世界選手権挑戦の夢は潰えたのである。まあ?これからバルキリーが売れれば無差別級プラモ大戦争とか開催したいな!具体的には二十歳くらいになって大人になったら!だから今は雌伏の時…
「…アルト、私とコンビ組んで!」
「ツムギちゃん?」
「…ツムギ?」
珍しく大声をあげて立ち上がったのはツムギだ。彼女はいつも目を隠してる髪を強引に手でかき上げてその蒼い瞳をまっすぐ俺に向けてそう言った。眠たげな瞳は大きく見開かれ、彼女がどれだけ真剣に言葉を発したかがわかる。ツムギとコンビね…悪くないどころか選択肢としては最上級の類だろう。こいつの操作技術は俺を凌駕する。戦闘はまだ俺のほうが強いけどな。
「落ち着けよツムギ。そう言ってくれるのは嬉しいけど、俺はお前の機体で選手権に出てほしいんだ。俺が作ったものでいいはずがないだろ」
「…そんなことどうでもいいよ!私はアルトと一緒に世界選手権に出たかった!あの場で勝負して欲しかった!だけど、ルールで出られないからってあきらめて欲しくない!一緒に行こうよアルト!私がアルトを、世界選手権に連れていくから!」
ツムギの言葉が俺を揺らがせる。俺があいつの機体を作って、ツムギが操縦する。俺はビルダーとセコンドに徹する、勿論選手として出ることはできないが、あの場のステージに一緒に立つことができる。今の俺にとって、ひどく魅力的な提案だった。
「ねえ、アルトくん。私はツムギちゃんみたいにガンプラバトル上手じゃないから一緒に出ようなんて言えないけど、ツムギちゃんと一緒に行ってもいいんじゃないかな?アルトくんにしかできないことが必ずツムギちゃんを助けられるって、私思うんだ。ツムギちゃんのセコンドにはもともと私が入る予定だったし、折角だから一緒にやろうよ!」
「そうだね、それがいいよアルト。君自身と戦えないのは残念だけど、僕の機体と君の機体が戦うかもしれない。それだってわくわくするじゃないか!……まあ、僕は先にコンビを見つけないといけないんだけど…」
後押ししてくれるヒマリにセイ、あーあ、知らねーぞセイ。ライバルに塩を送るような真似をして。やってやろーじゃねーの。俺の機体でツムギと一緒に世界に殴りこみかけてやろうじゃねえか。バルキリーを作れないのは不満だけど、技術蓄積ならたんまりある。ガンプラでそれを発揮するだけでいい。
「…わかった。じゃあ、よろしくなツムギ、ヒマリ。一緒にカッチョいい機体作って、目の前にいるガンプラバカをぎゃふんと言わせてやろう」
「…!セイにぎゃふんって言わせる!」
「よーしイオリくん!ぎゃふんって言ってみようかー!」
「多分そういうことじゃないと思うんだけど…」
「…ねえアルト、どんなヅダにしよっか?」
「やっぱそうなる?」
「…?私がヅダとアルトのバルキリー以外操縦すると思う?」
「思えんなあ…あ、空中分解装置は今回意地でも付けないからな。大会中に修理間に合わなくなっても困るし」
「…そんな…」
俺の宣言に、さっきまで頼もしさを醸し出していた瞳を潤ませ涙目になりながら、ツムギは俺に空中分解のすばらしさを説いてくるのだった。いくら言ってもつけませーん。ヒマリにセイ!笑ってないで説得手伝え!このままじゃ世界選手権中に爆散するヅダを作る羽目になるんだぞ俺は!
悲報、主人公世界選手権に出禁もらう。でも原作のPPSE会長だったらこれくらいやると思う。自分の会社の利益というか自分の利益優先で。トーナメントいじったくらいだしマフィア利用するし。
あ、でも主人公はきちんと世界選手権見に行ってバルキリーをブンドドしてもらいます。これは確定事項です。大会に出れない(イベントにも出れないとは言ってない)ので