「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ 作:カフェイン中毒
「ってな感じでとりあえずこっちは1日目乗り切ったよ」
『へー、それは大変だったね。やっぱりイロハさんのあれはいつ見ても驚くよ』
「その割にはお前怒らないよな」
『だって、彼女はガンプラを蔑ろにしてるわけじゃないじゃん。ヅダを愛した結果「
「本人はもはや動きとして染みついてしまってるんだよな…」
ツムギが予選1日目を突破したその夜。ラルさんが奢ってくれるというのでマグロをたらふくごちそうになった俺たちは、選手権側がまとめてとってくれているホテルに宿泊していた。ちなみに同室はラルさんで隣にヒマリとツムギの部屋がある。さくさくっとぶっ壊したザクバズーカとシュツルムファウストを作り直した俺はスマホでセイと軽く報告を兼ねて雑談していた。
スマホが映し出すセイの部屋の机の上にはビルドストライクとその装備と思われるパーツが作成途中のまま置かれている。レイジは?と聞くとどっかに行ってしまったそうなのだ。暫く戻らないとか。ふーん、何しに行ってるのかねえ。
「で、どうなの?お前の方は」
『順調だよ。アルトの方こそ』
「俺はもう9割完成してるよ。あとは、ちょちょいっと仕込むだけ。ある意味で俺の集大成だぜ?ガンプラじゃねえものを作ってた俺が本気で作る最初のガンプラさ」
『…名前、なんて言うんだっけ』
「ヅダ…ヅダ・マクロスパック。お前のビルドストライクを選手権で倒すガンプラさ」
『僕のビルドストライクだって、負けないよ。ところでアルト、この武器の構造なんだけど…』
「あ?そこは、そうだな。中に磁石仕込んで手から離れないようにしたらどうだ?あとそれ可変式ビームライフルだよな?んじゃ構造的にここを変えたら強度上がるだろ」
『あ、そうかも!さっすがアルト!ねね、ビームサーベルの出力変えたいんだけど…』
「それ俺に言う?ビームサーベル作ったことないんだけど。タツヤさんに聞いた方がいいやつだぞそれ」
わいわい意見交換を行っている俺たちを、ウイスキーをロックで飲みながら見守るラルさんが微笑ましそうに見ている。ラルさんが寝てしまったあとも、俺たちの座談会は続いていくのだった。明日これ寝不足になるやつぅ…
「はーいおはよ~」
「お~は~よ~」
「…ヒマリはともかく、アルトもこうなんて珍しい」
「昨日ホントに話が盛り上がっちゃってなあ」
朝起きて隣に行くとすでに起きていたツムギと7割寝てるヒマリがいた。準備できそう?え?やってくれ?俺も眠いんだけどなー。髪型適当でいい?短いけどポニーにしてやれ。首筋寒くて目が覚めるだろ。あ、ツムギさんもやってほしいですかそうですか。はい、わかりましたやりますとも。ポニテでいい?オッケー。眩しいのはグラサンかなんかかけてくれ。
そんな感じで3人そろってポニテ3人衆になった俺たちはサクッとラルさんと合流して朝食に向かうのだった。なんか知らんけどここのバイキング豪華だな。流石選手権が借り上げているホテルだなあ…
朝食を終え、部屋へ向かうためにフロントを経由してエレベーターに向かおうとすると見覚えのある影がこっちに向かってきていた。確か、去年の世界選手権のモラトリアムイベントで対戦したキュリオスガストの人だ!この予選に出てたのか…。彼も俺に気づいたらしくこっちに向かってきている。多分今ここにいるということは彼も予選を勝ち抜いているのだ。伊達に去年のサバイバルで俺と一騎打ちするまで生き残っていたのだから理解はできる。それに、ツムギに一度勝ってるわけだしな、この人。
「久しぶりだね。もう一度会えたわけだし名前を聞いてもいいかな?俺はシロガネ・アキラだ。アキラでいいよ」
「お久しぶりです。サオトメ・アルトって言います。アキラさんもこの予選会に?」
「うん、君もだろう?去年はやられたけどリベンジできそうで嬉しいよ」
「受けて立つ、と言いたいんですけど今年はルール変更があったので俺は出ないです。代わりにこっちのセコンドやってます」
「君は…覚えているよ。ヅダに乗ってた子だろう?そうか、残念だ。けど先に会えてよかった。俺の勘が正しければ、上がってくるのは君たちだろうからね。先に宣戦布告しておくよ。今回も、俺の勝ちだ」
「…今度は、負けない。私が勝つ」
「そう来なくっちゃ。じゃあ、突然邪魔したね。決勝で待ってるよ」
アキラさんは頷いて去っていった。あの人、絶対強くなってるだろうなあ…去年の戦闘が上手じゃなかったけど操縦技能は高かったツムギを撃墜してるのだから腕自体は確かなはずだ。バルキリーがすごい初見殺しだっただけで。確か二つ名は「疾風」。愛機のキュリオスガストから来てるんだけどガストって突風じゃね?とかいう突っ込みは入れてはいけないらしい。とにもかくにもツムギはリベンジに燃え出してるみたいなので結果オーライだ。目にもの見せてやれ。でも空中分解はしないでお願い。
「バトル終了!イロハ・ツムギ勝利とします。では、次の試合に備えてください」
「ありがとうございました」
「…ありがとうございました」
ツムギは絶好調だ。むしろ昨日よりキレを増しているまである。もう2試合こなしているけどいまだ無被弾。最初の試合なんてザクマシンガンだけで相手を穴だらけにしていた。マジかこいつ、このヅダは特別な武装もシステムも何もない。原点通りの武装を施しただけの基本武装しかない機体だ。ツムギが得意とするのはガンプラの超高速精密制御。ミリ単位の動作を連続して当たり前のようにこなせるレベルの操縦の正確さが売りだ。さらに、異様にいい動体視力、静止視力、深視力を持つ彼女は例え超高速戦闘の中にあっても相手の銃口すら捉えてビームが放たれたのを視認してから躱すという芸当も可能だ。
それができるなら、余計な武装は彼女の判断力を鈍らせることになる。俺が作ってる世界選手権用の機体は武装の数が多いのでまずは普通の機体を乗りこなして完璧に戦闘するところからということで基本に沿って性能だけ高めた機体をあえて作ったのだ。そして、ツムギは戦うたびに自分で欠点に気づいてその場で修正できる。指摘するまでもない自動アップデート機能付きのスーパーファイターなのだ。こいつホントに天才だな。
「お疲れ、ツムギちゃん。余裕だったね!さっすがー!」
「…むぎゅ。ヒマリ、くるしい」
「いいじゃんこのーうりうり~」
「彼女は素晴らしいファイターだな。あの年にしてあそこまでできるのはなかなか見ない。これは今度の世界選手権、荒れること間違いなしだ」
「まあ普通に考えてもツムギは凄いですから。今はかろうじて俺のほうが強いですけどいつ抜かされるか…でもそれでこそだと思います」
「ふむ、どういう意味だね?」
「自惚れかもしれませんけど俺はビルダーとして結構自信があります。本気で機体を作る以上、半端な奴に託したくない。セイと一緒ですね。だから、ツムギは最高の相手だと思ってます」
「はは、そうか。ヒマリくんも似たようなことを言っていた。君たち3人は素晴らしい友のようだ。大切にするといい」
「ええ、もちろんです」
「ほらー!アルトくんも!ツムギちゃんいっぱいよしよししてあげてー!」
「…ん。アルト、勝ったよ」
「おうさ、さすがはツムギ。最高だよ」
ラルさんと話していた俺をヒマリが呼んできたのでそっちに歩み寄ってツムギを褒めることにする。心なしかポニテが左右に揺れて犬の尻尾みたいに見えるのは気のせいだろうか。ヒマリに撫でまわされながらも俺の方に寄ってきて頭を差し出してくるので、俺も撫でることにする。よしよし、頑張ってるなツムギ。あと少しだぜ。
「やっぱり、俺の予想通りになったね。来るのは君たちだった」
「…外れなくてよかった。あなたにリベンジできる」
あの後もう2試合も完封したツムギ。これが決勝戦だ。ここで勝ったやつが世界への切符を手にすることになる。試合会場である部屋の中にいたのはやはりアキラさんだった。彼の予想が的中した形になる。やはり、彼もあのサバイバルで最後まで生き抜いたファイター、実力は並じゃなかった。おそらく去年の数段は強いだろう。
「両者ガンプラをセットしてください。これより日本代表決定予選、第一ブロックの決勝を行います」
「ああ、当たってよかったよ。君も見違えるほど強くなったんだろう。俺と、新しくなったキュリオス…キュリオステンペストで!君に勝とう!」
「…今度は負けない!あの時と違う、私にはどうしても勝たなきゃならない理由がある!勝負!」
キュリオスガストの改造機と思われる機体、GNバーニアを増やし、翼を大型化、さらにオリジナルのGNミサイルコンテナまで追加している。シールドは廃されているようだ。代わりにGNビームサブマシンガンを2丁持っている。本気の改造機だ。対するツムギはいつも通りヅダ。武装はザクマシンガンにザクバズーカ、シュツルムファウストとヒートホークと至ってシンプル。両者が睨み合う仲、開始の電子音声が響く。
「さあ、よけてみてくれ!」
「…この程度」
開幕、キュリオスから放たれるミサイルとビームの波状攻撃、ツムギはミサイルを次々撃墜し、ビームは躱していく。被弾はない、だが相手はそれ自体は織り込み済みのようで飛行形態に変形してこちらに突撃してくる。そのままこちらに体当たりをかまそうとしているキュリオスをシールドで受け流したヅダ…!シールドが両断されてる!?ってまさか…やっぱり!大型化した翼をピンク色のビームで覆っている!すれ違いざまに切り付けてきたんだ!
「…シールドが、切れた」
「GNビームウィング。新装備だよ。さあ!まだいくぞ!簡単に落ちてくれるなよ!」
離れればビームの弾幕、近づけば翼による斬撃、ヒットアンドアウェイを繰り返しつつヅダを攻めるキュリオス。その場にヅダを釘付けにし、ツムギの得意とする高機動戦に入らせないつもりらしい。だがツムギもさるもの、最初の一撃以外には直撃をもらうことなく上手くかわしている。当たる位置を完全に目で見抜き、ヒートホークで的確にそらしていく。
「…すごい、ここまでやれる人なかなかいない」
「飛び方がなってないと、そこの彼に言われたからね!まともに飛べるように出直してきたのさ!」
「…そう!でも、もう効かない!」
ビームウィングが衝突する瞬間ヅダが爆音を立てて真上に少しだけ移動、構えたヒートホークで体ごと縦回転させ攻撃をよけつつ翼を切り落とした!なんちゅう無茶をする。タイミングが一歩間違ってれば胴体が両断されていたぞ。片翼を失いいったん離脱を図っているらしいキュリオスをヅダが爆速で追いかけ始めた。リズムが変わった、ここからが勝負!
「くっ速い!高速形態でもないのに!」
「…ヅダは速いことが一番の自慢!誰よりも、どのモビルスーツよりも!このヅダは、速いんだ!」
ヅダのモノアイが怪しく輝く、轟音を立てる土星エンジンが赤く赤熱しだした。加速するマニューバ、かろうじて躱すキュリオス。シールドを自切し、ザクマシンガンとザクバズーカを投げ捨てヒートホークのみを構えて死神のように相手を追い詰める!片翼を失ってバランスを崩しつつも増設したGNバーニアの加速力を活かして何とか逃げ切ろうとするキュリオス。変形し、ビームサーベルを構える。
「やってくれるね!まだ攻撃に当たったことなかったのに!」
「…あなたこそ!あの時より全然強い!でも勝つのは私!」
お互いが交差するたびにビームサーベルとヒートホークがぶつかり合う。互角?いや、ツムギが押してきた!交差するたびに加速していくから威力が上がってサーベルじゃ受けられなくなってるんだ!このままいけるか!?
「まだだ!まだ終わるわけにはいかない!俺は世界選手権に出るんだ!トランザム!」
「…私は負けるわけにはいかない!アルトとヒマリと一緒に!あの舞台で戦うんだああああ!」
両者が赤い光に包まれる。キュリオスはトランザムの赤い残光を、ヅダは加速によって為しえた紅い彗星現象の光をそれぞれ身にまとう。最後と言わんばかりに変形したキュリオスの機首がビームの光に包まれる。そこも改造してたのか!ツムギのヅダがヒートホークを構えて突貫する。残像すら置き去りにする速度で両者がすれ違った。
「そこまで!第一ブロック優勝者はイロハ・ツムギ!両者ガンプラを回収してください!」
「…ありがとう、ございました」
「負けた、か。悔しいけどまた出直すとしよう。何回でも作り直して、また君たちに挑ませてもらう」
「…うん、待ってる」
ヅダとキュリオスの激突を制したのはヅダだった。ツムギは衝突の瞬間わざと片腕を犠牲にすることでキュリオスの機首を包んでいたビームごと殴り飛ばして無理やりずらし、そのまま横回転してキュリオスの背中から真一文字にヒートホークでぶった切ったのだ。片腕を失ったヅダが、速度に耐えられなかったように空中分解していく。意図しないでロマンを達成したな、今回は空中分解してもしょうがない。最後のあの動き、いくらフルスクラッチとはいえ耐えられるものじゃなかったか。やはり、足りないんだろう。強度が、性能が、追従性が。ツムギの操縦に耐えられるものじゃないとだめか。
ふら、ふらと汗だくのツムギが俺のほうに歩いてくる。相当集中して頑張ってくれたみたいだ。うんと褒めてやらないと…おっと!?ふらついたツムギが俺の方に倒れてきたので咄嗟に受け止める。みると、眠ってしまったようだ。どんだけ体力つぎ込んだんだよ…慌ててこっちに来るヒマリとラルさんに大丈夫だとジェスチャーして、ツムギを背負う。ラルさんにヅダの回収をお願いして、俺は部屋を出てホテルに向かうのだった。
「…すぅ、アルト、ヒマリ、やったよ…」
「ん、ああ。お疲れ様、ツムギ。お前の頑張りに俺も答えるから、今はゆっくり休んでくれ」
夢の中で俺たちに勝利報告をしてるツムギにそう答えて、俺はエレベーターのボタンを押すのだった。
はい、という感じでツムギちゃん第一ブロック代表者決定です。名前だけ出たアルト作ヅダですが、他にいい名前を思いつかなかったのでお許しください。
どんな機体なのかはお楽しみということで。一つ言えるのは、変形しません。